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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 高橋秀実「TOKYO外国人裁判」

2023年09月07日 | ◇読んだ本の感想。
前にこの人の「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー」を読んで、
たいそう笑えた。なので2冊目としてこれを読んでみた。1冊目に比べてかなり真面目。

これは、日本では外国人(主に東南アジアからの)の裁判がいかに不当に
行われているかを書いた本。
かなり調べてはいるだろうけど、ノンフィクションにありがちな、
これでもかというデータを並べるという感じではない。

これがちょうどいい。少し物足りない気はするけど、このくらいが軽くて読みやすい。
テーマが重いだけにこのくらいで読めるのは有難かった。


そうだろうとは思ったけれど、……外国人を裁く環境ってひどいもんだな。
この本は1992年出版。まあ30年前の本だけど、現在までの間に劇的に状況が
好転している気がしない。
制度が好転するためには外的圧力がどうしても必要になるけれど、
外的圧力をかける存在が全然思い浮かばない。

外国人っていっても欧米人の話じゃない。
東南アジア人の話。この本の場合ではフィリピン人。

「タガログ語は話せません」という人を通訳として起用する。
各種書類は日本語。翻訳なし。
通訳の精度は低い。通訳が取捨選択した内容を勝手に喋ることがある。
取り調べも検察も裁判も同じ通訳が担当することがある。
国選弁護士も時間をかけて調べたりしない。最短時間を目指して流れで形だけ。
何について罪に問われているのかさえ本人がわかってない場合がある。
有利な証言が出来る立場の人も、不法就労者である場合が多いので証言してくれない。
――粗くあげただけでこんなに。書いてあることとしては3倍はある。

だが実際の運用としては……たしかに適当にやりたくなる気持ちはわかるんだよなあ。
まずコミュニケーションを取るのが難しい。
日本国内で何ヶ国の人が罪を犯すのかわからないが、とにかく日本語以外の
コミュニケーションのハードルが高すぎる。

昨今、英語くらいは喋れる人が増えた印象。が、法律用語、いろんなニュアンスを
感じ取れるまでの英語力っていったら、英語でさえもそうそう喋る人はいませんよ。
しかも英語だけじゃなくて日本語どっちもですからね。
1万人に1人くらいじゃないですか。合格なのは。もっとか。
それを世界の言語で。上位20言語くらいと考えても一体何人その能力があるか。

そしてその能力がある人は、多分犯罪に関わる通訳をするよりも、
より良い仕事があると思うんだよね。経済的な意味でも本人の志向的にも。
ますます探すのが難しい。

通訳がそういう状態だと、各種書類の翻訳なんて物理量的に無理でしょ。
10倍かかる。そして10倍手間がかかるということは10倍時間がかかる。
10倍かどうかはわからないけど、金もかかるということです。
それを日本国民の税金を大量にかけてすることが相対的に正しいのか?
という考え方もあるわけですよ。

まあ適当な裁判で刑務所に入れて、その費用も日本国民の税金なんですけどね。
日本人だったら当たり前のように執行猶予がつくケースでも、
外国人のディスコミュニケーションのために実刑になることがあるそうですよ。

こんなの氷山の一角。

この人はわざわざ被告の実家を訪ねたんだよね。フィリピンの。
そして被告の人となりを調べる&裁判の情報がどこまで家族に届いているか調べる。
でもそれはルポライターとして取材をしているから出来るのであって。
弁護士は通常そこまでは出来ないもんねー。いくら志が高い弁護士の人がいたとして、
経済的に絶対ペイしない。1件の事件について何十万もかかって時間も何倍もかかる
のであれば、それは無理。

本の内容の100分の1にしか触れてなくて不本意だが、
とにかく外国人裁判は不公正だということはわかった。
信じられない現実がまかり通っている。

しかしそれを公正にしようとすると、経済的にも仕事量的にも司法制度が
崩壊するしかないんじゃないか、ということでもある。
改善は難しい。



でもわたしはこの人に面白いルポを書いて欲しいのよね。
この本は真面目過ぎる。タイトルを見た段階でわかっていたわけだが。
笑える本を書いて欲しい。だがタイトルから見るに、
この人はだいたい真面目なテーマを書いてるのよね。
むしろ「弱くても勝てます」が周縁部。なので今後読んでいこうか迷うが。


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