「体調はどう?」
瞬は部屋に入り後ろ手に扉を閉めた。
「ああ…大分いい、紫龍のお陰だな」
ペルセウス星座の白銀聖闘士のアルゴルのメドゥサの盾で石にされた氷河たちを救ったのは龍星座の紫龍であった。
だがそのために紫龍の払った代償は大きすぎた。
紫龍はメドゥサの盾の呪力を無効にするために自身の目を指で突いた。
視力を失った紫龍は今、修業地から恩師の伝言を伝えに来た春麗の付き添われ眠りに就いている。
「紫龍は春麗さんと五老峰に帰るんだって。なにか、あちらに目に効く薬があるんだって」
「そうか…」
氷河は瞬から手入れの行き届いた庭に視線を転じた。
氷河は聖域から見世物紛いの「銀河聖戦」に参加する聖闘士たちを抹殺するために日本に送り込まれた。
だが、星矢たちの闘いを目の当たりにし、氷河に迷いが取り付いた。
この闘いはただの私利私欲を肥やすための闘いではないのではないか――との。
その逡巡のうちに一輝が殴り込み白銀聖闘士が殴り込んできた。
白銀聖闘士たちは同じ聖域からの命で日本に来ている自分をも抹殺しようとした。
殺されるわけにはいかないから、氷河は応戦し白銀聖闘士の何人かを倒してしまった。
そして、誰もいなくなった戦場で再び一輝と対峙した。
あのときまでは一輝と氷河は、前世からの敵のように憎しみあっていた。
だが、その後だ。
氷河は一輝の攻撃を防ぎきれず一瞬、意識を失った。
次に、気がついたときには一輝は憎悪の赴くままに氷河の頸を締め上げていた。
氷河は自身の死と向き合った。
だが次に目覚めたとき、一輝の様子は変わっていた。
まず、自分を見る眸から違った。
まるで愛情を受ける対象にでもなったような一輝の視線に、氷河は戸惑った。
そして――。
「…氷河」
呼ばれ、氷河は我に返った。
「大丈夫?」
心配気な表情に、氷河は瞬から視線をそらせた。
「氷河…もしかして、兄さんの拳の後遺症?」
――鳳凰幻魔拳、他者の精神を支配しその肉体を滅ぼす、正に魔拳…。
「大丈夫だ、オレは」
あの拳は氷河の最愛のものを穢し、氷河の精神と身体に痛手を与えた。
だが、痛手よりも憎しみが勝っている。
氷河にはその憎しみを消すことができない。
「ボクは兄さんを探す旅に出るよ、ここにはもう戻らないつもり」
「そうか…」
氷河は瞼を閉じた。
今、最も慕う兄を憎む自分は、瞬の瞳にはどのように写っているのか…。それを思うと瞬を見ることができない。
「…オレも故郷へ、東シベリアに帰る」
そして、もう二度と異母兄弟たちに会うことはないことを氷河は己に誓っていた。
瞼を閉じたままの氷河は気づいていなかった。
故郷へ帰ると口にした氷河を見つめる瞬の唇に冷ややかな笑みが浮かんでいるのに。
「続く」
瞬は部屋に入り後ろ手に扉を閉めた。
「ああ…大分いい、紫龍のお陰だな」
ペルセウス星座の白銀聖闘士のアルゴルのメドゥサの盾で石にされた氷河たちを救ったのは龍星座の紫龍であった。
だがそのために紫龍の払った代償は大きすぎた。
紫龍はメドゥサの盾の呪力を無効にするために自身の目を指で突いた。
視力を失った紫龍は今、修業地から恩師の伝言を伝えに来た春麗の付き添われ眠りに就いている。
「紫龍は春麗さんと五老峰に帰るんだって。なにか、あちらに目に効く薬があるんだって」
「そうか…」
氷河は瞬から手入れの行き届いた庭に視線を転じた。
氷河は聖域から見世物紛いの「銀河聖戦」に参加する聖闘士たちを抹殺するために日本に送り込まれた。
だが、星矢たちの闘いを目の当たりにし、氷河に迷いが取り付いた。
この闘いはただの私利私欲を肥やすための闘いではないのではないか――との。
その逡巡のうちに一輝が殴り込み白銀聖闘士が殴り込んできた。
白銀聖闘士たちは同じ聖域からの命で日本に来ている自分をも抹殺しようとした。
殺されるわけにはいかないから、氷河は応戦し白銀聖闘士の何人かを倒してしまった。
そして、誰もいなくなった戦場で再び一輝と対峙した。
あのときまでは一輝と氷河は、前世からの敵のように憎しみあっていた。
だが、その後だ。
氷河は一輝の攻撃を防ぎきれず一瞬、意識を失った。
次に、気がついたときには一輝は憎悪の赴くままに氷河の頸を締め上げていた。
氷河は自身の死と向き合った。
だが次に目覚めたとき、一輝の様子は変わっていた。
まず、自分を見る眸から違った。
まるで愛情を受ける対象にでもなったような一輝の視線に、氷河は戸惑った。
そして――。
「…氷河」
呼ばれ、氷河は我に返った。
「大丈夫?」
心配気な表情に、氷河は瞬から視線をそらせた。
「氷河…もしかして、兄さんの拳の後遺症?」
――鳳凰幻魔拳、他者の精神を支配しその肉体を滅ぼす、正に魔拳…。
「大丈夫だ、オレは」
あの拳は氷河の最愛のものを穢し、氷河の精神と身体に痛手を与えた。
だが、痛手よりも憎しみが勝っている。
氷河にはその憎しみを消すことができない。
「ボクは兄さんを探す旅に出るよ、ここにはもう戻らないつもり」
「そうか…」
氷河は瞼を閉じた。
今、最も慕う兄を憎む自分は、瞬の瞳にはどのように写っているのか…。それを思うと瞬を見ることができない。
「…オレも故郷へ、東シベリアに帰る」
そして、もう二度と異母兄弟たちに会うことはないことを氷河は己に誓っていた。
瞼を閉じたままの氷河は気づいていなかった。
故郷へ帰ると口にした氷河を見つめる瞬の唇に冷ややかな笑みが浮かんでいるのに。
「続く」