WATCH (サミット人権監視弁護士ネットワーク / Watch Human Rights on Summit)

WATCHは2008年洞爺湖サミット警備による人権侵害に対処するため、弁護士を中心に結成されたグループです。

日常生活における注意事項(外国人の方向け)

2008-07-03 20:01:03 | 日常生活における注意事項
日常生活における注意事項(外国人の方向け)


1.一般的に注意すべき事項

Q1 日本に入国した後、パスポートは常時携帯しなければならないでしょうか。

日本滞在中は、常にパスポートを携帯し、警察官、公安調査官や麻薬取締官などの公務員が職務の執行に当りパスポートの呈示を求めた場合、呈示しなくてはなりません。(入管法23条)パスポートを携帯していなかったり、呈示することを拒んだ場合には、罰金が科されたり、拘束されてしまう恐れがあります。パスポートの呈示を求める公務員に、身分を示す証票を呈示するよう求めることができますが、公務員がその要求に応じなかったからといって、パスポートの呈示を拒否することはできません。但し、警察官などの公務員が求められるのは、パスポートの呈示だけです。パスポート記載事項を書き留められたりした場合には、その場で強く抗議し、書き留めたものを廃棄することを求めましょう。

また、日本国内に住所を持たない外国人が宿泊施設を使用する際には、パスポートの呈示及びコピーが法令により義務付けられています。


Q2 日本における麻薬の取り締まりは厳しいのでしょうか

日本では、「ダメ。ゼッタイ。」のモットーの下、麻薬犯罪は非常に厳しく取り締まられています。例えば、大麻を所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、5年以下の懲役、大麻を日本へ輸入した者は、7年以下の懲役に処されます。欧米諸国では、「ソフト」な麻薬の微量所持・使用に関して刑事訴追が甘いかもしれませんが、日本ではそのような期待は通用しません。また、自国と日本の外交関係が良いから見逃してくれるであろうというような期待も持たないほうが良いでしょう。
また、20才以下の飲酒喫煙は、法律により禁止されています。


2.警察の行動


Q3 どういう場合に職務質問がされるのでしょうか。

 警察官が、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」又は「既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者」について、市民を停止させて質問をすること(これを「職務質問」と言います)が認められています(警察官職務執行法2条1項)。
 外国人については、不法滞在が犯罪とされていることから、外国人というだけで、警察官による職務質問を受ける可能性があります。特に、鉄道の駅など公共の場において、職務質問を受けるおそれがありますので、注意が必要です。
 警察官は、その場で職務質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合には、職務質問をするために、その者を附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができるとされています(警察官職務執行法2条2項)。


Q4 職務質問や、警察署等への連行を拒むことはできるのでしょうか。

 職務質問や警察署等への連行は、あくまでも任意で行うことであり、警察官がこれを市民に対して強制することは認められていません(警察官職務執行法2条3項)。
 したがって、職務質問などを拒むことはできることになります。もっとも、外国人の場合には、パスポートを提示して、在留許可を得ていることを示せばそれで職務質問は終わりますので、あえて拒むメリットはありません。
 職務質問を拒むと、多くの場合、その警察官は無線で、他の警察官の応援を求めて、数人の警察官が来て、あなたを取り囲んで職務質問に答えるまで一定の時間にわたって、事実上解放されなくなることもありますので注意が必要です。


Q5 職務質問を無視してその場を離れようとした場合に、警察官に肩に手をかけるなど有形力が行使されることはありますか。

 職務質問はあくまでも任意ですが、日本の最高裁判所の判例において、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において、許容される場合があると判断されており、職務質問に応じるように説得のために、警察官から離れようとした者の両手首を掴んだ行為が適法であると判断されています(最高裁1976年3月16日第三小法廷決定)。
 このような警察官の有形力の行使に抵抗して、警察官に、暴行や脅迫を加えた場合には、公務執行妨害罪の現行犯として逮捕される可能性もありますので注意が必要です。
 日本では、警察官が勝手に転んで、それをもって職務質問を受けていた者が何らかの暴行を加えたとみなして公務執行妨害罪の現行犯として逮捕されることもあります(これを「転び公妨」と言います)。
 したがって、職務質問に対しては、自分から警察官に手をかけたり、体当たりするなどすると、公務執行妨害罪の現行犯として逮捕されるおそれがあることを知っておいて下さい。


Q6 職務質問の際に、手荷物を検査されることはありますか。

 法律に明文はありませんが、日本の最高裁判所の判例上、職務質問に付随して、一定の場合に所持品検査をすることが認められています(最高裁1978年6月20日第三小法廷判決)。
 どういう場合に所持品検査が許されるかについては、所持品検査の必要性・緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮して、具体的状況の下で相当と認められる限度において許される場合があるとされています。
 この基準からすると、軽微な犯罪の容疑に関しては所持品検査が認められる余地はほとんどないと考えられますので、所持品検査は明確に拒んで下さい。曖昧な態度をとっていると、暗黙のうちに同意したと扱われかねませんので、所持品を自分の身から離さないで、言葉で明確に拒否することが必要です。


Q7 集会の会場の入り口で、警察官から所持品検査を行うための検問が行われている場合に、これに応じなければなりませんか。

 日本においては、残念ながら、警察官によって、このような検問がなされることがあります。しかしながら、集会参加者に対して、その意思に反して、一般的に所持品検査を行うことは日本の法律上は許されていません。したがって、断固として拒否すべきですが、自分から警察官に手をかけたり、体当たりするなどすると、公務執行妨害罪の現行犯として逮捕されるおそれがありますので、注意が必要です。


Q8 警察官から、任意同行を求められた場合に、どう対応すればよいですか。

 任意同行に応じるかどうかは、まさに任意であり、警察署等への連行を強制することは許されていません。
 したがって、任意同行については明確な拒絶の意思を表明して断ることができます。但し、任意同行を許否した場合には、警察官は、裁判官の逮捕状をとって、あなたを逮捕しようと考えますから、すぐに弁護士さんと相談することをお勧めします。


Q9 移動する際に、警察官がずっと尾行する場合にはどう対応すればよいですか。

 日本では、尾行することは、特に裁判官の令状をとらなくても任意捜査として許されると考えられています。そのために、尾行される場合があります。この場合、警察官は、あなたがどういう人と接触しているか、あなたがどこに滞在しているかを知るために尾行していると考えられますので、その点に注意を払って下さい。
 なお、法的に尾行を止めさせることは難しいので、尾行されることがあることを想定して行動して下さい。


Q10 警察官が家宅捜索に来た場合には、どういう点に注意すればよいですか。

 家宅捜索は、午前7時ころに突然来ることが多いので、朝は注意して下さい。
 警察官が裁判官に申請して捜索差押許可状を持って家宅捜索に来ます。日本では、警察官が申請した令状請求はほとんど認められています。
 通常は、ある人が逮捕された直後に、その人の犯罪容疑で家宅捜索に来るのが通常ですが、中には、「氏名不詳者」の犯罪容疑を理由に、事前弾圧として、組織や運動の実態や人間関係についての情報を収集目的で、家宅捜索が行われる場合もあります。
 家宅捜索については、まず、最初に、捜索差押許可状が呈示されます。捜索差押許可状には被疑者名、罪名、捜索場所、差し押さえられるべき物が記載されていますので、きちんと通訳して説明することを求めて下さい。後で、不服申立て(準抗告)をするためにぱ、その内容を、メモするか、ICレコーダーで録音することをお勧めします。
  家宅捜索が終わったら、警察の責任者から、「押収品目録」を受け取って下さい。家宅捜索しても何も差し押さえるべき物がなかった場合には「捜索証明書」を請求して受け取るようにして下さい。

Q11 家宅捜索の際に、身体検査を受けることもあるのですか。

 警察官は、捜索差押許可状だけでは、身体検査を実施することはできません。
 警察官が、裁判官に身体検査令状を申請して、その令状を持ってきた場合には、その令状に記載された者や捜索場所にいる人の身体検査を実施する場合があります。
 女性の場合には女性警察官が検査を実施します。
 身体検査は、持っている鞄の中身や、ポケットにある物を調べるのが普通ですが、上着や靴を脱がせたり、ズボンを上から触る程度ですが、場合によっては、下着1枚にされた場合もあります。

Q12 家宅捜索で所持品が差し押さえられた場合にはどうすればよいですか。

 警察官による不当な差押え(押収)に対しては、差押えが行われた地域を管轄する地 方裁判所に対して不服申立て(準抗告)ができます(刑事訴訟法430条)。
 警察官による差押え(押収)に対して不服申立て(準抗告)を申し立てると、明らかに被疑事件と関係がない物はすぐに返却されることがあります。
全ての押収物が返還されると、裁判所は、 準抗告の取下げを求め、取り下げないと申立の利益がないとして棄却します。


3 逮捕された場合について

Q13 逮捕される条件は何ですか。

 現行犯(「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った」と警察官が認識した場合)か、準現行犯(①犯人として追呼されているとき、②贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき、③身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき、④誰何されて逃走しようとするときのいずれかに該当して、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められる場合)に限られます。
 自分に身に覚えがない場合には、警察官に対して、自分が逮捕される理由がないことを告げて、現行犯逮捕に抗議しましょう。その際、周囲の人にも訴えて協力してもらうことが望ましいです。
自分が警察官に逮捕されたときは、周りの人に、自分の名前を伝えて、救援体制をとってもらえるように依頼して下さい。


Q14 逮捕後の手続はどうなりますか。

 逮捕されたら最寄りの警察署に連行されます。手錠をかけられて、1~2名の警察官が付き添ってパトカーや護送車に乗せられて警察署に行きます。
警察署に着いたら、まず、弁解録取書が作成されます。被疑事実が告げられて、それを認めるか否かを質問されて書類が作成され、署名と指印を求められます。その際に、弁護人を選任する権利があることも告知されます。「当番弁護士を呼んで下さい」と言うと、警察官から最寄りの弁護士会に連絡が行き、その当日又は遅くとも翌日までに、弁護士と通訳が面会に来ます。 弁護士会に頼まれて初回の面会に来る弁護士を、当番弁護士と呼びます。
 留置場(留置施設)に入る前に、所持品検査と身体検査が行われます。身に付けている物は、時計やベルトを含めて全て取り上げられ、身体拘束が解かれるまで、警察が保管します(これを「領置」と言います)。持っていた携帯電話は、単なる「領置」ではなく、証拠物として差し押えられて「押収」される場合もあります。この場合には、釈放された後もすぐに返却されないことがあります。
 また、顔写真を撮影され、指紋が採取されます。
これらを拒むことはできません。

Q15 逮捕後に、領事に連絡をとることができますか。

 身体拘束された外国人は、その国籍国の領事にアクセスする権利が保障されています。実務的には、領事通報希望の有無を、被疑者に質問する用紙が警察署にあり、その希望に従って処理されることになります。
 領事の協力が得られれば、本国の家族との連絡、本国からの書類等の手配、通訳人の紹介などの協力を受けることができます。

Q16 逮捕された後、黙秘権は保障されていますか。どういうことを黙秘することができますか。

 いかなる事項についても黙秘する権利が認められていますが、日本の最高裁判所は、自己の氏名を黙秘する権利はないと判断しています(最高裁判所1957年2月20日大法廷判決)。
 ただ、外国人の場合には、パスポートを所持していると考えられますから、氏名や生年月日、国籍などはそこから判明しますので、特に黙秘する意味はないと考えられますが、完全黙秘を貫徹するという意味では黙秘しても良いでしょう。
 日本における滞在先は黙秘することができます。

Q17 警察官の取調べに、通訳はつきますか。

 ①第一言語による通訳がなされていない場合、②通訳人に十分な通訳能力がない場合、③通訳人の通訳態度が中立・公平でなく警察寄りである場合には、取調べを拒否して弁護人との接見を求めて下さい。


Q18 逮捕された後の手続の流れはどうなっていますか。

 逮捕されてから48時間以内に検察庁に送られ、逮捕されてから72時間以内(検察庁に送られてから24時間以内)に、検察官は、被疑者を勾留請求するかどうかを決めて、裁判所に勾留を請求します。勾留請求さえあれば、72時間を過ぎて勾留決定がなされなくても良いことになっています。但し、勾留決定が72時間を過ぎてなされた場合には、勾留期間は勾留請求の日からカウントされます。
 勾留は原則として10日間ですが、延長されて20日間勾留されることもあります。
 もっとも、場合によっては、これより短い期間で釈放されることもありますが、外国人だからということで短くなるという訳ではありませんので注意が必要です。
 勾留されてから20日目までに検察官が起訴(公判請求)しなければ釈放されますが、検察官が起訴されると、そのまま勾留が継続します(起訴後勾留)。
 その後、保釈を請求し、それが認められて保釈保証金を納付して釈放されなければ、裁判が終わるまで勾留が継続することになり、起訴されてから第1回公判まで、通常1ヶ月半くらいかかります。
 第1回公判で裁判が終わった場合には、それから2週間以内に第2回公判が開かれて、判決が言い渡されます。

Q19 逮捕後、どこに身体拘束されますか。

 日本では、海外とは異なり、検察官に送られて裁判所による勾留決定を受けた後も、警察署の留置場(留置施設)に収容されるのが普通です。これは「代用監獄」制度として国際的に批判を受けています。
 そのため、警察に生活の全てがコントロールされて、連日、長時間の取調べを受けたり、就寝時間(午後9時)を過ぎても取調べが行われることがあります。

Q20 警察官に逮捕された後、誰と面会できますか。

 ほとんどの場合に、裁判官による勾留決定と同時に、接見禁止決定がなされ、弁護人以外との面会や差し入れが禁止されるのが普通です(刑事訴訟法81条)。
 したがって、外と連絡をとるためには、連日のように弁護人に面会してもらうことが必要になります。

Q21 勾留に対する不服手段はどうなっていますか。

 裁判官の勾留決定に対して不服申立て(準抗告)を申し立てることができます(刑事訴訟法429条1項2号)。勾留延長決定に対しても不服申立て(準抗告)ができます。但し、それによって勾留が取り消される可能性はそれほど高くありません。
 もっとも、不服申立てをすることで、勾留延長後の期間が少し短くなる場合があります。
 勾留中に1度だけ、勾留決定をした裁判官から、勾留の理由を開示させる裁判(勾留理由開示公判)を求めることができます。誰でも傍聴することができ、マスコミが取材に来ることもあります。
この裁判では、裁判官に対して釈明を求めることができ、また、被疑者と弁護人がそれぞれ意見陳述をして勾留の不当性を訴えることができます。

Q22 略式手続で簡略に裁判を受けることができますか。

 100万円以下の罰金になるような事件については、裁判官による書面審査だけで罰金が命令される略式手続があります。
 この場合には、罪を認めることが前提となります。
 通常、その罰金額を支払うと、釈放されることになります。

Q23 入管法上の手続との関係はどうなりますか。

刑事事件で逮捕された場合は、刑事手続が入管手続に先行することになります。そのため、できる限り早く本国に帰国したいと思ったとしても、刑事手続が終了するまでは本国に帰国することはできません。
起訴されて実刑判決を受けた場合は、原則として日本の刑務所で刑を受けることになります。
他方、刑事事件で逮捕されたとしても、直ちに在留資格を失うわけではありませんが、刑事手続が終了するまでに在留期間を経過した場合は、不起訴又は無罪・執行猶予となったとしても、また、刑が終了したとしても、直ちに入管に収容されて、退去強制手続が開始されることになります。
退去強制手続が開始された場合、法務大臣の特別の許可により、在留が認められることもありますが、原則として本国に退去強制されることになります。