JINX 猫強

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転生したら飼い猫だった件 (転生編)2

2022-12-17 01:08:08 | 

ーーな、何ということだ、我が仔猫になっておる。

ーーど、どういうことじゃッ

ーーなどと、慌てているすきに我は箱の中に…。

ーー出せ、出さぬかッ!

ーー我をどうする気ぞッ!

ーー嗚呼、箱が揺れておる。

ーーなんぞ、何をする気じゃッ!

ーー箱の動きが止まった、今じゃ。

ーーだが、登れんッ。

ーー少し前までは、こんな高さは一飛びであったのに…。

ーー爪も立たん、嗚呼…仔猫になってしまったからか…。

ーーだが、何故じゃ。

ーー何故、こんな姿に…。

ーーまた、箱が動き出しおった。

ーー我はどこかに運ばれておる。また、あの地獄が始まるのか…。

ーーやっと、開放されたと思うたのに…。

ーー我は震えた。

ーーまた、あの飢餓・苦痛・恐怖…。

ーー我は耐えられぬ、また、あの…。

ーー我は恐慌に全身を包まれ暴れ、鳴き叫んだ…。

ーー箱の揺れが止み、置かれたのが気配で解った。

ーーいよいよ始まるのか、あの地獄が…。

ーー箱が開かれた。

ーー?

ーーそこは我が思っている場所とは違ごうた。

ーー我がさっきまでいた部屋は暗く、乱雑で、匂いも酷い場所であったが…。

ーーここは違う、明るくて、酷い匂いもない。

「猫ちゃん、今日からここがあなたのお家だよ」

ーーあの”飼い主”とやら呼ばれていた女が我に呼びかけおった。

ーー家などどうでも良い。早う我を放たぬか。

ーー人間の姿など見とうもないわ。

ーー我はあの公園で、また自由気ままに暮らすのだ。

「はい、猫ちゃん、ごはん」

ーー暴れる我を僅かな時間放置しておった女が、何やら我の前に差し出しおった。

ーー途端、我は身をすくませた。

ーーまた、打(ぶ)たれるのだと思うた。

ーーだが、目の前に置かれたのは皿で、中には香りの良いものが置かれておった。

ーーこれは…。

ーー我は知っておるぞ。これは猫缶というものぞ。

ーーこれを、食してよいのか?

ーー我が?

ーーいやいや、我は人間など信じてはおらん。

ーーどうせ、我が口にしようとした瞬間に、皿を遠ざけるに決まっておる。

ーーえ?

ーー食してよいの?

ーー我は我の様子を伺う女を見上げた。

ーー女には皿を取り上げる気配がない。

ーー本当に、食して良いのか?

ーーいやいや、それなら、なにか良からぬものが入っているとか…。

ーー前は猫缶の中に辛い刺激物を入れられ大変な目に遭ったのぞ。あの人間はそれを見て、さらに四角い物体を我にかざし、笑っておったわ。

ーー我は、あの顔は忘れはせぬ。

ーーあの苦痛も、屈辱も忘れはせぬ。

ーーだが、辛いところを除ければ食べれんこともないかも知れん。

ーー我は、空腹に負けてしもうた。

ーー!

ーーうまいッ。

ーーなんじゃ、この食べ物は。

ーーさっきのものも美味であったが、コレはコレで…。

ーー我は一時ではあるが警戒心を忘れ、ただ、ひたすら目の前の食事を平らげた。

ーーうまい、本当にうまい、身に染みる。

ーー我は、これだけで、仔猫にされたことを忘れた。

「水も置くね」

ーー不意にかけられた声と、目の前にもう一つの皿を置かれた気配に、我は飛び退いた。

ーー途端に箱に身体が当たり、目の前の食事と、新たに置かれた皿を倒してしもうた。

ーー痛恨なり…。

ーーあの男は汚い部屋に住んでいながら我が物を倒したりすると、我を頭上まで持ち上げ、そのまま床に叩きつけ、蹴り、隅に逃げた我を引きずり出し、何度も壁に叩きつけおった。

「ごめん、ごめん、猫ちゃん、驚いたね」

ーー女は我の身体を掴むと箱から取り出し…。

ーーそっと、傍らに置くと、箱の中の物を取り出し、汚れたシーツを外し、ついでとばかりに箱の中に何かを入れたり出したりしはじめおった。

ーーあの…。

ーー何もせぬのか?

ーーそうだ、逃げよう。

ーー今なら女の気は箱の中に逸れておる。

ーー今のうちに逃げ出し、あの自由な公園へ…。

「あッ、逃げちゃダーメ」

ーー声を発した女に我は掴まれ…。

ーー床に叩きつけられるッ、それとも壁かッ!

ーーと、思うたときにはまた元の箱の中にそっと置かれ…。

「お水もどーぞ」

ーーあの…箱に戻しただけ?

ーーな、なにもせぬのか?

ーー本当に?

ーーでは、もう少し食すとするか…水も、少し…。

ーープハ。

ーーうまかった。ここの水も透明で、うまかった…。

ーー我は満足じゃ。

「それじゃぁ、失礼して」

ーー美味な食事と、透明な水で満足をした我の身体を女が掴み上げた。

ーーな、何をするのじゃッ!

ーーやはり、やはり、図っておったかッ!

ーーおのれ、人間ッ!

ーー許さぬぞッ、人間めッ!

ーーお、これ…な、何をしておる。

ーーそんな、温かいティッシュで、我の大切な場所を刺激するでないわ。

ーーこれは、もしや…、しゅ、羞恥プレイか。

ーー我の、猫族の自尊心をなんだと思うておるッ。

ーーやめろ、やめんかッ! さもないと…。

 チー。

ーーあ、我としたことが、とんだ粗相(そそう)を…。

「上手にデキたね、偉い、偉い」

ーー女は我の身体を箱にそっと戻し、我の粗相を吸収したテッシュを箱の中に設置された更に小さな箱の中に置くと…。

「ここがトイレだよ、ほら…」

ーー女は我の身体を再び掴み上げると、小さな箱の中にそっと下ろした。

ーーこれは…砂か…。

ーー公園のものとは違うが…。

 掻(か)いてみる。

 ザッシュ、ザッシュ…。

ーーウホ、楽しい。

ーー公園時代を思い出す。

「猫ちゃーん、寝るのはこっちね」

ーー砂を掘りまくる我を、女が掴み上げた。

ーー何をするのだ、我は、もっと砂で遊ぶのだ、砂の上の方が落ち着くのだ。

ーー再び砂の入った箱に登ろうとする我を、女が押し留めた。

ーー何をするのだ、人間、我はこっちのほうが好きなのだ…。

ーーだが、はたと我は我に帰った。

ーー人間に逆らえば、また虐待される、ということを思い出したからじゃ。

ーー我は一瞬で身を強張らせた。

ーーその身を女が掴み上げ、さっきはなかった柔らかなタオルの上に我を乗せた。

「寝るのはこっち、ご飯とお水はこっちで、チッチはこっち」

ーー女は、我の身体をいちいち対象物に向けながら、我に声をかけ…。

ーーそれから、我の身体をタオルの上に置き、そっと上からまたタオルをかけた。

「猫ちゃんは元気だねー」

ーー女は我に語りかけた、静かな、低い声でゆっくりと。

ーーあの人間のように一方的で、攻撃的ではなく、ゆっくりと、まるで我に語りかけているかのように…。

「猫ちゃんはね、お母さんとはぐれちゃったみたいで、その後、探し回っているときにカラスに狙われて怪我をしちゃったんだって、他にも、身体は衰弱しているし、ノミとかもいたから治療をしてもらったんだよ。怖かったね、大変だったね」

ーー何を言う、我をこのような身体にしたのは人間ぞ。

ーーあの人間が、我の身体を切り刻み、我にありとあらゆる暴力を加え、我をーー我をーー。

「可愛そうだったね」

ーー不意に、女が我の頭を指で撫でた。

ーーそのあまりの自然さに、我は躱(かわ)すのも攻撃することも忘れた。

「もう大丈夫だからね、私と一緒に暮らそうね」

ーー一緒に暮らす? 冗談ではない、二度と人間などと暮らすものか、我はあの公園へ帰るだ。

「そうだ、猫ちゃんの名前を決めないとね」

ーー女が我の頭を指で撫でながら口を開いた。

ーー名などいらん、もう、もう二度と人間になんぞ関わるなどごめんじゃ。

 我は女の手から逃げ回った。

 だが、女の掌(てのひら)は我の動きを読むように、我の頭をなで上げる。

「猫ちゃんは三毛猫だから、ミケでいいね」

 女は優しく我の頭を撫でおった。

 



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