久しぶりに映画を見た。と言っても、そもそも自分は映画に余り興味なく、たまたま無料配信のPrime Videoで見ただけだ。映画は基本的にエンタメ(娯楽)で、見て楽しいのがキモだ。加えて、感情を揺さぶる何かがあれば尚いっそう良い。それらの点で傑作だと思えた。
映画の面白さとは何か。まずは適度な「非現実感」だ。記録映画や社会派映画のように現実感が強すぎると深刻になる。話の筋も平凡ではつまらないが、うますぎても現実と乖離して面白くない。俳優も有名すぎると、俳優の個人(現実)が役(非現実)に勝ってしまう。
次に重要な要素は「画像」だ。臨場感ある動画、背景や備品の完成度、俳優の演技などだ。そして、最も重要なのは話の筋で、そこに情動を揺さぶる「愛憎」が必要だ。恋愛、親子の情、仁義を愛とすると、恨み、嫉妬、復讐が憎になる。最後に、「軽妙」(Joke)があるとよい。
その映画とは、「侍タイムスリッパ―」だ。主人公は幕末の京に配された会津藩士で、藩命により長州藩の剣士を襲撃する。その際に時間移動し、現代の時代劇の撮影所に現れる。戸惑いながらも映画の斬られ役を演じていると、ある映画の撮影で長州の宿敵に再会、真剣で殺陣(たて)を演技することになる。
非現実感は、題名の通り時間移動という設定だ。大物俳優はいないが、皆が好演している。画像では殺陣が見どころで、最後の真剣での斬り合いも臨場感がある。愛憎の面では、淡い恋心、主従の恩、会津への愛と長州への憎しみが交錯する。和尚とその妻や最後の落ちが軽妙さを添える。
思えば、わが国には真剣で切り合う時代があった。侍魂というと古めかしいが、それぞれの立場で本当に命を懸けたのだ。パワハラや働き方などは眼中にない世界だった。その思いと犠牲の積み重ねの上に今の日本がある。このことを会津藩士が伝えに来た・・三島由紀夫の幻影が見える。
後で聞けば、本年の日本アカデミー賞の最優秀作品だという(監督:安田淳一、主演:山口馬木也)。道理で面白かったわけだ。しかも作成費は格安(2千万程度?)だったとのこと。時代劇の復活を祈る気持ちも含めて、いかにも映画好きが作った作品だ。鑑賞をお勧めしたい。