http://www.shinchosha.co.jp/topics/nakamura/index.html
平和で豊かとされる日本に於いても、虐げられている者たちは存在する。この小説の主人公は、里子に出された先で徹底的に虐待されてきた。どこまでが作者自身の体験なのかは分からないし、詮索しようとも思わない。だが、描写は恐ろしいほど生々しく、現実味がある。読み進むうちにこちらの心まで荒んでいくし、狂気の淵に落ちそうになるくだりには寒気が走った。
だが、最後まで読み終えた時、妙な清々しさみたいなものを感じたのも事実だ。それは、この小説が「生きていこう」という決意表明で締めくくられていることによるものだろう。ほんまりうの傑作マンガ『息をつめて走り抜けよう』にも似た「切実さの果て」の開放感を読者に味あわせて、この物語は幕を閉じるのだ。もちろん、主人公の人生は、そこからも長く続いていくのだろうが。
小説の出来としては稚拙に思える部分もある。特に目に付くのは、主人公と恋人との会話だ。どれもTVドラマのセリフのようで、現実味に欠ける。行動や感情を描写する文体が余りにも生々しいので、余計に落差を感じさせてしまうのだ。これは本当に惜しい。
とはいえ、印象に残ったセリフもある。本を貸してほしいと頼む恋人と、それに答える主人公との対話だ。
* * * * *
「俺が持ってるのは、暗いやつばかりだぞ」
「何でそんなの読むの」
「何でだろうな」
私はそう言い、小さく笑った。
「まあ、救われる気がするんだよ。色々考え込んだり、世界とやっていくのを難しく思ってるのが、自分だけじゃないってことがわかるだけでも」
P.64より
* * * * *
この部分には笑えた。なんだかとても微笑ましく感じたのだ。それに、こういう気持ちは僕にもよく理解できる。たとえば僕が最近観た映画の中には、重い題材を扱ったものや内省的な志向のものが多い。パニック障害になって会社を辞め、新興宗教団体に自分の居場所を見つけていく主人公とその恋人の生活を描いた『ある朝スウプは』。他人の生活を覗くことでしか「リアル」を感じられない男女が登場する『PEEP“TV”SHOW』。自殺をするために富士山麓の樹海に来た人々を描く『樹の海』。母親を殺して自転車で旅に出る少年が主人公の『17歳の風景 少年は何を見たのか』。普段「楽しい映画が好き」というようなことを書いているにも関わらず、重く痛ましい事柄を描いた作品にも強烈に惹かれるのだ。それは、やはり「色々考え込んだり、世界とやっていくのを難しく思ってるのが、自分だけじゃないってことがわかる」ことを望んでいるからだろう。
ところで、『土の中の子供』の主人公の恋人の名前は「白湯子」である。ルビが振ってないので、たぶん「さゆこ」と読むのだろう。しかし、普通の女性の名前にしては、ちょっと不自然だ。読んでる間中、それが気になって仕方なかった。何かの隠喩なのだろうか? うーん、分からん。
えー、普段は「ひとつの作品について語る時、他の作品を引き合いに出さない」ということを心掛けていますが、今回はそれを思いっきり破ってみました。まあ、たまにはいいよね。というか、これからはジャンジャン引き合いに出しちゃうかも。
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