作家の吉村昭氏が亡くなった。
私が初めて氏の小説を読んだのは、朝日新聞に連載されていた「長英逃亡」だった。綿密な時代考証に裏打ちされたかっちりとした文章に引き込まれた。他には、大津事件を題材にした「ニコライ遭難」などが特に印象に残っている。
あまり取り上げられないが「漂流」というノンフィクションをここでは話題にしたい。この小説は、江戸時代に暴風雨で遭難し鳥島に打ち上げられた漁師が、仲間と力を合わせて10年以上をかけ、郷里にたどりつく、という粗筋である。その生き抜く過程に、人間の英知と勇気を感ずるが、私が一番感動したのは、次のような一節である。
主人公たちは、鳥島で待っていても救助の可能性はなく、粗末だが知恵を集めて舟を造り大海原に漕ぎ出そうとする。出帆の前日、彼らは、また島に来るかもしれない遭難者のために、有用な道具を残したり島での生活のノウハウを書き残すのである。造った舟は質素なものだし、どちらに行けばよいかも定かではない。この時点で彼らは、まだ生還できるか見通しは立っていないのに。見ず知らずの人に対しても、自分が出来ることはする。何という人間愛だろうか。
こうしたヒューマニズムに溢れた氏の作品をもう読めないのは誠に残念である。心からご冥福をお祈りする。
最新の画像[もっと見る]
-
磐田で生ラグビー 6日前
-
驚きの無罪判決 1週間前
-
12年ぶりの節刀ヶ岳 1週間前
-
12年ぶりの節刀ヶ岳 1週間前
-
タラの芽と週末のお仕事 2週間前
-
筍 3週間前
-
筍 3週間前
-
義父の7回忌と常磐の桜 4週間前
-
トランプ関税 4週間前
-
県立大学の桜2025 1ヶ月前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます