WATCH (サミット人権監視弁護士ネットワーク / Watch Human Rights on Summit)

WATCHは2008年洞爺湖サミット警備による人権侵害に対処するため、弁護士を中心に結成されたグループです。

デモでの注意事項(外国人の方向け)

2008-07-03 19:37:26 | デモにおける注意事項
デモでの注意事項(外国人の方向け)


Q1 デモに参加する場合、どういう点に注意したらいいですか。

 警察官は、デモの動向を監視し、何か口実があれば、参加者を逮捕することを狙っていますので、以下の点に注意が必要です。
 服装は、脱げにくく履き慣れた靴、あまり肌が露出しない服を着て下さい。集会の会場では参加者の写真を撮影(最近ではデジタルカメラでの撮影)していることがありますので、写真撮影されたくない場合には、サングラスやマスクや帽子を着用することをお勧めします。
 持ち物は、ハンカチ、ティッシュ、現金など必要最小限のものだけを身に付けて下さい。そうしないと逮捕された場合に持っていた物は拘束が解かれるまで全て取り上げられて警察が保管することになるからです。但し、前述したように、警察官の職務質問に対応するために、外国人の場合にはパスポートは必ず持って下さい。
 デモに参加する場合には、一人にならないで、他の参加者となるべく行動を共にするようにして下さい。

Q2 デモにはどのような物を持っていくことが禁じられていますか。防護器具を装備しても良いですか。旗ポールなどを持っていても良いですか。

持っていくことが禁じられている物は、デモ許可書に記載されています。詳しいことは、事前にデモの実行委員会に聞いて下さい。覆面したり、防護器具を装備することは禁止されていませんが、一般的に、危険物を持っていくことは禁止されています。旗ポールはデモに持っていっても通常問題ありませんが、具体的な使い方によっては危険物と見なされてしまう可能性もあります。

Q3 自発的にデモや集会をすることは可能ですか。

日本でデモや集会をするためには、デモや集会の許可を72時間前までに申請しなくてはなりません。無許可のデモや集会は、警察の規制を受けます。

Q4 どのような警察官がデモを見張りますか。どうやって見分けられますか。
デモに直接介入する警察官には、機動隊と制服警官がいます。権限は同じですが、機動隊は重装備をしています。また、公安調査官が私服で歩道を歩き、デモ参加者の写真を撮ったり、情報収集します。公安調査官は、直接デモに介入する権限はありません。

Q5 デモでメディアや警察官に撮影されたら、どのような権利がありますか。逆に警察の行動を記録しても良いですか。

最高裁判所は、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するとし、その例外として、現に犯罪が行われ、もしくは行われたのち間がない認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法で行われるときには、撮影される本人が同意がなく、裁判官の令状がなくても個人の容ぼう・姿態の撮影が許容されると判断されています(最高裁判所1969年12月24日大法廷判決)。
デモの場合、事前にデモ申請をして、その許可条件に違反したとされる場合には公安条例違反の現行犯として、顔写真等が撮影される場合があります。
また、実際には、公安警察は、上記の最高裁判例とは関係なく、公道にいるという理由で写真を撮影することもあります。
上記の判例に違反して警察官に撮影された場合には、抗議しましょう。ひどい場合には、国賠訴訟を起こしても良いでしょう。
メディアに姿を撮影され、それが嫌であれば、抗議しましょう。しかし、デモ行進に参加している者は、被写体となることを事前許諾していると認められてしまう恐れがあります。
職務中の公務員は、肖像権を有さないため、撮影をしても良いという判例があります。

Q6 逮捕の条件は何ですか。

デモの現場で逮捕される場合は、現行犯(「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った」と警察官が認識した場合)か、準現行犯(①犯人として追呼されているとき、②贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき、③身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき、④誰何されて逃走しようとするときのいずれかに該当して、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められる場合)に限られます。
 自分に身に覚えがない場合には、警察官に対して、自分が逮捕される理由がないことを告げて、現行犯逮捕に抗議しましょう。その際、周囲の人にも訴えて協力してもらうことが望ましいです。
 自分が警察官に逮捕されたときは、周りの人に、自分の名前を伝えて、救援体制をとってもらえるように依頼して下さい。

Q7 どのような罪で逮捕されますか。
公務執行妨害罪、建造物侵入罪、威力業務妨害罪、道交法違反などが、通常デモでの逮捕の理由とされますが、その他いかなる微罪も逮捕の口実を与えてしまいます。また、警察は、犯罪をでっち上げることもあります。


Q8 逮捕後の手続はどうなりますか。

 逮捕されたら最寄りの警察署に連行されます。手錠をかけられて、1~2名の警察官が付き添ってパトカーや護送車に乗せられて警察署に行きます。
警察署に着いたら、まず、弁解録取書が作成されます。被疑事実が告げられて、それを認めるか否かを質問されて書類が作成され、署名と指印を求められます。その際に、弁護人を選任する権利があることも告知されます。
電話を使って直接弁護士を依頼することはできませんが、警察官に弁護士を呼ぶように頼むことができます。弁護士を選ぶためには、2つの選択肢があります。
 
まず、地元の弁護士会が運営している当番弁護士を頼むことができます。当番弁護士は、各地の弁護士の組織である弁護士会に所属する弁護士の中から、当番弁護士名簿に登載された弁護士から、その日の当番になっている弁護士が出動して面会に来てくれる弁護士です。最初の面会は無料で行ってくれます。

当番弁護士は、警察官の立会いなしに逮捕された人と面接し、その人の言い分を聞いたり、その人の権利やこれからの手続について説明してくれます。そして、外部との連絡をとってくれます。招聘団体などがいる場合には、連絡を取ってもらいましょう。

 当番弁護士による初回の接見後に、その弁護士による捜査弁護の継続を望む場合には、面会に来てくれた弁護士を私選弁護人として選任することになります。その場合、原則としては弁護士費用を払わなくてはなりませんが、弁護士費用を援助してもらえる場合もあります。Q10を参照してください。

当番弁護士の代わりに、救援連絡センター(03-3591-1301)の指定する弁護士を選任することができます。救援連絡センターとは、逮捕された活動家の支援を専門的に行う組織です。当番弁護士と救援連絡センターが指定する弁護士の違いに関しては、Q9を参照して下さい。

当番弁護士を頼みたい場合には、警察官に「当番弁護士を呼んで欲しい」と言えば、警察から最寄りの弁護士会に連絡が行き、弁護士会が当番弁護士と通訳を当日又は遅くとも翌日には手配してくれます。
救援連絡センターが指定する弁護士を選任したい場合は、警察官にそう伝えて下さい。警察から救援連絡センターに連絡します。

また、逮捕者本人だけでなく、その友人や支援者でも、弁護士会や救援連絡センターに直接電話して、弁護士を頼むことができます。
 連絡先は次の通りです。

札幌弁護士会:011-272-1010
救援連絡センター:03-3519-1301

留置場(留置施設)に入る前に、所持品検査と身体検査が行われます。身に付けている物は、時計やベルトを含めて全て取り上げられ、身体拘束が解かれるまで、警察が保管します(これを「領置」と言います)。眼鏡を取り上げられそうになったら、断固として抗議してください。
持っていた携帯電話は、単なる「領置」ではなく、証拠物として差し押えられて「押収」される場合もあります。この場合には、釈放された後もすぐに返却されないことがあります。
 また、顔写真を撮影され、指紋が採取されます。
これらを拒むことはできません。


Q9 当番弁護士と救援連絡センターが指定する弁護士の違いは何ですか。どちらを選べば良いですか。
救援連絡センターが指定する弁護士は、政治活動で逮捕された活動家の弁護の経験がある弁護士です。当番弁護士の場合には、そのような経験を有していたり、政治活動に対する理解を有している保証はありません。
しかしながら、救援連絡センターが指定する弁護士は、東京の弁護士が中心であり、北海道での対応に限界がありますし、外国人については通訳の手配の問題がありますので、北海道で逮捕された場合には、救援連絡センターに連絡するよりも、弁護士会に当番弁護士を依頼する方が望ましいと考えられます。

Q10 弁護士費用の援助を受けることはできますか。

一般的に、デモで逮捕者が出た場合には、デモの実行委員会は、その人のために支援グループを組織し、その支援グループが弁護士費用を賄うためのカンパなどを集めてくれます。
その他にも、各弁護士会が、弁護士費用を援助する制度を設けています。詳しいことは、当番弁護士やその他の弁護士に聞いて下さい。

Q11 逮捕後に、領事に連絡をとることができますか。

 身体拘束された外国人は、その国籍国の領事にアクセスする権利が保障されています。実務的には、領事通報希望の有無を、被疑者に質問する用紙が警察署にあり、その希望に従って処理されることになります。
領事の協力が得られれば、本国の家族との連絡、本国からの書類等の手配、通訳人の紹介などの協力を受けることができます。


Q12 逮捕された後、黙秘権は保障されていますか。どういうことを黙秘することができますか。

 いかなる事項についても黙秘する権利が認められていますが、日本の最高裁判所は、自己の氏名を黙秘する権利はないと判断しています(最高裁判所1957年2月20日大法廷判決)。
 ただ、外国人の場合には、パスポートを所持していると考えられますから、氏名や生年月日、国籍などはそこから判明しますので、特に黙秘する意味はないと考えられます。日本における滞在先は黙秘することができます。

 取調中にやっていないことを「やった」と認めないで下さい。一度自白してしまうと、証拠として採用されてしまい、裁判でその自白を撤回することは非常に難しいからです。取調べでウソをついても裁判で本当のことを言えば良いといった考え方は、とても危険です。


Q13 警察官の取調べに、通訳はつきますか。

 ①第一言語による通訳がなされていない場合、②通訳人に十分な通訳能力がない場合、③通訳人の通訳態度が中立・公平でなく警察寄りである場合には、取調べを拒否して、別の通訳人か弁護人との接見を求めて下さい。


Q14 逮捕された後の手続の流れはどうなっていますか。

 逮捕されてから48時間以内に検察庁に送られ、逮捕されてから72時間以内(検察庁に送られてから24時間以内)に、検察官は、被疑者を勾留請求するかどうかを決めて、裁判所に勾留を請求します。勾留請求さえあれば、72時間を過ぎて勾留決定がなされなくても良いことになっています。但し、勾留決定が72時間を過ぎてなされた場合には、勾留期間は勾留請求の日からカウントされます。
 勾留は原則として10日間ですが、延長されて20日間勾留されることもあります。
 もっとも、場合によっては、これより短い期間で釈放されることもありますが、外国人だからということで短くなるという訳ではありませんので注意が必要です。
 勾留されてから20日目までに検察官が起訴(公判請求)しなければ釈放されますが、検察官が起訴されると、そのまま勾留が継続します(起訴後勾留)。
 その後、保釈を請求し、それが認められて保釈保証金を納付して釈放されなければ、裁判が終わるまで勾留が継続することになり、起訴されてから第1回公判まで、通常1ヶ月半くらいかかります。
 第1回公判で裁判が終わった場合には、それから2週間以内に第2回公判が開かれて、判決が言い渡されます。

Q15 逮捕後、どこに身体拘束されますか。

 日本では、海外とは異なり、検察官に送られて裁判所による勾留決定を受けた後も、警察署の留置場(留置施設)に収容されるのが普通です。これは「代用監獄」制度として国際的に批判を受けています。
 そのため、警察に生活の全てがコントロールされて、連日、長時間の取調べを受けたり、就寝時間(午後9時)を過ぎても取調べが行われることがあります。

Q16 警察官に逮捕された後、誰と面会できますか。

 ほとんどの場合に、裁判官による勾留決定と同時に、接見禁止決定がなされ、弁護人以外との面会や差し入れが禁止されるのが普通です(刑事訴訟法81条)。
 したがって、外と連絡をとるためには、連日のように弁護人に面会してもらうことが必要になります。

Q17 勾留に対する不服手段はどうなっていますか。

 裁判官の勾留決定に対して不服申立て(準抗告)を申し立てることができます(刑事訴訟法429条1項2号)。勾留延長決定に対しても不服申立て(準抗告)ができます。但し、それによって勾留が取り消される可能性はそれほど高くありません。
 もっとも、不服申立てをすることで、勾留延長後の期間が少し短くなる場合があります。
 勾留中に1度だけ、勾留決定をした裁判官から、勾留の理由を開示させる裁判(勾留理由開示公判)を求めることができます。誰でも傍聴することができ、マスコミが取材に来ることもあります。
この裁判では、裁判官に対して釈明を求めることができ、また、被疑者と弁護人がそれぞれ意見陳述をして勾留の不当性を訴えることができます。

Q18 略式手続で簡略に裁判を受けることができますか。

 100万円以下の罰金になるような事件については、裁判官による書面審査だけで罰金が命令される略式手続があります。
 この場合には、罪を認めることが前提となります。
 通常、その罰金額を支払うと、釈放されることになります。

Q19 入管法上の手続との関係はどうなりますか。

刑事事件で逮捕された場合は、刑事手続が入管手続に先行することになります。そのため、できる限り早く本国に帰国したいと思ったとしても、刑事手続が終了するまでは本国に帰国することはできません。
起訴されて実刑判決を受けた場合は、原則として日本の刑務所で刑を受けることになります。
他方、刑事事件で逮捕されたとしても、直ちに在留資格を失うわけではありませんが、刑事手続が終了するまでに在留期間を経過した場合は、不起訴又は無罪・執行猶予となったとしても、また、刑が終了したとしても、直ちに入管に収容されて、退去強制手続が開始されることになります。
退去強制手続が開始された場合、法務大臣の特別の許可により、在留が認められることもありますが、原則として本国に退去強制されることになります。