退屈男の愚痴三昧

愚考卑見をさらしてまいります。
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先生との出会い(46)― 「『指定』って何すか?」 ―(愚か者の回想四)

2021年05月05日 18時27分18秒 | 日記

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 一学期の期末試験には間に合わなかった。だが、その後、彼は夏休みの特訓期間を使い、すでに終わっているLesson 1.からすべての追試を受け合格した。

 たまに答案回収箱に彼の名前が書かれた2年生の追試が入っていることもあった。

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 塾に来た時、39点だった彼は二学期の中間試験の英語では桁の数字が入れ替わり93点を取った。

 保護者が、「はいれる高校が無い」と心配した彼だったが学区内でNo2.の高校に合格した。

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 もう一人、塾に来た個性ある生徒を紹介しておきたい。

 彼は暴れん坊だった。脳みそは良い。だが、中学校の空気には馴染めなかった。(私もそうだったのでよく分かる。)

 ところが、学校は休みがちなのに塾には一年から三年まで休まず来ていた。(私は、塾には行かなかった。そんな金も、時間も、意志も無かったから。)

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 彼は学校の英語の成績は良くなかった。しかし、追試には次々と合格していた。つまり、学校の先生に不快感を持っていたのである。実によく分かる。

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 三年生になり学校で進路相談が始まった。学校の成績は良くないので先生は成績に見合った学校を提案した。

 しかし、彼はそれを蹴った。「冗談じゃねぇ~、あんな高校行かれるか。」とかなんとか言ったらしい。彼には行きたい高校があった。だが、進路指導の先生は絶対無理と言った。

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 塾長は、「平気じゃないか。」と余裕であった。私も彼の塾での実力を眺めると合格できると考えた。

 年が明けた。この頃に始まる直前特訓では気合の入った勉強をしていた。

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 出願直前の面談で再び志望校を下げるよう促された。無口な男だったが実に不快な顔をして塾にやって来て話した。

 我々は志望校の選択には関知しない。生徒が入りたいと言えば入れるように指導をするだけだ。

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 そして入試の日を迎えた。本人に言わせれば英語は満点だったらしい。みごとに合格した。志望校を下げるよう指導した先生は仰天していたという。

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 しかし、残念なことに高校でも空気が合わず結局中退した。

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 その後しばらくして、彼は爆音を響かせ改造バイクで塾に顔を出した。

 「ウっす、ご無沙汰っす。先生、元気っすか。」

 暴走族みたいな服装であった。

 だが、楽しそうであった。

 「子供らが怖がるからもう少しましなかっこうをして来い。」と言うと、「わっかりましたぁ~。また来ま~す。」と言ってニコニコしながら汚いかっこうで帰って行った。

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 ちなみに、彼には、「町でうちの塾生がヤバいことになっていたら助けてやってくれ。」と頼んでおいた。

 今は知らないが、当時、他の塾の生徒が月謝を奪われるという被害が私の耳に入っていた。

 多くの場合、塾は月初めや月末に集金するので、生徒が塾に収める月謝を持っていることを知ってこれを狙う悪ガキが出没していた。

 この塾では女子は全員マイクロバスで送り迎えをしていたが男子は自転車か徒歩だった。

 「蛇の道は蛇」と言っては彼に失礼だが彼ならばヤバい生徒を助けられると考えた。

 「いいっすよ!『どこの塾?』って聞いてからやりますから。他の塾の子は関係ないっすから!」そう言って笑った。

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 それから何年か経ったある日、彼は再び塾にやって来た。

 「ウっす、ご無沙汰っす。先生、元気っすか。」

 言うことは全く同じだった。

 ところが、服装と雰囲気が全く違っていた。頭はパンチパーマ、派手なブラウスに派手なスラックス。汚くはない。

 小さな黒いカバンを小脇に挟みニコニコしていた。

 「どした。元気そうだな。今、何やってんだ。」

 「今っすか。ちゃんとやってますよ。」

 「で、今日は?」

 「いえねぇ、組、入ったんすよ。」

 「組かぁ~。どこだ?」

 「先生知ってっかなぁ~。〇〇〇です。バイト先の先輩に気に入られちゃって組長という人に会ったんすよ。そしたら、こっちでも気に入られちゃって。(以下省略)」

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 そうなのである。いわゆる暴□団に入っていた。

 暴□団の勧誘方法は多岐にわたるが、彼の場合は「持ち上げ型」だった。これは非常に巧妙だ。

 まず、一般に男が欲しがるであろう有形無形のものを提供する。いわゆる、三種の神器も含まれる。ときにはチ○カまでも渡す。ただし中身は無い。当たり前だが。

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 こうして人の心をつかむ。

 心をつかまれた者は、「親分のためなら死んでもいい。」と短絡的に信仰してしまう、場合がある。

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 「先生知ってっかなぁ~。」と言って組の名前を言ったとき、本部事務所の場所と代表者の名前を私が言うと、「先生、よく知ってますねぇ~。」と驚いていた。

 「当たり前だ。指定じゃないか。」と言うと、「『指定』って何すか?」と言った。指定を知らずに指定に入っていた。

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 これ以上詳しいことは文字化できないが、指定暴□団の内、上位三団体以外で関東の有名どころと言えば数は少ない。

 刑法やら刑事訴訟法やら警察政策や犯罪対策などを少しでも専門に勉強しているものならば団体の本拠地と代表者の氏名くらいは頭に叩き込んである。「よく知ってますねぇ~。」と言われても知っている理由を一々説明するのは面倒だった。

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 さてどうするか。(つづく)

 

※「先生との出会い」はファンタジーです。実在する団体及び個人とは一切関係ありません。