先日,科学技術館で行われた「博物ふぇすてぃばる」に行ってきたのである。
3年ぶりくらいに行ったのだが,会場が広くなっていたりしていて,以前にも増して充実した印象を受けた。深海生物や放散虫,ブラックホールなんかに関する講演も非常に面白く,楽しませていただいた。
(その辺の話はツイッターにまとめさせていただいたので,興味ある人は参考にされたし)
さて,そんな「博物ふぇすてぃばる」でふぉっしるさんのブースに立ち寄ったところ,こんな面白い化石を見つけて購入することができた。

この椎骨は「サメの歯10個で100円」のコーナーで見つけて購入したものである。
暁新世の(産地は明記されていなかったが,おそらくモロッコ産であろう)サメの歯を中心にした化石が大量に入った箱があり,そこから適当に好きなものを10個選んで持っていくというスタイルだったのだが,「まだ早い時間なのでエイの歯とか背骨とか,レアものも入っていますよ!」とお店の方に言われ,ちょっと探してみたら見つかったのである。
「大判焼き」みたいな形をしているサメの背骨とは形が違うので,パッと見でサメじゃないということはよくわかった。

(↑松戸市立博物館の展示より。中央下にメジロザメの椎骨がある。)
最初拾い上げた時は硬骨魚類かと思ったのだが,手元にある本で硬骨魚類の骨を見てもみても,なかなか似たようなやつは見つからず,どうも硬骨魚類の背骨には似ていないような気がしてきた。
正体がよくわからなかったので,ツイッターに写真を投稿したところ,複数のフォロワーさんから「パレオフィス」という古代ウミヘビではないかというご指摘をいただいた。
(ご協力くださったフォロワーの皆様,ありがとうございました!)
実際に論文の写真でも,これと非常によく似たものを見つけることができた。
ごく近縁な種類(パレオフィス亜科に属する別のヘビ)のもので,正確にはパレオフィスそのものではないのだが,こちらの論文のFIG. 2 (d)とか自分が購入した化石の背面観(下の写真)にそっくりである。

と,言うわけで,せっかく私の前に姿を現してくれたので,ちょっと紙幅を割いて,パレオフィスについて書いてみたいと思う。
パレオフィスはヨーロッパ・アフリカ北部・北アメリカの白亜紀から新生代始新世の地層よりみつかる海洋に生息したヘビであり,パレオフィス科パレオフィス亜科に分類される(そのまんまだが)。
基本的に背骨と肋骨ばっかりらしいが,割と化石はよく見つかるもののようだ。
パレオフィス属内には,様々な種が認識されており,アオダイショウとかシマヘビみたいな普通のヘビのサイズから10メートルに迫るような大物まで,様々な大きさのものが知られている。
現生のヘビたちとの類縁関係については,はっきりとはわかっていないようだ。
少し古い本(参考文献(2))を見ると,椎骨の形がボアに似ているという記述があるのだが,形態と遺伝子等の分子データを合わせて検討したLee et al. (2007)の研究によれば,ボアはヘビの中でも割と派生的な位置にいるそうなので,そんな古い年代のヘビがボアと非常に近い系統位置にいるのかといわれると微妙な気はする。
頭骨の1つや2つ見つかればもう少しいろいろ言えるのかもしれないが,今のところ頭骨は見つかっていないようだ。
(と思ったら,プラニー商会さんのホームページに頭骨付のパレオフィスの産状レプリカ的なものがあった。プライベートコレクションに入っているもので,頭骨まできれいに保存されているものがあるのだろうか?)
同じパレオフィス科でも,アーケオフィス亜科というグループのものについては,頭骨が見つかっているらしいので,復元図を描きたいという方は,それを参考にするといいかもしれない。
分類がこの調子だと,生態は益々わけがわからないわけであるが,とりあえず椎骨が側偏しており,水を掻きやすい体になっていて,水棲生活に適応していたことは確かなようだ。
また,HOUSSAYE et al. (2013)の骨組織学的な分析によると,普通のヘビに比べて骨の内部に血管が多くとおっており,代謝が高かったことが示唆されるらしい。
私が手に入れた化石は前面に欠けている部分があって,そこから内部の構造が少し見えるのだが,なるほど,確かに写真矢印部分あたり,血管がたくさん通っていそうな感じがする。
(ちょっとぼやけててすみません・・・)

彼らが栄えた時代というのは,海生哺乳類がまだ出てきていない時代である。
(鯨類が始新世に登場し始めたところで,鰭脚類の出現は漸新世まで待たねばならない)
現代の海で海生哺乳類が占めているようなニッチの一部を彼らが占めていたのだろうか?
いろいろと想像が膨らむところである。
参考文献
(1) Cyril Walker and David Ward (2000) “DORING KINDERSLEY HANDBOOKS FOSSILS”, DORING KINDERSLEY
(2) 松井正文・執筆 内田亨,山田真弓・監修(1992)「動物系統分類学9(下B2) 脊椎動物(Ⅱb2) 爬虫類Ⅱ」中山書店
(3) ALEXANDRA HOUSSAYE et al. (2013) “NEW HIGHLIGHTS ABOUT THE ENIGMATIC MARINE SNAKE PALAEOPHIS MAGHREBIANUS (PALAEOPHIIDAE; PALAEOPHIINAE) FROM THE YPRESIAN (LOWER EOCENE) PHOSPHATES OF MOROCCO”, Palaeontology, Vol. 56, Part 3, 2013, pp. 647–661
(4) Jean-Claude RAGE et al. (2003) “Early Eocene snakes from Kutch, Western India, with a review of the Palaeophiidae”, GEODIVERSITAS・2003・25 (4), pp. 695-716
(5) Michael S. Y. Lee et al. (2007) ” Phylogeny of snakes (Serpentes): combining morphological and molecular data in likelihood, Bayesian and parsimony analyses”, Systematics and Biodiversity 5 (4): 371–389
(6) “Paleophis virginianus” at Fossilworks
Special thanks
ラクティアさん
恐山竜美さん