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支流からの眺め

武漢ウイルスで見直す国々 (5) 台湾

 朝鮮に続いて、重要な隣国である台湾を取り上げる。

 台湾が歴史に登場するのは16世紀で、当時は海賊や西欧諸国の貿易・海防の拠点であった。17世紀には反清復明をかけた鄭成功が拠点を築いたが、後に清に編入された。漢民族の入植に伴い、原住民との混血・文化的同化が進み台湾人(本省人)が形成されたが、清は台湾を「化外の地」として半ば遺棄していた。日清戦争後の1895年には日本領となり、日本統治の50年間に、鉄道や水利の整備で産業が振興され、教育制度も拡充されるなど、近代化が進んだ。この間に大陸では、1912年に清が滅亡し中華民国が成立した。

 1945年の日本敗戦に伴い、中華民国(国民政府)が台湾に進駐した。国民政府軍は圧政を敷き、台湾人の蜂起を弾圧し(1947年の二・二八事件)、厳戒令を布告して粛清を行った(以後40年間続いた)。1949年には、共産党に大陸から追われた国民政府が本拠地を台湾省に移し、捲土重来を図った。反共政策を取る米国の支援のもと、中華人民共和国(中国)との戦闘(台湾海峡危機)を経て、金門島などの大陸に近い島嶼も含め実効支配を固めた。蒋介石とその息子蒋経国の独裁体制が続くなか、重工業化とベトナム戦争の軍需景気で経済は高度成長した。

 経済の成長に伴い民主化運動も盛んとなった。1979年の美麗島事件、1984年の江南事件などを経過し、1996年の初の総選挙で李登輝(本稿執筆中の7月30日に97歳で逝去)が総統に選出され、民主化による「台湾省から台湾への独立」を唱えた。続く陳水扁(民進党、親米、独立派)も台湾の独立路線をとった。その後は、親中・統合派の国民党と民進党が政権を競い合う展開となっている。2020年の選挙では、中国による香港抑圧で台湾独立の危機感が刺激され、民進党の蔡英文が総統として再選された。今回のWARS流行への対応は迅速かつ有効で、政権の統治能力の高さが評価されている。

 台湾の人口は2500万人、GDPは60兆円(日本の12%)、軍事費は1.2兆円(GDPの2%、日本の25%)、国土は日本の10%である。しかし中国と比べれば、人口は2%、GDPは4%、軍事費は4%、国土は0.3%に過ぎない。国際的にも、1971年には国際連合の代表権を中国に譲り脱退させられた。台湾を国家承認しているのは15か国(いずれも小国)だけである。国名も中華民国、台湾、中華台北などと定まらず、競技表彰会では国旗の代わりに梅花旗が掲揚される。WARSの流行の際して、台湾はWHOの会議の参加すら許されていないことが知れ渡った。

 台湾の国民は、混血とはいえ遺伝的には大陸の中国人と近いだろう。言語も中国語である。中国とは幅150キロの海峡を隔てるだけで、経済的にも大きく依存している。中国との統合を支持する住民もかなりいる。中国にとっては、体面からも戦略上も台湾は極めて重要な島である。当然ながら中国は、台湾を自国の領土と主張し、政治的・軍事的な謀略と恫喝を続けている。このような不安定な国際的立場や中共帝国からの圧迫の中で、自由、民主制、人権、法治を尊ぶ社会を形成し、中国とはまったく別の路線を進んでいる。朝鮮が反日を国是とするように、台湾は反中、中国からの独立を国是としている。

 実効独立が可能なのは、まずは海の持つ絶縁力である。地続きの中国奥地や香港では、侵入を防ぐことは容易ではない。しかし何よりも、米国の意向が大きい。米国は、第二次世界大戦後は反共政策で台湾にある中華民国を支援したが、1970年代の米中国交回復後は中国重視に転換し台湾を軽視した。それでも、米国は事実上の軍事同盟である台湾関係法を制定し、中国を牽制し続けている。しかし日本は、台湾とは政府間の正式な国交がないばかりか(非政府組織による連絡だけ)、米国の台湾関係法に該当する法律もなく、公式に安全保障上の共同体制を組めないでいる。

 わが国と台湾は、島国の気風を基に、自由、民主主義、法治の価値観を共有している。地政学的にも、海路の確保や中国海軍への抑止力の点で運命共同体である。何よりも、50年間も同じ国の国民であったという歴史があり、互いに最大の親日国・親台国である。また台湾は中共帝国の怖さを知悉しており、情報源としても信頼度からもかけ替えのない同朋である。しかし、その朋友の立つ所は、上記のように極めて脆い。WARS流行で米中対立が顕在化した今こそ、日本は台湾の国益擁立に積極的に関与すべきである。中共に屈しない台湾の存在は、日帝の暴政という虚偽に対する反証にもなる。

 時の徳川氏が鄭成功に援軍を出さなかったのは、17世紀の情勢からは正しかったのだろう。しかし、21世紀の日本政府は、情勢を見ないまま安逸に前例を踏襲するという愚を犯してはならない。味方を見放せば、自らの信を失うことになる。

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