
ウィキペディアには学術会議について、つぎのように説明されています。
日本の科学者を代表する機関で、政府に対する政策提言、国際的な学術活動、科学者間ネットワークの構築、科学の役割についての世論啓発など、科学と社会を結ぶ橋渡しをする役割を担っています. 簡単に言うと、科学の進歩を促し、その成果を社会に役立てるために、専門家が集まって議論し、提言や活動を行う組織です.
また、日本学術会議のホームページには以下の4つの役割が掲載されていいます。
- 政府・社会に対して日本の科学者の意見を直接提言
- 市民社会との対話を通じて科学への理解を深める
- 地域社会の学術振興や学協会の機能強化に貢献
- 日本を代表するアカデミーとして国際学術交流を推進
学術会議問題の本質は、政府(時の政権)が、学術会議の活動に介入できるようにしようとしていることです。2020年、菅義偉首相(当時)が日本学術会議の推薦した学術会議会員候補のうち6名の任命を拒否したことから問題は大きくなりました。なぜ、この6名の任命を拒否したのか、その理由は「大局的、俯瞰的に見て」というだけで、何も説明をしませんでした。つまり、本当の理由を言うと法律的に問題があり、拒否できなくなるからです。そうではなく、正当な理由があるのであれば堂々と説明すればいいだけのはずです。この問題はいまだに解決していません。6名は欠員のままです。学術会議として別の候補を推薦することはしていません。政府に対する抗議の表れです。
政府は従来の学術会議法を改め、学術会議を法人化する案を提出し、それが可決されそうです。そうなると、政府が学術会議への介入を堂々とできるようになります。その仕組みとして、法人化後は、内閣総理大臣が任命する監事が設置され、業務や財務を監査します。
・ 監事は内閣総理大臣が直接任命し、業務執行の監査権限を持ちます。
・ 計画/規則の整備状況、予算執行、資金運用、物品管理、人件費など運営全般を監査します。
・ 監事は会長と首相に対して報告義務を負います。
・ 法令違反や不適切な運営があれば是正を求めることができます。
また、内閣府に「日本学術会議評価委員会」が設置され、政府が任命する委員が活動や業績を評価します。
・ 内閣総理大臣が任命する5~7人の委員で構成します。
・ 中期的な活動計画の策定に関与します。
・ 業務実績等の点検・評価の方法や結果について意見を述べる権限を持ちます。
そのほか、元の法律の前文にあった「平和的」という文言が削除され、軍事研究への歯止めがなくなる恐れがあります。政府は法人化後、デュアルユース技術(民生・軍事両用)の研究推進に期待を寄せています。
以前、科学と技術について書いたことがあります。科学とはこの世界がどうなっているのかを調べることだと思っています。その範囲は、ミクロ(もっと小さい量子かな)の世界から宇宙(いまは465億光年先まで広がっていると言われています)までとなります。また、人々の歴史や人々が作り出した社会の仕組みも含みます。技術は世界の操作方法であり、科学の成果をもとに方法を考え、操作することで、経験や勘に頼るより適切にこの世界に働きかけることができます。
では、科学の目的とは何でしょう。特定の目的はありません。反対に言うと、数えきれない目的があると言うことができます。「知りたい!」という感情を満たすこともその目的の一つかもしれません。その感情は人が生きる上で必要なものとして進化的に生まれてきたものだと考えられます。そこで生きている環境がどうなっているかを知るということは、生きてゆくうえで非常に大切なことですから。
学術会議問題は、特定の権力がその目的をコントロールしたい、自分たちにとって利益のある目的にだけ税金を使いたい、自分たちを批判するような人間は排除したい、そのように動いていることにあります。
そんなことをするとどうなるのでしょう。ある企業のオーナーが、自分を批判するような人を排除し、イエスマンだけを残したとすれば、厳しい競争の中で、その企業は没落するでしょう。しかし、それは私的な一企業の問題として仕方がないと言えるかもしれません。しかし、一国の権力者が同じようなことをして、その国が没落するなんていうことは許されるものではありません。実際に、政府は小学校から大学まで、教育という大切なものに素人考えで手を突っ込んで、さまざまな問題を引き起こしています。結果として、日本の技術力は低下し、もはやメードインジャパンはその威力をなくしています。東芝やシャープ、パナソニックなどかつての製造業の巨人が他国の企業に買収されてしまっています。これからは日本のノーベル賞受賞者はほとんど出なくなるだろうと話す人もいます。iPhoneの生産を中国で行なっているアップルCEOのつぎの言葉がいまの世界の状況の一端を表しています。
https://x.com/i/status/1911654276633661872
「みな人件費が安いから中国製にしてると思うだろ。違うんだ。彼等の人件費は高騰している。我々が依頼している理由は彼等の技術と圧倒的な量なんだ」
仮に権力者の目的がその国の発展を目指すものであったとしても、どういう研究がその国の発展につながるかは研究者自身さえもわからないのです。ましてや、いまの権力者にそれを判断できるような科学的知見を持った人がいるのか、大いに疑問です。すべての研究が役に立つわけではないけれど、多種多様な研究の中からさまざまな分野で役に立つものが生まれてくるのです。そのような科学的研究というものを、その素人である権力者がふるいにかけてはならないのです。特にいまの権力者は「いまだけ、カネだけ、自分だけ」という目的が見え透いている人たちが多く、彼らの目から見た役立つ研究は、それを実現しそうな研究でしかありません。本当にその研究でその目的が実現するかどうかはわかりませんが。
いま必要な研究は、科学者が政府から要求、指示されて行なう研究ではなく、自らの興味と良心に基づいて行なう研究です。そして、学術会議の目的は、そのような科学者たちを支え、互いに協力し合える仕組みをつくることです。また、政府に対して、その研究結果に基づく政策提言をすること、社会に役立てることです。権力者たちにとって都合の悪い研究であっても、それを行なう研究者を守ることも大切なことだと思います。
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