泳げない恐怖もありましたが、頭の中は目の前の弟を助けることで一杯でした。
「行くしかない!」
そう強く決意すると泳げない恐怖は消え、顔をつけて思い切り足をバタのつかせて泳ぎ始めました。
息が続く限り前にと念じながら手と足を動かし続けました。
すると、急に目の前が青い白い空に切り替わりました。目の前を無数のしぶきが飛んでいます。
鼻に水が入り今にも溺れそうです。
誰かが私のからだを掴んでいて上向きになっています。
しばらくすると、横に回転を始めてまたバシャバシャと 空が流れています。
そうすると今度は体が水中から水面に上昇し空中にあがりました。
そして、足をつき隣を見るとびしょ濡れのおじさんが立っていました。
その横には幼い弟がいました。
助かったんだ。
弟の大きな泣き声が聞こえました。
助かったのです、弟も私も
見知らぬおじさんは何か言ってましたがさっぱりわかりませんでした。
私は、ただただ
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
を繰り返すのが精一杯でした。
見知らぬおじさんは、池のふちから短い急な斜面を登ってアスファルトで舗装された坂道に出ました。
下から「ありがとうございます」と御礼を言うと、倒れていた自転車を立て直し、跨がりました。
見知らぬおじさんの白いワイシャツはとスラックスのようなズボンがシワシワで水がポタポタと落ちていました。
こちらを一度だけ見つめると何か言って自転車をこぎ始めました。
にっこり笑っているように見えました。
坂道を登ると下りになり急に視界から消えました。
弟はまだ泣いていました。「はようかえらんといけん、かあさんにぶち怒られる」
泣く弟を連れてとぼとぼと家に向かって歩きました。
家に着くと母が居ました。すごく怒られることを予想していたのですが今起きた出来事を説明すると不思議なことに怒られません。
ただ、見知らぬおじさんの名前を聞かなかったことだけは怒られました。
夕食の時は父から、名前を聞かなかったこと、危険な池に子供だけで行ったことを怒られました。
弟を助けに行ったことは褒められも怒られもしませんでした。
あれから三十数年立ちます。
弟も家族を持って次の世代を育てています。
あのとき、誰も助けてくれなかったら?誰も通り掛からなかったら?
運が良かったのでしょうね。
その時の池は数年後に埋め立てられ、スーパ-マーケットが建てられました。
おしまい
追記
この記事は
特訓中 -2004/08/05
にTBしています。
「行くしかない!」
そう強く決意すると泳げない恐怖は消え、顔をつけて思い切り足をバタのつかせて泳ぎ始めました。
息が続く限り前にと念じながら手と足を動かし続けました。
すると、急に目の前が青い白い空に切り替わりました。目の前を無数のしぶきが飛んでいます。
鼻に水が入り今にも溺れそうです。
誰かが私のからだを掴んでいて上向きになっています。
しばらくすると、横に回転を始めてまたバシャバシャと 空が流れています。
そうすると今度は体が水中から水面に上昇し空中にあがりました。
そして、足をつき隣を見るとびしょ濡れのおじさんが立っていました。
その横には幼い弟がいました。
助かったんだ。
弟の大きな泣き声が聞こえました。
助かったのです、弟も私も
見知らぬおじさんは何か言ってましたがさっぱりわかりませんでした。
私は、ただただ
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
を繰り返すのが精一杯でした。
見知らぬおじさんは、池のふちから短い急な斜面を登ってアスファルトで舗装された坂道に出ました。
下から「ありがとうございます」と御礼を言うと、倒れていた自転車を立て直し、跨がりました。
見知らぬおじさんの白いワイシャツはとスラックスのようなズボンがシワシワで水がポタポタと落ちていました。
こちらを一度だけ見つめると何か言って自転車をこぎ始めました。
にっこり笑っているように見えました。
坂道を登ると下りになり急に視界から消えました。
弟はまだ泣いていました。「はようかえらんといけん、かあさんにぶち怒られる」
泣く弟を連れてとぼとぼと家に向かって歩きました。
家に着くと母が居ました。すごく怒られることを予想していたのですが今起きた出来事を説明すると不思議なことに怒られません。
ただ、見知らぬおじさんの名前を聞かなかったことだけは怒られました。
夕食の時は父から、名前を聞かなかったこと、危険な池に子供だけで行ったことを怒られました。
弟を助けに行ったことは褒められも怒られもしませんでした。
あれから三十数年立ちます。
弟も家族を持って次の世代を育てています。
あのとき、誰も助けてくれなかったら?誰も通り掛からなかったら?
運が良かったのでしょうね。
その時の池は数年後に埋め立てられ、スーパ-マーケットが建てられました。
おしまい
追記
この記事は
特訓中 -2004/08/05
にTBしています。
助かってよかったですね。
その時、見知らぬおじさんがいなかったら
今頃ここでtom-chanさんとBLOGで
お知り合いになっていなかったのかと思うと
胸がいっぱいになるざんす。
>弟はまだ泣いていました。「はようかえらんといけん、かあさんにぶち怒られる」
泣く弟を連れてとぼとぼと家に向かって歩きました。
今夜は魔女も妹や弟のことを思いながら眠るざんす・・・。
ありがと、tom-chanさん。
本当に助かってよかったです。
水の事故は本当にいたたまれないですよね。
この季節になると多いですね。3回溺れた私としては人ごとではないです
後で考えると馬鹿な行動でした。助けるどころか二人とも水死です。
でも、あの時は弟を助けたかったのです。見知らぬおじさんも、溺れる可能\性があったにも関わらず助けてくれました。
あの時助けてもらえなかったら、こうやって魔女様と出会うことも話すこともできなかったのですね。
あらためて命の恩人に感謝です。
ところで魔女様は長女なのですか?
名前も名乗らず2人を救助してくださったおじさんには一生感謝ですよね。
この時期の水の事故には毎年胸が痛みます。
私はお盆を過ぎたら海に入るなと親から口酸っぱく言われていますよ。最近は眺めに行くくらいで海には全然入ってないです…。
こんばんは。
命の恩人には一生感謝です。
よく、川や海で子供がおぼれて、親が助けに行って子供が助かり、親が死ぬケースがありますよね。
お盆を過ぎて泳いでいる人を見ると、何も無ければいいのになぁと思います。
私は長男です。(弟がひとり)
ワイフも長女です。(弟がひとり)
二人で昔話をすると、長男、長女って損な役柄って思います。
はい。
レスが遅れてすみません。
弟がこけて、命の恩人に助けてもらうまでの間はすごく長い時間で、いろんなことを考えました。
水の中ではまわりがスローモーションでした。