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タックの庭仕事 -黄昏人生残日録-

≪『 モンテ・クリスト伯 』≫

 私の読書体験は、少年期に読んだ『巌窟王』と『三国志物語』をもって嚆矢とする。
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 黒岩涙香による、アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』の翻訳小説『巌窟王』が、明治34年に『萬朝報』に連載されるや、その血湧き肉躍る復讐物語は一世を風靡した。子供のための翻案も出版され、多くの少年が心を躍らせて読んだのである。私は昭和18年生まれだから、読んだのは、明治時代のものではなく、懐かしの<カバヤ文庫>『モンテクリストの復讐』だったと記憶している。今も流通している10円硬貨が、昭和26年に初めて鋳造され、2年後に発行、世に硬貨が広まった昭和28年の頃のことである。
 ピカピカに光る赤銅色の硬貨を手に握りしめ、近くの駄菓子屋にカバヤキャラメルを買いに走ったのは、もちろんキャラメルが食べたい一心からだった。同時に、小さな赤い箱に入っているオマケの「文庫券」も目当てだった。点数はいろいろで、50点の大当たりがが出れば、即、文庫1冊。これを期待しない少年はまずいなかったが、たいていは苦労して50点を集め、岡山のカバヤ本社に思いを込めて送ったのである。
 写真の3冊は、昭和36年に大学に入ってすぐ古本屋で購入した、新潮社版の「世界文学全集」山内義雄訳である。私はこれを何度読み返したか、自分でも分からない。女房は、「筋書きが分かっているのに、どうして・・・」というが、「友人だと信じていた者たちに裏切られたエドモン・ダンテスの心情への共鳴だよ」としか説明のしようがない。「待て、而うして希望せよ!」とダンテスは言った。けだし人生の至言である。

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