陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その109・朝のイベント

2010-04-14 08:45:40 | 日記
 さて、練り直した粘土をきちんとビニールに包むと、次は汚水の処理だ。ろくろ作業で使ったバケツの水はドロドロににごっていて、水道に直接流すとパイプがつまってしまう。そこで上澄みだけをトイレに流し、沈殿した汚泥はベランダの大バケツに移しかえてためておく。そのまま陽射しに当てておけば、カラカラに乾燥するという寸法だ。
 こうした肉体労働で頭の中の薄雲を取っ払い、意識が冴えてきたところで、ようやく朝のメインイベントとなる。前夜の成功作品の高台ケズリだ。太陽センセーの教えを思い出し、器の底に刃をあてる。気合い充填、精神統一。高台を削り出して器のベースをつくり、最後に子供のチンチンのようなくちばしを付ける。太陽センセー直伝・片口型ぐい呑みの完成だ。前日夕方からのろくろ成形サイクルが、ここでやっと周回を終えるのだった。
 この時点が、オレにとっての日付変更線となる。「前日」の幕が降り、翌「本日」がここからはじまるわけだ。
 すがすがしい青空はすっかりひろがっている。急がなければ。昼飯用のおにぎりをつくらなければならないのだ。前述したようにおそろしく手間のかかるおにぎりなので、ほかほかの弁当箱をかかえて家を出るのはいつも遅刻ギリギリの時間だ。
 チャリにまたがり、寝不足の目をこすって走りだすと、丘の上から始業5分前のチャイムが響いてくる。かるく焦りつつ、ペダルをこぐ足に力をこめる。青々としげる稲田が吐き出すできたての酸素の中を疾過。心地いい。口ずさむのは「ツール・ド・フランス」のテーマだ。右から左からチャリ仲間が合流し、初夏の鮎の群れのように隊列をなしていく。そこでも絶対に負けたくないので、青筋を立ててペダルを踏む。連中とは常に勝負をしていなければならないのだ。そうするうちに全身の筋肉がめざめ、モチベーションがびんびんと回復をはじめる。
 学校手前の長い急坂を息を切らして登りきった時点で、いつもテンションはピークに達した。訓練棟に飛びこんで、この日一日分の麦茶をつくる。ガールフレンドたちの顔色をチェックする。ツカチンにガンを飛ばす。作業場の冷蔵庫にキープした食パンとマーガリン、レタス、チーズ、魚肉ソーセージを取り出し、サンドイッチにする。そしてそれをほおばりながらラジオ体操の列に並ぶと、今日もやるぞ、という気合いがみなぎった。オレはこのころ、こんな一日をすごしていた。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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