part i へ
肘鉄チョップ裏拳掌打&?_part ii
返事をみてリビングにもどった小一男子は(二人でゲームをする)セッティングをしながら姉を待つ。おきゃんは浴室の床面などを手早く洗うと台所経由でジュースとお菓子とお手ふきを用意して大画面ディスプレイ前に行く。気がきくぅの表情を浮かべる弟。さっきまでうつ向き気味の小六女子はゲームをする前から既にいくらか気が晴れているようだ。
誘われたのは格闘ゲーム。一対一の対戦型で一つのキャラクターをそれぞれが手に持つコントローラーであやつる。コントローラには、あらゆる方向に動くレバーが一つ付いており、前後左右的な人物の動きを操作できる。レバー以外にも形や大きさが様々ないくつかのボタンがあり、あるボタンのある押し方がある方向へのパンチ、キック、防御など決まっていて、状況に応じて使い分ける。また、複数のボタンをタイミングよく操作すると必殺技や連続技が仮想空間で繰り出される。誰が操作しても同じだ。低学年の弟とは、けんかに限らず大抵の運動について負けっこないがゲームにおける対戦ではハンデはグッと圧縮される。画面では姉弟それぞれに操作されたキャラクターによる実力伯仲な戦いが展開していたがジュースに一口もつけてない弟の集中力が上回ったのか、弟くんの操作するキャラクターからのローキックが見事に決まり、お姉ちゃんキャラクターは一秒コマンドを受けつけなくて動けない状態になる。
小一男子があやつるキャラはそのままパンチや蹴りを当てずにおきゃんのキャラから離れた。この無防備に弟の手の動きは必殺技を出す操作をした。先日、おきゃんが弟に教えた技、といってもおきゃんもクラスメートから教えてもらった出し方。対して、おきゃんも弟と同じ操作を試みる、ただし、同じ動きをもっと速く何回も。狙いは弟が繰り出す必殺技を相殺するためでありコマンド入力が有効になると同時に発動したいため、ひたすら同じ手の動きを繰り返しているのだ。
しかし、どんなに素早く操作してもタイミングがズレる確率も高ければ、慌ててレバーを回しすぎたり、人差し指の腹辺りにあるボタンを押し間違えたりして、相殺する必殺技を繰り出せる可能性は低い。一方、既に弟のコントローラーより必殺技コマンドが入力された弟のキャラは画面で必殺技のエネルギーをためているポーズを示している。
その時である。
動けない一秒が終わるや否やおきゃんが操作するキャラが必殺技を放つ直前の弟のキャラクターに接近し、見たことのない連続技を繰り出した。左肘鉄、左手チョップ、左の裏拳を浴びせ、右手による渾身の掌打。4つの連続攻撃は倍倍倍の加算と累積でおきゃんのキャラクターが大逆転勝利する。
「ずるい、そんなかえし(わざ)があるなんてしらなかったよぉ。」
横で泣きわめく未満ながら軽視できないレベルで怒りや悔しさを示す弟。ずるいというアピールは先の必殺技のように新しい情報はゲーム前に教えて合うことで共有する暗黙姉弟ルールがあったからであろう。わびながら偶然の産物であったことを丁寧に伝えると今度は教えて、教えてを連呼する弟。とっさのことだったので記憶を頼りに何度か一緒に試行錯誤をした上で肘鉄チョップ裏拳掌打の再現に成功した。操作次第で右肘鉄、右手チョップ、右裏拳、左による渾身の掌打が出せることも分かった。
それにしても最初の負けがよほど悔しかったのか、ゲームが終わった後も弟は自らの両手による肘鉄チョップ裏拳掌打を姉の体にぶつけてくる。偶然とはいえ大人気ない勝ち方をしてしまったのは、まぎれもない事実だったからお姉さんであるおきゃんはクッションを盾がわりに持ち、弟の気がすむまで何度かリアル連続技を受ける。
数回も繰り返すとクッションに当たる肘鉄チョップ裏拳掌打の各ポイントが一致してきて、クッションをはさまずツボに嵌れば相当痛そうな手応えを感じ、
「(家の)外で人に向けてしてはだめだよ。」
と注意をすることも怠らず・・・・・・。素直に頷く弟をみながら、おきゃんはひらめきをおぼえる。これって、バッティングに活かせるかも!?
「はいコイン。ここはいいから好きなところで打って来なさい。」
バッティングセンターで一番遅い速度であるが小学一年生にはさすがに速い。はじめは当たらない弟に、球をしっかり見なさい、出掛ける前に家で練習した素振りを思い出して、などのアドバイスをしている姉に父親も優しく促す。
一番打ちたい球速の打席は使用中だったが誰も順番待ちしてなかったので座って待つことしたおきゃんはここ数日について自ずとおもい出す。
弟と格闘ゲームでひらめいた日から日課の素振りで左肘鉄、左手チョップ、左の裏拳、、右手掌打を意識してみる。
すると今まで鏡や窓ガラスに映る姿をみながらなど意識しないとなかなかできなかった腰の回転が自然にできる感覚になる。さらに体力の消耗がいちじるしいのか腰が入ったフォームが大変疲れることも知った。これまでの打ち方、スウィングが上辺だけの手打ちであったに違いないと反省する野球少女。
ひらめきの内容を肘鉄チョップ裏拳掌打(法)とこっそり名付け、素振りだけなく家でも学校でもどこでもエアーギター如く、(動きを)繰り返す。バットがなくても、いつでもどこでもできるイメージトレーニングといったところ。やりすぎで仲良しの女子が実況のアナウンサーの真似ごとをしたり、拳銃で打たれた真似をする犬のように守備や次の投球のアクションをして和ませてくれたことをおもい出して笑うおきゃん。
前の人が終えたのでゲージの中に入り、お父さんからもらったコインを機械に投入し、マイバットを構える。機械が投げるボールを打ち返してると先週の練習での失敗とその前日に行ったバッティングセンターの記憶が頭の片隅をよぎる。
少年野球の練習前に投げられたボールをどうしても打ちたくなったおきゃんは(大好きな選手の特集が組まれた)野球雑誌の購入を先送りにしバッティングセンターへ。実際の球を打ち、これまでのスウィングが腰の回転を伴わない手打ちだった推測を裏付ける。左肘の動きとチョップの間には自然にタメが生まれる感覚があり(チョップと)裏拳が手首をかえす感覚でこれらがリストをきかすってことかもと打ちながら考察するスウィング少女。手応えを感じ翌日の練習に臨んだ。
しかし、これが散々だったのだ。いざ、打席に立つと力みすぎ、意識しすぎの過ぎ過ぎで肘鉄チョップ裏拳掌打を無意識に頭の中で繰り返し唱えすぎてしまったのだ。これではスウィングのタイミングがおかしくなってもしょうがない。そうならないための素振りやエアー肘鉄チョップ裏拳掌打だったので、本末転倒。しかし、上手く打てないことに焦れば焦るほど無意識に唱えてしまう悪循環に陥ってしまった。打撃練習が終わって打席を外してから脳内唱えすぎが上手く打てなかった原因と気付いても後の祭りであったとマシーンのボールを気持ちよく打ち返しながら思うおきゃん。
「おねえちゃん、すごいー! 僕にも感謝だなぁ。」
知らぬ間に弟と父が姉兼長女の打撃を緑の網の間からみていた。
野球大好き長子は弟に手を振ってこたえる。この一週間、父と弟には、すっかりお世話になったと改めて感謝しながら視線をマシーンの投手映像にもどし、うら若き乙女はバットを構えなおす。
(part iiiへ)つづく
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