WATCH (サミット人権監視弁護士ネットワーク / Watch Human Rights on Summit)

WATCHは2008年洞爺湖サミット警備による人権侵害に対処するため、弁護士を中心に結成されたグループです。

サミット前後の入管実務の対応について(マニュアル)【その2】

2008-05-04 14:27:02 | 入管マニュアル
第2 外国人の上陸の手続・条件等について

Q2 外国人が日本に上陸する手続・条件は具体的にどのようなものか。具体的にどのような場合に上陸が拒否されるのか。会議その他の会合で来日する場合、どのような理由で上陸が拒否されることが予想されるか。


1 外国人の上陸の手続について(別図)
(1) 上陸の申請
外国人は旅券・査証を所持して来日します。(ただし、前記第2、3(2)bのとおり、査証免除措置を実施している国・地域の旅券の所持者で「短期滞在」の場合は査証は不要です)(法6条1項)

日本の出入国港において、旅券・査証・出入国記録カードを入国審査官に提示します。(法6条2項・規則5条・別記6号様式)
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入管実務上、空港においては、上陸審査場(PASSPORT CONTROL)で入国審査官に旅券・査証・出入国記録カードを提示することが上陸の申請となります。

(2) 入国審査官の上陸審査
   入国審査官は、外国人が後記2の上陸の条件に適合しているかどうかを審査し(法7条1項)、適合していると認定したときは、旅券に上陸許可の証印をし、在留資格を付与しなければならない。(法9条1項・3項)
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   後記2の上陸の条件に適合していないと判断した場合は、当該外国人を特別審理官に引き渡さなければならない。(法9条4項)
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   空港においては、上陸審査場の付近の事務室に特別審理官室があり、入国審理官が上陸の条件に適合していないと判断した場合は、直ちに特別審理官室に連行され、後記(3)の口頭審理を受けることになります。

(3) 特別審理官の口頭審理
 特別審理官は、引渡を受けたときは、当該外国人に対し、速やかに口頭審理を行わなければならないとされており(法10条1項)、入管実務上も、空港に到着した後、数時間で口頭審理は終了してしまうことも多くあります。
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   口頭審理においては、代理人の立会が認められており(なお、代理人の資格に制限はない)、証拠の提出や証人尋問が可能とされているほか(法10条3項)、特別審理官の許可を受けて、親族又は知人の一人を立ち会わせることができるとされています。(法10条4項)したがって、弁護士でなくても、日本の会議主催者が連絡を受けて立ち会うことも可能ですが、迅速に行動しないと間に合わないと言うことになります。
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   特別審理官は、口頭審理の結果、当該外国人が後記2の上陸の条件に適合していると認定したときは、直ちに旅券に上陸許可の証印をし、在留資格を付与しなければならない(法10条8項)
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後記2の上陸の条件に適合していないと認定したときは、速やかに理由を示してその旨を知らせるとともに、異議を申し出ることができる旨を知らせなければならず、当該外国人がその認定に服したときは、日本からの退去を命じなければならないとされています。(法10条10項・11項)

(4) 法務大臣への異議の申出
   後記2の上陸の条件に適合していないという特別審理官の認定に異議があるときは、その通知を受けた日から3日以内に不服の事由を記載した書面を提出して、法務大臣に対し異議を申し出ることができるとされています。(法11条1項)
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   直ちに異議の申出をしない場合は、その間、空港であれば、ターミナルビル内の上陸防止施設又はその付近のホテルなどにとどまることになります。このホテル代などは本人に請求されます。

(5) 法務大臣の裁決
   法務大臣は、前記(4)の異議の申出に理由があるかどうかを裁決し、その結果を主任審査官に通知しなければなりませんが、理由がない場合でも、「特別に上陸を許可すべき事情」があると認めるときは、その者の上陸を特別に許可(上陸特別許可)することができます。(法11条3項・12条1項)
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主任審査官は、法務大臣から異議の申出が理由があると裁決した旨の通知又は上陸特別許可の通知を受けたときは、直ちに旅券に上陸許可の証印をしなければなりません。(法11条4項・12条2項)
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   主任審査官は、法務大臣から異議の申出に理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは、速やかに当該外国人に対しその旨を知らせて、日本からの退去を命ずるとともに、当該外国人が乗ってきた船舶等の長又はその船舶等を運航する運送業者にその旨を知らせなければなりません。(法11条6項)
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   入管実務上、異議の申出から裁決までの期間は事案に応じて異なっており、直ちに裁決がされない場合は、その間、空港であれば、ターミナルビル内の上陸防止施設又はその付近のホテルなどにとどまることになります。この間のホテル代なども本人に請求されることになります。

(6) 退去命令
   退去命令を行う場合において、当該外国人が船舶の都合等の事由により直ちに日本から退去することができないと認めるときは、当該外国人に対して、その指定する期間に限り、空港であれば、ターミナルビル内の上陸防止施設又はその付近のホテルなど、出入国港の近傍にあるその指定する施設にとどまることを許すことができるとされています。(法13条の2)
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   退去命令を受け、遅滞なく日本から退去しない場合、退去強制手続が開始され(法24条5号の2)、入国管理局収容場に収容されます。(法39条)

(7) 仮上陸許可
   主任審査官は、上陸の手続中において特に必要があると認めるときは、その手続が完了するときまでの間、当該外国人に対し仮上陸を許可することができます(法13条1項)
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   仮上陸の許可を与える場合には、主任審査官は、当該外国人に対し、住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他必要と認める条件を付し、かつ、200万円を超えない範囲の保証金を納付させることができます。(法13条3項)

2 外国人の上陸の条件について
(1) 上陸条件適合性
入国審査官は、上陸の申請があったときは、当該外国人が以下に掲げる上陸のための条件に適合しているかどうかを審査しなければなりません(法7条)
1. その所持する旅券及び、査証を必要とする場合には、これに与えられた査証が有効であること(法7条2項1号)
2. 申請に係る日本において行おうとする活動が虚偽のものではなく、当該在留資格を有する者としての活動に該当し、かつ、当該在留資格について法務省令で定める基準に適合すること(法7条2項2号)
3. 申請に係る在留期間が法務省令の規定に適合するものであること
4. 当該外国人が後記3の上陸拒否事由(法7条1項4号)のいずれにも該当しないこと
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入国審査官は、上記の条件に適合していると認定したときは、旅券に上陸許可の証印をし、在留資格を付与しなければならない(法9条1項・3項)
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査証の発給と異なり、上陸の審査は政府の裁量に属するものではなく、上陸の条件に適合している場合の上陸許可は羈束的である、つまり必ず許可しなければならないと考えられています。

(2) 立証責任
   上陸の審査を受ける外国人は、上陸のための条件に適合していることを自ら立証しなければなりません(法7条2項)

日本に上陸しようとする外国人が「短期滞在」の在留資格を取得するためには、次の資料などの必要書類を提出して申請に係る日本において行おうとする活動について立証しなければならない(規則6条・別表第3)
1. 日本から出国するための航空機等の切符又はこれに代わる運送業者の発行する保証書
2. 日本以外の国に入国することができる当該外国人の有効な旅券
3. 在留中の一切の経費の支弁能力を明らかにする資料
4. その他参考となるべき資料
 たとえば、小樽港で入国が拒否されたドイツ人の方の場合などは、帰国のための旅費などをもっていなかったことから、出国の手段がない、あるいは経費の支払いの能力がないと見なされた可能性が高いといえます。

3 上陸拒否事由(法5条1項1号ないし14号)
(1) 4号
   「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、1年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない」
  a 「刑」
    刑は、日本国の法令違反により、日本の裁判所で処せられたものか、外国の法令違反により、外国の裁判所で処せられたものかを問わない
  b 「刑に処せられた
   「刑に処せられた」とは、歴史的事実として刑に処せられたことをいい、刑の確定があれば足るとされている
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刑の執行を受けたか否か、刑の執行を終えているか否かを問わず、執行猶予期間中の者、執行猶予期間を無事経過した者も含まれると考えられますが、単に身柄を拘束されたことがあるだけで起訴されていないケースは含まれないと考えられます。

(2) 5号の2
「国際的規模若しくはこれに準ずる規模で開催される競技会若しくは国際的規模で開催される会議(以下「国際競技会等」という。)の経過若しくは結果に関連して、又はその円滑な実施を妨げる目的をもって、人を殺傷し、人に暴行を加え、人を脅迫し、又は建造物その他の物を損壊したことにより、日本国若しくは日本国以外の国の法令に違反して刑に処せられ、又は出入国管理及び難民認定法の規定により本邦からの退去を強制され、若しくは日本国以外の国の法令の規定によりその国から退去させられた者であって、本邦において行われる国際競技会等の経過若しくは結果に関連して、又はその円滑な実施を妨げる目的をもって、当該国際競技会等の開催場所又はその所在する市町村の区域内若しくはその近傍の不特定若しくは多数の者の用に供される場所において、人を殺傷し、人に暴行を加え、人を脅迫し、又は建造物その他の物を損壊するおそれのあるもの」
  a 「国際的規模で開催される会議」
各国の首脳又は閣僚級の代表が参加する会議で、例えば、サミット、APEC、WTOなどの会議が該当するとされている
b 「出入国管理及び難民認定法の規定により本邦からの退去を強制され」
入管法に定める退去強制手続に従って日本から退去を強制されたことをいい、自らの費用による出国も含まれる
c 「日本国以外の国の法令の規定によりその国から退去させられた」
日本の入管法に基づく退去強制処分に相当する処分により、他国で国外退去を強制された場合のみならず、退去・出国を命ずる処分を受けて自主的に退去・出国した場合や、入国・上陸を拒否された場合も含まれる
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法務省は、警察庁・外務省と連携しながら、他国から情報収集を行っており、過去のサミット、APEC、WTOなどの国際会議の関連で他国で退去強制など処分を受けた者の情報は蓄積され、日本の入管当局との間で情報共有されているものと考えておく必要があります。
  d 「おそれ」
    入国時期と国際競技会等の開催時期との近接性、入国目的、滞在予定期間、訪問先・滞在予定場所、過去の処分後の時間の経過、それらの処分の原因となった競技会等と日本で開催される国際競技会等との同一性、関連性などを総合的に判断して決定されるとされています。
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    入管実務上、過去に開催された国際会議の関連で他国で処分を受けたことがあれば、「おそれ」があるものとして、上陸拒否事由に該当するとされる可能性が高いと考えられます。したがって、これまでのサミットについての抗議活動を行って、逮捕され、刑を受けたり、退去強制の処分を受けた方の日本入国には、大きな困難があることになります。

4 外国人の上陸拒否の状況
(1) 上陸拒否の状況
   2007(平成19)年における外国人の上陸拒否数は10,424人
(2) 上陸拒否者の国籍別内訳
2007(平成19)年の上陸拒否者の国籍別内訳は、1.韓国3,565人、2.フィリピン1,031人、3.台湾928人、4.スリランカ812人、5.中国770人
(3) 上陸拒否の理由別内訳
a 入国目的に疑義のある事案
不法就労活動が目的であるにもかかわらず、観光、短期商用又は親族・知人訪問と偽って上陸申請を行うなど、入国後の活動に疑義が認められた事案であり、7,459人の多数に及んでいます。今回もサミットに抗議する活動で入国するものが、単に観光という目的しか告げなかった場合、入国目的に疑義があるとされ、上陸拒否される可能性があります。また、入国拒否を防止するためには、参加する予定の会議の案内や招請状などを所持していることも有効な場合があります。先日韓国から入国しようとして、いったん拒否された方が、翌日入国が許可された事例では、最初は集会主催者の発行したチラシなどを何も所持していなかったが、翌日に再来日した際にはこのような資料を持参したため、上陸が許可された可能性があります。
b 有効な査証等を所持していない事案
    371人
c 上陸拒否事由該当事案
1,085人
    上陸拒否事由があるとされて入国できなかったものは、入国できなかった者の約1割に過ぎません。入国拒否事由の有無だけでなく、入国目的を明確にすることの重要性がわかります。
d 偽変造旅券を行使するなどの不法入国事案
479人
(4) 港別内訳
2007(平成19)年の上陸拒否者の港別内訳は、1.成田空港5,810人、2.中部空港1,781人、3.関西空港1,673人、4.羽田空港260人、5.大阪港175人