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(一切経山への登りから 東吾妻山と鎌沼)
夜3時に携帯のアラームが鳴り、目を覚ます。日が昇り始めると同時に吾妻小富士に登る予定なのだ。寝袋などを仕舞い、炊事場で食事を取って、暗い中歩き出す。磐梯吾妻スカイラインを歩き、吾妻小富士の登山口へ着いた頃にはだいぶ空が白んできた。火口壁の上に出るまでには長い木段を上がっていかなければならない。サブザックだけで来て正解だった。吹きっさらしの木段を登りきると火口壁の一番低い所に出る。一番乗りかと思ったが、既に数人が火口壁の上を歩いていた。
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(吾妻小富士の登り)
すり鉢状の火口を覗くと結構高さがある。標高差にして70~80mといったところか。以前来たときのように反時計回りに進んでいく。火口壁の上は十分な広さがあるので、落ちる心配はない。振り返ると相も変わらず一切経山が噴煙を上げ続けている。再び前に目をやれば、高山が三角形の山容を突き立てている。最高点(1707)へと近づくと朝焼けした朝日が目に入った。今日の天気も少々心配である。一切経山を眺めつつ戻ってくると初老の男性が登ってくるところであった。浄土平には早くもクルマがやって来ている。
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(火口を覗く)
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(噴煙を上げる一切経山 浄土平も一望できる)
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(高山を望む)
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(テント場が近くにある桶沼周辺)
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(朝焼け)
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(福島市内を望むが曇っていた)
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(火口と一切経山)
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(吾妻小富士のパノラマ)
浄土平へ下り、テントをたたみに野営場へと戻る。途中に桶沼があるので、ついでに寄って行こう。「桶沼経由兎平野営場」と書かれた道標のある所から桶沼への道に入る。森の中の木段を登りきると桶沼を見下ろす高台に出る。ベンチもあるので、浄土平観光のついでに寄るのも良いだろう。案内板によると浄土平レストハウスや吾妻小舎の水源として使われているという。そのまま吾妻小舎へと下り、野営場へと戻ってきた。さて撤収だ。テントに触ると物凄く濡れている。やっちまった…。換気するのを忘れていた。タオルで出来る限り水気を取るが、完全に乾かすことは不可能である。結局濡れ物を背負って縦走することになってしまった。
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(浄土平から一切経山)
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(右にあるのは天文台)
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(奥は東吾妻山)
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(吾妻小富士)
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(桶沼入口)
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(桶沼)
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(吾妻小舎 古いが綺麗な小屋だ)
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(セントラルロッジ 一般の利用はできない)
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(テン場内は木道などでつながっている)
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(沼もあるテン場内)
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(トイレ 水洗で綺麗)
ずっしりと重くなったザックを背負って浄土平ビジターセンターへとやって来る。いよいよ縦走の開始だ。湿原内の木道を進むと子供連れの観光客とすれ違う。子供たちには夏休みの良い思い出を作ってほしいと心から思う。通行禁止となった直登コースを過ぎると樹林帯の登りが始まる。まずは酸ヶ平を目指そう。樹林帯を抜けると木段交じりの急傾斜となる。見晴らしは良く、振り返れば、吾妻小富士と浄土平が見渡せる。高度を上げるにつれて硫黄の臭いが強くなってきた。浄土平でも臭っていたが、ここではかなり強く感じる。昨日とは異なり、日差しが強い暑い道を行く。沢の上流を見送ると木道が現れる。酸ヶ平に出てきた。一切経山を望めば、酸ヶ平の避難小屋が見える。結構綺麗な小屋なんじゃないだろうか。
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(浄土平ビジターセンター)
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(木道から東吾妻山を望む)
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(直登ルートは立入禁止)
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(振り返ると吾妻小富士が大きい)
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(噴煙 硫黄の臭いがきつい)
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(塩ノ川の上流だろうか)
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(酸ヶ平)
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(避難小屋を望む)
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(酸ヶ平のパノラマ)
分岐で一息入れ、一切経山を目指す。まずは目の前に見える避難小屋まで歩く。トイレの併設された小屋に着く。中は見なかったが、宿泊に適していそうだ。泊まっていいのかは分からないが。小屋から先は再び厳しい登りが待ち受ける。高い樹の生えないガレた火山なので、日差しは避けようがない。標高を上げてきたところで振り返ると沼が見える。地形図によると鎌沼というそうだ。更に高度を上げていくと平たい蓬莱山の向こうに東吾妻山のなだらかな山容を眺めることができる。今回は登る時間がなかったが、浄土平行のバスで日帰り登山も良いと思う。
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(酸ヶ平避難小屋)
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(鎌沼が見える)
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(一切経山への登りからのパノラマ)
山頂へと少しずつ近づいていくと急に頭が痛くなってきた。風邪か?でも朝バファリンを飲んで快方に向かっているはずだ。おそらく硫化水素を吸って、酸欠状態になっているのだろう。そうなると早く山頂まで上がってしまいたい。ニセピークに騙されつつも禿山を歩くとケルンが数基建つ一切経山(いっさいきょうやま 1948.8)の頂上に着いた。丸くて広い山頂の中心には三角点が埋設されている。山頂部が広過ぎて、縁に寄らないと周囲が見渡せない。とりあえず西の端に寄って西側の山並みを眺めてみる。縦走ルートは果てしなく遠い。北側へ寄ると魔女の瞳とも呼ばれる五色沼が見える。澄んだ青い色に吸い込まれそうな気分になる。
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(一切経山と1928のピークの間の沢状地形)
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(山頂は近い)
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(吾妻小富士が下に見える)
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(一切経山頂上の様子)
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(三角点)
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(五色沼 魔女の瞳の異名を持つ)
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(一切経山から西側の眺め)
時計を見ると既に8時半を回っている。この先どのくらい時間が掛かるだろうか。エアリアで調べてみようとすると…無い!どこかに置き忘れてしまったらしい。テントを撤収したときは間違いなく持っていたから、置いてきたとすればテン場のトイレだろう。しかし戻っている時間はない。幸い、登山計画書には各ピークまでの所要時間が書いてあるので、それを頼りにしよう。一切経山から家形山へは五色沼の西の縁を進んでいく。五色沼へ下る途中で2畳くらいの広さの大岩がある。五色沼を眺めて下っていると、五色沼の西のガレ場に三人グループが歩いているのが見える。大半の人は一切経山までしか歩かないので、この先を歩く人がいるのは心強い。
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(大岩を見下ろしつつ下る 右奥は縦走路)
テントが張れそうなほど広いガレ場を進むと石碑が立っている。見上げれば家形山の岩峰が姿を現している。石碑のすぐ先から家形山への厳しい登りが始まる。途中で高湯温泉への道が分かれている。ここを歩くことはないだろうな。家形山へはジグザグの登りで見た目ほどのきつさはない。ただ荷の重さだけは如何ともし難い。家形山の頂上(1877)にもケルンが積んである。それ以外に特に山頂であることを示すものはない。山頂に着いたところでちょうど大きな荷を背負った男性が出発するところであった。山頂からは一切経山の丸みを帯びた山容と五色沼の青さが際立っている。
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(ガレ場から五色沼)
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(石碑と家形山の頂上)
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(五色沼)
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(家形山頂上を望む)
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(家形山頂上 右端の男性は日帰りだったようだ)
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(家形山のパノラマ)
休憩も十分取ったところで出発しよう。しばらくは平坦な道が続く。福島市内から吾妻山を眺めると左端に高山の鋭鋒があり、その右に雪うさぎの雪形ができる吾妻小富士がある。噴煙を上げる一切経山から更に右に見えるのが家形山の平坦な山容なのだ。それ以外のピークはあまり目立たない。ボクはあの市内から見えるピークを三つ歩いたことになる。それだけで満足すべきだったのかもしれない。五色沼西の湿原を見たのを最後に樹林帯へと入っていく。昨日の雨のせいか道はかなり泥濘んでいる。まあ靴下も靴の中も乾かなかったので、今更浸水を気にするものではないけれども。家形山の北の端に来ると五色温泉への分岐がある。この先五色温泉側に展望台があったそうだが、通り過ぎてしまった。
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(五色沼西の湿原)
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(泥濘んだ道 こんなのがずっと続く)
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(藪濃い道)
五色温泉分岐から先は段々と藪濃くなっていく。雰囲気としては大深岳から大白森までの道とよく似ている。但し昨年と事情が異なるのは、今回はテントしかも濡れたものを持っているということだ。家形山までと異なり、ここからは一気にペースが落ちてしまう。とにかく展望のない藪が只管続く。大深岳から大白森のほうが適度に湿原があり、気分的には楽だったと言える。しかも道は雨のせいで酷く泥濘んでいる。したがってザックを下ろす場所もない。ガサガサと藪を漕いでいると北側が少し開ける所がある。ちょっと行った所に岩峰が見えたので、おそらく兵子だろう。そこから更に藪を抜けていくと堀田林道入口に着く。兵子の手前にある道だ。道が乾いていたのでザックを下ろしていると、ガサガサと音がする。一瞬熊かと思ったら初老の男性が前からやって来た。先の兵子で休憩を取っている男性に会ったという。おそらく家形山で見かけた男性だろう。会ってちょっと話をしてみたい気もする。
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(背丈を超える笹薮 正直しんどい)
堀田林道入口を過ぎると兵子の岩峰が姿を現す。だが見晴らしが良いということは日当たりも良いということだ。したがってここで猛烈な藪漕ぎを強いられる。兵子の分岐に出るのにこんなに苦しめられるとは思わなかった。藪を抜けると兵子と書かれた道標がある。さてザックはどうするか。ひとまず兵子の基部までザックを持ってくる。上は岩峰なので、平らな岩の上にザックを置いていくことにした。手ぶらで岩の上に上がると兵子(ひょっこ 1823)の頂上に出る。プレートが置かれているだけだが、見晴らしは良い。これまで歩いてきた一切経山と家形山、そしてこれから向かう烏帽子山などの山並みが見渡せる。だが家形山で見かけた男性の姿はなかった。もっと先へ行っているのだろう。
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(兵子頂上)
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(兵子のパノラマ)
兵子の分岐からニセ烏帽子山へはなだらかな登りが続く。藪は相変わらず続くが、気分的にはいくらか楽だ。藪を掻き分けて登るとニセ烏帽子山(1836)に着く。樹林に囲まれたピークだが、東吾妻山方面だけが開けている。問題はこの先烏帽子山までの間だ。ニセ烏帽子山から笹薮を下っていく。鞍部に下ってくると猛烈な藪が待つ。笹だけでなく、シャクナゲやマツ、モミの枝が行く手を阻む。鞍部が樹林が薄く、遠くにピークが見える。もしかしてあの遠いのが烏帽子山か…?烏帽子山への登りはニセ烏帽子山と比べると藪濃いせいでかなりきつい。笹薮、倒木、シャクナゲ・ハイマツの枝…と延々と続く。特にマツの枝は固く、押し退けようとすると跳ね返されてしまう。傾斜が緩くなるとシャクナゲの森が広がる。ラジオの音なのか、人の声が聞こえてきた。森を抜けると烏帽子山(1879)の頂上だ。石が積み重ねられたピークで、西側の眺めが良い。正面の三角形の山は昭元山だ。あそこへ登り返すのはかなりきつそうだ。南側に目をやると大きな湿地帯が見える。地形図を見ると谷地平というらしい。あそこへ行く機会はあるのだろうか。先ほど聞こえた人の声の正体は家形山で見かけた男性が掛けていたラジオの音であった。40~50代の男性で、話しかけると聞き慣れた訛りがある。「地元の方ですか?」と聞くと、会津若松からやって来たという。かつては北アルプスなどにも登っていたらしいが、こんなに酷い道は初めてだという。確かに酷い道だ。でも大深岳から大白森も似たような所はあったので、荷の重ささえなければ、何とかなるレベルだろう。
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(ニセ烏帽子山)
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(東吾妻山だろうか それとも一切経山だろうか)
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(藪…)
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(烏帽子山頂上近く シャクナゲが多い)
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(昭元山)
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(真ん中の黄緑色した辺りが谷地平)
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(烏帽子山の標柱)
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(烏帽子山のパノラマ)
疲れていたので、男性に先に行ってもらうことにした。男性がかなり下ったのを見計らって出発する。烏帽子山から西へは石がゴロゴロした歩きにくい道を下っていく。鏡沼が見えるが、側を通ることはあるのだろうか。下っているうちに男性の姿は見えなくなっていた。鞍部に下る手前で樹林帯に入るようだ。鞍部へ下ってくると湿地帯となっている。鏡沼は見られる位置にないらしい。湿地帯は飛び石伝いに越えていく。ここに限らず、家形山からの縦走ルートは泥濘が多く、飛び石が敷かれていることが多い。樹林帯に入ると藪。もううんざりだ。藪を抜けるとテープの張ってある崩壊地上に着く。風が涼しい。崩壊地を過ぎると藪濃い道に戻る。だが烏帽子山の登りに比べると藪が薄く、登りやすい。傾斜が急なせいか、樹林が薄くなってきた。振り返ると烏帽子山から一切経山までの山並みが見える。首を振り振り登るといつの間にか昭元山(1892.5)の頂上に着いてしまった。樹林に覆われた山頂だが、一切経山方面だけが切り開かれている。山頂では先ほどの男性が休憩を取っていた。このペースだと明月荘へは男性のほうが早いだろう。男性も明月荘に泊まるというので、先に小屋まで行ってもらうことにした。
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(烏帽子山からの下り 前は若松の男性 鏡沼も見えている)
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(昭元山は雲に隠れてしまった)
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(烏帽子山の岩場)
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(湿原 飛び石伝いに行こう)
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(烏帽子山を振り返る)
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(昭元山)
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(一切経山辺りらしい)
男性が出発した後、ゆっくりと歩き出す。男性が向かった通り、森の中を下っていく。急傾斜なので、下るのも一苦労だ。鞍部へ近づくと傾斜が緩くなり、また藪濃くなっていく。鞍部から登り返そうとするところで先ほどの男性が前から藪を戻って来た。話を聞くと藪で迷って道を戻ってきてしまったという。そこでボクが前を行くことにした。登りになると急傾斜の藪が道を覆っている。確かにこの藪を掻き分けて登っていくのは面倒で、迷いやすい。傾斜の急な樹林帯を抜けると緩やかな湿地帯が広がる。そして正面にはアオモリトドマツに覆われた東大巓が見える。
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(やぶ…)
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(藪を抜けると湿地帯が広がる)
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(東大巓方面を望む)
湿地帯に入ると樹の背丈は低くなる。湿地帯には池塘が点在し、これまでの暗い藪山とは別天地である。登りは緩やかとなったが、直射日光を受ける分、暑さでペースは上がらない。道には所々木道が敷かれ、大きく溝のようになっている所もあるが、相変わらず藪に覆い隠されている所が多い。木道が敷かれたちょっとした広場が谷地平分岐である。ここでザックを下ろして休憩していると先ほどの男性もやって来る。男性は今日は明月荘泊まり。明日は西大巓を往復して再び明月荘に泊まるか、谷地平避難小屋で泊まるという。そして最終日はクルマを停めた浄土平へと戻るという。単なる縦走と比べると贅沢な行程だ。長い休憩を取っていると今度は男性三人組がやって来た。彼らも明月荘に泊まるという。今日は混み合うかもしれない。
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(池塘も多い)
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(低い樹林帯が続く)
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(谷地平分岐の湿原)
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(右が昭元山 真ん中の丸いのが烏帽子山)
谷地平分岐を最初に出発し、最後の登りに取り掛かる。木道が敷かれ、藪も無い。歩きやすさは随分増した。時折振り返ると平たい三角形をした昭元山がよく目立つ。丸みを帯びた烏帽子山は昨年の曲崎山のようだ。登山行程のきつさも曲崎山に似ていたが、見晴らしの良さは烏帽子山のほうが優っている。それだけでもましだろう。ワタスゲの生える湿原を眺めつつ、ノロノロと高度を上げていく。樹林帯に入ると東大巓の分岐に出る。東大巓へは明日寄って行こうかとも思っていたのだが、思い切って登ってみる。するとすぐに東大巓(ひがしだいてん 1927.9)の頂上に着いてしまった。笹とアオモリトドマツに囲まれたピークで展望は無い。
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(木道の登りが続く)
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(昭元山などの眺めが良い)
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(ワタスゲ)
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(池塘)
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(東大巓への登り)
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(東大巓分岐)
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(東大巓頂上)
分岐に戻ると三人組の一人がちょうど着いたところだった。山頂はすぐそこであることを伝えて歩き出す。東大巓から明月荘へは緩やかな下りが続く。木道を勢いよく下っていくと西吾妻山への分岐に出る。分岐からは明月荘から明星湖へと続く湿原が見渡せる。あれ?ちょっと高くなっていないか?少し登っていかなければならないと思い始めると、途端にペースが落ちる。すると男性三人組が追い付いてきた。彼らのほうが速そうなので、先に行ってもらうことにした。ボクを追い抜くと彼らはすぐに見えなくなってしまった。下って下って、明月荘の直前で少し登る。まあこのくらいなら何とかなる。木道脇から樹林帯を抜けると明月荘に着く。よろよろと小屋に入ると先客は男性三人組だけであった。場所を確保し、ひとまず水を汲みに行く。小屋の入口に水場が書かれているので、それを参考に探しに行く。
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(明月荘が見える)
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(チングルマ)
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(明星湖辺りの湿原)
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(明月荘付近を望む)
水場へは明星湖への道から右に曲がって大きく下っていく。不安になってくるほど下っていく。しばらく下っていくと水場まで4分と書かれた道標が倒れている。まだ下るのか。崖地が見える辺りまで下ってくるとコバイケイソウが咲き乱れるお花畑が現れる。夕暮れ迫る中、涼しげな風に白い花がゆらゆらと揺れている。今日一日の疲れを癒してくれるようだ。お花畑から更に一段下ると水場である金明水に着く。パイプが設けられ、整備状況は良好だ。水を汲んだ後、顔を洗おうと思ったが、三人組の一人がやって来たので、明日また来ることにした。
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(水場への道 ここで右に曲がる)
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(コバイケイソウ)
疲れた体を引きずって小屋に戻ると若松の男性がやって来ていた。男性と話していると関西から来たという二人組もやって来た。彼らは昨日吾妻小舎に泊まったという。ボクも吾妻小舎に泊まれば良かったかな…。でも土湯温泉からの歩きだと天候によっては浄土平に着けない可能性もあった。バスで浄土平まで行けない以上、テント泊はやむを得なかった。最初に着いた三人組は上の階に移ってくれたので、下の板張りを四人で広く使うことができた。夕闇迫る頃、一人外に出て、東大巓を眺める。明日は早く起きて明星湖まで行ってみよう。しかし、この選択が間違いであったことを次の日に嫌というほど思い知らされることになるのであった。
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(小屋前から東大巓を望む)
DATA:
浄土平野営場4:20~4:54吾妻小富士~5:30桶沼~6:34浄土平野営場~7:05浄土平ビジターセンター~7:52酸ヶ平~
8:38一切経山~9:30家形山~10:38兵子~11:10ニセ烏帽子山~12:00烏帽子山~13:22昭元山~15:19東大巓~
15:56明月荘(宿泊)
浄土平野営場 料金 900円(基本料金400円 テント一張500円) トイレは水洗で綺麗 洋式もあり
携帯電話は通じないので、浄土平へ出てくる必要がある
明月荘 2階建で20人位泊まれます トイレは和式で汲み取り式 水場は往復20分
携帯電話は辛うじて通じる
地形図 吾妻山 天元台
歩数 24,467歩
夜3時に携帯のアラームが鳴り、目を覚ます。日が昇り始めると同時に吾妻小富士に登る予定なのだ。寝袋などを仕舞い、炊事場で食事を取って、暗い中歩き出す。磐梯吾妻スカイラインを歩き、吾妻小富士の登山口へ着いた頃にはだいぶ空が白んできた。火口壁の上に出るまでには長い木段を上がっていかなければならない。サブザックだけで来て正解だった。吹きっさらしの木段を登りきると火口壁の一番低い所に出る。一番乗りかと思ったが、既に数人が火口壁の上を歩いていた。
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(吾妻小富士の登り)
すり鉢状の火口を覗くと結構高さがある。標高差にして70~80mといったところか。以前来たときのように反時計回りに進んでいく。火口壁の上は十分な広さがあるので、落ちる心配はない。振り返ると相も変わらず一切経山が噴煙を上げ続けている。再び前に目をやれば、高山が三角形の山容を突き立てている。最高点(1707)へと近づくと朝焼けした朝日が目に入った。今日の天気も少々心配である。一切経山を眺めつつ戻ってくると初老の男性が登ってくるところであった。浄土平には早くもクルマがやって来ている。
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(火口を覗く)
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(噴煙を上げる一切経山 浄土平も一望できる)
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(高山を望む)
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(テント場が近くにある桶沼周辺)
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(朝焼け)
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(福島市内を望むが曇っていた)
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(火口と一切経山)
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(吾妻小富士のパノラマ)
浄土平へ下り、テントをたたみに野営場へと戻る。途中に桶沼があるので、ついでに寄って行こう。「桶沼経由兎平野営場」と書かれた道標のある所から桶沼への道に入る。森の中の木段を登りきると桶沼を見下ろす高台に出る。ベンチもあるので、浄土平観光のついでに寄るのも良いだろう。案内板によると浄土平レストハウスや吾妻小舎の水源として使われているという。そのまま吾妻小舎へと下り、野営場へと戻ってきた。さて撤収だ。テントに触ると物凄く濡れている。やっちまった…。換気するのを忘れていた。タオルで出来る限り水気を取るが、完全に乾かすことは不可能である。結局濡れ物を背負って縦走することになってしまった。
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(浄土平から一切経山)
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(右にあるのは天文台)
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(奥は東吾妻山)
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(吾妻小富士)
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(桶沼入口)
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(桶沼)
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(吾妻小舎 古いが綺麗な小屋だ)
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(セントラルロッジ 一般の利用はできない)
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(テン場内は木道などでつながっている)
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(沼もあるテン場内)
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(トイレ 水洗で綺麗)
ずっしりと重くなったザックを背負って浄土平ビジターセンターへとやって来る。いよいよ縦走の開始だ。湿原内の木道を進むと子供連れの観光客とすれ違う。子供たちには夏休みの良い思い出を作ってほしいと心から思う。通行禁止となった直登コースを過ぎると樹林帯の登りが始まる。まずは酸ヶ平を目指そう。樹林帯を抜けると木段交じりの急傾斜となる。見晴らしは良く、振り返れば、吾妻小富士と浄土平が見渡せる。高度を上げるにつれて硫黄の臭いが強くなってきた。浄土平でも臭っていたが、ここではかなり強く感じる。昨日とは異なり、日差しが強い暑い道を行く。沢の上流を見送ると木道が現れる。酸ヶ平に出てきた。一切経山を望めば、酸ヶ平の避難小屋が見える。結構綺麗な小屋なんじゃないだろうか。
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(浄土平ビジターセンター)
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(木道から東吾妻山を望む)
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(直登ルートは立入禁止)
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(振り返ると吾妻小富士が大きい)
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(噴煙 硫黄の臭いがきつい)
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(塩ノ川の上流だろうか)
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(酸ヶ平)
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(避難小屋を望む)
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(酸ヶ平のパノラマ)
分岐で一息入れ、一切経山を目指す。まずは目の前に見える避難小屋まで歩く。トイレの併設された小屋に着く。中は見なかったが、宿泊に適していそうだ。泊まっていいのかは分からないが。小屋から先は再び厳しい登りが待ち受ける。高い樹の生えないガレた火山なので、日差しは避けようがない。標高を上げてきたところで振り返ると沼が見える。地形図によると鎌沼というそうだ。更に高度を上げていくと平たい蓬莱山の向こうに東吾妻山のなだらかな山容を眺めることができる。今回は登る時間がなかったが、浄土平行のバスで日帰り登山も良いと思う。
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(酸ヶ平避難小屋)
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(鎌沼が見える)
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(一切経山への登りからのパノラマ)
山頂へと少しずつ近づいていくと急に頭が痛くなってきた。風邪か?でも朝バファリンを飲んで快方に向かっているはずだ。おそらく硫化水素を吸って、酸欠状態になっているのだろう。そうなると早く山頂まで上がってしまいたい。ニセピークに騙されつつも禿山を歩くとケルンが数基建つ一切経山(いっさいきょうやま 1948.8)の頂上に着いた。丸くて広い山頂の中心には三角点が埋設されている。山頂部が広過ぎて、縁に寄らないと周囲が見渡せない。とりあえず西の端に寄って西側の山並みを眺めてみる。縦走ルートは果てしなく遠い。北側へ寄ると魔女の瞳とも呼ばれる五色沼が見える。澄んだ青い色に吸い込まれそうな気分になる。
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(一切経山と1928のピークの間の沢状地形)
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(山頂は近い)
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(吾妻小富士が下に見える)
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(一切経山頂上の様子)
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(三角点)
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(五色沼 魔女の瞳の異名を持つ)
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(一切経山から西側の眺め)
時計を見ると既に8時半を回っている。この先どのくらい時間が掛かるだろうか。エアリアで調べてみようとすると…無い!どこかに置き忘れてしまったらしい。テントを撤収したときは間違いなく持っていたから、置いてきたとすればテン場のトイレだろう。しかし戻っている時間はない。幸い、登山計画書には各ピークまでの所要時間が書いてあるので、それを頼りにしよう。一切経山から家形山へは五色沼の西の縁を進んでいく。五色沼へ下る途中で2畳くらいの広さの大岩がある。五色沼を眺めて下っていると、五色沼の西のガレ場に三人グループが歩いているのが見える。大半の人は一切経山までしか歩かないので、この先を歩く人がいるのは心強い。
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(大岩を見下ろしつつ下る 右奥は縦走路)
テントが張れそうなほど広いガレ場を進むと石碑が立っている。見上げれば家形山の岩峰が姿を現している。石碑のすぐ先から家形山への厳しい登りが始まる。途中で高湯温泉への道が分かれている。ここを歩くことはないだろうな。家形山へはジグザグの登りで見た目ほどのきつさはない。ただ荷の重さだけは如何ともし難い。家形山の頂上(1877)にもケルンが積んである。それ以外に特に山頂であることを示すものはない。山頂に着いたところでちょうど大きな荷を背負った男性が出発するところであった。山頂からは一切経山の丸みを帯びた山容と五色沼の青さが際立っている。
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(ガレ場から五色沼)
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(石碑と家形山の頂上)
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(五色沼)
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(家形山頂上を望む)
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(家形山頂上 右端の男性は日帰りだったようだ)
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(家形山のパノラマ)
休憩も十分取ったところで出発しよう。しばらくは平坦な道が続く。福島市内から吾妻山を眺めると左端に高山の鋭鋒があり、その右に雪うさぎの雪形ができる吾妻小富士がある。噴煙を上げる一切経山から更に右に見えるのが家形山の平坦な山容なのだ。それ以外のピークはあまり目立たない。ボクはあの市内から見えるピークを三つ歩いたことになる。それだけで満足すべきだったのかもしれない。五色沼西の湿原を見たのを最後に樹林帯へと入っていく。昨日の雨のせいか道はかなり泥濘んでいる。まあ靴下も靴の中も乾かなかったので、今更浸水を気にするものではないけれども。家形山の北の端に来ると五色温泉への分岐がある。この先五色温泉側に展望台があったそうだが、通り過ぎてしまった。
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(五色沼西の湿原)
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(泥濘んだ道 こんなのがずっと続く)
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(藪濃い道)
五色温泉分岐から先は段々と藪濃くなっていく。雰囲気としては大深岳から大白森までの道とよく似ている。但し昨年と事情が異なるのは、今回はテントしかも濡れたものを持っているということだ。家形山までと異なり、ここからは一気にペースが落ちてしまう。とにかく展望のない藪が只管続く。大深岳から大白森のほうが適度に湿原があり、気分的には楽だったと言える。しかも道は雨のせいで酷く泥濘んでいる。したがってザックを下ろす場所もない。ガサガサと藪を漕いでいると北側が少し開ける所がある。ちょっと行った所に岩峰が見えたので、おそらく兵子だろう。そこから更に藪を抜けていくと堀田林道入口に着く。兵子の手前にある道だ。道が乾いていたのでザックを下ろしていると、ガサガサと音がする。一瞬熊かと思ったら初老の男性が前からやって来た。先の兵子で休憩を取っている男性に会ったという。おそらく家形山で見かけた男性だろう。会ってちょっと話をしてみたい気もする。
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(背丈を超える笹薮 正直しんどい)
堀田林道入口を過ぎると兵子の岩峰が姿を現す。だが見晴らしが良いということは日当たりも良いということだ。したがってここで猛烈な藪漕ぎを強いられる。兵子の分岐に出るのにこんなに苦しめられるとは思わなかった。藪を抜けると兵子と書かれた道標がある。さてザックはどうするか。ひとまず兵子の基部までザックを持ってくる。上は岩峰なので、平らな岩の上にザックを置いていくことにした。手ぶらで岩の上に上がると兵子(ひょっこ 1823)の頂上に出る。プレートが置かれているだけだが、見晴らしは良い。これまで歩いてきた一切経山と家形山、そしてこれから向かう烏帽子山などの山並みが見渡せる。だが家形山で見かけた男性の姿はなかった。もっと先へ行っているのだろう。
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(兵子頂上)
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(兵子のパノラマ)
兵子の分岐からニセ烏帽子山へはなだらかな登りが続く。藪は相変わらず続くが、気分的にはいくらか楽だ。藪を掻き分けて登るとニセ烏帽子山(1836)に着く。樹林に囲まれたピークだが、東吾妻山方面だけが開けている。問題はこの先烏帽子山までの間だ。ニセ烏帽子山から笹薮を下っていく。鞍部に下ってくると猛烈な藪が待つ。笹だけでなく、シャクナゲやマツ、モミの枝が行く手を阻む。鞍部が樹林が薄く、遠くにピークが見える。もしかしてあの遠いのが烏帽子山か…?烏帽子山への登りはニセ烏帽子山と比べると藪濃いせいでかなりきつい。笹薮、倒木、シャクナゲ・ハイマツの枝…と延々と続く。特にマツの枝は固く、押し退けようとすると跳ね返されてしまう。傾斜が緩くなるとシャクナゲの森が広がる。ラジオの音なのか、人の声が聞こえてきた。森を抜けると烏帽子山(1879)の頂上だ。石が積み重ねられたピークで、西側の眺めが良い。正面の三角形の山は昭元山だ。あそこへ登り返すのはかなりきつそうだ。南側に目をやると大きな湿地帯が見える。地形図を見ると谷地平というらしい。あそこへ行く機会はあるのだろうか。先ほど聞こえた人の声の正体は家形山で見かけた男性が掛けていたラジオの音であった。40~50代の男性で、話しかけると聞き慣れた訛りがある。「地元の方ですか?」と聞くと、会津若松からやって来たという。かつては北アルプスなどにも登っていたらしいが、こんなに酷い道は初めてだという。確かに酷い道だ。でも大深岳から大白森も似たような所はあったので、荷の重ささえなければ、何とかなるレベルだろう。
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(ニセ烏帽子山)
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(東吾妻山だろうか それとも一切経山だろうか)
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(藪…)
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(烏帽子山頂上近く シャクナゲが多い)
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(昭元山)
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(真ん中の黄緑色した辺りが谷地平)
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(烏帽子山の標柱)
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(烏帽子山のパノラマ)
疲れていたので、男性に先に行ってもらうことにした。男性がかなり下ったのを見計らって出発する。烏帽子山から西へは石がゴロゴロした歩きにくい道を下っていく。鏡沼が見えるが、側を通ることはあるのだろうか。下っているうちに男性の姿は見えなくなっていた。鞍部に下る手前で樹林帯に入るようだ。鞍部へ下ってくると湿地帯となっている。鏡沼は見られる位置にないらしい。湿地帯は飛び石伝いに越えていく。ここに限らず、家形山からの縦走ルートは泥濘が多く、飛び石が敷かれていることが多い。樹林帯に入ると藪。もううんざりだ。藪を抜けるとテープの張ってある崩壊地上に着く。風が涼しい。崩壊地を過ぎると藪濃い道に戻る。だが烏帽子山の登りに比べると藪が薄く、登りやすい。傾斜が急なせいか、樹林が薄くなってきた。振り返ると烏帽子山から一切経山までの山並みが見える。首を振り振り登るといつの間にか昭元山(1892.5)の頂上に着いてしまった。樹林に覆われた山頂だが、一切経山方面だけが切り開かれている。山頂では先ほどの男性が休憩を取っていた。このペースだと明月荘へは男性のほうが早いだろう。男性も明月荘に泊まるというので、先に小屋まで行ってもらうことにした。
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(烏帽子山からの下り 前は若松の男性 鏡沼も見えている)
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(昭元山は雲に隠れてしまった)
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(烏帽子山の岩場)
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(湿原 飛び石伝いに行こう)
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(烏帽子山を振り返る)
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(昭元山)
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(一切経山辺りらしい)
男性が出発した後、ゆっくりと歩き出す。男性が向かった通り、森の中を下っていく。急傾斜なので、下るのも一苦労だ。鞍部へ近づくと傾斜が緩くなり、また藪濃くなっていく。鞍部から登り返そうとするところで先ほどの男性が前から藪を戻って来た。話を聞くと藪で迷って道を戻ってきてしまったという。そこでボクが前を行くことにした。登りになると急傾斜の藪が道を覆っている。確かにこの藪を掻き分けて登っていくのは面倒で、迷いやすい。傾斜の急な樹林帯を抜けると緩やかな湿地帯が広がる。そして正面にはアオモリトドマツに覆われた東大巓が見える。
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(やぶ…)
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(藪を抜けると湿地帯が広がる)
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(東大巓方面を望む)
湿地帯に入ると樹の背丈は低くなる。湿地帯には池塘が点在し、これまでの暗い藪山とは別天地である。登りは緩やかとなったが、直射日光を受ける分、暑さでペースは上がらない。道には所々木道が敷かれ、大きく溝のようになっている所もあるが、相変わらず藪に覆い隠されている所が多い。木道が敷かれたちょっとした広場が谷地平分岐である。ここでザックを下ろして休憩していると先ほどの男性もやって来る。男性は今日は明月荘泊まり。明日は西大巓を往復して再び明月荘に泊まるか、谷地平避難小屋で泊まるという。そして最終日はクルマを停めた浄土平へと戻るという。単なる縦走と比べると贅沢な行程だ。長い休憩を取っていると今度は男性三人組がやって来た。彼らも明月荘に泊まるという。今日は混み合うかもしれない。
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(池塘も多い)
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(低い樹林帯が続く)
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(谷地平分岐の湿原)
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(右が昭元山 真ん中の丸いのが烏帽子山)
谷地平分岐を最初に出発し、最後の登りに取り掛かる。木道が敷かれ、藪も無い。歩きやすさは随分増した。時折振り返ると平たい三角形をした昭元山がよく目立つ。丸みを帯びた烏帽子山は昨年の曲崎山のようだ。登山行程のきつさも曲崎山に似ていたが、見晴らしの良さは烏帽子山のほうが優っている。それだけでもましだろう。ワタスゲの生える湿原を眺めつつ、ノロノロと高度を上げていく。樹林帯に入ると東大巓の分岐に出る。東大巓へは明日寄って行こうかとも思っていたのだが、思い切って登ってみる。するとすぐに東大巓(ひがしだいてん 1927.9)の頂上に着いてしまった。笹とアオモリトドマツに囲まれたピークで展望は無い。
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(木道の登りが続く)
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(昭元山などの眺めが良い)
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(ワタスゲ)
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(池塘)
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(東大巓への登り)
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(東大巓分岐)
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(東大巓頂上)
分岐に戻ると三人組の一人がちょうど着いたところだった。山頂はすぐそこであることを伝えて歩き出す。東大巓から明月荘へは緩やかな下りが続く。木道を勢いよく下っていくと西吾妻山への分岐に出る。分岐からは明月荘から明星湖へと続く湿原が見渡せる。あれ?ちょっと高くなっていないか?少し登っていかなければならないと思い始めると、途端にペースが落ちる。すると男性三人組が追い付いてきた。彼らのほうが速そうなので、先に行ってもらうことにした。ボクを追い抜くと彼らはすぐに見えなくなってしまった。下って下って、明月荘の直前で少し登る。まあこのくらいなら何とかなる。木道脇から樹林帯を抜けると明月荘に着く。よろよろと小屋に入ると先客は男性三人組だけであった。場所を確保し、ひとまず水を汲みに行く。小屋の入口に水場が書かれているので、それを参考に探しに行く。
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(明月荘が見える)
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(チングルマ)
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(明星湖辺りの湿原)
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(明月荘付近を望む)
水場へは明星湖への道から右に曲がって大きく下っていく。不安になってくるほど下っていく。しばらく下っていくと水場まで4分と書かれた道標が倒れている。まだ下るのか。崖地が見える辺りまで下ってくるとコバイケイソウが咲き乱れるお花畑が現れる。夕暮れ迫る中、涼しげな風に白い花がゆらゆらと揺れている。今日一日の疲れを癒してくれるようだ。お花畑から更に一段下ると水場である金明水に着く。パイプが設けられ、整備状況は良好だ。水を汲んだ後、顔を洗おうと思ったが、三人組の一人がやって来たので、明日また来ることにした。
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(水場への道 ここで右に曲がる)
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(コバイケイソウ)
疲れた体を引きずって小屋に戻ると若松の男性がやって来ていた。男性と話していると関西から来たという二人組もやって来た。彼らは昨日吾妻小舎に泊まったという。ボクも吾妻小舎に泊まれば良かったかな…。でも土湯温泉からの歩きだと天候によっては浄土平に着けない可能性もあった。バスで浄土平まで行けない以上、テント泊はやむを得なかった。最初に着いた三人組は上の階に移ってくれたので、下の板張りを四人で広く使うことができた。夕闇迫る頃、一人外に出て、東大巓を眺める。明日は早く起きて明星湖まで行ってみよう。しかし、この選択が間違いであったことを次の日に嫌というほど思い知らされることになるのであった。
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(小屋前から東大巓を望む)
DATA:
浄土平野営場4:20~4:54吾妻小富士~5:30桶沼~6:34浄土平野営場~7:05浄土平ビジターセンター~7:52酸ヶ平~
8:38一切経山~9:30家形山~10:38兵子~11:10ニセ烏帽子山~12:00烏帽子山~13:22昭元山~15:19東大巓~
15:56明月荘(宿泊)
浄土平野営場 料金 900円(基本料金400円 テント一張500円) トイレは水洗で綺麗 洋式もあり
携帯電話は通じないので、浄土平へ出てくる必要がある
明月荘 2階建で20人位泊まれます トイレは和式で汲み取り式 水場は往復20分
携帯電話は辛うじて通じる
地形図 吾妻山 天元台
歩数 24,467歩