ボブ・ディラン18枚組解説 ~ ディスク9

pic : DON HUNSTEIN (from SMJI)


 こんにちは、VKです。先日、鳥居みゆき率いる東京ギロティン倶楽部の舞台『幸福論』を観に行きました。家族の幸福をテーマにした、シリアスかつコミカルな舞台はただおもしろいだけでなく、いろいろ考えさせるものでもあり……。観た後になって、まだなお頭のなかにボコボコと煮え立つものを感じる舞台ってのは自分にとっての傑作の条件のひとつであったりするわけですが、今回も頭のなかがいまだ混乱状態。いやー、心地いいです。
 そういえばディランは家族のことをまったく語らない人だそうで、彼の家族ははたして幸福なのかなぁとか考えたりします。ネヴァー・エンディング・ツアーで家を空けてばっかりの男の家族観てのも一度は聞いてみたいもんですなぁ、ぜひとも。
 ではでは今回はブートレグ・シリーズの折り返しとなるディスク9をば…。

*   *   *

『ザ・カッティング・エッジ 1965-1966:ザ・ブートレッグ・シリーズ第12集』(ウルトラ・デラックス・コレクターズ・エディション) SOLD OUT

[Disc 9](全3曲、計20テイク)
(1)~(10) I Wanna Be Your Lover
 (1)Take 1 (10/05/1965) Fragment.
 (2)Take 1 Edit 1 (10/05/1965) Complete.
 (3)Take 1 Edit 2 (10/05/1965) Complete.
 (4)Take 2 (10/05/1965) Complete.
 (5)(10/05/1965) Rehearsal.
 (6)Take 3 10/05/1965) Complete.
 (7)Take 4 (10/05/1965) Complete.
 (8)Take 5 (10/05/1965) Complete
 (9)Take 6 (10/05/1965) Complete.
 (10)Take 6 (mis-slate) (10/05/1965)[4]

(11)(12) Instrumental
 (11)Take 1 (10/05/1965) Fragment.
 (12)Take 2 (10/05/1965) Complete.
   ↑ 10/05/1965
------------------------------------------------
   ↓ 11/30/1965

(13)~(20) Visions Of Johanna
 (13)Take 1 (11/30/1965) Rehearsal.
 (14)Take 2 (11/30/1965) Rehearsal.
 (15)Take 3 (11/30/1965) Rehearsal.
 (16)Take 4 (11/30/1965) Complete.
 (17)Take 5 (11/30/1965) Complete.
 (18)Take 6 (11/30/1965) Rehearsal.
 (19)Take 7 (11/30/1965) Complete.
 (20)Take 8 (11/30/1965)[6]

既出曲・初出作品リスト
([1]- Released on Bringing It All Back Home, 1965.)
([2]- Released on Highway 61 Revisited, 1965.)
([3]- Released on Blonde On Blonde, 1966.)
[4]- Released on Biograph, 1985.
([5]- Released on The Bootleg Series, Vol. 1-3, 1991.)
[6]- Released on The Bootleg Series, Vol. 7, 2005.

なお、18枚組と6枚組の収録楽曲、その重複についてはこちらをご参照ください。


 ディスク9はいままでのレコーディングとは様相が変わってます。それまでの音源はあくまでディラン主体、バック・バンドはディランに添うような抑えた演奏でしたが、ここではバンドがディランに負けず劣らず自己主張していてアグレッシヴ。それもそのはず、ここでのバンドはスタジオ・ミュージシャンでなく、ホークス(ザ・バンド)です。で、ここに10テイク収められた「I Wanna Be Your Lover」((1)~(10))、これがまたとんでもない代物です。初めはディランの歌声が曲を形作ろうとしていたのが、テイク2からいきなりテンポが上がり、それとともにディランの歌い方も変わり、完全な共同作業に。これまでは曲調が変化してもディランの歌い方に目立った変化はみられなかったのが常ですが、ここではバンドの音を意識したディランが歌をサウンドに添わそうとしているんですね。で、そのテイク2以降の録音はテイクを重ねるごとにどんどん熱くなり、そして混沌とし、完全にノリノリなスタジオ・ライヴへと昇華していきます。まさしく怒涛のエレクトリックなバンド・サウンド! ぶちかましまくるディランとホークスの凄まじさここにありといったサウンドに震えますよ、いや本当に。
 で、次はどういった意図の曲なんでしょうか。(11)(12)「Instrumental」はなにか「Like A Rolling Stone」みたいな気配の息抜きセッションに聞こえますが、はたしてこの意図は……?

 そして次の「Visions Of Johanna(邦題:ジョアンナのヴィジョン)」から『Blonde On Blonde』に収録される曲のレコーディングがスタートです。このアルバムはのちにほとんどがナッシュヴィルで録音されましたが、レコーディングの始まりはニューヨーク。てことでこの「Visions Of Johanna」もニューヨーク録音で((13)~(20))、バックはホークス。ここでの音源は曲があれこれと試されながらかたちを変える過程が如実にわかるものです。ディランもホークスも、曲の完成形がみえないままセッションを続けてますが、どのテイクも決定的なものとはならず。(16)テイク4と(17)5などは激しいロック・サウンドとディランのテンション高い歌声が相互に影響しあって聴き応え十分だったりするんですが、やっぱり曲としては改善の余地ありと判断されても仕方ないか……。テンポやアレンジなど試行錯誤を繰り返せば繰り返すほど泥沼化するレコーディングの様子がよーくわかるこの音源を聴いていると、『Blonde On Blonde』もスムーズにできたアルバムなどではけしてなかったことがわかります。プロデューサーのボブ・ジョンストンはこの袋小路ともいえる状況を打破するべく、この曲のナッシュヴィル録音を進言するんですが、この曲についていえばそれは大正解だったのではないでしょうか。ナッシュヴィルでの完成版と比べると、このニューヨーク・セッションはまったくもって五里霧中。これはあのホークスといえども手に負えない曲だったことが露呈してます。
 ただですね、別の見方をすると、これほど完成形から遠いテイクを聴くことができるのもこのブートレグ・シリーズの醍醐味であるわけで、その醍醐味を堪能できるこのボツ・テイクはシリーズの象徴的なものともいえるでしょう。いやはや、こんなものが出るからブートレグ・シリーズが楽しみになるファンが増えるのも当然ってなもんです。

*   *   *

 次からはようやく後半となる今回のブートレグ・シリーズ。実は自分もまだ全部を通して聴けていないので、どんなおもしろい音源が入っているのかわかりません。18枚組について書くのも大変ですけど、でも聴くのも大変ですよ、これ。
 とりあえず、まだまだブログは続きます。辻口さんのボヤキも同時にまだまだ続きます。よろしくお願いいたします。ではまた。
VK石井




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