少年トッパ

『チョコレート・ファイター』の感想

※お気に入り度→★★★★☆
※公式サイト→http://chocolatefighter.com/

 前評判通り、アクションが素晴らしい。ブルース・リーをはじめとする先人たちへの敬意に満ちた作品でもある。実に見事。しかし僕にとっては、しょっぱなからビックリすることばかりの映画でもあった。

 ビックリその1。いきなり阿部寛が登場! しかも阿部寛による日本語のモノローグから物語が始まる。いや、出てるのは知ってたけどさ、阿部寛の語りで話が進むとは思ってなかったので驚いたのよ。だって、タイ映画だからね。
 これ、タイで公開された時は字幕を付けたんだろうか。それともタイ語に吹き替えたのかな?

 しかしまあ、このビックリは、さほど大したことではない。ホントのビックリは、それから約10分後、つまり主人公であるゼンの幼少期が描かれる時に訪れる。
 ビックリその2。なんと、ゼンが自閉症児! そんなこと全然知らなかったので、声を出しそうになるほど驚いちまった。いやホント。
 同時にムクムクと不安感が沸き上がった。僕の息子も自閉症児なので、どうしても「リアリティ」にこだわってしまうのだ。世の中には自閉症の人を登場させた映画やドラマがたくさんあるけど、中には「そんなんあり得ねー」とか「悲劇的に扱いすぎ」とか「美化しすぎ」とか「見下げてるだけじゃん」とか思えるものも少なくない。さあ、この映画はどうだ? 能天気にアクション映画を楽しむはずだったのに、ここから僕はついつい身を固くして観ることになったわけだ。

 で、結論。この映画では自閉症をことさら悲劇的に描いていないし、美化もしていない。要は「物語の要素」であるだけだ。それはそれで潔い。自閉症だからこそゼンは卓越したワザを身につけることができた、というわけである。そう、自閉症児の学習能力や記憶力は、ビックリするほど高いのだ(例外もいるだろうけど)。
 感心させられたのは、カンフー映画やテレビゲームでの格闘シーンをゼンが見つめる場面。虚ろとも思える表情で見ているのだが、画面の中で起こっていることをゼンはすべて記憶し、身体に取り込んでいるのだ。僕の息子も、似たような状態になっていることがある(もちろんゼンほど凄い人間じゃないが)。好きなもの、夢中になっているものを見たり読んだりする時の集中力は、そりゃもう半端じゃないのだ。気に入ってる絵本の文章を丸暗記するなんて、まさに朝飯前(って、親バカ発言ですね)。もちろん、努力して行うのではなく、好きだから行っているわけだ。まあ、そういうのは自閉症の人に限らず、普通の人間でも同じだよね。好きこそ物の上手なれ、ってヤツだ。ただ、自閉症の人の場合、いわゆる健常者に比べて、やはり「集中」の度合いは凄まじく高い。だからこそ、短期間で何かを記憶したり習得したりできるのだろう。
 というわけで、この映画、自閉症者の学習能力や習得力の凄さを高らかに謳った作品なのである。もっとも、自閉症の人は基本的に争うことを好まないから、あんな風に闘うことはないだろう。結局のところ「そんなんあり得ねー」なのだが、その辺の大ざっぱさは妙に好ましく感じられる。

 ビックリその3。敵の中にも一人、自閉症もしくは知的障害の少年がいた! しかも、その少年、いわゆる「チック持ち」なのだ。そして、チックによる予測不能な動きを武器にして戦うんである。うわー、すげえ設定! ついつい考えてしまったのは「これ、生真面目な人権主義者とかなら怒らないか?」ってことである。不謹慎だ、なんて思う人もいるんじゃない? しかも、そのチック少年の動き、ものすごくリアルなのよ。もしかしたら本物?

 ゼンとチック少年との闘いは実に見応えがあった。ゼンは短時間でチックの規則性を見抜き、その動きを完璧に模倣することで相手より速く動き、見事に倒すのである。そのあと、さらに何人もの相手と闘うわけだが、僕としてはチック少年とのバトルが一番面白く、楽しめた。
 なので、チック少年がそのあと姿を見せなかったことには少々不満を感じる。どうせだったら、主人公と仲良くなった、という展開にしてほしかったなぁ。恋仲とかにはならなくていいから、ワザを競い合って楽しんでるようなシーンをエピローグで見せてほしかった。

 最後のビックリ。というか、終わってから気付いたけど、なんで『チョコレート・ファイター』という邦題なんだ? どこから「チョコレート」なんて言葉を思い付いたの? 内容と全然関係ないじゃん!

コメント一覧

トッパ
●SKDさん

ハル・ベリーの『チョコレート』は、原題が『Monster's Ball』なんですよ。直訳すると「怪物たちの舞踏会」ですが、刑務所で死刑執行前に看守たちが行う宴会のことだそうです。そのタイトル通り、『チョコレート』は悲劇に見舞われた女性を描いた重い映画でした。まあ、例によって、かなり内容を忘れてますが(笑)。
で、なんで『チョコレート』というタイトルになったかというと、劇中に何度もチョコレートが出てくるからみたいですが、真偽は不明です。僕は最初、肌の色のことかと思ってました。
ちなみに、『チョコレート・ファイター』の方は英語版のタイトルが『チョコレート』だそうです。

『スター・トレック』、面白かったですよね。こんなに血湧き肉踊る映画とは思ってませんでした。

●やぶさん

ああっ、そういえば食べてましたね。だから、このタイトルなんだ。しかし、やっぱり強引!(笑)

>海外映画でも字幕上映は少ない

アメリカやヨーロッパでは吹き替えが当たり前みたいですね。
個人的見解ですが、日本で字幕が普及した背景には、いわゆる西洋コンプレックスがあるような気がします。カッコいい外国人が田舎臭い日本語を喋るなんて許せない、みたいな(笑)。
やぶ
ゼンの好物がチョコレート(M&M's?マーブルチョコ?)だったからじゃないでしょーか。

タイ上映時は吹き替えじゃないですかね~
海外映画でも字幕上映は少ない、という話を聞いたことがあります。
SKD
ハル・ベリー「チョコレート」も不思議なタイトルでしたよね。
ほろ苦い結末だったのでしょうか?

「スタートレック」観て来ましたよ~。
TVシリーズ未見でしたが、すっごく!面白かったです♪

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