『土井利位=記 雪華圖説+續雪華圖説 覆刻版』 小林禎作『雪華図説考』築地書館 1968/07 980円 『雪華圖説 正+続[復刻版]』 小林禎作『雪華図説新考』築地書館 1982/01/20 2600円
寺田虎彦にみられる科学者の文芸趣味(=教養)は、人工雪の研究で著名な中谷宇吉郎を経由して小林禎作に引き継がれた。いまこの伝統はどこにいったのか?...知らない。
小林禎作は北海道大学で中谷宇吉郎に師事した雪氷学の研究者であるらしい。研究の傍らこの著作を成し遂げた。『...考』を刊行後、科学者の執着心と言ってしまうと失礼であるが本来の科学者の責務であるのかもしれない。14年のあいだ古典籍や現地の調査を行い『...新考』を刊行した。存命であれば『...新々考』が期待されるのだが残念ながら故人となってしまわれた。
工業計測器メーカの下請け業務でスキー場で使用される人工降雪機ソフトウェアのデモンストレーションを作成したことがある。たった3ヵ月で納品するという事であった。デモンストレーションとのことでパット見で格好よさそうな画面を作ってあげれば納品先で喜んでもらえるだろうと参考書をさがしたのが、中谷宇吉郎『雪』と鈴木牧之『北越雪譜』。
実際の納入先で求めたものは気象データを収集しその値を判断させ降雪機や給水ポンプの自動発停を行う制御論理ソフトウェアであった。コンピューターの環境は民生品でない計測器メーカの工業用パソコン。予算の都合か HDD がなく FDD×2 という貧弱なもので記述言語は BASIC であった。それでも乾湿球で湿度をもとめていたものを併設している湿度計から数値計算で逆に湿球温度を求めるなど細部に趣向を凝らした。ちょうど長野オリンピックの開催が決まるかどうかの時期であった。この業務なかなか面白そうであるが下請けの悲しさ、デモンストレーションが完成した段階で離れた。
下図はそのときシステム起動時のデコレーションの参考にした『北越雪譜』にある雪華図。鈴木牧之は「雪華図説」から転載したと断っている。
その後、デパートの古書市で『雪華図説考』を見つけた。函が薄汚れているが装丁が凝っていて面白い本である。巻頭から3分の1が「雪華圖説」と「續雪華圖説」の復刻で占めている。残りがこの古典籍の解説と雪氷学からの見解。
しばらくしてから、また『雪華図説新考』を見つけた。これも初版同様で復刻が巻頭から載せている。前書の新装本かと思ったが、残りの3分の2は前書を踏まえて書かれているので別物である。『..新考』だけでは物足りなくなってしまうだろう。
わたしの感想なんか意味がありませんのでキーだけ記述します。
人物では、土井 大炊頭 利位|鷹見泉石|佐藤一斎|大塩平八郎|マルチネット|渡辺崋山|桂川甫賢|小松良翰|本間游清 などが登場します。
自然科学では、天保時代は利位の領地である古河でも雪の結晶が観測できたといった気象学史とか。観察に用いた顕微鏡はどんなものだったかなどなど。
「雪華圖説」と「續雪華圖説」2冊の古典籍を小林禎作が解説することで、
「...考」「...新考」の読者は経験や感性から様々な思いにふけることができる名著であるとわたしは思う。わたしは小林禎作のファンになった。
雪に魅せられた人びと 小林禎作 築地書館 1975/02/01 雪の結晶 小林禎作 ブルーバックス 1970/11/28
が、『雪華図説考』『雪華図説新考』が格段におもしろい。残念なことに小林禎作の書籍は絶版となっているので新刊書では求められない。図書館の自然科学コーナか古書で探すことが必要になる。
2005/03/07 ものずき烏 記
(2005/03/08) 復刊ドットコムで『雪華図説考』の復刊を企画しているようで印刷所の情報を求めていたので提供した。ついでに、このページのURLもファン・サイトとして投稿した。
(2005/03/12) 鈴木牧之『北越雪譜』より「雪華図」の残り半分補填。
ものずき烏(母屋)『雪華圖説+續雪華圖説』の画像が不鮮明だったので、上の「北越雪譜」の雪華図相当で見れるように再度Scanし、ジオシティーズの無料スペースへUpLoad。
(2005/03/23) 『 雪華圖説+續雪華圖説』で復刻画像を公開。
↑ 画像主体ですので読み込みに時間を要します。ご容赦下さい。
先日古河歴史博物館を訪ね「雪華図説」の展示を見たのですが、全頁を見ることが出来ず復刻版の有無を館員に尋ねたところ有るとの事でweb検索しました。
すると貴兄のページにたどり着き、すべてのページを見ることが出来感激しています。ありがとうございました。
なお小生小林偵作氏の著作は読んでいます。また北越雪譜の復刻版は入手しています。
このペーにリンクのある、ジオシティーズ上の正・続雪華図説データは、もう再アップロードはなさらないでしょうか?
以前に拝見させていただいて、とても美しく、感激していたので、また見られることを祈っております。