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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ クラフトエヴィング商会「じつは、わたくしこういうものです」

2006年04月09日 | ◇読んだ本の感想。
これは「お菓子本」。(比喩的な意味で。お菓子の作り方とかの本ではない。)

あまり内容を知らずに読んだ方が楽しめるような気がする。タイトルにピンと来た人は事前知識なしに読んだ方がいい。
と言っても、好き嫌いは分かれる類の本だが。面白がりで、ほのぼの系統が好きな人向き。


じつは、わたくしこういうものです
クラフト・エヴィング商會 平凡社 (2002/02)売り上げランキング: 37,267


架空の職業の人たちを設定し、彼らの短いインタビューと人物写真、関連する小物で構成した極小ファンタジー。
架空の職業――例えば、月光密売人。白シャツ工房。選択士。シチュー当番。
いかにも内容が想像出来そうなネーミングではあるが、実際に読んでみると予想から微妙に外れていたりして、
そのごくごく軽い「やられた」感が面白い。ふ、と小さな笑いが零れる。

こういう作り物はついついやりすぎて(=設定に凝りすぎる)しつこくなることが多そうなんだけど、
クラフトエヴィング商会はなかなか上手いところで止めていますね。甘すぎず、爽やか。
ここの感覚が非常に好きだったので、他の著作も読んでみたくなった。

インタビュー・小物・写真という、3つの要素のバランスがいい。
この中で最も成功しているのは、写真なのではないだろうか。モデルとして登場する人々が、実にいい雰囲気を持っている。
読みながら「どういう人たちなんだろう」としきりに考えていた。劇団の人かなあ。
もしそうだとしたら、他の役柄の時に出会ったら興ざめだなあ……。

最後のあとがきで彼らの実体が明かされるのだが(わたしは明かさない方が、作品としてはフェアだったと思う)、
それを読んで、へーっ、と思った。みんなモデルとしては素人さん。本業はコピーライターや作家や、色々。
しかし、これがみななかなかいい顔をしているんですわ。月光密売人の一癖ありげな表情とか、
白シャツ工房の白シャツそのものの爽やかな笑顔とか……
モデルを元にして職業を作ったにしろ、その逆にしろ、キャスティングは実にお手柄。
ここかな。この本の真骨頂は。

小物も、かなり気を入れて作っている。そこも良い。……が、贅沢を言えば、あまりにも気を入れて
作りすぎていて、日常の粗雑感が全くなかったことがちょっと気になった。
リアルにおいては、商売道具って、そこはかとないふてぶてしさが漂うものなんですよね。
どんなに大切にしていても、商売道具である以上傷や汚れはつきもの。メモをとるにしたって、
いつでもどこでもきちんとした字を書いているはずはない。
しかしここでの小物は、作品として作られているわけで、リアルさのない、可愛らしいものになった。
ま、下手に崩すと途端に小汚く見えてしまうものだから、しょうがないかな。



お菓子のようなものだととらえて、さらさらと読んで欲しい本だ。
間違ってもステーキやうな丼を期待してはいかん。ラーメンでもサンドイッチでもない。
さらにお菓子の中でも、ショートケーキやお饅頭じゃなくて……
ピンポイントで指定するなら、焼きメレンゲ。しかもレモン風味。
口の中ですぐ溶けて軽い。そこはかとない爽やかさ、ちょっとした贅沢感。うーん、イメージぴったり。
あ、焼きメレンゲ、食べたくなった。

出来れば、美味しい紅茶と一緒にどうぞ。
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