平均視聴率43.4%は史上3番目(最高は48.8% 1994年の巨人・中日戦 最終戦に優勝争いがかかったゲーム) しかも瞬間最高視聴率は何と56% 準決勝の韓国戦でさえ50.3%。それだけ人を引きつけたという証拠だろう。
開幕前、王監督の悩みは尽きなかった。松井・井口が出場を辞退。国内の主力選手も続々と断りを入れていた。チーム編成に全面協力を得られず、一時は辞意を漏らしたこともあった。しかし、そこは“世界の王” 「野球離れ」が深刻化する中、球界の将来のために敢えて火中の栗を拾う覚悟で日の丸を背負った。
その姿に惚れ込み、声をかけてくれた王監督に感謝をし、男にしたいと思ったのがイチローだった。
どちらかというと、クールで、自己中心的に見える彼だが、今回は、いや、実際はあのように、フォア・ザ・チームに徹した、熱~い、熱~い男だったのだ。
今年は例年にない早い調整で調子を落とす可能性だって十分にある。寿命の短いプロ野球選手にとっては致命的な年になるかも知れない。それでも彼は挑戦した、日の丸のために・・・。
しかし、敗れたとはいえキューバは本当に強かった。回を追うごとにその重圧が日本選手の肩に、そして、王監督の肩にもズッシリとのしかかってきた。
7・8回が正にその絶頂だったといえる。
イチローもキューバの底力を思い知りだしたのは6回だったと振り返っている。
「すごい。体がしっかり止まっている」 それまで完ぺきだった渡辺の緩急が突然通じなくなった。失策と3連打であっという間に2失点。キューバの各打者は体勢を崩されながらもグリップを残したまま、ジャストミートで鋭い打球を連発した。野球王国の素早い適応に、イチローは素直に驚いていた。
名手川崎のエラー、その後も球が手につかない。
渡辺のエラー、なんでもないプレーができない。
そして、王監督の采配のエラー、渡辺の替え時。
渡辺は8回の初めから替えるべきだった。打ちにくいのではないかと予想されたアンダーハンドを、キューバのバッターは脅威的に順応し真芯で捉えていた。しかも、エラーが重なり、悪いムードが漂っていた。
結果論ではなく、回の頭からズバッと藤田につないでおけば藤田も気持ちがまた違っていたと思う。そして、それが大塚を8回途中から出すことにつながり、1点を取られてしまった。
王監督も焦らなかったといえば嘘になると思う。とにかくそれだけの重圧がかかってきていたのだ。自分も見ていて、5点もリードしている安心感を一度も感じなかった。
だって解説の野村も「これじゃ勝てない」、「まだだめだ」って試合中ず~っと言ってるんだもん。
先発から、中継ぎ、抑えと安定した投手陣の防御率は2.49で、韓国、プエルトリコに次ぐ3位の好成績。攻めては、打率3割1分1厘、10本塁打、13盗塁は、いずれもナンバーワンで、大技、小技を織り交ぜる質の高さを見せつけたのに。
しかし、日本が真価を見せたのは、本当に強いチームだなと思わせたのは、1点差に迫られた直後の九回表の攻撃だった。
一死一塁から、西岡が投手と一塁手の間に絶妙なプッシュバント、ナイス判断だった。続くイチローが一、二塁間をゴロで抜いた。どうしてもここで打ってほしかった、何としても点がほしかった、そんな時に打てるのはこの男しかいないだろう。
二塁走者の川崎は本塁へ。しかし、捕手が本塁をブロックしていてベースが見えない、捕手の右側に滑り込んだ川崎は、左手でベースに触れようとしたが、「それでは間に合わない」と瞬時に判断し、右手をベースに向けて無理矢理突っ込んだ。セーフだったが一つ間違えば川崎の右腕は折れていた。事実負傷し、開幕戦は絶望となった。
仕上げは韓国戦に続き福留。試合を決めた。
試合後のイチローの喜びようは際立っていた。インタビューを受け、何を言っているのかわからないほどに興奮していた。
1回は四球を選び、5回は先頭打者で二塁打を打ち、1点差に迫られた直後の9回にはタイムリーを放ち、有言実行、選手を、日本を優勝に導いてくれた。
この大会では、クールな男が刺激的な言葉を繰り返してチームの士気を高めてくれた。悪役になることがわかっていても、闘志を前面に出し日本を引っ張ってくれた。
そんなイチローの姿は、日本のファンにも新鮮な驚きだった。
たくさんのヒーローがでたけど、今回の真のヒーローはやはりイチローだったと思う。
世界に、特に韓国には敵を多く作ったが、世界中にその何百倍、何千倍ものファンをまた作ったことだろう。
ありがとう、イチロー、ありがとうジャパン!!