ぱれお・はぺとろじー
古代の爬虫類・両生類についてのあれこれ




オオアタマガメのはく製。大阪市立自然史博物館「大地のハンター展」の展示から。

 

 

甲羅があり、その中に頭や手足をひっこめられるというのは、他の脊椎動物では中々お目にかかれないカメのユニークな特徴の一つであろう。

ところがカメの中にも時々そんな「カメらしさ」を捨てた変わり者が現れる。

その一つがオオアタマガメだ。

現在中国南部から東南アジアにかけて分布しているこのカメは、頭が大きすぎて甲羅の中に頭をひっこめられないし、甲羅もそれほど発達していない。

 

そんなちょっと風変わりなカメのものと考えられる化石が日本の大分県で見つかっていることを皆さんはご存じだろうか?

 

津房川層という大分県に分布する鮮新世の時代に堆積した地層から見つかった頭頂骨(頭骨の天井の後ろの方を形作る骨)の化石がそれである。

 

・・・と聞くと皆さんは、「どうして頭頂骨1つだけでオオアタマガメのものであるとわかるのか?」と疑問に思われるかもしれない。

少し解説しよう。

 

端的に言えば、一般的なカメの頭頂骨に見られる湾入(図1)がないというのがポイントである。

 

(図1)一般的なカメの例。姫路市立水族館に展示されているナイルスッポンの頭骨。後頭部に湾入があることがはっきりとわかる(丸で囲んだところ)。

 

鮮新世にいてもおかしくないカメでこの湾入が目立たないものは下記の3グループに限られる。

 

1 ウミガメ上科の仲間

2 ヨコクビガメ科の仲間

3 オオアタマガメ科の仲間

※念のため言っておくと、たまたま湾入がないという特徴が共通しているだけで、これらの3グループがは互いに特別近縁というわけではない。

 

(図2)ウミガメ上科のアカウミガメの頭骨。これも姫路市立水族館の展示から。展示の仕方の関係で図1のナイルスッポンと少し違う角度(後方)から見ている。後頭部にナイルスッポンで見られるような深い湾入がないことがよく分かる。

 

化石が産出したのは淡水で堆積した地層なので1のウミガメ上科の仲間であるという可能性は考えにくい。

また、2のヨコクビガメ科の仲間であれば、頭頂骨に特徴的な溝が見られるはずだが、この標本にはそれが見られない。

というわけで、これは3のオオアタマガメ科の仲間の化石と見るのが妥当だろうというわけである。

この地層から現在オオアタマガメと同じ地域に住んでいるほかの淡水生カメの化石が見つかっていることもこの見方を裏付けている。

 

この論文の中では、確実なオオアタマガメの仲間の化石記録と言えるものは、これが世界で初めてとされている。

(カザフスタンのもっと古い時代の地層から見つかっているプラニプラストロン Planiplastron というカメをオオアタマガメの仲間とする説もあるが、それに対しては否定的な見解を示している。)

 

論文の発表から20年以上経つので、今ではオオアタマガメ科の仲間の化石記録ももう少し増えているかもしれないが、この大分県産の化石が世界的に見ても貴重な発見であることは間違いないであろう。

 

*****

 

今回紹介したネタは滋賀県立琵琶湖博物館に足を運んだ際にたまたま購入した調査報告書で見つけたものである。

こんな風に現地の博物館に行ってみると、あまりネット上には情報が出ていないけど興味深いネタが見つかることも良くある。

皆様にも時には博物館に足を運んでネットに出ていないような情報にも注目してみることをオススメしたい。

 

参考文献

平山廉 「大分県安心院町の津房川層(鮮新統)より産出した化石カメ類」 琵琶湖博物館研究調査報告 第18号 79~96ページ 2001年

平山廉 「カメのきた道」 NHKブックス



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