鳥の鳴き声に、朝が来たことを感じた。
結局、一睡もできず、部屋の片隅で震えていた聖花は、永劫とも思える夜の時間から解放されたことを知る。
自分に油断があったことはいえ、まさか山崎が強引に迫ってくるとは思ってもいなかった。
だが今、聖花の心を占めるのは、友人である由香に対する罪悪感。
山崎に好意を寄せている彼女には、とてもじゃないが知られるわけにはいかなかった。
「聖花ぁ?」
寝ぼけたような声とともに、もぞり、とタオルケットが動く。
「ふわぁあ……おはよう――どうかしたの?」
大きく伸びをしつつ、不審げな表情を浮かべたのは瞳だ。
聖花は慌てて笑いかけた。
「なんか、昼寝が長かったせいか、寝付けなくてね」
あはは、と頭を掻く聖花に、瞳は、
「……そう」
と、一言だけで片付けた。
内心の焦りを誤魔化すように、聖花はここぞとばかりに瞳を睨む。
「それより瞳、あんたいったい何を知っているの?」
対する瞳は「そーねー」と相変わらず寝ぼけた声で、
「朝ごはん」
「……は?」
「朝ごはん作ってくれたら、教えてあげる」
今思えば、なぜこんな条件を飲んだのだろう――フライパンから昇る香ばしい匂いを嗅ぎながら、聖花は嘆息した。
「まーだぁー?」
隣接する今から聞こえる能天気な声に軽い殺意を覚えながら、聖花は焼きあがった目玉焼きを皿に移した。
「おはよ――あら、いい匂い。
って、聖花が料理してるの? 大丈夫?」
「何が大丈夫なのか、問い返したいんだけど」
あくび交じりに入ってきた由香に、聖花が牙を剥いた。
「簡単な料理なら、私でも出来るっての」
「わたし、たこさんウインナーがいいなぁ」
「小学生か!」
瞳の言葉に律儀に突っ込みを入れた聖花。次の瞬間、三人は笑っていた。
「ずいぶんと、朝から楽しそうだな」
その声に、聖花は思わず息を止めた。
「――おはよ。勝手に台所、使わせてもらっているよ」
なるべく平静を装って聖花が言う。
「……ああ」
山崎もまた、居心地の悪い様子で応えた。
「んー?」
としたり顔なのは瞳。妙に勘の鋭い彼女は、何度か聖花と山崎を交互に見渡し、「ねえね、何かあったぁ?」
「何かってなんだよ」
どこか不機嫌な声で山崎。逃げるようにテレビの電源を入れた。
テレビから目を離さない山崎に、これ以上の追及は無理と判断したのか、瞳は聖花に矛先を向け――「え?」という由香の声に踏みとどまる。
内心で冷や汗をかいていた聖花もまた、テレビから聞こえるニュースに思わず動きを止めていた。
『怪奇! 突然咲き乱れた桜に、住民が大騒ぎ――』
「……これってうちの学校だよね」
どこか興奮した様子のアナウンサーの声を聞きながら、由香が呟く。
「今夏だよ? というよりもぉ、春に満開に咲いていたじゃん。うちのがっこの桜」
瞳も首を傾げながら応えた。
「……どうやら、おれたちの高校の桜だけが咲いてるみたいだな」
出来上がった料理を並べながら、聖花もまたテレビを凝視する。
「ねえね」
と、口を開いたのは瞳だ。「どうせなら、ご飯食べたら行ってみない?」
結局、一睡もできず、部屋の片隅で震えていた聖花は、永劫とも思える夜の時間から解放されたことを知る。
自分に油断があったことはいえ、まさか山崎が強引に迫ってくるとは思ってもいなかった。
だが今、聖花の心を占めるのは、友人である由香に対する罪悪感。
山崎に好意を寄せている彼女には、とてもじゃないが知られるわけにはいかなかった。
「聖花ぁ?」
寝ぼけたような声とともに、もぞり、とタオルケットが動く。
「ふわぁあ……おはよう――どうかしたの?」
大きく伸びをしつつ、不審げな表情を浮かべたのは瞳だ。
聖花は慌てて笑いかけた。
「なんか、昼寝が長かったせいか、寝付けなくてね」
あはは、と頭を掻く聖花に、瞳は、
「……そう」
と、一言だけで片付けた。
内心の焦りを誤魔化すように、聖花はここぞとばかりに瞳を睨む。
「それより瞳、あんたいったい何を知っているの?」
対する瞳は「そーねー」と相変わらず寝ぼけた声で、
「朝ごはん」
「……は?」
「朝ごはん作ってくれたら、教えてあげる」
今思えば、なぜこんな条件を飲んだのだろう――フライパンから昇る香ばしい匂いを嗅ぎながら、聖花は嘆息した。
「まーだぁー?」
隣接する今から聞こえる能天気な声に軽い殺意を覚えながら、聖花は焼きあがった目玉焼きを皿に移した。
「おはよ――あら、いい匂い。
って、聖花が料理してるの? 大丈夫?」
「何が大丈夫なのか、問い返したいんだけど」
あくび交じりに入ってきた由香に、聖花が牙を剥いた。
「簡単な料理なら、私でも出来るっての」
「わたし、たこさんウインナーがいいなぁ」
「小学生か!」
瞳の言葉に律儀に突っ込みを入れた聖花。次の瞬間、三人は笑っていた。
「ずいぶんと、朝から楽しそうだな」
その声に、聖花は思わず息を止めた。
「――おはよ。勝手に台所、使わせてもらっているよ」
なるべく平静を装って聖花が言う。
「……ああ」
山崎もまた、居心地の悪い様子で応えた。
「んー?」
としたり顔なのは瞳。妙に勘の鋭い彼女は、何度か聖花と山崎を交互に見渡し、「ねえね、何かあったぁ?」
「何かってなんだよ」
どこか不機嫌な声で山崎。逃げるようにテレビの電源を入れた。
テレビから目を離さない山崎に、これ以上の追及は無理と判断したのか、瞳は聖花に矛先を向け――「え?」という由香の声に踏みとどまる。
内心で冷や汗をかいていた聖花もまた、テレビから聞こえるニュースに思わず動きを止めていた。
『怪奇! 突然咲き乱れた桜に、住民が大騒ぎ――』
「……これってうちの学校だよね」
どこか興奮した様子のアナウンサーの声を聞きながら、由香が呟く。
「今夏だよ? というよりもぉ、春に満開に咲いていたじゃん。うちのがっこの桜」
瞳も首を傾げながら応えた。
「……どうやら、おれたちの高校の桜だけが咲いてるみたいだな」
出来上がった料理を並べながら、聖花もまたテレビを凝視する。
「ねえね」
と、口を開いたのは瞳だ。「どうせなら、ご飯食べたら行ってみない?」