最近たまたま YouTubeでこの曲 ↓ に出会い、あれこれの演奏を探しながら聴いている。
https://www.youtube.com/watch?v=r9ZV6uZWXzk
これが原曲。歌手の声は美しく伴奏のピアニストもすばらしい。リストはピアノ用に編曲していて、Youtubeでは原曲よりリスト編曲のものの方が圧倒的に多い。名曲だけあって、バックハウス、ルビンシュタインのような歴史的ピアニストから最近の中学生、若い女性ピアニストに至るまで、さまざまな演奏家がさまざまな編曲で数えきれない程の演奏をYouTubeに掲載している。
https://www.youtube.com/watch?v=H_xu9Fq4DNw
この演奏は最も若い少年のものだ。まずベーゼンドルファーの音色の美しさが群を抜いていて目をひいた。また多くのピアニストは持てる力の何分の一を発揮して弾くが、この少年は体力のすべてを費やして弾いている。(リストは遠慮会釈することなく自分の巨大な手のために書いている。)ちなみにリストはこの編曲でソプラノ、テノール、アルトの3声を3色の花のように弾き分けていることに気がついた。
私がこの曲(リストではなくシューマンの方、シューマンのピアノ伴奏は中学生にも弾けた)に触れたのはこの少年の頃であったこともあり、映像を見ているうちに懐かしさでいっぱいになる・・・・ 自分もこのように弾いていたのだ、と当時の自分と二重写しになって迫ってくる。
ヴァイオリン独奏によるこんな清新さに溢れた演奏も見つかった。フィッシャディスカウなどの伝統的演奏からは遠くかけはなれている。これはシューマンが新婚の妻クララのために書いたのだった。私は他のどんな演奏よりもこの演奏に心を奪われる・・・力にあふれたこの若い演奏を聴いていると、あの頃からもうほぼ一生分の年月が過ぎたのだ、と深い感慨にとらわれる。
https://www.youtube.com/watch?v=X1fzzM3vEYw
若い人ならこの曲の詩(リュッケルト作)を一目見て、印象に訴えるのはむしろこのような音楽かもしれない。この人の演奏はとりわけヴァイオリンならではの音程の美しさが心にしみる。
「君に捧げる愛の歌」
- あなたは私の魂、私の心、
あなたは私のこの上ない喜び、私の苦しみ、
あなたは私の世界、その中で私は生きている
あなたは私の空、その中へ私は浮かんでいく
あぁ あなたは私の墓、その下へ
私は永遠に私の悲しみを置いた! - あなたは私の安らぎ、私の和み、
あなたは天から私に授けられたもの。
あなたが私を愛することは、私を高めてくれる
あなたの眼差しは私を輝かせる。
あなたが愛することで私は高められる、
私の善良な守護神よ、私のより良い私よ! - (フリードリヒ・リュッケルト作、和訳MusicaClassicahttps://tsvocalschool.com/classic/widmung/より転載)
私が中学生の頃、どこからか探し出してきたこの曲の譜面を自分の本棚に飾っていた。それを姉が目ざとく見つけ、「私の本がなぜこんなところにあるのか」とイチャモンをつけてきた。口撃はじとじとと長く続いたが私は黙ってひたすら耐えた。幼い頃から苛められッ子であった私はそのようにして身を守るのが習い性となっていた。いつ終わるともしれない口撃に姉も疲れたのだろう、「じゃその楽譜はあげるから」といって去って行き、やっと私は解放され譜面も私のものになった。
姉は当時高校生かその少し上の年代で、合唱団に入っていた。学校の音楽の先生の口添えのおかげで私だけはピアノを習うという特権を得ていた。私も姉も全く同様に音楽が好きだったのに・・・ 私が音楽の先生にピアノを習うよう勧められた時はとても喜んでくれ、初めてピアノの先生の家に挨拶に行く時には付き添ってくれた。
しかし当時ピアノを習うということは我が家庭とはかけ離れた上流家庭だけに許された贅沢であった。そのことはよく分かりながらも、弟と同じくらい才能がある自分には「なぜピアノを習わせて貰えないのか」という親への不満は、いつものようにくすぶっていたことだろう。
そんな姉の気持ちが今やっと分かるようになった。それを思うたび、今更ながら姉の気持ちを慰める一端にでもならないかと思い、時にはCDなどを届けたりもしている。いま何をしたって過去を取り戻すことができるはずはないのだが。