WATCH (サミット人権監視弁護士ネットワーク / Watch Human Rights on Summit)

WATCHは2008年洞爺湖サミット警備による人権侵害に対処するため、弁護士を中心に結成されたグループです。

【声明】法務省によるG8サミット関連の入国制限に抗議します

2008-06-30 09:25:58 | 声明
【声明】法務省入国管理局による学術関係者・メディア関係者に対する不当な入国の制限に抗議し、自由な表現・言論活動を保障することを要請します

2008年6月30日

サミット人権監視弁護士ネットワーク(WATCH)

 現在、6月30日及び7月1日に東京を中心として開催が予定されている「G8対抗国際フォーラム」に参加する海外からの学術関係者について、8割以上に当たる11名のパネラーが空港に留め置かれて長時間の尋問を受け、そのうちの数名は会議と会議の間の数日間の予定が明白ではないという理由で一旦上陸を拒否され、その後、予定していた期限を大幅に短縮した形で特別に上陸が許可されています。
 他方、メディア関係者についても、G8サミット関連のイベントを取材するために来日する多くの海外のジャーナリストらが、同様に、特段の理由もなく、各地の空港で留め置かれ、尋問を受ける状態が続いています。
 しかしながら、このような措置は、学術関係者・メディア関係者に対する不当な入国の制限であると言わざるを得ません。このことは、G8に関する多様な意見や主張の公表を制限しかねないのみならず、自由な調査研究活動や報道活動に対する萎縮的効果を及ぼすおそれがあるものです。
 当ネットワークは、法務省入国管理局に対し、直ちにこのような表現・学問の自由を侵害することにつながる不当な審査を正常な審査に戻し、G8サミット期間中を含めた自由な表現及び言論活動を保障することを強く要請します。

以上

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なお、声明の英訳は英語版ブログに掲載しております。

【声明】グリーンピース・ジャパン2名の不当な勾留に強く抗議します

2008-06-28 11:38:10 | 声明
【声明】グリーンピース・ジャパン2名の不当な勾留に強く抗議します

2008年6月28日

サミット人権監視弁護士ネットワーク(WATCH)

 2008年4月16日に、グリーンピース・ジャパンの活動家2名が、調査捕鯨船が捕獲した鯨肉入りダンボール箱を青森市内の運送会社から持ち出し、その鯨肉を東京地方検察庁に提出した件で、青森県警と警視庁公安部は、6月20日、この2名を窃盗及び建造物侵入容疑で逮捕し、グリーンピースの事務所を家宅捜索しました。

 今回のグリーンピース・ジャパンの2名の行為は、彼らの説明によると、単なる窃盗及び建造物侵入などではなく、税金でおこなわれている調査捕鯨の肉を船員が持ち帰るという「業務上横領」を告発するためになされたものです。しかも、この2名は、すでに詳細な事実関係を列挙した上申書を作成して東京地検に提出し、いつでも出頭に応じると公けに表明していました。しかも、彼らの行為は、あくまでも「違法行為の告発」のために行われたとのことです。そうであるとすれば、2名には、勾留の要件である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」も「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」〈刑事訴訟法第60条1項2号、3号〉がないと考えられるにもかかわらず、青森県警と警視庁公安部は彼らを逮捕し、現在も勾留しています。今回の事件における2名の行為は、あくまで「違法行為の告発」を前提としてなされたものであり、捜査に協力しているにもかかわらず、逮捕・勾留するのは正義に反し、違法、不当なものにほかなりません。

 こうした「逮捕劇」が、7月初頭に開催されるG8サミットの直前におこなわれたことには、各所から懸念の声があがっています。マスコミでは「気になるのは、逮捕に関して7月に開かれる主要国首脳会議〈洞爺湖サミット〉と絡める見方があることだ。目的のためには違法行為も辞さない、過激な市民団体への警告的な意味合いではないかというのだ。事実だとすれば強い懸念を禁じ得ない…法律の運用はあくまで厳正になされるべきだ。政治的な意図が込められてはならない」〈新潟日報6月20日夕刊〉。またG8にかかわる取り組みをすすめる活動家からも「サミット前に市民運動全体への萎縮効果を狙っている」という声があがっています〈信濃毎日新聞6月20日夕刊〉。

 青森県警及び警視庁公安部が、このG8サミットの直前というタイミングで、あえて、予想される国際的な非難をも省みず過度な取り締まりを強行したことの背景には、G8サミットにかかわるさまざまな運動の取り組みに「萎縮効果」を与えようという強い意図がうかがえます。本事件が「公安警察」によって指揮されていることも、こうした意図を裏付けています。このように今回の事件は、ゆきすぎた逮捕・勾留・捜索による人権侵害であることにとどまらず、日本社会の、ひいてはG8サミットに関心をよせる国際社会の取り組みを萎縮せしめる「表現の自由」への挑戦とも言えます。このような市民団体がおこなった告発行為を、G8サミットの警備と絡めて取り締まることは、国際的にも全く通用しない対応であり、人道的観点からの全世界的非難は免れ得ません。

 G8サミット人権監視弁護士ネットワークは、今回の事態が今後のG8における自由な表現活動、抗議行動、告発行為への妨げになることを強く懸念します。また目前に迫ったG8サミットでは日本国憲法で保障された自由な行動、自由な空間が保障されるよう強く要請します。

以上

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なお。声明の英訳は英語版ブログに掲載しております。

デモなどにおいて逮捕者が出た場合のサミット人権監視弁護士ネットワーク<WATCH>の対応について

2008-06-27 18:25:49 | ニュース / News
(この文書は、海外から日本に来た活動家にWATCHの活動を説明するためのものです。)

WATCHは、2008年G8サミットにおける警察当局による人権侵害を監視するために結成された弁護士のネットワークです。活動家により組織されるリーガルチームとは組織的に直接関係ありませんが、情報交換などの連絡はしています。

WATCHは、人権侵害の予防を目的としています。
その一環として、活動家が不当弾圧から自分の身を守るために最低限必要な、日本の刑事手続などに関する法律情報を公開しています。さらに、7月5日に札幌で行われるデモに立会い、警察の行動を監視し、もし弾圧があった場合には、それをメディア活動家の協力を得て記録し、公表し、世界に向けて抗議していきます。

逮捕者が出た場合、WATCHは原則として逮捕者を直接的に支援しません。
また、全ての逮捕者に関する情報を総合的に収集して、救援活動を組織することもありません。逮捕者が外国人の場合、招聘団体があるケースにおいては、その団体が救援活動を組織すべきです。もし招聘団体が無い場合には、WATCHがなるべく対応していきますが、人員に限りがあるため、全ての逮捕事件に対応することができないことを予めご了承下さい。

外国人の逮捕者が出た場合、当番弁護士を頼んで下さい。当番弁護士とは、最寄りの弁護士会が組織してくれる弁護士で、初回の相談を無料で引き受けてくれます。イメージとしては、応急処置を施してくれる救急医のようなものです。逮捕者本人は、警察署で「当番弁護士を呼んで下さい。」とだけ言えば、警察から弁護士会に連絡してくれます。本人でなくても、友人や支援者が最寄りの弁護士会に連絡することもできます。(電話番号は文末に掲載されています。)当番弁護士は、警察官の立会なしに逮捕された人と面接し、その人の言い分を聞いたり、その人の権利やこれからの手続について説明し、外部との連絡もとってくれます。もし招聘団体が存在する場合には、その団体に連絡をとってもらいましょう。

もし当番弁護士による初回の接見後に刑事弁護の継続を望むのであれば、面接に来た当番弁護士やその他の弁護士を私選弁護人として選任しなくてはなりません。その場合、弁護士費用が必要となりますが、費用を援助してもらえる場合もあります。詳しいことは、当番弁護士に聞いて下さい。

当番弁護士は、地域の弁護士会によって組織されるものであり、WATCHとは直接関わりがありません。しかしながら、WATCH参加弁護士が、当番弁護士を務めたり、私選弁護人を務めることはあるかもしれません。

また、救援連絡センター(電話03-3591-1301)という、逮捕者の救援活動を専門とする民間の組織があります。外国人が逮捕された場合、救援連絡センターに連絡することも可能です。救援連絡センターは、救援活動のスペシャリストですが、地理的に北海道での対応に限界があると思われること、言語などの側面からすると、救援連絡センターに連絡するより、当番弁護士と通訳を手配してくれるであろう弁護士会に当番弁護士を頼むことが望ましいのではないかと考えます。

当番弁護士の連絡先
札幌 011-272-1010
東京 03-3580-0082
大阪 06-6363-0080

これらの電話番号は、逮捕者の友人や支援者が当番弁護士を頼む場合の連絡先です。逮捕者本人は、警察署で「当番弁護士を呼んで下さい。」といいましょう。逮捕された時のために腕に「tôban bengoshi」と書いておくと良いでしょう。

外国人向け刑事手続案内

2008-06-25 08:35:36 | 日本の刑事手続について
初めて日本に来る方へ

 日本を初めて訪問される外国人に対して、最低限知っておいてもらいたい日本の刑事手続について説明します。

1、逮捕された場合のリスク
 日本では、警察に一旦逮捕され、72時間以内に、検察官が裁判官に勾留請求し、裁判官がそれを認めると(かなり高い割合で勾留が認められます)、少なくとも10日間、通常であればさらに10日間延長されて、最大で23日間、身柄が拘束される可能性があります。
 したがって、一旦逮捕されてしまうと、かなり長期間にわたって身柄が拘束されて自由が奪われる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
 日本では、海外とは異なり、裁判官による勾留決定を受けた後も、警察署の留置場に収容されるのが普通であり、これは「代用監獄」として国際的に批判を受け、今年の6月にも国連の人権委員会(UPR)でも取り上げられています。警察は、逮捕した人の生活の全てを24時間コントロールして、連日、長時間の取調べを行ったり、就寝時間(午後9時)を過ぎても取調べを行うことがあります。
 しかも、身柄が拘束されている23日間は、弁護士以外の誰とも面会できない可能性があります(接見禁止)。
 日本では、外にいる人に電話をする権利は一切認められません。あなたが持っている携帯電話は、拘束期間中は警察に取り上げられて使えなくなります。

2、逮捕されたらどうするか
 逮捕されて警察署に連行され、留置場に入る際には、身体検査と荷物検査をされ、身につけている装飾品、ネクタイ、ベルト等は、拘束期間中は取り上げられます。
 警察に逮捕されたら、直ちに、「当番弁護士を呼んで下さい」と要求して下さい。
その日のうちか、遅くとも翌日には、弁護士会から派遣された弁護士が、通訳人を連れて面会に来てくれます。初回の面会の費用は無料です。
 面会した際に、弁護士に対して、あなたと面識がある日本の運動団体の方への連絡をお願いして下さい。
 その後、正式に弁護人を依頼する場合の弁護士費用については、日本の法的援助サービスを受けて、その弁護士費用を自分で負担しなくても良い場合があります。この点については、面会した弁護士とよく相談して下さい。

当番弁護士の連絡先
 札幌:011-272-1010
 東京:03-3580-0082
 大阪:06-6363-0080
また、東京近郊では「救援連絡センター」(03-3591-1301)へも相談できます。

札幌弁護士会への申し入れ

2008-06-21 13:08:12 | ニュース / News
WATCHを含む5団体が、以下のように札幌弁護士会に申し入れました。

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札幌弁護士会会長 三木正俊 殿

   G8北海道洞爺湖サミット期間中の刑事弁護体制強化のお願い


2008年6月20日


G8サミット市民フォーラム北海道
G8サミットNGOフォーラム
G8を問う連絡会
G8女性の人権フォーラム
サミット人権監視弁護士ネットワーク

 2008年7月7日から9日にわたって「G8北海道洞爺湖サミット」が開催されます。これに向け、各種のNGO、市民団体が、環境、平和、人権などさまざまな課題を掲げて取り組みをおこなっており、例えば7月5日には大通り公園で大規模なデモ・パレード、また7月6日~9日にかけては壮瞥町、豊浦町でキャンプを設置するなどの企画が予定されています。
 こうした市民による自主的な動きに対して、警察当局はサミット警備を「テロ対策」と位置づけ、厳格な警備体制を敷いています。そしてサミット開催を前にして、すでに、不当な入国拒否、または理由なき入国拒否を含む外国人の入国管理の不当な運用、また微罪逮捕などが起こっています。このような動向を鑑みると、サミット開催期間とその前後に、警察の厳格な警備体制のもと、公務執行妨害等での逮捕・勾留が頻発する可能性は否定できません。
 私たち五団体はこうした過度な警備体制が不当な人権侵害をもたらし、正当な表現行為への萎縮効果をもたらすことを深く憂慮しております。さらに、今回の取り組みでは稀にみる規模の海外からの来訪が予想されるので、その意味でもこうした人権侵害が国際問題にまで発展する可能性も大いにあります。
 貴弁護士会は2002年の「サッカーワールドカップ」開催時に、会として特別な刑事弁護体制で臨まれたと聞いております。その経験に則り、今回の「G8北海道洞爺湖サミット」開催期間ならびにその前後においても同様の特別体制をとっていただくことをお願いいたします。

*G8サミット市民フォーラム北海道
代表:宮内泰介(011-206-4674)

*G8サミットNGOフォーラム
代表:星野昌子 (03-5292-2911 JANIC)

*G8を問う連絡会
代表連絡先:日本消費者連盟(03-5155-4765)

*G8女性の人権フォーラム
代表連絡先:アライズ法律事務所:鈴木隆文弁護士(047-376-6556)

*サミット人権監視弁護士ネットワーク(WATCH)
代表:中村順英 事務局長:海渡雄一 (03-3341-3133 東京共同法律事務所)

G8サミット入国規制の強化に対する抗議声明

2008-06-12 18:09:18 | 声明
G8サミットにかかわる入国規制の強化に強く抗議します

(*6月14日:声明の最後のパラグラフを修正しました)

G8サミットにかかわる入国規制の強化に強く抗議します

2008年6月12日
サミット人権監視弁護士ネットワーク

 本年7月7日から9日にかけて、「北海道洞爺湖サミット」が開催されます。それに向けてさまざまな市民団体やNGOが人権、平和、開発、環境などの課題をかかげて取り組みをすすめています。サミットやそれに関連するさまざまな企画に参加するため、海外から多数の市民運動家やNGO活動家が来日を予定しています。しかしながら、最近、海外からの入国に際して、サミット開催を理由にしつつ、ビザ発給手続などを特に厳しくし、場合によっては入国ができなくなる事例が報告されています。
 特に、過去の犯罪歴があることなどを理由にして、出入国管理法5条1項4号の条項をもとに、入国の条件として、過去の犯罪歴が政治犯罪であったことの証明を求めるなどの実務が進められていると聞いております。過去の逮捕などの理由が政治犯罪であったことの証明は、お分かりかとは思いますが大変に難しく、通常のビザ発給手続きの中でそれを満たすことはほぼ不可能な場合が少なくありません。また、そうした経歴がある人びとの多くは、信頼すべき活動家であることも多く、この条項を形式的、厳格に適用することは、かえって日本社会の信頼性を失わせることにもなりかねません。
 実際、最近5月28日から30日まで横浜市で開催されたアフリカ開発会議(TICAD)にかかわる集会、イベントに参加を予定していた、元アフリカ民族会議の活動家トレバー・ンワグネさんの入国が事実上拒否されました。トレバーさんには逮捕歴はあるものの、無罪を判決されており、したがって日本の国内法の入国拒否の要件には一切あてはまりません。にもかかわらず外務省当局は、入国期日直前になって、トレバーさんに対し無犯罪証明書を南アフリカ警察から取得することを要求し、それを受けトレバーさんが警察署において「過去に処罰されたことがない」旨の宣誓供述書を取得し提出したにもかかわらず、「調査中」などとの理由をつけビザ発給を遅らせ、結果として予定していた飛行機に間に合わず、来日がかなわないという状態を結果を生んでしまいました。
 これ以外にも、3月には韓国から来訪した市民団体のメンバーの入国が一旦拒否されたほか、さらに同月、小樽港に入港しようとしたドイツ人NGO活動家の入国が拒否されています。また、イタリアの哲学者で著名な政治思想家であるアントニオ・ネグリさんの入国についても、彼の過去の履歴に関し、トレバーさんと同様の書類が要求されたため結局来日がかなわず、日本政府の無理解が世界に驚きをもって迎えられたのは記憶に新しいところです。現在、多くの在外公館におけるビザ申請が、外務省領事局外国人課での協議にかけられていると聞いております。
 このようにサミット開催を口実に、市民活動家やNGO活動家を無根拠に「テロリズム」と結びつけ、入国を不当に妨害する行為を常態化させることは、国際社会に対する責任ある態度とは言えません。市民活動の表現の自由、言論の自由、集会の自由を最大限に守るということは、国際法上の国家の責務です。警備や取締を講じる際にも、こうした権利を最大限に守ることが当然に求められております。
 今後、正当な市民活動、NGOとしての活動で来日を予定している人びとに対して、入管法5条1項4号の但書きの趣旨を尊重し、また、その他の活動家に関しても入国を実質的に妨害するようなことのないよう、当局には最大限の配慮を講じていただきますよう、強く申し入れます。

サミット人権監視弁護士ネットワーク(WATCH)第二回法律相談会

2008-06-02 02:22:49 | ニュース / News
サミット人権監視弁護士ネットワーク(WATCH)第二回法律相談会のお知らせ。

第一回の法律相談(入国管理について)にひきつづき、第二回の法律相談会を開催します。今回は日本国内での運動にかかわるさまざまなケース(捜索・逮捕)などについて、山下幸夫弁護士と山中救援連絡センター事務局長と意見を交換し、かつ現状の情勢についての情報交換をしていきたいとおもいます。


期日 6月12日(木)午後7時~
場所 中野区勤労福祉会館大会議室
地図) 

報告 山下幸夫(弁護士)
   山中幸男(救援連絡センター事務局)

問いあわせ先:watch08summit[at]gmail.com

参加費500円


以上

昨年のG8サミットにおけるドイツ・リーガルチームの活動

2008-06-01 10:41:52 | ニュース / News
去年のG8サミットに関連して結成されたリーガルチームの活動をご紹介します。情報源は、リーガルチームが発行した報告書と、リーガルチームの立ち上げに関わった弁護士の体験談です。


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ドイツ・リーガルチームの活動

1)概要

2007年6月、ドイツ・メクレンブルグ=フォアポンメルン州ハイリゲンダムにおいて、G8サミットが開催された。
2006年春、共和主義弁護士協会(Republikanischer Anwaeltinnen- und Anwaelteverein、RAV)*、メクレンブルグ=フォアポンメルン州刑事弁護士会、そして救援会によって、リーガルチームが結成された。当初推定10万人の国内外からのデモ参加者による1週間にわたる抗議行動とそれに対する厳重警備体制と、リーガルチームは大きな課題に取り組むことになる。

リーガルチームは、サミット開催地の最寄りの都市であるロストックに事務所を構え、サミット前及びその開催中の3週間、デモへの立会いやデモ参加者の弁護活動を展開し、積極的に広報活動を行った。サミット期間中、合計100人の弁護士がロストックに集まり、リーガルチームに参加した。
サミット開催から1年経った現在でも多数の刑事裁判において弁護活動を続けている。

リーガルチームの趣旨は、集会の自由、表現の自由など基本的人権の擁護であり、その活動範囲はデモや集会の現場、そして法廷にまで及んだ。リーガルチームの功績は社会的に認められ、ドイツ弁護士協会から刑事弁護人賞、そして「国際人権リーグ」より、カール・フォン・オシエツキー・メダルが授与された。


2)背景

ドイツでは、数千人から数万人規模のデモや集会が年に数回行われるが、ベルリンやその他の大都市で行われるメーデーデモ、毎年秋に行われる放射性廃棄物の輸送に対する抗議行動や、ネオナチの行進に対する反対デモは、その一例である。これらの大規模な集会には、警察による大規模な弾圧がなされるため、その都度弁護士当番チームや救援会がデモ参加者を支援している。


3)基本的姿勢

リーガルチームの趣旨は、自由権の擁護及び政治的意見を表現することのサポートであり、侵害を受けた全ての者に対し、当該人物がネオナチや人種差別主義者でない限り、法的支援を与えることである。なぜネオナチや人種差別主義者が支援の対象から除外されたかというと、これらの者は、基本的人権の撤廃という、リーガルチームの趣旨と相容れない目的を掲げているからである。

リーガルチームが活動をしていくなかで、デモ参加者の一部が暴徒化した際に、リーガルチームがメディアや政治家に槍玉に挙げられそうになったが、リーガルチームは毅然として上記の基本的姿勢を固持し、暴徒化について見解を示すことを避けた。
その理由は、抗議行動の妥当性については、抗議に参加する者の間で議論されるべきであり、弁護士が議論するべきでないこと、
いかなる政治的意見を持つ者であっても、国家による弾圧の対象となり得ること、逮捕者が罪を犯したということは、警察の言い分でしかなく、その真実性を評価し逮捕者を犯罪者扱いすることは弁護士の役割でないこと、罪を犯したか否かに関わらず、メディアの報道や警察の一方的な発表などにより世論が過熱している中で逮捕された者こそ弁護を必要とすることであった。

このような姿勢を取ることにより、リーガルチームは一方的に、抗議をする者の味方をし、人権を守るために、ある意味では過激な立場を取った。
政治的権利や自由を守るため、リーガルチームの活動も必然的に政治的意味合いを持つことになったが、抗議行動の一部ではなく、あくまで自立した機関として活動することが重要であった。

4)準備

サミットへの準備として、広報活動と、司法当局への働きかけが行われた。

広報活動
広報活動の目的は、警察による過剰警備がもたらす危険に対し、世論を敏感にすることであり、危機感を持たせることであった。そのために、市民団体と集会を開き、リーガルチームを紹介し、市民と議論し、情報提供を積極的に行った。
本番でリーガルチームの活動をより有効なものにするためには、事前に世間に存在感をアピールすることが必要不可欠であった。

司法当局への働きかけ
警察、検察及び裁判所と連絡をとり、法的基準を遵守するよう働きかけた。リーガルチームは、
-デモ参加者が警察官に包囲された、又は拘禁施設に収容された場合に弁護士が当事者に接する機会を与えること、
-拘束した者を速やかに管轄裁判官に引致すること、
-拘禁施設に弁護人用の部屋を設けること、
-警察、検察及び裁判所において、リーガルチームとの連絡の窓口となる人物を任命することなどを要求した。

結果的に、これらの約束は守られなかったが、司法当局に、デモや抗議行動の参加者の人権を積極的に擁護する弁護士の集団がいるということをアピールするという意味では有意義であった。


5)現場での活動

抗議行動前
サミットに関連して行政側は広範囲にデモを禁止したが、リーガルチームは、デモ申請を通すための裁判支援を行った。

抗議行動への立会い
リーガルチームは、警察による介入を監視・阻止するため、許可・無許可で行われたほとんど全てのデモや集会に立会った。警察とデモ隊の間で事態がエスカレートした際には警察側と交渉し、別の場面では、警察官に大量逮捕の違法性を指摘し、阻止することに成功した。また、逮捕者の氏名を記録し、警察の不法行為を記録し、抗議行動の参加者に対する不当な捜索を阻止、あるいは少なくとも監視した。

拘束者支援
リーガルチームは、身体拘束され、裁判官に引致された者の弁護を行った。そのために拘禁施設で夜を過ごしたりしたが、非拘禁者との接見は頻繁に妨害された。

これらの活動を効果的に行うために欠かせなかったのが、広報活動である。定期的にプレスリリースを発表し、インタビューを与え、声明を公開し、警察による虚偽の発表を訂正した。こうして世間の議論に積極的に介入し、独自に警察の行動を評価した。

リーガルチームの活動は、司法当局による様々な妨害を受けた。例えば、拘禁施設では、収容と裁判官への引致の間に非拘禁者に接することが非常に難しく、いつ引致・裁判官による尋問が行われるかも不明で、裁判官との連絡が警察官に妨害されたり、拘禁施設から弁護士がつまみ出されることもあった。


6)その後

サミット後も、リーガルチームの活動は続いた。その内容とは、デモ参加者の刑事弁護、その弁護活動に関する広報活動、そしてハイリゲンダムで起こった出来事をまとめ、公開することであった。2007年12月に、リーガルチームの活動に関する本「敵像となったデモ参加者ー警察による暴力、軍隊出動、メディア操作。弁護士当番チームから見たG8サミット」が発行された。


7)結論

警察や司法当局のメディアに対する膨大な影響力に対抗するため、リーガルチームは弁護活動だけでなく、プロフェッショナルに広報活動を展開する必要がある。

*共和主義弁護士協会は、1979年に結成された政治的弁護士団体。特に、刑法・刑事訴訟法の厳格化、警察による暴力、警察権力の拡大、人種差別的な外国人法などに対する反対運動を行っている。シュレーダー前首相は、結成メンバーの1人。

以上