この小説から伝わってくるものは実に多い。戦争の無意味さ。戦時にあっても人々は日々の生活の中で楽しいことを見つけながら生きてきたという事実。人を好きになることの尊さと儚さ。偶然がもたらす幸福。猜疑心が招く不幸。隠し通すことの美徳。価値観がひとつではないという真実。人の性格は環境や接する人によって形成されるという真理。そして、生きていくことの素晴らしさ。与えられた生を享受する歓び。ハルカと周りの人々を通じて「ほら、いろいろあるけど人生は楽しいよ」と言われたようで、読後感は爽やかである。
ただ、ひとつだけ注文を言えば、最後は現在のシーンで締めくくってほしかった。ほんの1ページでもいいから、現在のハルカを登場させて終わってほしかったと思う。まあ、要は「その方が収まりがいいじゃん」ってことなんだけどね。
<どうでもいい付け足し その1>
実は最初に『ハルカ・エイティ』というタイトルを知った時、てっきり「遙かなる80年代」という意味かと思った。もはや20年前となった80年代の様々な事象(ポケベル、バンドブーム、バブル経済、ボディコン、トレンディドラマとか)を盛り込んだ小説だと勘違いしたのよ。というか、姫野さん、そういうのを書きそうじゃん。
<どうでもいい付け足し その2>
あとがきを読めば分かる通り、『ハルカ・エイティ』は事実に基づいたフィクションであり、ハルカという女性には実在のモデルが存在する。作者の姫野さんは、その姪っ子である。おそらく姫野さんはハルカから様々な影響を受けたのだろう。
小説の冒頭、ティーラウンジの給仕から服を褒められ、ハルカが「夜店で十円の安物よ」と答える場面がある。それを読んだ時に僕が即座に思い浮かべたのは、姫野さんと直接お会いした時のことだ。その日、姫野さんはシースルーの黒いブラウスを着ていた。そして、それを「お似合いです」と誰かが褒めると、即座に「1000円なんですよ」と答えた。スカイブルーのフレームのメガネがオシャレだと言われた時は、うれしそうな表情をしながら「安物です」と即答していた。そういうヘンに正直なところ(という言い方もナンだが)は、明らかにハルカさんの影響なんだろうなぁ。あ、安いものを上手に身に付けるセンスも、もちろんハルカさん譲りだと思います。いやホント。
姫野カオルコ『ハルカ・エイティ』
http://www.bunshun.co.jp/book_db/html/3/24/34/4163243402.shtml
こちらは中日新聞でのインタビュー記事。これ、良い記事ですわ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/hom/20051119/ftu_____hom_____000.shtml
角田光代さんによる『ハルカ・エイティ』評。
http://book.asahi.com/review/TKY200511290246.html
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