東葛人的視点

ITを中心にインダストリーをウォッチ

激しくなる中国での反日行動と、ITオフショアリングの内なるリスク

2005-04-11 10:50:49 | ITビジネス
 中国で反日行動が激しくなってきた。その原因や背景について様々な報道がなされているが、その件は報道以上のことが分からないので、これ以上は立ち入らない。考えてみたいのは、ITサービス業での中国におけるオフショアリングのリスクである。

 言うまでもなくITサービス業においては、既にオフショアリングなしでビジネスが成り立たないところまで来ている。そして中国のITサービス会社は、オフショアリングを進める日本企業にとっても最も重要なパートナーになりつつある。中国国内でいくら反日ムードが高まったとしても、こうした取引はビジネスライクに処理すべきであり、民間レベルで日中友好のための努力をすることもまた必要だろう。

 しかし、リスクはヘッジすべきである。中国の国民レベルの対日感情は、歴史的経緯や中国国内の状況、日中の政府や政治家の対応など変数があまりにも多く、企業レベル、民間レベルでは、どう変化するかを予測することは不可能である。そんな中で、ITサービス業において経営戦略の根幹を占めるようになりつつあるオフショアリングで、中国にだけ依存するのはあまりにリスクが高い。インドやベトナムなども含め、オフショアリングのポートフォリオを検討する必要があるだろう。

 実は、中国国内の反日感情よりも、オフショアリングを推進していく上で懸念されるリスクがある。それは、日本国内で芽生え始めた“嫌中感情”である。特に政治レベルでの嫌中が危うい。これが、米国でのようなオフショアリング批判と結びつくとどうなるのか。オフショアリングを推進するITサービス会社は、今からそのことを考えておいた方がよいだろう。

 それに加え、中国企業にオフショアリングする企業は、中国の人々とのインタフェースを持っているわけだから、自らも中国の人々の怒りやわだかまり、そして多くの誤解を解く努力をすることが可能である。こうした努力とリスクヘッジは、グローバル化を目指す日本企業には不可欠なことだ。ドメスティックな事業環境に慣れ、その辺りのことに鈍感なITサービス会社は、そのことを強く肝に銘じておく必要があると思う。

ITサービス産業は大人になれないまま老衰するのか

2005-04-08 21:19:46 | ITビジネス
 この前、「ITサービス産業には明確な商慣行が確立していない」という話を、公認会計士の方に話したら、「成長著しい若い産業はどこでもそうですよ」と“慰め”られてしまった。ただ、この言葉は慰めになってはいない。会計士の方は“IT=若い、成長著しい”という世間のイメージでお話になったのだが、そうしたITはライブドアや楽天などのネット企業のことであり、デジタル家電分野のことである。ITサービス産業は数十年の歴史あるトラディショナルな産業であり、現在のドメインのままでは成長が望めない“成熟産業”になりつつある。

 「検収書に顧客の社印ではなく、個人の認印が押される」「ソフトウエアの品質について顧客の了解が得られない場合でも検収書が形式的に発行される」「検収後の入金予定日に入金がなく、バグ発生による作業が継続している」「開発終了はまだ先なのに、顧客の予算消化の都合により形式的に検収書が発行されている」----。これは、日本公認会計士協会の「情報サービス産業における監査上の諸問題について」の記述で、検収ひとつとっても何でもありの取引実態を指摘したものだ。まさに商慣行など存在しないに等しい。

 なんでこんな状況が温存されてきたのかと言えば、今までの顧客は同業者だったからだ。ITサービス会社同士の取引はもちろん、ユーザー企業との取引でも顧客は情報システム部門という同業者。お互いの苦しい立場はよく分かる。「まあ、ここは、なあなあで」ともたれ合う。「決算日前に予算を消化したことにしたいんだよね」「分かりました」、「後の作業のコストは当社がかぶりますから、形だけでも検収書を出してください」「OK]などなど。これでは、健全な商取引も商慣行もあったものではない。

 しかし昨今、IT投資の権限は大きくシフトし、今や顧客はユーザー企業の経営者やユーザー部門という正常な状態になった。多くのITサービス会社が上場したことで、株主や投資家が目を光らせることになった。これらのステークホルダーはユーザー企業内の同業者のようには甘くない。情報システム部門が甘い親なら、彼らは冷たい世間だ。こうしたいい加減な“商慣行”は、厳しい世間では通用しない。

 というか、こんなことを続けていては、Tサービス産業は大人になりきれないまま老衰してしまう。まずは近代的な商慣行を確立し、大人の産業の仲間入りをしなければいけない。その上で、ユビキタス分野などに産業ドメインを拡張し、若返りを図る必要がある。ITを全体的に言えば、これからもとてつもない成長産業だ。ひきこもらず、厳しい世間に打って出れば、ITサービス産業にもまだまだ大きな可能性があると思うのだが。

NEC・サンの提携と富士通のオープン系基幹サーバー発表に思う

2005-04-06 18:54:50 | ITビジネス
 昨日のNECとサン・マイクロシステムズの提携発表、それに今日の富士通のサーバー新製品の発表に接すると、基幹系サーバーの競争のステージが大きく変わろうとしているのを実感する。その変化とは、UNIXサーバーは完全にレガシーシステムとなったことで、IA64アーキテクチャ(もしくは“AMD互換”アーキテクチャ)とLinux(もしくはWindows)の組み合わせによる“オープン系”の新たな二大潮流が明確に姿を現してきたということである。

 まずNECとサンの提携発表だが、金杉社長とマクニーリ会長兼CEOが同じ写真に収まったということ以外は、それほど新味を感じさせない。サンの大事なユーザーである通信事業者が抱くサン製サーバーの将来への不安に対して、NECが“信用補完”した見るのは穿ち過ぎだろうか。

 NTTドコモのiモードのノウハウを導入している世界の通信事業者の多くが、そのサーバーにサン製品を利用している。こうした通信事業者から見れば、サンという企業の将来性はともかく、サン製サーバーの将来には不確実性がつきまとう。iモード型サービス拡充のためサーバーを増設しようにも、将来に不安のあるITアセットを膨らませていっていいのか、判断に苦慮するところだろう。

 それが、NECと戦略協業するとなると話は別だ。大手通信機器メーカーであり、NTTドコモのiモードの構築・運用ノウハウを持つNECが、サン製サーバーをがっちりとサポートする意味は大きいのだ。NECは小なりといえどもメインフレーマでもあるから、どんな状況になろうとも、顧客のITアセットを不良資産化するようなことはせず、マイグレーションのパスを用意してくれるだろうという安心感がある。

 今回の提携は、サンにとって通信業界の顧客つなぎとめに大きな意味があるだろう。もちろんハード増設といった形で追加受注の可能性も開ける。一方、NECにとっても、サン製サーバーの顧客とのリレーションを強化できるほか、サンのミドルウエアを取り込む形で自社のミドルウエア製品を強化できるわけで悪い話ではない。フィオリーナ退任ですきま風が吹き始めたHPへの牽制にもなる。

 一方、富士通がメインフレーム並の信頼性を持つIAサーバーPRIMEQUESTを今回発売することで、SPARCベースのハイエンドUNIXサーバーPRIMEPOWERの位置付けはどうなるのか。これも顧客のITアセット次第であろう。PRIMEPOWERの既存ユーザーには、他機種へのマイグレーションを求められない限り、増設などの用途でPRIMEPOWERを提供し続ける。一方、新規の案件にはPRIMEQUESTを販売する。そんは切り分けが順当なところだろう。

 要は、UNIXサーバーはもはや完璧にレガシーシステムなのである。もちろん、メインフレームの例でも明らかなように、レガシーシステムの市場は今後とも厳然として存在し続ける。メインフレーマはユーザーに対して、レガシーなハードであろうが将来のコミットを約束する。それがあるからこそ、ユーザーは安心してレガシーシステムを使い続けながら、時間をかけてレガシーマイグレーションのパスを考えることができる。残念ながらサンには、メインフレーマのような安心感がなかった。だから、サンのカスタマーベースが草刈場になってしまったのだ。

 さて、UNIXサーバーがレガシーシステム市場へ移行した今、オープン系の基幹系サーバー市場では、二つの潮流のせめぎ合いになるだろうと思う。その二つの潮流とは、ハードやOSレベルの話ではない。むしろ、より大きなシステムとしての話といった方がよい。一つが、メインフレーマがメインフレームの機能やノウハウをオープン系サーバーに持ち込む潮流だ。PRIMEQUESTがまさにそうだし、広く言えばIBMのzSeriesもこうした流れと言っていい。

 もう1つは、ブレードサーバーなどハードの冗長度とミドルウエアのミッションクリティカル機能を組み合わせることで、基幹系システムにも使えるようにしようという流れだ。とりわけIBMや日立製作所は、ブレードサーバーでメインフレームの領域もカバーできるように、ブレードサーバーの機能強化を急いでいる。この二つの潮流が、どの辺りで均衡点に達するかが、オープン系の基幹系サーバー市場の今後の焦点になるだろう。

CTCがコンサル部隊を別会社化、時代は“NRI型”から“IBM型”に

2005-04-04 11:13:00 | ITビジネス
 伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が4月1日付で伊藤忠商事と共同でコンサルティング会社を設立したそうだ。3月31日の日本経済新聞に載っていた記事で知ったが、ちょっと興味深い内容だった。というのは、この新会社「マクシスコンサルティング」は事実上、CTCのコンサルティング事業を切り出したものだからだ。

 最近のITサービス会社のコンサルティング事業は、すっかり“NRI型”から“IBM型”に移行した。コンサルティング事業の従来の成功例は野村総合研究所だ。コンサルティング事業とSIなどITサービス事業を社内に抱え込むことで、両者のシナジーを狙うパターン。ところが、同一企業では文化の違いや処遇の問題から、有能なコンサルタントがスポイルされてしまう懸念がある。

 そこで最近ではIBMのように、コンサルティング事業を別会社として運営するケースが増えている。アビームコンサルティングを段階的に買収するNECは、まさにこのパターン。そう言えば、シーエーシーも3月にコンサルティング会社を設立している。一方、ダイヤモンドコンピューターサービスを子会社化した三菱総合研究所が、合併の選択肢を選ばなかったのも、コンサルティング事業をスポイルしないためといわれている。

 そうした中、NRI型のコンサルティング事業を目指してきたCTCも、ついにIBM型に移行したわけだ。出資した伊藤忠商事も新会社をグループ内のビジネス・コンサルティング機能の中核として位置付けるとしており、CTC社内ではある意味“浮いた存在”だったコンサルティング事業がどう変わるか注目しておきたい。

 ところで、NRIや日本総合研究所のコンサルティング能力は、昔と比べて変わらなのだろうか。少し気になるところだ。

住商情報と住商エレの合併、かつての優良企業の落日は業界再編の序章か

2005-03-31 21:47:57 | ITビジネス
 今日の日本経済新聞に「住商情報システム、VAリナックスを買収」という記事が出ていた。ERPに経営リソースを傾斜させすぎため業績低迷に苦しむ“かつてのエクセラントカンパニー”住商情報が、いよいよLinuxやオープンソースのミドルウエアを使って真のSI力で勝負する---この記事を読んだとき、私はそう思った。しかし、それはどうやら間違いだったようだ。

 住商情報と住商エレクトロニクスが8月に合併だそうだ。VAリナックスも住友商事の子会社だから、つまり住商によるIT子会社の統合化の動きだったのだ。これに伴うトップ人事は住商エレはともかく、住商情報には厳しい。存続会社になる住商情報は、8月の合併を待たず、4月1日付で中川社長が取締役に降格、住商エレの阿部社長が新社長として乗り込んでくる。さらに6月には、住商の副社長が会長に就任するという。住商情報の現在のパフォーマンスでは仕方がないが、かつて他のITサービス会社がこぞってベンチマークした過去の栄光(そんなに昔ではないが)を思うと、寂しい限りだ。

 それはともかく、このところITサービス会社の再編が相次いでいる。大きなところではNECが6月に、NECソフトやNECシステムテクノロジーを完全子会社化する。インテックは今年1月に有力子会社を本体に吸収したし、Sybaseで名をはせた日本タイムシェアも親会社のソランに吸収される。いちいち挙げてもきりがないが、日本のITサービス業界は本格的な再編の時期に突入したようだ。今は、主にグループ内の再編劇だが、多分それだけではすまないと思う。当面のITサービス業界のキーワードは、やはり“再編”だろう。

IT商談におけるコンサルティングの重要性を改めて考える

2005-03-28 17:19:09 | ITビジネス
 IT企業にとってコンサルティングの重要性を、今ごろになってようやく認識した。ユーザー企業に経営コンサル、ITコンサルで入ると、システム開発案件が受注しやすくなるのは当たり前だが、私はその理由を「コンサルの内容が良かった」ぐらいにしか考えていなかった。しかし、それは理由のうちの半分でしかない。むしろ、もう1つの理由の方が大きいぐらいである。

 コンサルティングに入ると当然のことながら、ユーザー企業の経営トップやCIO、あるいは情報システム部門やユーザー部門のキーマンに接触する。このとき出来る彼らとの強力なコネクションやりレーションの方が、実はコンサル内容よりも後のシステム構築商談にとって重要なのだ。

 ITサービスの商談には、その前提としてユーザー企業との信頼関係が不可欠である。ユーザー企業にとって情報システムへの投資は巨額で、構築まで時間もかかる。特に経営者やユーザー部門の人たちにとってシステムは難解で、ソフトやサービスという目に見えないものも買わなければならない。しかも、ITベンダーの技術者がどれほどのスキルかも分からないのに、もっともらしい理由でお金を支払わなければならない。そんな商談だから、ユーザー企業は最も信頼できるITベンダーに仕事を任せたいと思うものである。

 新規ユーザーからシステム構築案件を獲得することの難しさは、ここにあるわけだが、コンサルティングに入るとその状況を一気に覆すことができる。コンサルの過程で経営トップや現場のラインなどから信頼を獲得すれば、最も仕事を任せたいITベンダーになれる。システム案件の受注も最短距離に立てるわけだ。

 だから、ITベンダーから見たコンサルティングの目標は、コンサル結果というコンテンツではない。ユーザー企業から信頼を獲得するということである。ある意味、コンサル内容などは何でも構わない。コンサルタントは最強の営業パーソンである。そう考えれば、ITベンダーがコンサル強化を図らなければならない理由は明らかだ。こんなことはIT業界の常識かもしれないが、私はコンサルの重要性を過小評価していたので、あえて書いておく。

MSのあまりに巨額の配当と、日本のITサービス産業のあまりに小さな市場

2005-03-23 17:36:04 | ITビジネス
 今日の日本経済新聞の1面トップ記事を読んで驚いた。「増配592社に拡大」という見出しの記事で、3月期決算企業の3分の1に当たる600社が今期増配に踏み切るという内容。まあ、典型的なヒマネタだ。私が驚いたのは、記事中にあったマイクロソフトの特別配当の話。昨年12月に実施したマイクロソフトの特別配当は3兆円だが、この額は日本の上場企業の配当総額に匹敵するというのだ。

 昨年12月に、この特別配当の記事を読んだときは、正直言ってその規模感がつかめなかった。米株式投資信託に流れ込むマネーの2カ月分という説明も読んだが、やはりピンとこなかった。しかし、日本の上場企業の配当総額に匹敵すると言われると、その巨額さが一気に実感できる。日本の上場企業の配当総額が少なすぎると言えないこともないが。

 このように、異なる分野の数字を比較することで、規模感をつかめることは多い。以前、ネット広告の規模がまだ小さかったころ、ネット広告の市場規模がトヨタ自動車やキリンビールの販促予算の半分にも満たないことに気付いて、愕然としたことがあった。また、調子のよい時のNTTドコモの調達額は1兆円近くあったと記憶している。1兆円の市場があれば、その産業は1兆円産業と呼ばれ一人前扱いされる。まさに“NTTドコモ市場”は1兆円産業だった。

 ところで、2004年のITサービス産業の市場規模はいくらだったか。経済産業省の『特定サービス産業動態統計』によると9兆6000億円規模だ。もちろん、下請け、孫請けなどのダブルカウント、トリプルカウントをそのまま数えての数字だ。この数字は大きいか、小さいか。試みにトヨタ自動車の連結決算と比較してみると、トヨタの年間売上高のほぼ半分。なんと小さな世界! それともトヨタが巨大すぎるのか。

結局、“買いやすいけど買いにくい”ITサービス会社を目指すしかないか

2005-03-22 21:28:08 | ITビジネス
 「ITサービス会社に対する会計監査の厳格化」の話と「会社法施行でITサービス会社も外資の買収ターゲットに」の話を別々に書いたが、考えてみれば同じ文脈で語れる話だった。というのも、会計監査の厳格化は経営の透明性を確保しようということ、つまり株主や投資家、マーケットに評価されるようになろうということで、その目指すところは“売りやすい会社”“買いやすい会社”ということになるからだ。

 なんせITサービス会社の会計処理は、上場企業でも各社各様。それに、失敗プロジェクトの仕掛品が優良な資産として計上されてあったり、スルー取引など「異常な商社的取引」が横行したりするから、第三者には会社の値段を付けるのが極めて難しい。ITサービス会社には対しては「人が資産なので企業価値の算出が難しい」とよく言われるが、実際にはITサービス会社の多くが会計処理などがずさんで経営実態がよく見えないから価値算出が困難なのだ。

 皮肉な物言いだが、ITサービス会社にとっては、透明性のない会計処理が今のところ最も効果的な買収防止策なのだ。最近、ITサービス会社を買収することを決めた企業が、相手の企業価値の評価に四苦八苦しているという話も耳に入ってきている。こんなことでは、あの堀江さんでもITサービス会社を買収することは困難だろう(もっとも彼がトラディショナルなITサービス会社を買収したいと思うなどとは想定できないが)。

 さて、ITサービス会社としてはどうするか。ITサービス産業の構造変化、会社法や会計基準の策定などの制度改革、そして外国企業の本格登場に、マーケットからの圧力など、すべての経営環境が変革を求めているようだ。つまり、ITサービス会社の方向性は“買収されやすいけど買収されにくい会社”を目指すしかないのだ。経営の透明性を高めることで会社の値付けを容易にするが、規模の拡大などを通じて企業価値を高め敵対的買収を困難にする。結局、そうした王道しかないだろう。

「情報サービス産業における監査上の諸問題について」の全文

2005-03-17 09:53:22 | ITビジネス
 昨日記事にした「情報サービス産業における監査上の諸問題について」の全文が、日本公認会計士協会のWebサイトにアップされた。ITサービス業に携わる人は、眼を通した方がよいと思うので紹介しておく。

明確な売上計上基準がない!IT企業の会計監査の厳格化は来期以降になる

2005-03-16 16:23:30 | ITビジネス
 日本公認会計士協会がIT企業の監査を05年3月期から厳格化する方針を打ち出したが、05年3月期決算に限って言えば“ゆるい”厳格化にとどまりそうだ。というのも、日本の会計基準では収益の認識基準が明確でないため、今問題になっているスルー取引など「異常な商社的取引」でも、個々の会計士が監査を担当する企業に「総額を売上計上するのはやめて、純額(手数料のみ)を計上せよ」と言えないからだ。

 日本公認会計士協会では、昨年12月に立ち上げた「IT業界における特殊な取引検討プロジェクトチーム」で、ITサービス業界の会計環境に関する洗い出しと論点整理を行ってきた。その検討結果が、今回の公表した「情報サービス産業における監査上の諸問題について」だそうだ。

 これを読むと、会計士の問題意識が「異常な商社的取引」に加え、ソフト開発での検収、特に分割検収の不明朗さに向かっていることが分かる。まず「異常な商社的取引」については、帳簿上通過するだけのスルー取引や、複数の同業者を経由して商品が起点となった企業に戻ってくるUターン取引、互いに商品を販売し合うクロス取引を上げた。これらを粉飾決算の温床として問題視しているようだ。

 ただし、スルー取引などが禁止されているわけではない。しかも、計上する売上は総額なのか、手数料のみという純額なのかの判断基準になる売上の計上基準は日本の会計基準には存在しない。与信補完のために間に入る取引もスルー取引の一形態で、TISはこれを総額から純額の売上計上に切り替え、通期売上予想を減額修正した。しかし、他のシステム・インテグレータには「取引に介在する明確な理由があるのだから、総額計上でも構わない」との意見もある。

 会計士も現時点では「総額だ」「いや純額だ」と言う基準がないので、監査する企業の処理方法をとやかくは言えない。このため、米国会計基準を参考にするという方針だそうだが、日本の会計基準でない以上、言葉通り“参考”でしかない。

 一方、ソフト開発の会計処理も、考えてみれば大きな問題だ。この報告書でも個々の企業やプロジェクトの検収基準が実態に合っていないケースがあるとした上で、分割検収という業界慣行が取引の実態をさらに見えにくくしているとしている。

 確かに、期をまたぐプロジェクトで前期に分割検収し、売上も利益も計上していたのに、期が変わった途端、大失敗プロジェクトに変ぼうし、経営の屋台骨を揺るがし、株価の暴落を招くのは由々しき事態だ。また、分割検収せずに仕掛品として資産計上した場合も、その資産の劣化(失敗プロジェクト化)を会計的に認識しないというのも問題だろう。

 現場の問題とはいえ、放置すれば株主や投資家に対する背信行為になる。もし前期にすでに問題が発生しており、それを隠していたとするならば、株主や投資家サイドからすれば詐欺行為に等しいだろう。

 ただ、この件でも報告書では、やはり日本の会計基準では収益の認識時点に関する基準がなく、監査レベルでは地道にユーザー企業からの検収書などをチェックするしかなく、それ以上のことは無理との認識を示している。

 全体的に会計士の“逃げ”を感じる内容だが、言っていることはもっともである。日本公認会計士協会は、日本の会計基準を作っている企業会計基準委員会に、具体的な収益の認識基準、つまり総額・純額表示の区分、収益の認識時点などに関する基準を作るように要請しているという。

 ITサービス会社の決算は今期はともかく、来期からはその基準に基づいて処理することになる。ITサービス会社としても、少なくとも上場企業なら受け身に対応するのではなく、より“保守的な”方向で自社の会計基準を見直してマーケットから信頼される企業を目指すべきだろう。

会社法施行でITサービス会社も外資の買収ターゲットに

2005-03-14 22:32:52 | ITビジネス
 ITサービス業界にとって、今年から3年間ほどが再編の季節なのは間違いなさそうだ。というのも、いま与党で検討されている会社法案により、外国のITサービス会社による日本企業買収が容易になるからだ。

 会社法施行は2006年の予定だ。この法律の一番のポイントは、合併対価で外国株や現金などを認可するという規定だ。ライブドアvsフジテレビ騒動の余波で、自民党議員が騒ぎ出し、この規定の施行は2007年になる見通しだが、この法律のインパクトは大きい。

 特にITサービス業界のように再編の必要性が叫ばれている業界の場合、会社法が大型再編に向けて背中を強く押しそうだ。そして、法律の施行前に再編の動きが表面化するかもしれない。独立系ITサービス会社の経営者を中心に、会社法施行後の外国企業による買収攻勢を警戒する声が出ており、その脅威から事前に身を守るために、日本企業同士の合併で企業規模(それと株式の時価総額)を大きくしておこうという意識も生まれ始めているからだ。

 今のITサービス業界は、明らかに過当競争。下請企業はもちろんプライムを狙う企業の数も多すぎる。合併などによりサプライサイドのプレーヤー数を減らして、ユーザー企業との価格交渉力を回復しないとどうにもならないところに来ている。ここに“黒船”の脅威が迫れば、業界は大変革期を迎えるかもしれない。

 ところで、外国企業でどこが日本企業の買収に乗り出す可能性が最も強いか。米国企業ではないだろう。最も有力なのはインド企業だろう。米国市場の拡大が難しくなりつつあるインド企業は今、日本市場に再び関心を強めている。そこで、日本の大手独立系ITサービス会社の買収に動いても不思議ではない。

 いや買収先は独立系ではなく、ユーザー系のITサービス会社かもしれない。グローバル展開する大企業にとって、グローバルで低コストでITサービスを提供してくれる企業がほしい。子会社の株式を売却して、その売却先にグローバル・サポートを任せるというのは、以前からあるチョイスだ。これまでならIBMだが、これからは分からない。

“総合電機(&コンテンツ)メーカー”ソニーの蹉跌に学ぶ

2005-03-08 23:03:15 | ITビジネス
 ソニーの出井会長と安藤社長が共に退任する。IT業界の話題ではないが、ハードとコンテンツの融合戦略を掲げた出井ソニーの終焉は、IT業界にも大きな教訓を残したと思われるので、雑感を記しておく。

 出井会長がトップに就任してから、ソニーが一貫して目指したのは、この融合戦略の実現だ。AV機器やゲーム機という強力なハードをネットワークで結び、そこにソニーが持つ映画や音楽などのコンテンツを流すことによって、新しい市場を創り上げる。この戦略は当初、株式市場をはじめ各方面から熱烈に支持された。時代の方向感と一致するし、ハードとコンテンツの両方で最強と言ってもよいソニーならできるだろう。誰もがそう思った。

 しかし、実際は違った。ソニーがこの融合戦略に見合った製品・サービスを出せないでいるうちに、アップルがiPodを投入し、あっという間に新しい市場を作り上げてしまった。本来ならソニーこそが出さなければいけなかった製品であり、この時点でソニーの融合戦略は破綻したと言ってよい。

一方、本来の強みであったAV機器では、融合戦略に引っぱられて、消費者のニーズを見誤った。消費者が求めていたのはネットワークにつながるテレビではなく、薄型のテレビだったのだ。薄型テレビの投入に後手を引いたソニーは、テレビのリーディング・ブランドの地位からも転げ落ちることになった。

 この“負けパターン”はIT業界でもよく見かけるケースだ。コンセプト主導のあまり、現実のニーズを見誤ったケースと言える。しかしそれよりも、この融合戦略自体が間違いであったように、私には思える。AV機器、コンピュータ、ネットワーク、そしてコンテンツの事業を融合させ、新しい市場を創るというのは、本当に経営戦略となり得るのであろうか。それは単に、時代の方向感を言い替えたにすぎないのではないだろうか。

 融合を経営戦略、事業戦略に掲げても、「ごもっとも」と言えるだけで、事業として方向性、ベクトルが全く感じられない。Aという事業、Bという事業が交じり合うというイメージ、あるいは今あるものを組み合わせましょうというイメージがあるだけで、全く新しいCという事業を創るというメッセージがない。また、個々の事業も融合の実現に製品企画のリスースを使い過ぎたために、既存の事業内にある大きな潜在ニーズも見落とす結果にもつながった。ひと昔前の総合電機メーカーの「総合力を活かして」という経営戦略の失敗にも通ずるものがある。

 IT業界でも、他の事業も合わせ持つコンピュータ・メーカーの間では今、融合戦略流行りだ。「ITと通信の融合」「ITと家電の融合」など自社の既存事業間の融合を進めようとするスローガンに事欠かない。しかし、アップルの成功は融合戦略の結果ではなく、自社の強みを生かした新規事業による新市場の創造の結果だということを忘れてはならない。“現在の総合電機(&コンテンツ)メーカー”ともいえるソニーの蹉跌から学ぶことは、少なくなさそうだ。

アプリケーション開発の“文明化”がユビキタス時代という激動期への対応力を奪った

2005-03-06 21:52:42 | ITビジネス
 ユビキタス時代がいよいよ幕を開けようとしている。ICタグや携帯電話、カーナビ、情報家電などパソコン以外の様々な端末がネットワークで結びつく。企業の情報システムでも携帯電話などをエンドユーザーの端末として使うことが当たり前になってきており、システム・インテグレータには、こうした“ユビキタス端末”をインテグレーションする力が求められるようになった。

 それにも関わらず、多くのシステム・インテグレータは、こうしたユビキタス案件には手も足も出ない。これまでのSIはハードを意識する必要がなかった。サーバーもパソコンもOSやミドルウエアで仮想化されており、SEはシステムのアーキテクチャだけを意識しさえすればシステムの設計ができ、プログラマもAPIを習得すればソフトを開発することができた。しかし、ユビキタス端末はまだむき出しのハードである。システム・インテグレータにとっては恐ろしく敷居が高い存在である。

 しかし、これからのSI案件はユビキタス関連が中心になってくるのは必定だ。システム・インテグレータはこの分野を何とかしないと、シュリンクしていく基幹業務システムという名のバックヤードのシステム開発に閉じ込められてしまう。

 振り返ってみれば、昔はシステム・インテグレータやソフト開発会社にとって、ハードは今ほど遠い存在ではなかった。“昔”とはパソコンで言えばMS-DOSの時代である。あのころはクライアント/サーバー・システムを構築する際には、パソコンやネットワーク機器というハードを熟知しないと、とてもまともなシステムは作れなかった。プリンターなどの周辺機器をつなぐにも、自らドライバーを作らなければならないこともあった。そうそう、組み込みソフトだって多くのシステム・インテグレータが普通に作っていた。

 なぜ、ハードがこんなに遠くなったのか。それはOSやミドルウエアの進化の結果にほかならない。この十数年で、OSやミドルウエアが急速に進化して、ハードを全く意識しないでアプリケーション開発ができるようになった。これはもちろん、アプリケーション開発の生産性向上という果実をもたらした(ソフトウエア工学が定着しない日本では、生産性向上は限定的だが)。だが、それはハードが標準化されている場合の話だ。ユビキタス端末は百花繚乱、様々なハードがある。皮肉なことにOSやミドルウエアの進化によるアプリケーション開発の“文明化”によって、システム・インテグレータからハードへの理解という“野性”を奪い、ユビキタス時代という激動の時代への対応を困難にしたのだ。

 さて、システム・インテグレータにはユビキタス時代に3つの選択肢がある。1つはシュリンクする既存のITサービス市場の中で“残存利益”を狙うこと。コモディティ化に対応できるなら、この選択肢も有力だろう。2つ目は、ユビキタス領域のシステム・インテグレーションに積極的に打って出ること。新たな成長が望めるが、ユビキタス端末や組み込みソフトなどの知識・ノウハウを何らかの形で獲得しなければならない。最後の1つは、ユビキタス端末もOSやミドルウエアによって仮想化される時代を待つこと。しかし、ユビキタス端末が次から次へと登場する中では、永遠に来ない未来かもしれない。

IT案件の商談増加は嬉しくない、本当は怖い“引き合いバブル”

2005-03-02 10:19:13 | ITビジネス
 あるITベンダーの営業の方に、「案件の引き合いが増えた」ことに関する謎解きをして頂いた。最近、いろんなITベンダーから引き合いが増えたとの話を聞くことが多く、私は素直に、踊り場とはいえ最近の景気の上向きトレンドのお陰で、ようやくユーザー企業のIT投資も復活してきたと思っていた。ITサービス業界には明るい話題だと喜んだのだが、実はそうでもないらしい。

 確かにユーザー企業はIT投資にどんどん前向きになりつつある。しかし、それだけでは、多くのITベンダーが「引き合いが増えた」と実感するほどの“めかた”にはならない。そうした案件は、以前から計画していたが棚上げされていたものが多く、そのユーザー企業に出入りしていたITベンダーの営業なら、以前から把握していた案件ばかりだろう。だから、その案件が動き出したといっても、「引き合いが増えた」という感触には違和感がある。引き合いが増えたと実感するためには、新規案件が増えなければならない。

 話を聞いた営業の方は、この謎をいとも簡単に解いてくれた。理屈は簡単だ。ユーザー企業が声を掛けるITベンダーの数が増えたのである。例えば1案件あたり、今までなら2~3社にRFPを出していたのが、最近では5~6社に声を掛けるようになった。結果としてマクロ的に見ると、引き合いは倍に膨らむ。しかも、これまでRFPをもらったことのないユーザー企業から声を掛けられたITベンダーにとっては、新規案件である。業界全体で「引き合いが増えた」と実感するのは、もっともなことである。

 しかし、これは“引き合いバブル”である。こうした理屈で引き合いが倍になったのであれば、失注する確率も倍になる。ITベンダーにとっては営業コストの増大をもたらす結果になる。しかも、ユーザー企業の料金値下げ圧力は依然として強い。声を掛けるITベンダーを増やすのも、多くは料金引き下げを狙ってのことだ。料金引き下げで売り上げは落ち、失注の増加で営業コストが増大する----ITベンダーにとっては嬉しくない現実がこの“引き合いバブル”の本質のようだ。

付加価値なき販売は悪か?----日本IBMの“不正行為”で改めて考えたこと

2005-02-28 19:35:17 | ITビジネス
 IBMの“不正行為”の件を書きながら、どうも気になることがあったので、改めていろいろと考えてみた。気になるこというのは、ITサービス業界でチンイツの売上計上の基準があり得るのかということだ。IBMはメーカーであり、「付加価値の付けることなく他社製品を売ってはならない」という規則があるらしいから、今回の一部社員の行為はIBM的には不正行為に当たる。しかし、例えばCTCや大塚商会のような販社としてのアイデンティティがある企業ならどうだろう。他社製品を顧客に販売する行為は本業そのものであり、販売価格の全額を売上計上するのは当然のことだろう。

 ITサービス業に分類される企業は、そのほとんどがシステム・インテグレータを目指し、それを標榜してきたために、各社とも同様のビジネスモデルを持つように錯覚してしまうが、実際には出自が全く異なる企業、従ってビジネスモデルも違う企業の集合体である。コンピュータ・メーカーには製造業の、販社には卸や小売りの、ソフト開発会社には請負業もしくは派遣業のビジネスモデルがある。システム・インテグレータになったからといって、本来のビジネスモデルが失われたわけではない。一時期、こうした元来のビジネスモデルを否定して、システム・インテグレータを目指せ、という論調が業界を覆ったが、今では旧来の“本業”の強みを生かす方向に風向きが変わりつつあるように思える。

 さてIBMはメーカーだから(IBM自身はこの定義を嫌がるだろうが)、取り扱った他社製ハードの販売価格と仕入れ値の差分だけを手数料として計上するのは合理的である。しかし、販社の場合はどうか。システム・インテグレーションという付加価値の有無に関わらず、お客への販売価格が売上高であり、仕入れ値は売上原価であり、その差分は粗利である。ソフト開発を本業とする企業の場合は若干微妙だが、取引に介在する理由があるのなら、お客への販売価格を売上計上しても問題ないだろう。介在する理由とは、お客から代行調達を頼まれたといったケースである。代行調達がお客にとってソリューションであるならば、全額売上計上しても全くやましいところはないと思う。

 メディア・リンクス事件は論外として、石油業界の業転のように最終的な買い手がはっきりしない取引で全額売上計上するのは確かに問題がある。しかし、いまITサービス業界の問題として取り上げられる「口座貸し」について、そしてIBMの今回の問題も含め、なんでもかんでも“悪”として同列に論じるのも問題だと思う。販社としての販売行為、企業信用の補完のために取引に介在したケースなど、個々の取引実態によってケースバイケースだろうし、企業のビジネスモデルによって同一の取引実態でも売上計上の基準は異なるだろう。

 要は、ITサービス業界で同一の売上計上の基準を想定することは観念的だと思う。企業ごとに合理的で一貫した計上基準があればよい話だろう。あとは会計士がそれをどう判断するかだ。その監査のための基準は今月中に出るらしいから、注目しておきたい。