JINX 猫強

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塩月喬聡 詰められる

2023-09-23 00:04:08 | 日記

 塩月喬聡(しおつきたかのり)は記者に囲まれながら、会見会場に向かっていた。

 塩月が手掛ける複合総合ビルの地鎮祭が終わった直後であった。

 このビルの土地購入をめぐり、暴力団とラブルになった。

 後先考えない組は、塩月の自宅に銃弾を撃ち込み脅しをかけた。

 その事件が元で組に警察の捜査が入り、結果として組組織は解体されたので、ビル建設は話題になっていた。

 地鎮祭が済み次第、会見を開くことになっていた。

 会見の一部は昼のニュースで生放送される事になっていた。

 だが、塩月の表情は冴えない。

ーー塚野水晶(つかのみずき)。

 塩月の最愛の恋人。

 水晶は塩月の友人・晶隆(あきたか)たった1人の弟であった。両親を早くになくした晶隆のたった1人の身内が水晶であった。

 晶隆は水晶を溺愛していた。

 晶隆は塩月からの借金の返済を急ぎ、過労の末に交通事故を起こした。

 塩月は今際の際の親友に弟の未来を託された。

 だが塩月は水晶を一目見て、心を奪われた。

 塩月は突然の兄の訃報に嘆く水晶をねじ伏せ、その挙げ句、愛を請(こ)うた。

 当然、水晶は拒絶した。

 紆余曲折あった。

 結局、執拗な塩月に水晶が折れる形で、塩月は水晶の心を手に入れる事ができた。

 塩月は起業し、かなりの成功を収めていた。

 塩月は水晶とこれから愛を育むつもりでいた。

 水晶のためなら、どのようなことでもするつもりでいた。

 だが、水晶は悪性のスキルス癌に全身を蝕(むしば)まれ、命旦夕(いのちたんせき)の状態であった。

 病が発覚したときには全身に病巣が転移し、手の施しようのない状態にあった。

 水晶は自身の病を隠し、疼痛治療だけに処置を絞った。

 激務な塩月と過ごす時間だけ通常通りに過ごせるよう、投薬を調整していた。

 塩月が水晶の病状を知ったのは偶然、水晶の細い腕に注射跡を発見したからであった。

 塩月は水晶のことを想っていた。

 ここ数日、モルヒネで意識が朦朧(もうろう)状態であった水晶が今朝は意識がはっきりし、久し振りに塩月と会話を交わした。

 水晶には優秀な医師と看護士に、24時間看護を依頼してあった。

 避けらねぬその時を、少しでも苦痛を最小限で、安らかに迎えさせるためであった。

 だが、強烈なモルヒネは、水晶を昏睡へと引きずり込むことが多かった。

 今朝の水晶との会話は、気休め程度の抗がん剤が、がんを僅かに抑え込んだものと塩月は受け取った。

 その水晶は生放送で流される塩月の姿を、今か今かと待ちわびているに違いなかった。

「死ねやッ! 塩月ッ!」

 濁声(だみごえ)に、塩月は我に返った。

 塩月は居並ぶ記者とレポーターを押しのけてきた男が、拳銃を構えているのを見た。

 何かを思う前に塩月は、胸部に2発の銃弾を打ち込まれていた。

 塩月は胸部に重い衝撃を受け、自身の血飛沫(ちしぶき)を見ながら仰け反っていた。

 仰け反った瞬間、塩月は両腕を何者かに取られていた。

 腕を取られた瞬間、焼け付くような胸部の激痛と、呼吸困難は消えていた。

 塩月は浮遊感を訝(いぶか)しみながら、己の腕を取るものに視線を巡らせ瞠目した。

 己を腕を取り、高みに導く愛おしい兄弟を姿を見つめる塩月の心は至福に包まれていた。

ーー水晶、晶隆…。

 塩月は愛おしい兄弟の名前を呟いた。

「塩月さんも、こちらへ来ちゃったんだ?」

 そう口にし微笑む水晶の姿は、病魔に蝕(むしば)まれ、窶(やつ)れた姿ではなく、モデル時代の生き生きとした姿に変貌していた。

「水晶…その姿は…」

 今朝、会話を交わした水晶は痩せ細り、潤いが失われた肌は蒼白であった。それが今は肌の張りを取り戻し、髪も色艶を取り戻していた。

「姿…?」

 水晶は塩月の言葉に空いている方の手を目の前に翳(かざ)し、瞼(まぶた)を見開いた。

「兄さん、コレって…?」

 水晶は晶隆を不思議そうに見た。

「水晶は現世の理(ことわり)からは解き放たれた、もう、苦しくはないだろう、苦痛もない…」

 晶隆は温かい眼差しを弟に向けた。

「うん、痛くもないし、苦しくもない、あれだけ血を吐いたのに…。

「血を吐いた?」

 塩月の脳裏に胃壁をがん細胞に食い破られ、吐血をし、苦痛に身を捩じらせながら医師と看護士に肢体を押さえつけられ、処置をされていた水晶の姿が過ぎった。

「うん、僕、血を吐いて…こっちに来ちゃったみたい…」

 そして、晶隆に視線を移し言葉を続けた。

「…苦しくて、苦しくて…でも兄さんが迎えに来てくれたんだ…」

 そう言って、微笑む水晶からは、常に死と苦痛に怯える憂いは取り払われていた。

 想えば、塩月の知る水晶は突然の兄の訃報に憂い、己を踏みにじる塩月を憂い、死と苦痛に憂いていた。

 今の水晶が、塩月の出会う前の、学業と仕事業に勤しむ本来の姿かも知れなかった。

「…でも、なんで塩月さんはこちらへ来ちゃったの?」

 水晶が不思議なものを見つめるような瞳で塩月を見た。

「銃撃されたんだ、この男はあちこちで恨まれていたからな」

 そう口にした晶隆から、すべての表情が失せているのを塩月は見た。

ー怒っている…。

 その表情に、塩月は親友の怒気を嗅ぎ取った。

「どうして? 塩月さんは優しいよ?」

 水晶は晶隆の表情を覗き込んだ、そのときには、晶隆の表情には柔和(にゅうわ)な笑みが戻っていた。

「水晶、父さんと母さんに会いたくないか?」

 晶隆は水晶の問には応えず、問うた。

「お父さんと、お母さん…会えるの?」

 水晶は幼いときに死別した両親の姿を思い浮かべた。

「会えるよ、父さんも母さんも、水晶を心配してたんだ」

 心配、という言葉を発したときに、冷たい視線が自身に突き刺さったのを、塩月は感じた。

「何処にいるの、お父さんとお母さん…」

 水晶は周囲を見回した。

「想えばソコへ行ける、ココはそういう場所なんだ」

 晶隆は水晶を促した、途端、水晶の姿は消え失せた。

ーえ?

 塩月は目を見張った。

 つい今しがたまで己の腕をとっていた水晶の姿が何処にもない。

 辺りを見回す塩月の腕を、晶隆は突き放した。

ーえ?

 一切の表情を消し、己を見据える晶隆の姿に塩月は戸惑い、そして口を開いた。

「あの、水晶は…?」

「両親のところだ、想えば何処へでもいける、ココはそういう場所なんだといったのが聞こえなかったのか?」

 塩月は学生時代からの晶隆の友人であった。

 だからこそ解る。

 晶隆は明らかに怒気を浮かべている。

 そして、晶隆が塩月に怒りを向ける理由といえば…。

「あの、晶隆…そのー水晶は…?」

 晶隆と水晶の説明から、自分が銃弾に斃(たお)れ、死亡したーーということは解った。そして水晶もおそらくはーー。

 だが、水晶は消えてしまった。

 話の流れからいえば、幼少のときに亡くなった両親のところに行ってしまったのも解る…。

 だが、水晶が何処かへ行ってしまったのでは、塩月は困る。

「困るも何もない、君は水晶に何をしたのか忘れたのか?」

ーーやはり、怒っていた。

「怒るも何もない、君は僕に思いを寄せたと告白しながら、僕の遺骨と位牌の前で…」

ーー強引に水晶捩じ伏せてました。

 塩月は項垂(うなだ)れた。

 晶隆の葬儀の直後、ただ泪を流すだけの水晶を、塩月は庇護しようとした。

 だが、水晶は塩月が晶隆へ抱く恋心と、負債の肩代わりを知った。

 水晶は塩月が借金の返済の代わりに、晶隆へ身体の要求をしたのだと思い込み、激しく反発をした。

 激しく己を拒む水晶に、なぜか、塩月は翳(かげ)りを嗅(かい)いだ。

 水晶は幼いときに両親と、そして今、唯一の身内である兄を失った。

 己一代で巨万の富を築(きづ)いた塩月は、なぜか、兄の遺影と遺骨を見つめ泪を流す水晶の背に、不吉の翳りを見、そして嗅いだ。

 水晶は己が護らねばならないと想った。

 それが、想い焦がれ、そして手を差し伸べきれなかった己の唯一の贖罪(しょくざい)であるとと思った。

 だが、拒絶され、気づいてみたら、塩月に狂気が取り憑いた。

 塩月は己の狂気のまま、水晶を、取り払われる前の祭壇の前で、捻じ伏せ、犯し、貫いてしまったーー。

「それだけではないだろう」

 晶隆は塩月を指差した。指し貫くような勢いに、思わず塩月は仰け反った。

「君は同行を断った水晶に薬を飲ませ、自宅にまで連れ去った、そして、更に逃げ戻った水晶を連れ戻し、関係を強いた」

「すみませんでした」

 塩月は頭を下げた。

「すみません? 水晶を梱包して、倉敷から東京まで船便で送っておいて…」

 晶隆は柳眉を釣り上げた。

 度重なる出奔に苛立った塩月は暴力団に水晶を拉致させ、倉敷から水晶を梱包させ、船便で東京まで送り返させた。

「水晶はとても怖がりなんだ、それを…」

 木箱に梱包され続けた水晶の恐怖と絶望、そして渇きと餓えーー。

 塩月は何処までも己に反発する水晶を馴致(じゅんち)しようと、敢えて残酷な方法で東京に送り返させた。

 だが、死した己には、水晶になんの手を差し伸べることができなかった。

 晶隆はかつての親友に肚を立てた、呪ってやろうかとさえ思った。

「本当に、申し訳なかった…」

 塩月は項垂れた。

 あのときの自分は、本当にどうかしていた…。

「申し訳ない? 水晶に枷(かせ)までかけて、君という男は…」

 そこで晶隆は言葉を切り、足元を指差した。

 塩月は正座した。

「水晶にあんなことまでさせて…」

 塩月は己を拒絶し続ける水晶の足に枷をかけ、暴れ、手がつけられなくなると薬を使い、強引に眠りにつかせた。

 最愛の兄の死からの環境の変化と理不尽な拘束と暴行に、恐慌に取り憑かれた水晶は塩月の脇腹を、たまたま傍らにあったペーパーナイフで刺した。

「…危うく水晶が、殺人を犯すとろろだった」

 晶隆が大きくため息を吐いた。

「返す言葉もない…」

 塩月は手を前に付き、頭を下げた。

「まったく、何度殴ってやろうと思ったことか…」

 晶隆が首を左右に振った。

「…そういえば、きみは水晶を殴ったことがあったな…」

 動きを封じるため、薬を拒む水晶を塩月は殴り、暴言を吐(は)かれては殴ったことが、たしかにあった。それに思い至り、塩月は身を縮めた。

「殴る、といえば…」

 ふと思い至り、塩月は顔を上げた。

 追い詰めた旅館で、水晶は深酒し、塩月はその深酔いに乗じ、水晶に挑みかかった。

 度重なる絶頂に水晶は意識を失ったーーいや、失ったかに見えた水晶に塩月な殴られたことがあった。

 そのとき、水晶は名乗った覚えのない塩月の名を呼んだ「喬聡」とーー。

 後の問に、水晶は塩月の名を呼んだことを覚えていなかった、どころか塩月の名など知らないと言い切った。

「…まさか、あの旅館での一件は…」

「あぁ、僕が殴った、あのとき水晶は誰かさんのせいで疲れ果て、深い眠りに陥(おちい)ってたからね。一時的に身体を借りることができたんだ」

「すると、全て…?」

 ただ、傍にいさせて欲しいと、何もしないと言いながらも、眠る水晶の肌に触れるだけ、口付けるだけたと自身に言い聞かせながらも、結局は水晶を抱いてしまった情景を、晶隆は見ていたというのか…。

 塩月の背に悪寒が取り付いていた、もう、恐ろしくて顔を上げ、親友の男の顔を見る勇気も出ない。

 いや、晶隆にとって塩月は、親友とは言えない存在に成り下がっているに違いなかった。

「全て、きみが水晶にしたこと、言ったこと、行ったこと、全て見ていたさ」

 冷たい、晶隆の口調に塩月の背が冷えた。

「許して欲しい、僕は水晶を…」

「愛していると?」

 塩月の言葉を、晶隆の冷たい口調が遮った。

「君は僕のことも、好きだと言ったことがあったな?」

 塩月の胸に、晶隆の言葉が突き刺さった。

 水晶に出会うまでは、塩月の慕情、愛情全ては晶隆に注がれていたーー。

ーーがが、水晶を目にしたときから、そして接していくうちに、水晶に魅せられ、いつしか水晶のことしか考えられなくなった。

「まったく、君は不実な男だ、そんな男に水晶はまーー」

「兄さん」

 任せられない、という言葉は、新たな声に遮られた。

 塩月は愛しい者の声に顔を上げた。

 水晶がいた。

「水晶、戻ったのか?」

「戻ったのか? じゃあないよ、今、塩月さんを虐めていたでしょう?」

 水晶が兄に詰め寄った。

「いや、虐めてなんか…」

「ぢゃ、コレはどういう状態?」 

 水晶が晶隆とその足元に跪(ひざまづ)く塩月を見比べた。

「いや、これは昔話を…」

「へぇー、昔話で正座させるんだ?」

 水晶は晶隆と塩月の間に身体を割り入れた。

「もう、立って」

 水晶が塩月の腕を取り、立たせた。

「僕は塩月さんが好きになったの、塩月さんが僕のためにどれだけ苦しんだか、兄さんだって知っているでしょう?」

 水晶の病が発覚しても、塩月は水晶の許(もと)を去ることはなかった。

 それどころか、あらゆる手を尽くし、水晶の苦痛を取り除く努力をし、可能な限り傍らに寄り添ってくれた。

 それが水晶にはたまらなく嬉しかった。

 とても、感謝していた。

 塩月は水晶の病に、自身も苦しんだ。

 もう、塩月を苦しめたくはなかった。

「だから、塩月さんを虐めないで」

 水晶は兄を見上げた。

 真っ直ぐに自身を見据える弟の姿に、晶隆はたじろいだ。

「虐められていないよ。本当に、昔話をしていただけなんだ」

 晶隆はまっとうなことを言っていただけなのだ。水晶に責められるのは晶隆ではなく、塩月自身であった。

「兄さんを庇うわけ?」

 水晶に睨まれ、今度は塩月がたじろいだ。

「もう、2人とも、僕のいないところで…」

 そこで水晶は言葉を切った。

 元々、塩月が恋い焦がれていたのは、水晶ではなく兄であったことを思い出していた。

「そうか…やっぱり、塩月さんは兄さんのことを…」

 水晶は両手で顔を覆った。

「そんな、水晶…」

 声を発したのは塩月と晶隆だ同時であった。

「ほら、そんなに呼吸もぴったりで…」

 非道いと、顔を背けた水晶の瞳から、透明な泪が伝うのを2人は見た。

「そんな、僕らはただ…」

「…そう、昔話を…」

 晶隆と塩月が顔を見合わせた。

「本当? 喧嘩もしていない?」

 水晶の問に2人同時に頷いた。

「なら、いいよ」 

 水晶が2人の腕を取った。

「これからは、皆で仲良くしようね、僕たちもう自由なんだから」

 不遇な死に方ではあったが、こちらの世界で3人が揃うことができたのだから、水晶は兄と、愛する人と、晶隆は弟と、親友と、塩月は愛する者と親友と、現世では送れなかった時間をゆっくりと送っていけばいいのだとの水晶の言葉に、晶隆と塩月は揃って頷いた。

 立場は違えど、溺愛する水晶には頭の上がらない2人であった。

 

 2,023 9/24

 仇華 番外編 塩月喬聡詰められる 終わり

 

 

 ■ ■ ■

 

 あーん。

 お彼岸までに終わらなかったよぅ。

 コレの本編 仇華は200p以上あって読み返すだけでも大変だったよぅ。

 仇華を読み返して思ったことは、猫強の書く受けで酷い目にあったのは魔性の溝口だと思っていたけど、読み返してみると、水晶もものすごい目に遭っていました。

 きっと他の本の受けも、負けず劣らずな目にあっているんだろうな(遠い目)

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 それでは、ココまでお付き合いありがとうございました。

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