ぱれお・はぺとろじー

古代の爬虫類・両生類についてのあれこれ

翼竜は鳥に負けていなかったかもしれないという話(後編)

2021-09-20 19:30:37 | 翼竜

前回は、白亜紀の最後の最後まで翼竜は鳥に押されることなく多様性を維持していたらしいという話を紹介させてもらった。

今回はもう少し違う角度から「鳥に追われた翼竜説」に一石を投じた研究を紹介したいと思う。

 

(2) 翼竜と鳥は生態系の中で異なる役割を担っていた?

 

ネタ元:Chan NR. (2017) Morphospaces of functionally analogous traits show ecological separation between birds and pterosaurs. Proc. R. Soc. B 284: 20171556. http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2017.1556

 

ざっくりまとめると、翼竜と中生代の鳥では運動様式や食性に違いがあり、両者は生態系の中で違う役割を担っていたのではないかという話。

 

この研究でやっていることは簡単に言うと、翼、顎、そして後肢のパーツの長さの比較なのであるが、翼の比較についてちょっとした工夫をしているところがポイントである。

子供の頃から恐竜図鑑が愛読書の皆様には周知の事実かもしれないが、翼竜と鳥では翼のプロポーションが大きく違っている。(図1)

 

(図1)翼竜の翼と鳥の翼

左:翼竜のアンハングエラ(国立科学博物館2015年開催の「大アマゾン展」にて撮影)

右:鳥類のカワラバト(2019年いきもにあ「かえるの骨 とりの骨」さんのブースにて撮影)

 

つまり、鳥と翼竜で単純に同じ名前の骨同士の長さを比べるのはあまり意味のある比較とは言えないのである。

 

そこで、この研究では翼の中で同じ役割を担っていると考えられるブロックに分けて考えることで、公平な比較を試みている。(図2)

鳥の翼の遠位部は骨だけでなく風切羽も含めて考えるのがポイントである。

 

(図2)この研究で提案されている翼の区分け方法

 

実際に翼竜と中生代の鳥類で翼の各ブロックの長さを調べ、得られたデータに対して統計的な処理を施してあげると、翼竜は同じサイズの中生代の鳥類と比べて上腕部が短い傾向が見られるという。

 

また、翼以外の顎や後肢のパーツの長さについても調べ、翼竜は同じサイズの中生代の鳥類と比べて顎が長く中足骨が短いという傾向を認識している。

 

では、これらの違いが示唆するものは何なのであろうか?

 

まず、翼と中足骨の長さの違いは両者の運動様式の違いを示していると考えられる。

鳥類は地上では二足歩行でその姿勢から飛び立つ一方、翼竜は地上では四足歩行でその姿勢から飛び立ったとされており(これは足跡化石の研究から分かっている)、この違いが翼や足のプロポーションの違いとして表れているものと推察できる。

 

また、顎の長さの違いは食性の違いを反映していると考えられる。

形と生態は必ずしも1対1対応ではないが、くちばしの形によって食べるものが変わるというのは現生鳥類でも良く知られている話だ。

 

つまり、ここで得られたデータとその解析結果は、翼竜と中生代の鳥類では「運動様式」と「食性」という生態と非常に関連の深いファクターが互いに異なっていたことを示唆している。

ここから考えると、両者は生態系の中で同じ資源をめぐって競合していたというよりは、お互い違う役割を担っていたと考えるほうが自然なのではないか。

これがこの論文の主張するところである。

 

*****

 

私も今まで何度かツイッターでしてきた話であるし、(2)の論文でも言及されていることであるが、現在知られている翼竜の化石記録には非常に大きなバイアスがかかっている。

翼竜はそもそも骨が脆く化石に残りにくいというのもあるが、人間によって採集される化石が大きくて目立つものに偏りがちであるという点も見逃せない。

今後小さく断片的な化石にも関心を持って調べる人が増え、翼竜の進化の歴史について新たな事実が明らかになることを一介の翼竜ファンとして楽しみにしたいところである。

 


翼竜は鳥に負けていなかったかもしれないという話(前編)

2021-09-14 19:52:09 | 翼竜

最も有名な翼竜の一つであるプテラノドン。後期白亜紀には翼竜は鳥類に押され気味で、このような大きなサイズの

ものしか繫栄できなかったという説もあるが果たして・・・?

(大阪市立自然史博物館にて撮影)

 

中生代の空を支配した翼竜。

その不思議な姿は多くの人を魅了してやまない。

そして、「彼らがなぜ絶滅したのか?」という話もまた、たまらなく魅力的なテーマである。

この問いに対して昔から言われてきた"回答"の一つが、中生代の中頃に出てきた新しいタイプの飛行動物である鳥に翼竜が

取って代わられたというものだ。

なるほど、「新しいタイプのものが古いタイプのものに取って代わる」というのは人間の歴史でもよくあることだし、

分かりやすい考え方ではある。

だが、事実はそこまで単純ではないのかもしれない。

近年この見方に疑問を呈するような面白い研究成果がいくつか発表されており、ここではその中から特に私が興味深いと

思った2件を紹介させていただく。

 

(1) 中生代の最後まで翼竜の多様性は下がらなかった

 

ネタ元:Longrich NR, Martill DM, Andres B (2018) Late Maastrichtian pterosaurs from North Africa and

mass extinction of Pterosauria at the Cretaceous-Paleogene boundary. PLoS Biol 16(3): e2001663.

https://doi.org/10.1371/journal.pbio.2001663

 

これまで白亜紀の最後の時代であるマーストリヒチアンの後半の地層からは、比較的身体の大きなアズダルコ科の翼竜

(ケツァルコアトルスの仲間)の化石しか見つかっていなかった。

これは鳥などとの競合に負けて翼竜の多様性が白亜紀末の巨大隕石衝突前から下がった結果とも解釈されてきたが、

本当にそうなのだろうか?

ちゃんと調べられていないだけで、実はこの時代の地層にももっといろいろな種類の翼竜が眠っているのではないか?

そこで、モロッコの白亜紀最末期(マーストリヒチアン後期)の地層から産出する化石を少し丁寧に調べてみました

というのが、この研究なのである。

 

結果、驚くべきことに当時この場所に下記のような3科7種もの翼竜がいたことが明らかとなった。

 

プテラノドン科

・Tethydraco regalis(新属新種)

 

ニクトサウルス科

・Alcione elainus(新属新種)

・Simurghia robusta(新属新種)

・Barbaridactylus grandis(新属新種)

 

アズダルコ科

・Phosphatodraco mauritanicus

・ケツァルコアトルス属の1種(?)

・属種不詳のアズダルコ科翼竜

 

翼竜は鳥との競合に負けて少しずつ衰退していったわけではなく、彼らの絶滅は巨大隕石衝突事件によって急激に起こり、

その後の新生代になって現生種につながるような新しいタイプの鳥類の多様化が起きた。

この研究の結果はそんなシナリオを支持しているように見える。

 

(後編に続く)