物語のつづき 物語78
すてりん、ころころ
こてりん ころころ
俺の目には一瞬、見渡す限りの大草原と美しい青空が流れたように見えたが、
それはこのピラミッド型の乗り物が下方の岩壁に向かって流れ落ちただけだった。
まるで風船にでも乗っているかのようにそのピラミッドは、ふわふわとゆっくり降下しだしたのである。
フットボールが地面を転がるように、歪(いびつ)な跳ね方をしながら、
黄金色のピラミッドは崖をゆっくりと降っていく。
ぽろりん ころころ
ころりん ころころ
ピラミッドの中に乗っている俺には、その弾みも心地よく、
宇宙遊泳をしているようにしか感じられなかった。
中は明るいが、外は真っ暗だ。
深海の中を底のほうへ降りていく潜水艦を彷彿とさせる。
「あー、うほん。
三嶋 総じゃな。。。
怖がることはない」
“人間何でも、初めてのことに対しては緊張するものである。
いったい何がどうなるのだろう・・・”
「ふーん、おぬしも
地上人生では、ずいぶんと
運命に翻弄されて生きてきたようじゃのう。
念力が足りぬわ」
白髭鷹(びゃくしおう)は、俺に背中を向けたまま、
そうしゃべりかけてきた。
「念力・・・」
久しぶりに聞いた言葉のような気がした。
日常生活ではあまり使わない言葉だろう。
“何を言ってるんだこの老人は・・・
だって、俺はエスパーじゃない”
老人に聞こえないように俺はそうつぶやいた。
しばらく下降しただろうか、
落下スピードが次第に増していく感じがした。
「自信が足りないんじゃ。。。つまりな。
もっとな、“こうしたい”と思ったときな、
“でも難しいだろう”なんて考えたらいかんのじゃ。
すぐ、腰砕けになるようではいかんでのう」
「は?」
「心の力が弱いんじゃ。
人を説得するときとかな、例えばの話じゃぞ。
うーん、
相手方に『いや、それは難しいですよ』なんて言われて、
すごすごと諦めて帰ってくるようではダメなんでな。
“絶対にオトしてみせる”とな。
全然意気消沈しないで当たっていかなくてわのぅ」
「いやあ、普通じゃないですか?
そんなの・・・
普通の人間はそんなにポジティブになれないですよ」
「普通じゃのう」
「じゃ、いいじゃないですか。
咎められるほど悪いことはしてませんよ僕は」
「いいんなら、いいんじゃ。
人生をいたずらにだな、
本当はできることも、ことごとくできないという
結果にしていく。
普通人と言えば普通人じゃな
人間はみんなそうじゃ」
「ん?
できるんですか?
やろうとすれば」
「ガッツじゃな。
“俺ならできる”と思わんから、
運命に翻弄されているかのような人生になるんじゃ」
ピラミッドの中は随分、狭苦しくて窮屈なのではないかと思ったが、
なぜか中は意外と広く感じられる。
操縦桿らしいものも全然見当たらなく、
どうやって操縦しているのか皆目検討がつかなかった。
格子状と言うのだろうか、
チェックと言えばいいのだろうか、
床はそのような模様の青色とグレーの落ち着いた床面である。
その中央に星型のマークがあって、
とにかく俺はそこにあぐらをかいているのである。
白髭鷹(びゃくしおう)が座るための操縦席だけは、
ずいぶん高級そうなデラックスシートかと言えば、
これまた、うーん、海辺にあるような大きな石のようだ。
といっても、単なる石ころとは違って、大理石のように美しく、
彼の身体がちょうどすっぽり埋まるように、
見事に形が整えられている。
丸い窓が3つ。
側面に二つ、底面に一つある。
これで一様外の様子を見ることができるのだが、
さらに、大きな四角い窓が一つ前方に存在する。
この四角い窓は、スクリーンに変わる場合もあるようだ。
かなりの深さまで落下してきたように思う。
そろそろ天上界の底辺あたりまで降りてきたんじゃないかしら。。。
乱気流に突入したように、
急にピラミッドが深く沈みこんだ。
真っ暗な外、
黒の中の黒、
暗黒の世界を漂う幽霊舟をうかがわせる。
その黒い空間を
遠くから、パチ、パチと
稲光のような光が外の空間を走ってくる。
白髭鷹(びゃくしおう)は、戦う前の土佐犬のように、
堂々として前方の窓を見つめている。
不安な気がするのは気のせいだろうか。。。
俺は、
気弱な性格がまた頭をもたげるのだ。
つづく
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こてりん ころころ
俺の目には一瞬、見渡す限りの大草原と美しい青空が流れたように見えたが、
それはこのピラミッド型の乗り物が下方の岩壁に向かって流れ落ちただけだった。
まるで風船にでも乗っているかのようにそのピラミッドは、ふわふわとゆっくり降下しだしたのである。
フットボールが地面を転がるように、歪(いびつ)な跳ね方をしながら、
黄金色のピラミッドは崖をゆっくりと降っていく。
ぽろりん ころころ
ころりん ころころ
ピラミッドの中に乗っている俺には、その弾みも心地よく、
宇宙遊泳をしているようにしか感じられなかった。
中は明るいが、外は真っ暗だ。
深海の中を底のほうへ降りていく潜水艦を彷彿とさせる。
「あー、うほん。
三嶋 総じゃな。。。
怖がることはない」
“人間何でも、初めてのことに対しては緊張するものである。
いったい何がどうなるのだろう・・・”
「ふーん、おぬしも
地上人生では、ずいぶんと
運命に翻弄されて生きてきたようじゃのう。
念力が足りぬわ」
白髭鷹(びゃくしおう)は、俺に背中を向けたまま、
そうしゃべりかけてきた。
「念力・・・」
久しぶりに聞いた言葉のような気がした。
日常生活ではあまり使わない言葉だろう。
“何を言ってるんだこの老人は・・・
だって、俺はエスパーじゃない”
老人に聞こえないように俺はそうつぶやいた。
しばらく下降しただろうか、
落下スピードが次第に増していく感じがした。
「自信が足りないんじゃ。。。つまりな。
もっとな、“こうしたい”と思ったときな、
“でも難しいだろう”なんて考えたらいかんのじゃ。
すぐ、腰砕けになるようではいかんでのう」
「は?」
「心の力が弱いんじゃ。
人を説得するときとかな、例えばの話じゃぞ。
うーん、
相手方に『いや、それは難しいですよ』なんて言われて、
すごすごと諦めて帰ってくるようではダメなんでな。
“絶対にオトしてみせる”とな。
全然意気消沈しないで当たっていかなくてわのぅ」
「いやあ、普通じゃないですか?
そんなの・・・
普通の人間はそんなにポジティブになれないですよ」
「普通じゃのう」
「じゃ、いいじゃないですか。
咎められるほど悪いことはしてませんよ僕は」
「いいんなら、いいんじゃ。
人生をいたずらにだな、
本当はできることも、ことごとくできないという
結果にしていく。
普通人と言えば普通人じゃな
人間はみんなそうじゃ」
「ん?
できるんですか?
やろうとすれば」
「ガッツじゃな。
“俺ならできる”と思わんから、
運命に翻弄されているかのような人生になるんじゃ」
ピラミッドの中は随分、狭苦しくて窮屈なのではないかと思ったが、
なぜか中は意外と広く感じられる。
操縦桿らしいものも全然見当たらなく、
どうやって操縦しているのか皆目検討がつかなかった。
格子状と言うのだろうか、
チェックと言えばいいのだろうか、
床はそのような模様の青色とグレーの落ち着いた床面である。
その中央に星型のマークがあって、
とにかく俺はそこにあぐらをかいているのである。
白髭鷹(びゃくしおう)が座るための操縦席だけは、
ずいぶん高級そうなデラックスシートかと言えば、
これまた、うーん、海辺にあるような大きな石のようだ。
といっても、単なる石ころとは違って、大理石のように美しく、
彼の身体がちょうどすっぽり埋まるように、
見事に形が整えられている。
丸い窓が3つ。
側面に二つ、底面に一つある。
これで一様外の様子を見ることができるのだが、
さらに、大きな四角い窓が一つ前方に存在する。
この四角い窓は、スクリーンに変わる場合もあるようだ。
かなりの深さまで落下してきたように思う。
そろそろ天上界の底辺あたりまで降りてきたんじゃないかしら。。。
乱気流に突入したように、
急にピラミッドが深く沈みこんだ。
真っ暗な外、
黒の中の黒、
暗黒の世界を漂う幽霊舟をうかがわせる。
その黒い空間を
遠くから、パチ、パチと
稲光のような光が外の空間を走ってくる。
白髭鷹(びゃくしおう)は、戦う前の土佐犬のように、
堂々として前方の窓を見つめている。
不安な気がするのは気のせいだろうか。。。
俺は、
気弱な性格がまた頭をもたげるのだ。
つづく
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