東葛人的視点

ITを中心にインダストリーをウォッチ

米本社の決算を減額修正に追い込んだ日本IBMの“不正行為”の意味

2005-02-25 18:36:51 | ITビジネス
 米IBMが、日本IBMの一部社員の「不適切な行為」を理由に、2004年の売上高を減額修正する----このダウ・ジョーンズの報道が日本のIT業界で大きな波紋を呼んでいる。日本IBMも本日の決算発表でこの事実を認めたが、業界ではちょうどメディア・リンクスの粉飾決算事件に機に、いわゆる「口座貸し」が問題になっている時期だけに、最初は「IBMよ、お前もか」とちょっと驚いてしまった。

 しかし、ITサービス業界の口座貸しとは、どうもレベルが違うようだ。今回の“事件”は、日本IBMのグローバル・サービス部門の社員(人数は不明)が、同社のBCG(ビジネス・コンダクト・ガイドライン)などに違反して、本来売上として計上してはいけない他社製ハードの代金を売上として計上したというものだ。2億6000万ドルの減額というから、かなりの額だ。

 ここで問題になったのは、「他社から100円で仕入れたものを105円で売った。その際、105円を売上として計上した」ということらしい。問題のハードはソリューションの一部として、顧客に提供されたものであるにも関わらず、IBMの売上計上基準では「5円を(手数料として)売上計上しなければならない」という。表面的には、口座貸しの話によく似ている。本来は手数料だけ計上すべきところを、製品価格をそのまま売上として計上する“手口”は、口座貸しで売り上げを膨らませるのと同じだ。

 しかし口座貸しの場合は、伝票上に介在するだけだから、口銭、つまり手数料だけを売上に計上するのが筋だ。しかし日本IBMのケースでは、顧客にソリューションの一部として提供しているのだから、実際の取引に介在しているし、介在する理由も明確だ。こうしたケースでは、日本のシステム・インテグレータなら100%売上に計上するはずだし、計上することに問題があるとも思えない。実際、ちょっと大手のシステム・インテグレータなら、ユーザーからパソコン調達を頼まれることが多いが、パソコン代金は全額売上に計上しているはずだ。

 つまりIBMは、とてつもなく保守的な会計基準を採用しているといえる。会計は保守的であればあるほどよいのだが、その基準を守らなければ意味がない。株主や投資家に対する背信行為になる。今回の“事件”はそうした性質のものだ。一方、日本IT業界、特にITサービス業界は、こうした会計基準がルーズすぎる。口座貸し自体は必ずしも悪ではないが、少なくとも売上を水膨れさせるようなことは慎まなければならない。それにしても、取引に対する監査が厳しいことで知られるIBMの社員ですら、売上の水増しに走る。利益や利益率重視の方向に社員を意識付けるのは、かくも難しいことなのだろうか。

スクラップ・グリッドという発想が面白い

2005-02-23 21:59:37 | ITビジネス
 企業などから廃棄されるパソコンのコンピューティング・パワーを合計すると、いったいどれくらいになるのだろうか。正確には分からないが、膨大な量になるだろう。廃棄される個々のパソコン自体は減価償却を終え、能力面でももはや不十分なため、リサイクルして再資源化するのを躊躇する理由はない。しかし、コンピューティング・パワーとして抽象化して合算してみると、何かもったいないような気がする。

 この本来スクラップ化されるはずのコンピューティング・パワーを有効活用しようという話を、あるITベンダーの経営者から聞いた。どういうことかというと、企業から廃棄されたパソコンのマザーボードを1000台、2000台と集めて、グリッドコンピューティングをやろうというものだ。もともと廃棄されるパソコンだから初期コストは極めて安価。冗長度を高めにしておけば、個々のマザーボードが多少クラッシュしても、ノープロブレムだ。いかに全体をコンパクトなきょう体に納めるかが課題だが、極めて安価なコストで膨大なコンピューティング・パワーを活用することができそうだ。

 現在、開発中でまもなく完成できるそうだ。いわば“スクラップ・グリッド”。面白いアイデアだと思う。使用済みの携帯電話などを大量に集めて、回路に使われている金など希少金属を取り出すビジネスを“都市鉱山”というらしい。都会から金を掘り出すというコロンブスの卵みたいなビジネスだが、スクラップ化されるパソコンからスーパーコンピュータ並のコンピューティング・パワーを取り出すという発想も、なかなかいい線をいっているような気がする。

閑話休題「いまどき、パソコンしか使えないなんて」

2005-02-20 12:15:31 | ITビジネス
 最近、新聞の景気に関する記事を読んでいると、景気の足踏みの原因として「IT関連の落ち込み」というのが必ず取り上げられている。ところが、このIT関連は昔のITではない。ここでいうITとは携帯電話関連だったり、主にテレビ受像機に使うプラズマ/液晶パネルだったりする。今や、パソコンやSIサービスなどはITの主役の座を、こうした携帯電話/デジタル家電などに譲りつつある。いわゆるITのユビキタス・シフトである。

 ところで私は、ITではパソコンぐらいしか使いこなせない。DVDレコーダーなどいまどきのITはちんぷんかんぷんである。少し前ならITリテラシーはパソコン・リテラシーとイコールであった。パソコンに拒否反応を示すオジサンたちは、「いまどき、パソコンを使えないなんて」と若い連中から陰口をたたかれたものだった。ところが最近では、新しいIT機器を使いこなせないと「いまどき、パソコンしか使えないなんて」とバカにされそうな状況である。

 個人なら、まあそれでもよいだろう。私もそんなことを言われたら「うるせー、大きなお世話だ」で済ましてしまうだろう。しかしSIなどITサービスでは、それでは大変なことになる気がする。一刻も早くSIの範囲をいまどきのIT、つまりユビキタス領域にまで広げないと生き残るのは難しくなるだろう。いくらなんでも、お客さんに向かって「うるせー、大きなお世話だ」とは言えないはずだから。

米国で大ブームのEPM、「経営陣の日常業務」の視点で考えると面白い

2005-02-17 19:52:57 | ITビジネス
 米国では昨年に続き今年も、EPMが企業ITのキーワードになるらしい。EPMとはEnterprise Performance Management(企業パフォーマンス管理)の略称で、「経営情報(各種指標)をビジュアル化し分析する機能を提供することで、経営戦略や意思決定へのフィードバックを支援する」ものだそうだ。これだけ聞くと「BIと何が違うのか」「BIでも同じことを言ってたぞ」とツッコミを入れたくなるが、米国では既に8割の企業がEPMを導入済みか、導入を検討しているという。

 日本でも日立システムアンドサービスやSAS Institute JapanなどがEPMソリューションの提供を表明しており、今後続々と同様のソリューションが登場するだろう。とはいえ、EPMは“胡散臭い三文字ワード”だ。BIとの差異もよく分からない。まあ現実のBIが実績データをビジュアル化するツールに過ぎないのに対して、EPMはBIなども使いこなして経営管理を実現する、より大きなコンセプトと仕掛けといったところか。それにしても、日本のユーザー企業に受け入れられるのは難しいのでは…。

 いままでそう思ってきたのだが、あることに気付いてから日本のユーザー企業にも、提案次第で受け入られるかもしれないと思うようになった。あることとは「誰が使うのか」だ。EPMは経営情報システムであるから、経営陣であることは間違いない。だが、経営陣や経営という言葉ほど曖昧なものはない。だから経営陣がユーザーというだけでは、何のメッセージも伝わらない。

 EPMを使う人とは、実は執行役、あるいは執行役員と言われている人である。取締役ではなく、CEOを筆頭に業務執行に責任を持つ上級オフィサーたちである。しかも、彼らの日常業務を支援するための仕掛けがEPMである。経営=戦略と紋切り型に結びつけるから分からなくなるが、執行役には日常業務がある。つまり、経営戦略に基づいて執行する業務に責任を持ち、各種指標を常にモニタリングし、問題があれば即座に解決策を決定する。場合によっては経営会議に図り、戦略自体の修正を加える。EPMは、そうした執行役の日常業務に資する情報を提供するものである。

 これまで日本では、戦略決定などにコミットする取締役と執行役の機能分化が進んでおらず、経営情報といっても、実は何のことだか曖昧模糊としていた。しかし、最近では多くの企業で、執行役という経営機能の分化が進んでいる。従って、執行役の日常業務に必要な情報という観点でソリューションを考えれば、EPMのニーズを顕在化できる気がする。えっ、役員のリストラのために執行役員制度を設けた企業には、どう提案するのかって。それは、ちょっと…。

HPのフィオリーナCEO解任で思うこと

2005-02-14 20:10:17 | ITビジネス
 昨週末の大ニュースといえば、米HPのカーリー・フィオリーナCEOが事実上解任されたことだ。スター経営者といえども、このままでは株主や市場が期待する収益水準を達成できそうもないと判断すると、あさっさりとその地位を追う。いつものことながら、米国企業の取締役会の権限の大きさ、株主圧力の強さに驚かされる。

 さて、フィオリーナ時代のHPはどんな会社だったのだろうか。いろんなことが報道されてきたが、私にはイマイチよく分からない会社だった。よく分からないというのは、とってもブランド・イメージが混乱したという意味だ。PCやボリュームゾーンのPCサーバーは徹底的なコモディティ路線を貫き、ソリューション領域では高付加価値を志向する。この2つの路線を並行させたために、HPのブランド・イメージが拡散し、希薄になった印象を受ける。

 市場のリアリティからすれば、それぞれの事業で異なる路線を走るのは正しい。実際にコモディティと高付加価値の事業の両方を抱え、成功している企業も多数ある。しかしHPの場合、両方とも2番手だ。コモディティ領域ではデルを追いかけ、高付加価値領域ではIBMを目指す。その結果、HPのイメージはデルとIBMの間で拡散した。

 IBMがそうしたようにPC事業でも高付加価値を追求し(日本のメーカーはまだこれで頑張っている)、ダメなら売却する選択肢もあったはずだ。HPはかつて計測器部門を切り離したが、今のPC事業とソリューション事業の距離は、かつての計測器事業とコンピュータ事業の距離よりも大きい。当然、HPの新しいCEOはPC事業の売却の可否を真っ先に検討することになると思う。

 それに関して、面白い話がある。日本ではユーザー企業の引き合いが発売前から強いブレードPCだが、すでに出荷を開始した米国市場では鳴かず飛ばずだという。なぜか。“ブレードPCもPC”なので、PC部隊が売り歩いているからだ。これでは売れない。ブレードPCはコモディティ商品の部隊で売れるものではなく、サーバーと同じ部隊、もしくはソリューション部隊が売り込まなければ市場開拓は不可能だろう。

 それはともかく、HPはPC事業よりも先にスター経営者を放り出した。フィオリーナ氏の野心は政界に向かっているというから、2008年には世紀の大イベントが見れるかもしれない。民主党ヒラリー・クリントンvs共和党カーリー・フィオリーナ、史上初の女性同士の米国大統領選挙だ。そうなる確率は今のところ低いが、HPがIBMやデルを追い抜くよりも実現可能性はあるだろう。

驚くほど親日的なベトナム、ITサービスのオフショア拠点としての将来性は?

2005-02-08 20:47:27 | ITビジネス
 ベトナムをオフショアリングの拠点にしようという試みが本格化してきた。オフショア拠点としてベトナムに注目が集まり出したのは、確か2003年のことだ。最初にその話を聞いたときは「へぇ」と思ったが、今ではインド、中国に続く3番目の有力拠点として、すっかり定着した感じだ。もっとも実際にソフト開発拠点として機能するには、進出企業によるもうしばらくの試行錯誤を経なければならないだろうが…。

 ところで、ベトナムは本当に親日的な国だ。オフショア拠点としてベトナムの優位性が語られるとき、「日本人とよく似たメンタリティ」が引き合いに出される。インド人や中国人のようにドライではなく、ビジネスにおいても“ウェットな人間関係”が通用する国だとも聞く。しかも、ベトナムは民衆レベルだけでなく、国家レベルにおいても、ものすごく親日的だという。国連など国際会議での日本案に最も賛同してくれるのは、米国ではなくベトナムだそうだ。「共産主義国家」のイメージから意外な感もあるが、日本の外務省も戦略的に重要な国としてODAなどで手厚い援助をしているらしい。

 こうした親日的な土壌に加え、IT産業への期待が親日度をさらに大きくする。あるITサービス会社が現地企業と合弁でソフト開発会社を作ったとき、ベトナムの副首相が来賓に訪れ、「日本を兄のように思う」と言ってのけたという。ベトナムでは大学でIT関連の勉強をしても、就職先がなかなか見つからないとも聞く。そんなわけだから、ITサービス会社が現地法人を作ろうものなら、それこそ熱烈歓迎だ。特に、学生の将来を心配する大学の先生たちからは、とても感謝されるという。

 私も含め、日本人的メンタリティの人間は、こういう話に弱い。「そんなに喜んでもらえるなら」と、うれしくなり一気にベトナム傾斜を深めてしまう。「他の国と違い、あうんの呼吸でビジネスができそうだし、国づくりにも貢献できる。これからのオフショアリングはベトナムだ!」といった具合にだ。

 しかし、ちょっと待てよ、である。確か「これからのオフショアリングは中国だ」と言っていたときも、同じようなことが語られていたのではなかったのか? ドライでビジネスライクなインドでうまく行かず、次は共通の文化的土壌を持つ中国で、それでもダメなので今度は親日的でメンタリティのよく似たベトナムで…そんな文脈で“注目のオフショア拠点”が移動してきた感じがする。

 これでは、真のグローバル化とは程遠い。本来なら、最初は相互理解が浅くても、ビジネスライクに契約を詰め、明確な文書の形(もちろん英語)で発注条件を決め、曖昧さを完全に排除した取引関係を作る。そして、共に利益を得れるWin-Winの関係に発展させることで、相互理解を深めて、互いに大事なパートナーに成長していく。そんな当たり前のことさえできないようでは、グローバル企業にはなれっこないであろう。

 「ウェットな人間関係が通じる」などと言ってるようでは、日本国内の甘い取引関係を外国でも継続したいというクローズドな意識から抜け出せはしない。インド企業や中国企業の“こすっからさ”は国際ビジネスでは当然で、内向きな日本のITサービス会社がグローバル化するためのコーチングを受けているというぐらいに考えた方がよい。逆に、日本に親近感を持ち大きな期待をかけてくれているベトナムに対しては、単なるビジネス上の観点だけでなく、国際貢献の視点に立った取り組みも必要だろう。それが将来のビジネスに対する先行投資にもなるはずだ。

UFJ銀行の勘定系を失う日立の次の一歩は?

2005-02-06 22:24:59 | ITビジネス
 東京三菱銀行とUFJ銀行との経営統合に伴い、日立製作所がメガバンクの勘定系システムを失うことが確定したようだ。予想されていたこととはいえ、日立には厳しい結果だ。東京三菱銀行をの勘定系システムを担う日本IBMは、UFJ銀行との経営統合の発表の直前、昨年6月に大歳社長が東京三菱銀行の持ち株会社、三菱東京フィナンシャル・グループの社外取締役に就任するなど、磐石の体制で臨んでいた。経営統合の主導権が東京三菱銀行側にあることもあり、日立にとっては勝ち目のない戦いだったといえる。

 しかし、日立(とUFJ銀行)も随分、抵抗したと聞く。日立内部では、勘定系システムを失うのなら、新銀行との取引を打ち切るとの強硬論も聞こえてきていた。東京三菱銀行の店舗システムを担う富士通も加わり、様々な駆け引きが繰り広げられたようだ。

 日本経済新聞の2月5日付の夕刊によれば、結局、日立は新銀行の情報系システムを担うことになりそうだ。しかし、日立にとって大打撃であるのは間違いない。およそ、数年前まで都市銀行の勘定系システムの椅子取りゲームで、NECではなく日立が脱落することを想像できた人は、日立関係者以外でも皆無だったはずだ。

 これで日立のSIなどITサービス・ビジネスは、ほぼ展望を失ったと言えるだろう。日立のITサービスの顧客というと、日立グループの名前ばかりが目に付く。そんな中で、UFJ銀行はアウトソーシング事業も含めて、最も重要な顧客だったはずだ。今後、日立のITサービス・ビジネスはどうなるのだろうか。

 昨年の初夏に、日立はソフト/サービスの中でのSI(システム・インテグレーション)比率を、6割から2005年度中に4割に引き下げる日立は、ソフト/サービスの中でのSI(システム・インテグレーション)比率を、6割から2005年度中に4割に引き下げることを発表していた。日立の最近の取り組みを見ると、苦手なサービス関連から徐々に手をひき、“最強の部品メーカー”の方向に事業を再編しようとしているふうに映る。日立がITサービス業界再編の引き金を引く、そんなにおいが少ししてきた。

「NTT“グローバル”ソリューションズ」はできないのか?

2005-02-03 16:37:51 | ITビジネス
 2月1日付の日経産業新聞の2つの囲み記事の対比が面白かった。1つは「NTTデータは変われるか」という連載記事の最終回。NTTデータがグローバル企業に脱皮するためにNTTコムウェアなどと合併する可能性を示唆したものだ。もう1つが「米SBC、AT&Tを買収」という記事で、地域電話会社にAT&Tが飲み込まれることからNTTはどんな教訓を学ぶべきか、とういうものだ。

それぞれの記事自体はありきたりで別に目新しくはない。ただ、同時に2つの記事が出たことが、NTTの通信とITをまたぐソリューション事業の問題点と可能性を暗示するようで面白いと思ったのだ。

 さて私は以前、 NTTデータ、NTTコムウェア、NTTコミュニケーションズの3社合併の可能性を書いた。私の認識はそのときとあまり変わっていないが、こうした記事が出たときでもあるので、もう少し考えてみたい。

 NTTデータとNTTコムウェアとの合併は、誰でもが思いつく筋だ。NTTデータが官公庁システムや金融関係のデータ通信事業の運用、NTTコムウェアがNTTグループの業務システムの運用や旧交換機の流れを汲む通信ソフトの開発と、それぞれ独自性はあるとはいえ、ソリューション事業という目指す方向は一緒だ。すでに営業面でのバッティングも起っており、このまま両社が単独で生き残りを図れば、事業領域は重なっていくばかりだ。そもそもITサービス業の事業モデルは単純で、いずこも似たようなものだから、当然と言えば当然だが。

 その両社が仮に合併した場合、そのままでは、あまりメリットはない。規模の利益を追求できるといっても、両社とも特に地方では人員が余り気味だ。ゼネコンと同じ受注産業であることを考えれば、2つある“のれん”が1つになると受注力がトータルで落ちる可能性もある。グローバル企業を目指すという視点からは、この合併で何のメリットもない。NTTコムウェアはもちろん、NTTデータもかつての中国での失敗で懲りてしまい、グローバル展開はITサービス業界の水準からいっても遅れている。

 合併のメリットは、オープンソースへの事業展開を加速できることだろう。NTTコムウェアは、NTTグループ全体がシステムのオープンソース化を進めている関係で、オープンソースの技術者を多数抱え、ノウハウもそれなりに蓄積している。一方、NTTデータはお世辞にもオープンソースで先行しているとは言えない。NTTデータの基幹系システム構築に関する様々なノウハウや経験と、NTTコムウェアのオープンソースの技術力を組み合わせれば、SIの事業モデルを刷新するぐらいのことができるかもしれない。

 一方、NTTコミュニケーションズはどうか。米国のAT&Tや地域会社とは資本構造が違うため、AT&Tのような運命は考えられないが、日本でも電話のIP化により長距離電話会社としての将来は暗い。NTTコミュニケーションズは『グローバル・ソリューション・カンパニー』の方向性を目指すが、“グローバル”ではベリオでミソをつけた。その余波からか、“ソリューション”についても、昨年、将来の社長候補とも言われたソリューション事業のトップがNTTコムウェアに転出するなど、明るい話が聞こえてこない。

 とはいえNTTコミュニケーションズは、NTTグループの中で最もグローバルに親和性が高い。NTTデータ、NTTコムウェアとの3社で合併すれば、ITと通信の両方のリソースを持ち、オープンソースを武器にグローバルにソリューションを提供する“理想のITサービス会社”の原型ができる。NTTコミュニケーションズはNTT東西と違い、特殊会社ではないから、原理的には自由に再編できるはずだ。

 通信業界的にはこうした再編に異論もあるだろうが、グローバルで戦えるITサービス会社が日本にも必要だと思っている私から言うと、ぜひチャレンジしてほしいテーマだ。ITサービス業の業界再編の起爆剤になるかもしれない。もちろん、そのほかにもNTTデータとメーカーのソリューション事業といった、あっと驚くような組み合わせもありかもしれないが。

やはりITサービス業界固有の問題か? メディア・リンクス事件の余波に思うこと

2005-02-02 11:55:35 | ITビジネス
 白けた気分だ。メディア・リンクスの架空取引事件がついに、CTC元社員などによる業務上横領事件にまで発展した。要は、架空取引に便乗して甘い汁を吸っていたらしい。今のところ極めて個人的犯行のようなので、CTCにどれくら道義的責任があるのかは分からない。ただ、ライブドアやテレビ朝日など誰でも知っている企業名が出るものだから、CTCは否応なく事件の渦中の企業になった。

 メディア・リンクス事件のことを書いたときは、「ITサービス業界全体が不正取引の温床のように言われるのは、たまらない」と結構憤慨していた。しかし近頃は、ITサービス業界の固有の問題として根が深いかもしれないと思い始めている。そこに、今回の横領事件。白けた気分と書いたのは、そういう意味だ。

 そういえば、メディア・リンクス事件の少し前に発覚したアソシエント・テクノロジーの粉飾決算事件でも余波が広がってきた。1月20日付の日経金融新聞では、アソシエント事件に別のITサービス会社の関与を示唆する記事が掲載されていた。このほかにも、この種の黒い噂の常連として有名な企業もある。いずれも真相は現時点でははっきりしないが、ITサービス業界に退嬰的な空気が広がっているような嫌な感じがする。

 少し前に、ある大手ITサービス会社のトップが「この業界はいまだに明確な商慣行が存在しない」と話しているのを聞いた。確かに、その通り。他の業界ならとっくの昔に確立している取引慣行だが、ITサービス業界の場合、たいしたルールはない。逆に言えば、何でもできる。当然、勘定科目の仕分けも自由度が高い。したがって、決算書の操作も合法/非合法を問わず、他業界に比べ比較的容易だ。そう考えると、商慣行がきちっと確立していないことが、こうした事件の温床になっている気がしてくる。

 IT関連でこの種の事件は、ネットバブルの頃にネットベンチャーを舞台とするものが多かった。当時ネットベンチャーには過剰な期待が集まっていたから、甘い汁を吸おうとする反社会的勢力なども介入し、大きな社会問題となった。一方、同じITでも今日のITサービス業界はどうか。環境変化についていけず、追い込まれてというパターンが多い。しかし、経営の失敗を嘘でごまかすのは間違いだ。まして、甘い汁を吸おうということなど論外。すべて、なあなあで済ませてきたITサービス業界だが、しっかりした規律がほしい。そうでないと社会から見放される気がする。

RFIDの本格普及を前に姿を消す日本初の商用RFIDシステム

2005-01-28 19:40:09 | ITビジネス
 日本ではRFIDの巨大な商用システムが運用されている。RFIDの先駆けともいえるそのシステムは、時代の流れに抗しきれず、その歴史に幕を閉じる---。そう書くと「えっ、そんなシステムがあったの」と思われるかもしれないが、実はあったのだ。NTT東日本と西日本が運用するICカード公衆電話である。

 ICカード公衆電話のカードは“ICカード”と称しているが、その実体はICタグ、つまりRFIDである。このカードは、ユニークIDを持つICタグとアンテナがカード状の紙の中に埋め込まれている。磁気カードでは通話度数の情報をカード自身に書き込むのに対して、この“ICカード”では通話度数などの情報はNTTのサーバー側で管理する。今話題のRFIDとは規格が異なるとはいえ、その実体はRFIDそのものである。

 このICカード公衆電話が発表された当時は、非接触ICカードが一大ブームになっていたときだと記憶している。JR東日本のスイカの実験プロジェクトも進められており、スイカのようなICカードとは機能が全く異なるにも関わらず、このICカード公衆電話も非接触ICカードの大型プロジェクトとして話題を集めた。今なら、RFIDの商用システムの代表的事例として注目されたことだろう。

 ICカード公衆電話をNTTが導入した目的は、偽造カードの排除と公衆電話の運用コストの削減だった。偽造されるとかけ放題になってしまう磁気カード方式に比べ、サーバーで通話度数を管理するため偽造されても、被害はそのカードの残存度数の範囲で済む。また、機械式で比較的故障しやすい磁気カードのローダーと異なり、タグの情報を読み取るリーダーはメンテナンスフリーに近い。当時から携帯電話の普及で公衆電話利用の減少が予測されている中、ICカード公衆電話は赤字続きの公衆電話事業の止血剤としての切り札だった。

 NTTのニュース・リリースなどから撤退の理由を読み取ると、携帯電話の普及で公衆電話の利用が減り、磁気カード方式に比べ利用の少ないICカード公衆電話を維持できなくなったということらしい。まさに皮肉としかいいようがない。完全に需要の読み誤りである。RFIDの本格普及がいよいよ始まろうとする今このときに、磁気カードというローテクとの生き残り競争に敗れて、日本初の商用RFIDシステムが姿を消す。そこからは、いろんな教訓が読み取れる。

独断、オラクルによるピープルソフト消去で思うこと

2005-01-26 16:34:05 | ITビジネス
 ちょっとネタとしては古くなったが、オラクルが先週、ピープルソフトとの統合後の製品戦略について発表した。「2013年までピープルソフト社製品ラインをサポートすること、そしてピープルソフト・エンタープライズ9.0の製品リリースを行うことに最大限の努力を投じる」ことを表明したが、その内容に目新しいものはない。

 “ピープル製品の消去計画”の見直しと報じるところもあったが、主眼はピープルのカスタマー・ベースの維持。ピープル製品を市場から消去することには変わりはない。10年足らずのサポート期間では、あえてピープル製品を導入しようという新規ユーザーはいないだろう。

 オラクルは今回の買収でSAPと並ぶ2強の地位を強固にできるだけでなく、ピープル製品を消去することで、ERP市場から不確定要因を取り除くことができる。今やERPは、市場が飽和し、コモディティ化に向かう一歩手前だ。SAPやオラクルはSOAとERPを強引に結ぶ付けることで、新しい付加価値を顧客に提示することで、コモディティ化を阻止しようとしている。

 しかしその前に、ある程度のシェアを持つ競合に価格戦略を仕掛けられたら一大事だ。ERP市場の値崩れが始まると、オラクルなどの将来戦略に赤信号が灯る。ピープルがその引き金を引くと決まったわけではないが、3強の中で一番弱い輪である。オラクルが今のうちに、ピープル製品を消去しておくのは賢明なことだろう。SAPにとっても、シェアでオラクルに差を詰められるとはいえ、必ずしも悪い話ではない。これからはSAPとオラクルの2社で市場をコントロールすることができるからだ。

 さて、日本のITサービス会社は、こうした外資のITベンダーの戦略に唯々諾々と従う必要はない。日本企業の業務プロセスをろくすっぽサポートしていないにも関わらず、あの価格設定は欧米に比べてもはるかに“暴利”だ。日本のユーザー企業から法外な付加価値が外資のERPベンダーの株主へと移転されたともいえる。

 日本のITサービス会社はその価格設定のお陰で、今までおいしい商売ができたわけだが、これからも同じことをしていてよいわけがない。むしろERPのコモディティ化に積極的に掉さすべきだろう。欧米のERP製品に対するオルタナティブは多数ある。一刻も早くベンダーが価格を決める現状から、市場が価格を決める状態に移していくべきである。ERPなど商材の価格はできるだけ安くして、その分、ITサービス会社独自の付加価値を提供できるようにするのが理想である。

 コモディティ化した他の産業と同様、ERPベンダーは業界再編で自社の利益を守ることに必死である。それと同じくらいの必死さで、ITサービス会社はユーザー企業の利益を極大化するように努力する。その努力の“かたち”は千差万別だろうが、そこにユーザー企業との信頼関係を回復する道があると思う。

ブレードPCはコロンブスの卵、グリッド・コンピューティングと抜群の相性

2005-01-20 22:38:01 | ITビジネス
 「ブレードPC」って、やはり面白い。コロンブスの卵か、はたまた革命か、そんな気さえする。原理的には、クライアントPCを物理的にサーバー側に持ってきただけだが、それだけでいろんなアイデアが乗る。セキュリティ面の話は1月11日付の記事で少し書いたが、ミドルウエアの観点から見ると、より大きなソリューションの可能性があるのだ。

 今、IBM、HP、富士通、日立、NECなど、いずれのコンピュータ・メーカーもミドルウエアの開発競争に血道を上げている。それには2つの方向性があり、1つがWebアプリケーション・サーバーを軸にしたアプリケーション統合、SOAの方向。そしてもう1つが、サーバーやストレージ、ネットワークなどハードウエア資源の仮想化による運用の効率化、TCO削減を目指す方向だ。

 さてクライアントPCが、ブレードとしてサーバー・ブレードやストレージ・ブレードなどと共に統合されると、このハード資源の仮想化にポジティブなインパクトがある。エンドユーザーからセンター側にハード資源の管理権が移るため、当然ミドルウエアによるクライアントPC資源の仮想化も容易になるからだ。実際、ブレードPCを製品化したHPは、ブレードPCの1ユニットを複数のユーザーで共有する機能などの開発を進めている。

 しかし、ブレードPCの仮想化はそんな“プリミティブ”なことだけではない。ブレードPCはグリッド・コンピューティングとの相性が抜群に良いのだ。このことは説明する必要もないだろう。そして、ブレードPCの登場によって、企業の基幹業務システムをグリッド・コンピューティングのアーキテクチャで実現する道が開ける。クライアントPCがエンドユーザーの下にある状態では、プロセスの一部をクライアントPCに割り付けるのは信頼性の面などから難しい。しかし、センターでサーバーなどと共に一括管理するブレードPCならリソースの空き具合を見て、動的にサーバー側の処理の一部をクライアントに割り付けていくことができる。つまり、究極のTCO削減が可能になるのだ。

 ブレードPCを使ったソリューションのアイデアは、これ以外にも多数出てきそうだ。それぐらい商材としての“ふくらみ”がある。あとはHPなどがうまく市場を創れるかどうか。価格設定をミスらず、予想されるネットワーク面でのボトルネックをうまく解決できれば、かなり有望だ。

 しかも市場ができれば、ちょっと面白いことがある。IBMはどうするのだろうか、これは興味深い。クリアキューブの製品を担いでいるうちはいいが、自社製品を作るとなると、PC事業を売却するレノボグループとの調整が見物になる。なんせブレードとはいえ、クライアントPCなのだから。

個人情報漏洩対策にようやく動き出した中小企業

2005-01-19 21:28:09 | ITビジネス
 今日、マイクロソフトとAIU保険会社が共催する、中小企業向けの個人情報漏洩対策セミナーに顔を出してきた。個人情報保護法の4月施行を控え、個人情報漏洩リスクを中小企業にも啓蒙しようという“美しいセミナー”だが、下世話に言えば保険商品やITソリューションを売り込む糸口にしようというものだ。

 ところで、そのAIUの人の話によると、昨年末当たりから「個人情報漏洩保険」に加入する中小企業が急増したそうだ。個人情報保護法の施行がいよいよ目前に迫ったので、情報漏洩対策への対応が鈍かった中小企業にも動きが出てきたという。しかし、この話は論理的におかしい。なぜかというと、個人情報保護法では、情報漏洩を引き起こしたのに抜本的な対策を採らないと行政処分があり、それにも従わない場合のみ、刑事罰の対象になる。およそまっとうな企業なら、個人情報保護法による“実害”は考えられない。また、保険は民事上のリスクに備えたものであり、刑事のリスクに備えるものではない。

 その質問をぶつけてみて納得した。こうした中小企業は、個人情報保護法の施行に合わせて策定されつつあるガイドラインに反応しているのだ。ガイドラインは業界別に各省庁が、個人情報保護法の遵守の指針となるものだが、情報漏洩があった場合の訴訟のための“指針”ともなる。つまり、過失の基準が明確になる分、企業の従来よりはるかに情報漏洩した企業を訴えやすくなる。そこで、反応の遅かった中小企業も「これはまずい」と、対策に乗り出したというわけだ。、

 中小企業でも膨大な個人情報を抱えている企業は多いから、遅まきながらも漏洩対策に乗り出したのはよいことだ。IT系のセキュリティ・ソリューション商談も多少は盛り上がるかもしれない。しかし以前にも書いたように、本来、顧客満足度の向上やマーケティングといった前向きな取り組みに活用するはずの個人情報を、ガチガチの金庫に保管してそれで終わりという形になれば、顧客である中小企業にとっても、ITベンダーにとってもマイナスだ。やはり、中小企業にも個人情報活用の提案の中で、必要コストとしての個人情報保護を提案するべきだろう。ブームが来たから危機煽りでは、昔と変わらない。



コミュニケーションの視点で考えると帳票ソリューションは退屈ではない

2005-01-18 22:10:19 | ITビジネス
 最近、帳票系のソリューションの重要性に気が付いた。私もそうだったが「帳票」の話というと、多くの人が退屈な話と決め込んでいると思う。その証拠に、Java環境で使える帳票ツールはあまり多くない。最先端を走りたいJava技術者としては、帳票など見向きもしたくないものだろう。今ではソリューションが出てきて、もう遅いかもしれないが、1年ほど前には「出来の良いピュアJavaの帳票ツールを作るベンチャーがあれば、必ず成功できる」と断言する人もいたほどだ。ジャストシステムなども、ここを狙えば新たな可能性が開けたのに、とも思う。

 私が帳票の重要性に気付いたというのは、何もこうした“希少価値”からだけではない。IT屋から言うと帳票類は、プロセスの末端の最終アウトプット、しかも紙に過ぎない。あるいは、業務システムに入力しなおさなければいけない、やっかいなドキュメントに過ぎないだろう。しかし、ユーザー部門、特に取引の現場においては「コミュニケーション手段」あるいは「メディア」なのだ。そして、帳票をコミュニケーション手段ととらえる視点が、新たなソリューションを生む可能性を秘めている。

 どういうことかと言うと、ビジネスの多くは意思決定者に帳票などのドキュメントが届かないと前には進まない。その意味で、ビジネスを動かすためのコミュニケーション手段なのである。こう書くと、「つまりワークフローが大事ってことでしょ」と言われ、「だから紙の伝票などをなくし、すべて電子化すればよい」となってしまいそうだ。しかし、帳票のコミュニケーション手段として機能に着目すれば、紙か電子かは大きな問題ではなく、意思決定者にいかに素早く情報をデリバリーするかがポイントになる。意思決定者の置かれている環境によっては、もっとも素早いデリバリーがITであるとは限らない。日本郵政公社なんかも、巨大な帳票デリバリーセンターとして顧客企業のシステムとオンラインで結べば、新しいビジネスができるかもしれない。

 かなり未消化で、話がとりとめなくなったが、帳票の意義を前向きにとらえると、面白いソリューションを開発できそうな気がする。


IBMはPC事業を売却してもインテルとの交渉力を維持できるのか

2005-01-13 18:02:58 | ITビジネス
 IBMがPC事業を中国レノボグループへ売却する--あの衝撃的な発表以降、日本ではやはりチャネルに動揺が広がっているようだ。IBMのPCを扱う販社が他社製品の扱いを増やすことを検討し始めたらしく、HPなどは「棚からボタモチ」と喜んでいるという。今はまだ打診レベルなので、実際に棚からボタモチが落ちてきたわけではないが、棚の上のボタモチがはっきり見える、そんな状態なのだという。

 販社の懸念はデマンド・サイドとサプライ・サイドの両方にある。デマンド・サイドの懸念は、はたしてユーザーはレノボを信用するかというもので、この懸念は以前から予想の範囲だ。盲点だったのはサプライ・サイドへの懸念で、レノボではなくIBMのPCサーバーの供給に関するものだ。

 その理屈はこうだ。PCクライアントとアーキテクチャーが同じPCサーバーのコストは、クライアントPCの供給ボリュームにある程度依存する。そのボリューム次第で、PCサーバーの部品も含め、インテルをはじめとする部品メーカーとの交渉力が左右されるからだ。IBMはボリュームを稼げるPCクライアントを切り離すのだから、交渉力が弱まり、PCサーバーのコストアップにつながる。その結果、仕切り価格のアップにつながり、結局販社が泣きをみることになる。

 実際にそうなるかどうかは分からない。PCクライアントとPCサーバーで部品がどれだけ共用しているのかもはっきりしないし、IBMとレノボが共同購買すれば問題はないようにも思える。しかし、そうした情報がないから、販社の疑心は深まる。つい最近、新生レノボのCEOに就任する予定のIBMのスティーブ・ウォード氏が来日して記者会見を開いたと聞くが、ほとんど質問を受け付けず、自分のしゃべりたいことだけを話して会見を打ち切ったという。

 今、IBMは米国や中国での手当に忙しく、ローカル市場である日本を省みる時間はないのかもしれない。しかし、もう少し情報を出さないと、ユーザーとのインターフェースである販社との距離が広がるばかりだ。