ぱれお・はぺとろじー

古代の爬虫類・両生類についてのあれこれ

南の島の旧石器時代人はカメがお好き?

2023-12-17 10:21:21 | カメ類

沖縄県で見つかった旧石器時代人「港川人」の復元模型。国立科学博物館の展示から。

 

旧石器時代は人間の歴史の最初を飾る記念すべき時代である。

我々ホモ・サピエンス以外の人類がいた期間も含むこの非常に長い時代の間、人々は主に動物を狩り、生活していたとされている。

「旧石器時代の人々の活動が他の動物たちにどんな影響を及ぼしていたのか?」というのは、当時の人間の生活・動物たちの生き方、どちらを理解する上でもとても興味深いテーマだ。

ところが、日本ではこの問いに対する情報を得られる機会が著しく限られている。

骨の保存に不向きな火山灰からなる酸性の土壌に覆われている場所が大半だからである。

 

そんな中、このテーマに関する情報を得られる数少ないフィールドが存在するのが、骨の保存に適した石灰岩に覆われた大地を持つ沖縄だ。

このような沖縄の旧石器時代の遺跡で特に有名なのは港川フィッシャー遺跡であろう。

ここから見つかった人骨は、東アジアの旧石器時代のものとしては、有数の保存状態で、この地域の人類史を理解するうえで欠かせない資料となっている。

 

さて、この港川フィッシャー遺跡からは人間以外の様々な動物の骨も見つかっており、その中には爬虫類の骨も含まれる。

ここから見つかる爬虫類の骨の中でも、人間との関わりを考察するうえで特に興味深いのが、カメのものである。

 

港川フィッシャー遺跡からは下記の4種類のカメが見つかっている。

 

オオヤマリクガメManouria oyamai(絶滅種)

リュウキュウヤマガメ Geoemyda japonica

セマルハコガメ属の一種 Cuora sp

イシガメ科の一種 Geoemydidae sp

 

↑現生のセマルハコガメ。国立科学博物館の展示から。

 

この遺跡の堆積物を下から順に9つの区間に区切り、それぞれの区間から出てくるカメの化石の数を調べてみると以下の表のようになる。

 

表:港川フィッシャー遺跡の各区間から産出するカメの化石の数(参考文献1より改変)。番号が小さくなるほど時代が新しくなる。

 

特に注目していただきたいのが各区間から産出したカメ化石の合計数である。

赤の線をひいた6と7の区間を境に大きくカメの数が減っていることがお分かりいただけることと思う。

興味深いことに、このカメ化石の数の減少パターンは,人間の狩猟対象になったと思われるシカ類の産出状況の変化とも似ているのである。

解体痕等の直接証拠は確認できていないが、このデータは旧石器人からカメに対する捕食圧があった可能性を示唆している、と言えるだろう。

 

実は、ここで取り上げた更新世の終わりの頃、大きめの陸生の動物たちが絶滅するという現象が世界各地で起きていることが知られている。

この現象が、人間の影響によるものなのか、非人為的な変化によるものなのかは、議論があるが、いずれにせよ「人間はいつから自然環境に大きな影響を与えるようになったのか?」という現代の環境問題にもつながる大きな問いに答えるうえで重要なところだ。

今回取り上げたような日本の化石もこの大きな問いの解明に貢献できる部分があると思われる。

この記事を読まれている皆さんにも、この辺りの時代の日本の化石に興味を持って色々考えていただけると嬉しい限りである。

 

参考文献

1.  髙橋亮雄、池田忠広、真鍋 真、長谷川善和「沖縄島の更新世港川人遺跡から発見された淡水生および陸生カメ類化石」群馬県立自然史博物館研究報告(22): 51-58, 2018

2.  山崎真治「シリーズ「遺跡を学ぶ」104 島に生きた旧石器時代人 沖縄の洞穴遺跡と人骨化石」新泉社