「あいかわらず乳臭さの抜けんやつよ!」
己の心に縛られ身動(みじろ)ぎもできずにいる氷河に、カミュは溜息をついた。
「母親の遺体の眠る船をシベリアの海溝に落としてもまだ抜けんとは…」
嘲笑を含んだ師の言葉が、氷河の全身に落雷を受けでもしたような衝撃をもたらしていた。
「や、やはりあれはあなたの仕業だったのか…な…なぜ…」
予想はしていたが認め難い事実を突きつけられ、氷河の全身に震えが取り付いていた。
「――たとえ死んではいても、あそこへいけば母に会える、それがたった1つの心のよりどころであり安らぎの場であったのだ!」
氷河は拳を握り締め叫んでいた。
「――なにももたないこの氷河にとって唯一残された大切なものだったのだ、そ…それなのになぜ…」
「だまれ」
血を吐くような叫びを、しかしカミュは一蹴した。
「死んだ人間にいつまでも涙を流しているお前の唯一の惰弱な点を断ち切ってやったのだ! それが悔しいと思うならかかって来い氷河」
氷河は闘いを忘れ、生まれ育った地で母の眠りを護り、ヤコフたちの生活を護りながら静かに生きてゆこうとしたのだ。
勅命を果たさぬ行動に、刺客を差し向けられたのなら受けて立つ。
聖域の名の下、処刑されるのならそれもよい。
だが、極寒の海底で眠る母は無関係だ。
それを、思慕の情を断ち切るためとはいえ母を、眠る船ごと海溝に落とす行為は許せるものではなかった。
「う…いくら師であるあなたでも、ゆ…許せない…」
その強大な力をもって無造作に最愛のものを奪った師への憎しみに、氷河は染まっていた。
「続く」
己の心に縛られ身動(みじろ)ぎもできずにいる氷河に、カミュは溜息をついた。
「母親の遺体の眠る船をシベリアの海溝に落としてもまだ抜けんとは…」
嘲笑を含んだ師の言葉が、氷河の全身に落雷を受けでもしたような衝撃をもたらしていた。
「や、やはりあれはあなたの仕業だったのか…な…なぜ…」
予想はしていたが認め難い事実を突きつけられ、氷河の全身に震えが取り付いていた。
「――たとえ死んではいても、あそこへいけば母に会える、それがたった1つの心のよりどころであり安らぎの場であったのだ!」
氷河は拳を握り締め叫んでいた。
「――なにももたないこの氷河にとって唯一残された大切なものだったのだ、そ…それなのになぜ…」
「だまれ」
血を吐くような叫びを、しかしカミュは一蹴した。
「死んだ人間にいつまでも涙を流しているお前の唯一の惰弱な点を断ち切ってやったのだ! それが悔しいと思うならかかって来い氷河」
氷河は闘いを忘れ、生まれ育った地で母の眠りを護り、ヤコフたちの生活を護りながら静かに生きてゆこうとしたのだ。
勅命を果たさぬ行動に、刺客を差し向けられたのなら受けて立つ。
聖域の名の下、処刑されるのならそれもよい。
だが、極寒の海底で眠る母は無関係だ。
それを、思慕の情を断ち切るためとはいえ母を、眠る船ごと海溝に落とす行為は許せるものではなかった。
「う…いくら師であるあなたでも、ゆ…許せない…」
その強大な力をもって無造作に最愛のものを奪った師への憎しみに、氷河は染まっていた。
「続く」