プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

< 風立ちぬ >

2019年08月27日 | テレビで見た映画。
ジブリは大好きだった。ある時期までは。

「千と千尋の神隠し」で嫌いになった。ゆるせないと思った。
そして次こそはと思った「ハウルの動く城」も全然ダメで。
もうジブリとは縁を切ろうと思った。それ以来15年ぶりに見るジブリ作品。

わたしはこれは、好きでしたね。

なんといってもさー、わたしは……ジブリで一番好きな作品は?と訊かれたら、
「紅の豚」と答えるんだよ。
「紅の豚」が好きだったらこれも好きにならずにはいられないでしょう!
どうですか、紅の豚好きのみなさん!……とついつい声が大きくなる。

「紅の豚」を見た時も、宮崎さん、趣味全開だなーと思ったものだが。
そしたらシュミ度は本作の方がはるかに上だった。「紅の豚」はまがりなりにも
エンタメだもんね。じゃあこれは何かというと、宮崎駿による映像のエッセイ。

好きなものを表現したい。というのは多分創作者に基本的にある感情。
好きなものとは、宮崎さんの場合飛行機。飛行機を描きたかったんだろう。
そこに堀辰雄をからめたかったんだろう。好きな作家なのかもしれない。
避暑地の恋。避暑地で終わらない恋。

そんなことを、たとえば字書きだったらエッセイにする。
でも宮崎さんは絵描きだから絵で描く。そして、ここが若干悲劇的なところなのだが、
宮崎さんのそばには商売人の鈴木プロデューサーがついているわけですよ。

本来ならばこの作品は、宮崎駿のシュミで終わったはずなんだ。
見たい人が見る。それでちょうどいい内容だと思う。
でもあの宮崎駿がそれなりの時間を費やした作品が、商売にならないわけがない。
その鈴木プロデューサーの判断は理解できる。

何しろ売れば全部売れるんだから。売らないコンテンツを「シュミで」制作するなんて
もったいないこと、多分鈴木プロデューサーはゆるせないだろう。
いや、ゆるせるゆるせないの問題ではなく、2014年に解散するまで、
ジブリの制作部門は常勤だったはず。彼らを食べさせなければならないのだ。

しかしその内容が、日本中の人の期待に応える、老若男女が楽しめる、
どこに出しても恥ずかしくないエンタメ。――かどうかは保証の限りではない。
だって今回のは宮崎さんのシュミだもの。趣味が合わない人だっているさ。

男のロマンなんだ!そういうと陳腐になるから言い換えると、大人のロマン。
長い絵描き人生、1つや2つ自分のために作品を描いてもいいはずだ。
……だが、超弩級に売れた宮崎さんの場合、自分のために描くことはほぼ不可能に近い。

自分のおもちゃをみんなのために差しだしたのであろう、宮崎さん。
それは苦痛ばかりではなかったとは思うが、一人で静かにおもちゃで遊びたかっただけの
宮崎さんには寂寥たる思いがあっただろう。
でも経営者の責任で何かを出さなければならない。
自分一人のおもちゃを、みんなのおもちゃに出来るだけの変更を加えて。

でも基本は自分のおもちゃだから。
主人公はひたすら飛行機に邁進し(後半はちょっと恋愛もし)タバコもスパスパ吸い、
戦争で散っていく命はひたすら透明で美しく、
ヒロインはクラリスばりに純情で可憐。

もうそれは仕方ないと思う。だって宮崎さんのシュミだもの。
あまり難しいことを言ってくれるな。やらせてやってくれ。
これまで長いこと、いろいろいろいろありつつ名作を生みだしてくれた人だから。

間違いなく、子供向きではないわなー。
でも宮崎さんが長編を出すとなると「じゃあ夏休みには子供を連れて見に行こう」
という反応にどうしてもなるわけで……
「子供向きではない」という事前情報があったとしても。
宣伝する方だって、あんまりいうとお客さんが減るから「子どもは来ないでください」とも
言えないしね。

わたしは大変楽しんだけれども、全然楽しめなかった人は一定数以上いるだろうな。
それはひとえに、万人向けではない作品を万人向けとして世に出していかなければならない
ジブリの悲劇というべきにやあらむ。



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