ぱれお・はぺとろじー
古代の爬虫類・両生類についてのあれこれ




さて,前回はスクレロケファルスという両生類の属内の分類について簡単にまとめたわけである。

ざっくり言うと,「スクレロケファルス」という属自体が有効なのか微妙であるものの,現状としてドイツ産のスクレロケファルス属は暫定的に4種に分けられているという話だった。

(詳しくは前回記事を読んでほしい。むしろ前回記事と合わせて読むことを推奨します。)


今回は,これを生かして,自分の写真フォルダにあるSclerocephalus sp.を同定してみるという遊び(?)をやってみたいと思う。

 

では,さっそく「ダイノワールド2015 ヨコハマ恐竜博」にいたこの子から行ってみよう。

よく見ると(よく見なくても)群馬の個体と同じように後頭部の縁がへこんでいるではないか!

頭骨の縫合線とかが見えないので,細かいところはよくわからないが,頭骨の概形などの特徴もSclerocephalus hauseriのそれらと矛盾していないように見える。

これらのことから,この子はSclerocephalus hauseriだと考えられる。

(あくまで自分の個人的な意見ではあるが)

 

続いては上野の国立科学博物館の「生命大躍進展」にいたこの子。

(たぶん普段は科博の筑波研究施設にいる子だと思う)

この子は明らかに1 mより大きいので,おそらくSclerocephalus hauseriかSclerocephalus nobiliのどっちかであろうということが推測できる。

群馬のhauseri君と比べると頭骨後縁のへこみはだいぶ控えめな印象を受ける。

さらに眼窩も小さく,左右の眼窩同士の間隔も広め(ヨコハマの子と比べると一目瞭然!)であり,これらの特徴を考えると,この子はSclerocephalus nobiliに属するようだ

 

本当の本当にちゃんとした種を決めるためには,産出した層準がわからないといけないので,この「同定」はあくまでも暫定的なものである。

しかし,見るポイントがわかると標本を見る楽しさというのは増すと思うので,皆さんも身近で"Sclerocephalus sp."を見かけたら,こんな感じで同定を試みてみると面白いのではないでしょうか。

 

参考文献

(1)  RAINER R. SCHOCH and FLORIAN WITZMANN (2009) “Osteology and relationships of the temnospondyl genus Sclerocephalus”, Zoological Journal of the Linnean Society, 2009, 157, 135–168

(2)  Jozef Klembara and J. Sébastien Steyer (2012) “A New Species of Sclerocephalus (Temnospondyli: Stereospondylomorpha) from the Early Permian of the Boskovice Basin (Czech Republic)”, Journal of Paleontology, 86(2):302-310.

(3)  ジェニファ・クラック・著 松井孝典・監修 真鍋真・校定 池田比佐子・訳 (2000)「手足を持った魚たち」講談社現代新書

 

 



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どうも,とよけらです。

記念すべき初投稿ですが,しょっぱなからマニアックなやつを選ばせていただきました(笑)


 

(↑「ダイノワールド2015 ヨコハマ恐竜博」に展示されていたスクレロケファルス)


このスクレロケファルスというやつは結構あっちこっちの博物館や展示会で見かける化石両生類であるが,種不明として展示されているものが多い気がする。

一体スクレロケファルス属内にはどんな種のやつがいるのだろうか?日本国内で種不明として展示されている(いた)ものをもう少し細かいところまで絞るための手掛かりは得られないのか?

個人的に気になっていたので,ちょっと調べてみたのである。

 

スクレロケファルスは分椎類に属する両生類の1つである。

主要な化石はドイツのSaar-Nahe盆地の石炭紀後期からペルム紀前期の地層より産出している。

赤ちゃんから大人まで100体以上の化石が見つかっているということで,いろんなところで標本が展示されているのもうなずける。

 

SCHOCH and WITZMANN (2009)の論文では,形態的特徴などに基づいてドイツ産のスクレロケファルス属内に次の4つの種を認識している。

1. Sclerocephalus haeuseri

大型(1メートル越え)

鱗状骨が狭い

頭骨の概形は幅広い放物線型である

涙骨の前方が縮小する

後頭頂骨のフランジが広範囲に張り出し,頭骨の後縁は深くへこむ(下図の矢印のところのへこみ。国内で展示されている標本は種不明にされているものが多い中,この群馬の標本は一応種まで同定されている)

 

 

2. Sclerocephalus bavaricus

左右の鼻孔間の距離が短い

竜骨状の辺縁歯

 

3. Sclerocephalus jogischneideri

基翼状部は十分に骨化するが,副蝶形骨とは癒合しない

眼窩は比較的小さく,間の距離は中程度

 

4. Sclerocephalus nobili

大型(1メートル越え)

左右の眼窩の間の距離が広い

眼窩は小さく,長さより幅のほうが大きい

主上顎骨の内側に涙骨に湾入する張り出しがある

鼻孔が大きく頭骨の縁に近い位置にある

外皮の装飾は非連続的

恥坐骨が前方に広がる

 

こちらのサイトのFig. 6で各種の頭骨の図が閲覧できるので,参照していただきたい)

 

後は2012年にチェコ共和国から間鎖骨が広いなどの特徴を持つSclerocephalus stambergiというやつが見つかっているのだが,日本で見かけるのはドイツ産の物がメインになると思うので,この4つについて少し詳しく記述させてもらった。

 

前述のSCHOCH and WITZMANN (2009)の論文では,これら4種+エリオプスとかの近縁な両生類について,54個の形質を利用した系統解析を行っている。

その結果によれば,この4種は下図のような系統関係になっており,「スクレロケファルスという属は強く支持されるクレードを形成しているわけではない」と書いてある。

さらに言えば,Sclerocephalus stambergiはその記載論文の中において,この4つと全く違う枝に入れられていたりする。

この辺は,さらなる研究の進展に期待といったところであろうか?

(54って恐竜なんかの系統解析と比べるとずいぶん少ないデータ数な気がするので,解析対象にする形質の数をもっと増やすとかすれば,何か面白いことが分かったりしないかしらん?)

また新しいことが分かったら,書きたいところである。

 

これで「スクレロケファルス属」内の種を同定するためのヒントはだいぶ得られた感じがするので,次回は,実際に自分が博物館等で見た"Sclerocephalus sp"がどの種にあたるのか,わかる範囲で同定してみたいと思う。

(現状「スクレロケファルス属」というのはあくまでも暫定的なものという感じだから,そのようなことをするのは,完全な自己満足に過ぎないかもしれないが,わからないものが分かるようになるのは楽しいので,とりあえずやってみることにします)

 

参考文献

(1)  RAINER R. SCHOCH and FLORIAN WITZMANN (2009) “Osteology and relationships of the temnospondyl genus Sclerocephalus”, Zoological Journal of the Linnean Society, 2009, 157, 135–168

(2)  Jozef Klembara and J. Sébastien Steyer (2012) “A New Species of Sclerocephalus (Temnospondyli: Stereospondylomorpha) from the Early Permian of the Boskovice Basin (Czech Republic)”, Journal of Paleontology, 86(2):302-310.

(3)  ジェニファ・クラック・著 松井孝典・監修 真鍋真・校定 池田比佐子・訳 (2000)「手足を持った魚たち」講談社現代新書

 



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どうも,とよけらとぷすです。

最近,恐竜以外の絶滅した爬虫類・両生類について興味を持って調べる機会が増えたので,それを発信する場を作りたいと考え,ブログを開設させていただきました。

絶滅した爬虫類・両生類について,自分が「面白い」と感じたことを紹介していきたいと思います。

ひとまずは「最新の情報を発信しよう」といきむことなく,緩くまじめにやっていくつもりです。

更新はマイペースになると思いますが,3億年以上を生き抜いてきた爬虫類・両生類のように,長く続けていけるブログを目指していきたいと考えています。

ご興味ある方はお付き合いいただけますと幸いです。

また,学術的な間違い等,気になる点がございましたら,お気軽にコメントください。

よろしくお願いします。

 

 



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