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クラウド

2012-06-23 06:12:23 | 
 台風4号が去ったあと富士山のつるし雲を筆頭にいろいろな雲が観測されたようで、せっかくの置き土産を見逃したのが悔しい今日この頃、前回のエントリーをふまえて、昔話と、現在のネット業界の動向にまったくついていけない立場からの俯瞰を少々。

 「当時のデータセンターはとにかく入館手続きが煩雑だった」と書いたけれど、本当だ。なにしろ、お客さんにこんなに頑丈に守ってまっせ、と見せなければならない。
 何回も物理的なドアやゲートを通過し、日本の城をモデルにしました、とかいいながら迷宮のような通路を抜け、暗くて狭い会議室のような部屋に案内して明かりをつけ、さぁ、ここにあなたの大切な情報が保存されますよ、と曇りガラスの脇のスイッチを隠しながら操作すると、鉄格子と鎖と南京錠に守られているモノリスみたいなサーバーラックが鎮座している。これでお客さんは安心して契約書にサインする。
 ここで、ふと、ここまでのすべてのものがピカピカに磨き上げられていることを思い出し、誰が掃除しているのだろう?、と疑問を持つのは御法度だ。毎朝、フツーにパートのおばちゃんが掃除をしている。毎朝、出入りをするたびに数十分も時間を要していては話にならないので、おそらく、おばちゃんにはおばちゃんの出入り口がある。きっと。
 まぁ、そういうことで、各種リソースの確保やお客さんの利便性を考えて、データセンターは大都市かその郊外にあった。

 その後、サーバーへの物理的アクセスの守りが過剰すぎると即時対応ができないので簡素にしましょう、自然災害やテロが怖いので複数拠点でバックアップをとりましょう、ということで北海道や沖縄にデータセンターが乱立した時期があった。
 さらに、アメリカで行われたオリンピックの映像を送るために太平洋の海底に光ファイバーが引かれまくったので日米間の通信費が異常に安くなり、北アメリカにバックアップ拠点をつくるお客さんも増えた。

 で、このあたりから現場をみたことがないので想像の話になる。

 物理的にサーバーを守るのは面倒だし、お客さんも日本の端や北アメリカにまで見に行くのは面倒。いっそ、見えなくしちゃえというのが、おそらく日本でのクラウド。もう見せなくてもいいので、日本中の空き地をみつけては、コンテナ型のデータセンターが置かれた。

 あれ、ヨーロッパは?

 最近、昔所属していた団体の後輩と話す機会があった。彼の勤めている会社はヨーロッパにある企業と関わりが深い。曰く、VPNでどこでも仕事ができるのはいいが、日本とヨーロッパの間でテレビ会議やファイル共有をするとタイムラグが気になって使い物にならない。
 それには理由がある。
 手元に端末がある方は、www.whitehouse.govとeuropia.euにpingかtracerouteしてみて欲しい。おそらく、前者はアメリカ西海岸あたりから100msくらいで返事があるが、後者は太平洋、北米大陸、大西洋を通って300msくらいかかっているはずだ。そう、インターネットにシルクロードはない!しかも、光は1秒間にたった地球7周半しか進んでくれない!
 日本-中国-インド-ヨーロッパと光ファイバーを敷設したいところだが、政治的、地理的その他もろもろで難しい。北極海の海底にも引かれはじめているようだが、太平洋と大西洋に引かれているものとは、まだ太さが違いすぎるので利用するには高価だ。ロシアにも期待したいが、これもしばらくかかりそうだ。なぜなら、安定した電源が必要だから。

 というわけで、日本国内向けにインターネットのサービスを提供するためのサーバーの実体は、ネットワーク的に近くて、世界一安定していると言われる電源がある日本の田舎のどこかに散らばっているのだろう。電源は当然、複数の変電所から受電+自家発電機で多重化してあるはずだが、さすがに西日本全体が停電して交通が乱れ、山間にある一本道をガソリンか軽油を積んだタンクローリーが自由に行き来できなくなると、困る。九州や四国、北海道にこの夏の節電を求めるのには、こういう事情があるのではないかと想像している。スマホでツイートくらいはできるだろうが、ブログでの詳細レポートとかはできなくなるかもしれない。

 昔話に戻る。

 インターネット上を運ばれていくパケットは、遅れたり、どこかで捨てられてしまったり、壊れたり、順番通り届かなかったり、大きさ制限がある経路では小分けにしてからもう一回組み立て直されたりしている。そのような、なんというか「汚い」状況を再現するのは意外と難しくて、当時の私は、いいお値段の装置を使って実験していた。記憶が間違っていなければ、その名前は「クラウド」。皮肉なもんです。


 あー、我ながらいやな話です。上を向いて歩きましょう。お手元にこれなどいかがでしょうか。
楽しい気象観察図鑑
武田 康男
草思社