しかし、同時に「どこまで信じていいんだろうか」とも考えてしまう。今の時代、ちょっとネット検索すれば即座に「主人公のモデルとなった人物は、実は遺族担当になっていなかった」という記述が続々と出てくる。それを鵜呑みにするわけではないが、映画で描かれたこと(=おそらく原作で書かれていること)を100%事実だと思い込むのも危険だ。もちろん、「この物語はフィクションで云々」というお約束のコメントは入ってるわけだが。
なのでまあ、どこまでが事実なのかどうかは置いといて、映画として面白かったかどうかを書いていこう。以下、ネタバレ少しあり。
上映時間は3時間22分。途中、10分間の休憩時間がある。これだけ長い映画だと、観る側も終わった時に達成感みたいなものを味わえるものだ(『愛のむきだし』ではたっぷり味わえた)。しかし、この『沈まぬ太陽』の場合、エンドクレジットが出た時に感じたのは「えっ、それでおしまい?」という物足りなさだった。無論、すべての問題がスッキリ解決して大団円、なんて風に話が進むほど現実は甘くないだろう。でもさ、これだけのスケールの映画なら、もう少しカタルシスみたいなものを味あわせてくんなきゃ。
この映画のもっとも良くないところは、メインタイトルが出るまでの数分間じゃないだろうか。いくつかの時代の出来事を交錯させ、サスペンスチックな音楽で盛り上げていくのだ。そのテレビドラマ的な趣向は、いささか安っぽさは感じさせるものの、その時点では悪くはない。しかし、あとになって振り返ると、「結局あのシーンは何だったんだ?」とか「あれ、意味なかったじゃん」としか思えないのだ。
何よりも不可解なのは、デカい像を撃って倒すシーン。その直後にメインタイトルがドーンと出るので、「なぜ彼は象を撃つ羽目になったのか」がのちに描かれると思ったんだけど、それは一切なかった。さっきたまたま読んだ映画評に「巨象を倒すのは、強大な企業に立ち向かうことの暗喩」みたいなことが書かれたいたんだけど、それってマジ? 本当だとしたら、ものすごく雑で幼稚な暗喩じゃん。というか、暗喩と呼べるレベルじゃないよね。だって、自分に襲いかかってきているわけでもない象を撃ち殺すのと、人間を人間として扱わないような大企業に反旗を掲げるのとは、まったく違うことでしょ。
なので、僕としては、象を撃ったシーンには何か別の意味があると思ったのよ。たとえば、ワガママな顧客の要望に応えて仕方なく撃った、みたいな。そうじゃないとしたら、終盤になって、あの時の行いを反省して次にケニアに行く時は野生動物の保護に尽力する、とかね。でも、どっちでもなかった。ってことは、やはり暗喩もどきだったのか? だとしたら、まったく逆効果だよね。舞台が1960年代だから別に違法行為じゃなかっただろうけど、今だったらワシントン条約で規制されているわけだし、そもそも観客の大半は「象がかわいそう」と思うんじゃないだろうか(でもない?)。
ついでに書くと、主人公の家にデカい象牙が飾ってある場面も不可解。たぶん原作にはその意図が書いてあるんだろうけど、映画の中じゃ何の意味もないじゃん。もしかしたら僕の読解力不足?
もう一度、メインタイトルが出るまでの映像を振り返ってみよう。描かれていたのは「航空機の墜落」「パーティー会場での人間関係」「アフリカでの象撃ち」だ。時間軸を交錯させ、それぞれのシーンを思わせぶりに見せている以上、それに対する回答めいたものをあとから提示しなきゃいけないじゃないだろうか。しかし、パーティーに関しても象撃ちに関しても、その前後のいきさつは語られない。となると、メインタイトル前のアレは何だっただ? とエンドロールを眺めながら思っていたのは僕だけじゃない……よね?
あとさ、回想が多かったり時間軸をいじったりするのは結構だけど、それなら老けメイクや若作りメイクにはもっと力を入れなきゃ。渡辺謙と三浦友和はともかく、その他の出演者は若い時も年を取ってからもほとんど変わってないように見えるもん。なので時々こんがらがってしまったのよ。
そんなこんなで、力作であり意欲作であることは充分に伝わってくるものの、僕には何とも中途半端な作品にしか思えなかった。残念!
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トッパ
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