少年トッパ

『ハンコック』の感想 ※ネタバレあり

お気に入り度 ★★★★★☆☆☆☆☆

 嫌われ者のスーパーヒーローが主人公、という設定は素晴らしい。日本のSF好きなら、真っ先に藤子不二雄先生の『ウルトラスーパーデラックスマン』を想起するだろう(よね?)。正義感だけは強い脆弱なサラリーマン(外見はオバQに出ているラーメン好きの小池さんと同じ)が、ある日突然、桁外れのパワーを授かる。見た目は以前と変わらないものの、腕力も跳躍力もスーパーマン並みだ。その能力を活かして彼は犯罪者やならず者に次々と制裁を加えていくが、その正義の基準があまりにも厳しすぎるため、次第に世間から疎んじられるようになる。そして、やがては隔離されて生きるようになる——という物語だ。示唆に富んだ寓話である。
 この『ハンコック』も、序盤はそれに近い雰囲気だ。主人公のハンコックは世を守るスーパーヒーローとして活躍しているが、素行は最悪。真っ昼間から酒を飲んで眠りこけ、道行く者たちに悪態をつく、という体たらくだ。いざ犯罪者を捕まえる段になっても、跳び上がるために道路に穴を空けるわ、看板を吹っ飛ばすわ、ビルを壊すわと、ハタ迷惑なことこの上ない。せっかく犯人を捕まえても、警察からも市民からも非難され、アホ呼ばわりされる始末。実際、彼によって破壊されたビルや道路の被害総額は凄まじい数字になるのだ。
 しかし、そんな彼のイメージを一新させようとする者が現れる。売れない広告マン、レイだ。レイの助言により、ハンコックはいったん刑務所に入る。そうすれば犯罪が多発し、すぐにハンコックが必要とされるから、という理由からだ。その読み通り、ほどなくしてハンコックは警察からの要請を受け、銀行強盗を捕まえる。もちろん、それまでのような乱暴な方法ではなく、周囲の物を壊したりしないように細心の注意を払いながらである。それに、警官たちへの労いの言葉も忘れない。というか、しつこいほど「GOOD JOB」と口にして呆れられる。ともあれ、これでイメージアップ作戦は大成功。ハンコックは群衆からの拍手を浴び、真のスーパーヒーローになる。

 と、まあ、ここまでは面白い。というか、ここまでで物語としてはとりあえず完結している。未だハンコックがどうして強大なパワーを身に付けたのかが明かされていないから、後半はそっち方面に話が進むのだろうか。と思っていたら、レイの妻であるメアリーにハンコックがキスしようとするシーンになった。あらら、話は恋愛方面に行くのか。ハンコックがレイとの友情を大切にするか、はたまたメアリーを自分のものにすべきか悩む——そういう展開になるのか?
 なんて思ってたら、いきなりハンコックが吹っ飛ばされた。なんと、メアリーもハンコックと同じようなパワーを持っていたのだ。これには驚いた。実を言うと、この映画の予告編は今までほとんど観ていなかった。この手の面白そうなハリウッド大作に関しては、予告編の際は目を閉じるようにしているのだ(なので『ウォンテッド』や『アイアンマン』の予告編も現時点では未見)。だから、まさかこういう展開になるとは思わなかった。まったくもって予想外。面白くなりそうだ。しかも、スーパーパワーを持つ女を演じるのは、ハリウッドでも最高級の美人女優、シャーリーズ・セロン。さあ、どんな素晴らしいシーンを見せてくれる?
 ところが、その期待に反して、ここから物語はどんどん面白味を失う。たとえば、ハンコックとメアリーの超ハタ迷惑な大乱闘はそれなりに愉快なのだが、それまで世間から身を隠して生きてきたメアリーがあんな目立つことをしでかすのは不自然。この辺りはまったく説得力がない。また、ハンコックに復讐しようとする悪党がいかにも小物っぽいことも、物語のスケールを小さくしている。それに「二人が近づくと能力が消えていく」という法則(?)も、なんか取って付けたような感じに思えてしまう。せっかくスーパーヒーローが二人になったのだから、その能力を活かして巨大な敵に立ち向かうような物語にした方が良かったのではないだろうか。もしくは、スーパーヒーローを一人のままにしておいた方が良かったかも。

 とはいえ、ああいうロマンチックな終わり方は好き。もうちょっと「特殊な能力を持ってしまった者の悲哀」を深く描けば、かなりの傑作になったような気がする。
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