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意思による楽観のための読書日記

(株)貧困大国アメリカ 堤未果 ****

本書は再読、2015年に読了したので、内容はそちらをご参照いただきたい。本書主張のポイントは、政府による市場至上主義を前提とした効率化の名のもとによる行政民営化の弊害を示すこと。そして神谷秀樹による「強欲資本主義」や原ジョージさんによる「アメリカ式資本主義」に紹介される勢力が政府や議会に入り込んでいる実例紹介、マスコミの株主になり、本来は多様な主張を持つマスコミ経営者を統合することで、政府に批判的なマスコミも含めて、大企業に不都合になる報道の方向性にまで影響を与えている実態を示した。

全米所得トップ1%の層が資本と政治に対する力で農業、教育、軍事、食品、公共サービス、そしてマスコミさえ牛耳る実態に戦慄する。市場原理こそが経済発展のカギであるというフリードマン理論では、政府機能は小さいほうが良くて規制緩和を進め、国家機能も市場化、民営化していくことが経済発展、そして国家発展にもつながるという思想である。小泉・竹中コンビによる新自由主義による経済政策の基礎となる理論でもあり、政府が提供する次のようなものは不要だと主張する。

1 農産物の買い取り保証価格制度
2 輸入関税または輸出制限
3 家賃統制、物価・賃金統制
4 最低賃金制度や価格上限統制
5 現行の社会保障制度
6 事業や職業に関する免許制度
7 営利目的の郵便事業の禁止
8 公営の有料道路
9 商品やサービスの産出制限
10 産業や銀行に対する詳細な規制
11 通信や放送に関する規制
12 公営住宅および住宅建設の補助金
13 平時の徴兵制
14  国立公園

橋本内閣による金融制度改革、銀行、証券、保険への規制を緩和することで金融機関の再編が行われたのもこの理論による。小泉内閣による構造改革では、企業競争力強化のためとして派遣労働の自由化も行われた。その後リーマン・ショックをきっかけと景気悪化により、大量の派遣切り問題が深刻化、各種の新自由主義政策に対する批判が高まったのは周知のとおり。資本家や競争に勝ち抜いて強い立場、有能な人には有利に働く至上主義だが、経済的弱者はさらに徹底的に経済的に追い詰められてしまうのがこの理論。

堤未果さんによる「貧困大国アメリカ」三部作では、こうした政策の結果としての教育ローン問題、社会保障の崩壊、医療保険問題、刑務所問題、農業、食品、GM(遺伝子組み換え)種子、警察・消防、政治、マスコミを取り上げ、効率化、市場経済論理を取り入れた官営事業の民営化が教育、福祉、医療、セキュリティという国民の基本的生活インフラを崩壊させてきた事例をインタビューを交えて紹介してきた。恐ろしいのは、共和党の政策中心と思えるこうした実例は、オバマ、バイデン政権でも継続されているという事実。ALECが民主党にも入り込んでいるからであり、強大資本家の集団ALECは、共和・民主に両張りし、狙いを外すことがない。日本における規制緩和や民営化の議論も、政治と金問題、企業によるパーティ券購入により本書で紹介されるアメリカ事例と根っこでつながっていること、肝に銘じたい。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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