通されたのは居間だった。
部屋の中央に置かれたテーブルを、由香と瞳が向かい合って談笑している。
山崎の姿に気がついた由香が立ち上がった。
「聖花! あんた大丈夫なの?」
「う、ん。まだ、頭がボーとしているけどね」
「調子悪いならいいなよ。あんた、昨日の夜からどこかおかしいよ」
本気で心配しているらしい、由香をなだめながら、聖花は視線を感じて口を止めた。
「――瞳?」
テーブルに頬杖を付きながら、半身だけ振り返っている瞳。
聖花は彼女に奇妙な違和感を感じた。
だらしなく崩した足。しわの寄った衣服は、子供のように走り回った影響だろう。お菓子を加えたままの唇は、本当に同じ高校生かと疑問にすら思ってしまう。
「……ふーん」
瞳は恐ろしく軽快な身のこなしで立ち上がると、山崎を押しのけ、聖花の目を覗き込んだ。
「な、なによ、瞳。わたしがどうかした?」
思わず身をのけ反らせた聖花。瞳は応えることなく、射抜くような視線で聖花を見る。
時間にして数瞬だろうか、何事もなかったように身をひるがえした瞳に対し、聖花はどっと汗が噴き出すのを感じた。
「おかえり、聖花」
まるで今思い出したように瞳が言った。その口元には悪戯な笑みが浮かんでいた。
「……ただいま」
重苦しい疲労感を感じながら、聖花は苦労して言葉を返した。
その様子を見ていた山崎と由香は、ただ目を見合わせるだけだった。
「今日はここに泊るから」
突然瞳が口を開いた。
その言葉の意味を理解するのに、若干の時間を要した三人。
「ちょっ! お前何言って!」「何考えているのよ瞳!」「いくらなんでもそれはまずいでしょ!」
落ち着け、と言わんばかりに両手を広げた瞳。「いいじゃん別に。明日は日曜日なんだし」
「そういう問題じゃない」
眉間を押さえながら山崎。「藪から棒に、どういうつもりだ」
「そうよ。いくら瞳だからって、それだけは許さない」
追従する由香の言葉には若干毒が混じっていた。
顔を顰めた瞳が、腕組みをした。
「もーなんでそこで全否定するかなぁ。夏! そして、今をときめく高校生の男女! ひとつ屋根の下に集えばやることなんて――ったい!」
顔を赤くした由香に頭を叩かれ、悲鳴を上げる瞳。よっぽど痛かったのか、目じりに涙を浮かべ、口を尖らせた。
「もう、軽い冗談だったのにぃ」
「……あんたが言うと、冗談に聞こえないのよ」
んふふ。と瞳が鼻で笑う。聖花と由香の腕を取ると、「じゃあ、三人で泊まろうよ」
「だからどうしてそうなるのよ!」
「いーじゃん、別に。三人もいれば、薬でも盛られない限り間違いは起きないよ。ねぇ、ザッキー」
「……お前はおれを犯罪者にしたいのか」
渋顔の山崎を無視して、「聖花もいいでしょ?」
と、振り返った瞳。
その表情に、聖花は凍りついた。
口元に浮いた軽薄な笑みはいつものこと。だが、その眼は、まるで獲物を狙う獣のよう――蹴落とされた聖花は怯えながら小さく頷いた。
「聖花!」
詰め寄る由香に、聖花は苦笑いで応えることしかできなかった。
「わたしだって、誰彼かまわず家に転がり込んだりしないよ。それとも、由香は山崎くんのことが信用できない?」
「そ、それは……」
口ごもった由香に、「じゃあ、決まりね」
瞳が締めた。
「……まだ、おれは認めたわけじゃないんだが」
「男がぐちぐち言わない」
山崎を一蹴した瞳は一度手を叩いて笑った。
「今夜は楽しくなりそう!」
部屋の中央に置かれたテーブルを、由香と瞳が向かい合って談笑している。
山崎の姿に気がついた由香が立ち上がった。
「聖花! あんた大丈夫なの?」
「う、ん。まだ、頭がボーとしているけどね」
「調子悪いならいいなよ。あんた、昨日の夜からどこかおかしいよ」
本気で心配しているらしい、由香をなだめながら、聖花は視線を感じて口を止めた。
「――瞳?」
テーブルに頬杖を付きながら、半身だけ振り返っている瞳。
聖花は彼女に奇妙な違和感を感じた。
だらしなく崩した足。しわの寄った衣服は、子供のように走り回った影響だろう。お菓子を加えたままの唇は、本当に同じ高校生かと疑問にすら思ってしまう。
「……ふーん」
瞳は恐ろしく軽快な身のこなしで立ち上がると、山崎を押しのけ、聖花の目を覗き込んだ。
「な、なによ、瞳。わたしがどうかした?」
思わず身をのけ反らせた聖花。瞳は応えることなく、射抜くような視線で聖花を見る。
時間にして数瞬だろうか、何事もなかったように身をひるがえした瞳に対し、聖花はどっと汗が噴き出すのを感じた。
「おかえり、聖花」
まるで今思い出したように瞳が言った。その口元には悪戯な笑みが浮かんでいた。
「……ただいま」
重苦しい疲労感を感じながら、聖花は苦労して言葉を返した。
その様子を見ていた山崎と由香は、ただ目を見合わせるだけだった。
「今日はここに泊るから」
突然瞳が口を開いた。
その言葉の意味を理解するのに、若干の時間を要した三人。
「ちょっ! お前何言って!」「何考えているのよ瞳!」「いくらなんでもそれはまずいでしょ!」
落ち着け、と言わんばかりに両手を広げた瞳。「いいじゃん別に。明日は日曜日なんだし」
「そういう問題じゃない」
眉間を押さえながら山崎。「藪から棒に、どういうつもりだ」
「そうよ。いくら瞳だからって、それだけは許さない」
追従する由香の言葉には若干毒が混じっていた。
顔を顰めた瞳が、腕組みをした。
「もーなんでそこで全否定するかなぁ。夏! そして、今をときめく高校生の男女! ひとつ屋根の下に集えばやることなんて――ったい!」
顔を赤くした由香に頭を叩かれ、悲鳴を上げる瞳。よっぽど痛かったのか、目じりに涙を浮かべ、口を尖らせた。
「もう、軽い冗談だったのにぃ」
「……あんたが言うと、冗談に聞こえないのよ」
んふふ。と瞳が鼻で笑う。聖花と由香の腕を取ると、「じゃあ、三人で泊まろうよ」
「だからどうしてそうなるのよ!」
「いーじゃん、別に。三人もいれば、薬でも盛られない限り間違いは起きないよ。ねぇ、ザッキー」
「……お前はおれを犯罪者にしたいのか」
渋顔の山崎を無視して、「聖花もいいでしょ?」
と、振り返った瞳。
その表情に、聖花は凍りついた。
口元に浮いた軽薄な笑みはいつものこと。だが、その眼は、まるで獲物を狙う獣のよう――蹴落とされた聖花は怯えながら小さく頷いた。
「聖花!」
詰め寄る由香に、聖花は苦笑いで応えることしかできなかった。
「わたしだって、誰彼かまわず家に転がり込んだりしないよ。それとも、由香は山崎くんのことが信用できない?」
「そ、それは……」
口ごもった由香に、「じゃあ、決まりね」
瞳が締めた。
「……まだ、おれは認めたわけじゃないんだが」
「男がぐちぐち言わない」
山崎を一蹴した瞳は一度手を叩いて笑った。
「今夜は楽しくなりそう!」