ある牧師から

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山谷裁判判決文全文③ 本件各表現の名誉毀損の成否 異端的教義に関する表現

2020年02月08日 | キリスト教全般

2 本件各表現の名誉毀損の成否

(1) 本件各表現につき名誉毀損として不法行為が成立するためには、原告らの一般社会における社会的評価を低下させるものといえなければならない。

 すなわち、名誉とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価であると解され、名誉毀損とは、この客観的な社会的評価を低下させる行為であると解される(最高裁昭和61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁)ところ、インターネット上のウェブサイトに掲載された表現の内容が人の社会的評価を低下させるか否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきものである(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁、最高裁平成24年3月23日第二小法廷判決・裁判集民事240号149頁参照)。

(2) また、事実を摘示して他人の名誉を棄損する場合であっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合において、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときは、その行為には違法性がなく、仮に上記証明がなくても、行為者において上記事実の重要な部分が真実であると信じたことについて相当の理由があれば、その故意又は過失が否定され、不法行為が成立しないと解される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。

そして、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損においては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、その行為は違法性を欠くと解される(最高裁昭和62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁、最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)。

 なお、名誉毀損が問題となっている表現における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別については、同表現が、意見ないし論評の表明にあたるかのような語を用いている場合にも、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や同表現の公表当時に読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと解されるときは、その表現は、その事項についての事実の摘示を含むものというべきである(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。

(3) この点、本件各表現は、原告の主張を踏まえて類型化すると、次のとおりに分類することができる(各本文は原告の主張の要旨であり、括弧内の数字は、別紙主張整理表の「番号」欄の数字であり、その番号に対応する「表現内容」欄記載の表現を指し示すものである。なお、表現によっては複数の類型にまたがるものもあるため、重複する数字がある。)。

(原告会社に対する表現)

① 原告会社が、張在享が「来臨(再臨)のキリスト」であるという「異端的教義」を信奉し、かかる異端的教義を説いているとの表現(22,29,31,37,43,49,51。以下、これらを併せて「表現①」という。)

② 原告会社は、統一協会の核心メンバーないし幹部である張在享の設立した企業である、又は統一教会の派生カルト団体ないしダミー団体の疑いがあるとの表現(7,23,29,34,35,40,43,54,61,62,64,66,68,80。以下,これらを併せて「表現②」という。)

③ 原告会社が、原告高柳や従業員に対しマインドコントロールを行い、無償労働や消費者金融からの借金を強い、アポなし訪問や電話攻勢などをかけるようなカルト団体であるとの表現(8~11,17~20,24,26,27,29,32の(ア),(イ),33,36,38,41,46~50,52,55,56,59,60,62。以下,これらを併せて「表現③」という。)

④ 原告会社が,損害賠償請求裁判を提訴するとの威嚇,告訴の威嚇を行ったとの表現(28,30,42,44,53,67。以下,これらを併せて「表現④」という。)

⑤ 原告会社が、不審者・不審車両の配置、サーバーアタック、インターネット上の誹謗中傷といった被告に対する攻撃を行っているとの表現(1~6、12~16、21,25,28,32((ア),(イ)を除く。),39,45,57,58,63。以下,これらを併せて「表現⑤」という。)

(原告高柳に対する表現)

⑥ 原告高柳が、「ブログの記事を削除しなさい。さもなければ、大変なことになる」と述べた直後に、不審車両、不審者、サーバー攻撃などの事態が生じたとの表現(69,72。以下,これらを併せて表現⑥」という。)

⑦ 原告高柳が、パラノイド、虚言性向、尋常でない様子が見られたとの表現(70,71,73~75。以下,これらを併せて「表現⑦」という。)

⑧ 原告高柳が、自己を「来臨のキリスト」とする張在享と関わりがあることを示唆する表現(76,78,80。以下、これらを併せて「表現⑧」という。)

⑨ 原告高柳が経歴を詐称したとの表現(65,77。以下「表現⑨」という。)

⑩ 原告高柳が匿名ブログで被告の誹謗中傷を行っているとの表現(79。以下「表現⑩」という。)

(原告矢田に対する表現)

⑪ 原告矢田がマインドコントロールを受けているとの表現(81。以下「表現⑪」という。)

⑫ 原告矢田がパラノイド傾向、虚言性向が見られるとの表現(82。以下「表現⑫」という。)

⑬ 原告矢田が被告を告訴すると威嚇したとの表現(83。以下「表現⑬」という。)

⑭ 「摂理脱会手記」が原告矢田の自己の体験ではないかとの表現(36,84。以下「表現⑭」という。)

(4) 各表現についての不法行為の成否

ア 表現①及び⑧(異端的教義に関する表現。22,29,31,37,43,49,51,76,78,80)について

管理人注 赤丸は名誉毀損成立












(ア) 社会的評価の低下

 表現①及び⑧は、原告会社及び原告高柳が、張在享が「来臨(再臨)のキリスト」であるという「異端的教義」を信奉し、かかる異端的教義が原告の社内で教え込まれているとの事実(表現①:22,29,31,37,43,49,51。表現⑧:78,80)、原告高柳が張在享から牧師按手を受けたとの事実(表現⑧:76)を摘示する表現である。

 証拠(甲13)によれば、「異端」とは、「正統からはずれていること。また、その時代において正統とは認められていない思想・信仰・学説」を意味するところ、キリスト教に関する本件ブログの全体の構成や内容からすると、「異端的教義」とはキリスト教から外れた教義を意味していると解される。そして、一般人が表現①を閲覧すれば、原告会社がキリスト教の教義から外れた信仰をしているとの印象を抱かせ、キリスト教に関する情報の提供を業とする報道活動を行う原告会社にとって、原告会社が提供する情報の正確性や客観性に疑義を抱かせるおそれがあることから、原告会社の社会的評価を低下させるものと認められる。

 また、表現⑧は、表現行為時に原告会社の代表取締役であった原告高柳が、異端的教義を説いている張在享と関わりがあることを示唆し、原告高柳が異端的教義を信奉しているとの印象を与えるとともに、そのような人物を代表取締役とする原告会社についても同様の教義を信奉しているとの印象を与える表現であるといえ、原告会社及び原告高柳の社会的評価を低下させるものである。

(イ) 違法性阻却について

 被告は、原告会社においては、張在享が来臨(再臨)のキリストであるとの教義が教え込まれており、原告高柳はかかる異端的教義を確信していることから、表現①及び⑧は、事実の公共性及び目的の公益性が認められ、被告の表現行為の重要部分について真実性があると主張し、それに沿う証拠を提出する(乙1,4,73,77,113の1~115の2,160,被告本人)。

a まず、本件各表現は、キリスト教界に一定の影響力を有する報道機関である原告会社及びその役員の異端疑惑や統一教会疑惑に関するものであり、正統派のキリスト教団体が関係各所に通達を出していること(乙1)からしても、公共の利害に関する事実であり、専ら公益を図る目的でなされたものであるといえる。

b そして、◆◆が、東京ソフィア教会において、張在享が来臨のキリストであると教え込まれていた証拠として、◆◆のアパートから発見されたとする本件ノート(乙113~115)や、張在享が創設したACMの生活状況、教義内容等が記載されているとされる書面(乙73,77)を証拠として提出するので、以下検討する。

 前記認定事実(7)のとおり、本件ノートは、◆◆◆◆の所有物であり、同人の自宅から両親が持ち出して被告に交付したこと、本件ノートには、日時場所として「2002年」「東京ソフィア教会」の記載、「キリストの来臨」について「イエスキリストではなく、来臨のキリスト」などの記載があり、これは正統派のキリスト教の教義から外れる内容であること、◆◆◆◆は、平成14年当時、東京ソフィア教会の信者であったことが認められ、これらの事実を踏まえると、正統派ではない「キリストの来臨」に関する講義が平成14年当時、東京ソフィア教会において行われていた可能性がある。

 しかし、張在享が来臨のキリストであることが明示的に記載された部分はなく、本件ノートが東京ソフィア教会の信者であった◆◆によって記載されたものであったとしても、直ちに、張在享が来臨のキリストである旨の教義が東京ソフィア教会、ひいては原告会社において教え込まれていたとは認められず、他にこれを裏付ける客観的な証拠はない。

また、ACM脱会者とのメールのやり取りが記載されているとされる書面(乙72~77)の中には、再臨主が張在享であるとの教えがあった旨の記載があるが、その体裁からすると、脱会者と名乗る人物が特定できず、被告が聴取した人物がACMの脱会者であるとは直ちに認められない。このほかに、ACMにおいて、張在享が再臨主であるとの教えがあったことを裏付ける客観的な証拠もない。

 そして、前記認定事実(2)及び(3)のとおり、張在享が自らを再臨主であるとの異端的教義を伝道している疑惑が広まったが、張在享の再臨疑惑については、韓国キリスト教総連合会の異端対策委員会(CCK)が「証拠がなく事実でなく、異端性が全くない」との判断を示し、世界福音同盟においても同趣旨の通知が公表されたことにも照らせば、原告会社において張在享が再臨主であるとの異端的教義が信奉され、教え込まれていることを認めるには足りない。

c 他方、表現⑧のうち76番については、証拠(原告高柳p20~24)によれば、原告高柳は張在享から牧師接手を受けたことが認められ、重要な部分について真実であるから、違法性が阻却される。

d 以上のとおり、原告会社及び原告高柳が「張在享は来臨のキリストである」という異端的教義を信奉し、原告会社内で教え込まれていることの真実性は認められず、表現①及び⑧のうち76番以外の表現については、被告の上記主張は採用することができない。

(ウ) 相当性

 次に、被告は、原告会社及び原告高柳が異端的教義を信奉し、原告会社内で教え込まれていることが真実であると信じるにつき相当性がある旨主張することから検討する。

この点、表現①及び⑧のうち22,29番を除く表現については、原告会社が異端的教義を信奉し、社内で教え込んでいることを断定的に示唆する内容となっている。

 このような断定的な内容の表現をするには、それ相応の合理的な根拠を要するというべきであるところ、本件ノート(乙113~115の2)や脱会者らのメールと称する書面(乙72~77)のみでは、客観的な資料に基づいて慎重な分析が行われたとはいい難く、他に合理的な根拠といえる資料は認められないから、真実と信じるについて相当な理由があったとは認められない。

 他方、22,29番については、前記認定事実(2)及び(3)のとおり、日本における正統派キリスト教の団体である日本福音同盟から、張在享について、キリスト教界にとって異端的立場である統一教会との関係があるとの疑惑が存在し、それに伴い原告会社からの取材を拒否することを決定した旨の通知が被告の所属する救世軍に送られていること、本件各表現の後、張在享については統一教会疑惑だけでなく再臨主疑惑もかけられており、CCKの異端対策委員会において複数回の調査が実施されたことに照らせば、張在享について異端の疑惑が存在し、原告会社もそれに関与している疑惑が存在していたといえるから、張在享の異端疑惑の存在及び原告会社の関与を示唆する表現をするのに相応の合理的な根拠があったというべきである。したがって、表現ののうち22,29番については、真実であると信じるにつき相当な理由があったと認めることができる。

(エ) よって、表現①及び⑧のうち31,37,43,49,51,78,80番については,原告会社又は原告高柳に対する名誉毀損となる。

 

続き 統一教会に関する表現 異常な団体、カルト団体である等の表現 


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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2020-02-06 09:46:29
根田氏の常套句ばかりじゃん。
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根田氏 (臼田)
2020-02-06 10:17:02
名誉毀損が成立しなかったものは「認められた」という。
29番は後にほぼ全部仮処分命令で削除。
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Unknown (Unknown)
2020-02-06 12:01:51
裁判が行われる前に、体験談ブログが先に出ていたら状況はかなり違っていたかもしれないね:-)
私は最臨説より、信者の消費者金融からの多額のローンに心が痛みます。。。
社会経験も乏しい学生に関連団体で働かせインターシップなどの説明も一切なくやっていたとなるとかなり問題があると感じましたが、そこんとこを追及してほしいと個人的には思います。
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Unknown (臼田)
2020-02-06 12:09:47
体験談が執筆者が特定出来ない以上証拠採用されない。
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Unknown (Unknown)
2020-02-06 12:31:55
〉〉体験談が執筆者が特定出来ない以上証拠採用されない。
それはそちらの都合です。信者が消費者金融から借金していない証拠にはならない。
そりゃ、学生が何百万も借金したら大問題ですが匿名でも体験談ブログに借りた証明がある以上(勿論偽装も否めないが)簡単に無かったとは言い切れない訳で、そこを先生があったのか、無かったのかをこのブログで説明してほしいと期待していたのですが、ただ採用出来ないだけでは。。。:-)

実際一番驚いたのは、関連企業のベレ🌑ムさんで働いていた元信者さんの年金?保険記録がありましたよね?
あれを見てからますます信憑性が上がりましたね。
あったのか、全くの事実無根(空想)だったのかが一番知りたいですね。答えは現役信者さんが一番良く知っているのでしょうが。。。
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Unknown (臼田)
2020-02-06 12:45:02
だったら「青春を返せ」裁判のような訴訟をやったらいいじゃん。
何で一件も訴訟が起きないの?
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Unknown (Unknown)
2020-02-06 14:10:03
〉〉だったら「青春を返せ」裁判のような訴訟をやったらいいじゃん。
何で一件も訴訟が起きないの?

そんな煽るような発言はいかがなものかなと。。。
脱会直後や10年前ならともかくなんで、リスクを背負ってわざわざ訴訟するの?
体験談ブログによると650万の返済を求めたが、わずかな金で宣教師にとんずらされたとありましたが、つまりそうゆう事なんでしょう。。。
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Unknown (臼田)
2020-02-06 14:14:54
最新の記事見てね。
君たちはいよいよCCIKを異端擁護団体にするのかな❓
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Unknown (Unknown)
2020-02-06 19:29:17
削除された匿名ブログを引用することになんの価値があるのか。
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Unknown (Unknown)
2020-02-06 19:44:46
〉〉削除された匿名ブログを引用することになんの価値があるのか。

何らかの圧力があった削除なら価値は更に上がる↑
脱会者は全く存在せず全て創作なら価値は下がる↓

内容が内容だけに、おそらく体験した事を書いているんだろが、ただどこまでが真実なのかは、議論の余地があるという感じでしょうかね。

全く価値ない、信憑性ゼロにもっていきたい気持ちも分かるが、ちょっと強引というか無理あるかな:-)
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