「たにぬねの」のブログ

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2020-07-04 11:21:18 | texto
肘鉄チョップ裏拳掌打&?_part i

「どーせ、また、バントだよぉ。」
 相手側の応援が少女の耳に届く。ゲーム終盤、ワンアウト一塁で二回目の打席がめぐって来る。前の打席はノーアウト一塁の場面で代打としてバッターボックスに立ち、指示通り送りバントをきっちり決めていた。ベンチには代打の切り札と代打の神様兼第二エースが残っていたが監督はピンチヒッターを送らず、おきゃんに初球を見送れとサインを出す。

 おきゃんは野球が大好きな小六の女の子で右投げ右打ち。小さいころから、ままごとやお人形遊びより野球のまねごとばかり。幼稚園の頃から野球ごっこをするためボール一つを片手に持って、一人で壁当てを楽しんでいた。そのおかげか小学校に入ると男子にまじって運動しても活躍が目立つくらいで国語の辞書の授業で誰かが見つけた言葉(or語句)、おきゃんが彼女の呼び名になる。
 おきゃんの野球環境が大きく変わったのは小四、地元のなかなか強い少年野球チームの入団テストに難なく受かってから。ただ、チームで唯一の女子であることや自分自身に厳しくすることで(壁当ての)一人野球の癖をなくしチームプレイを覚えていったため、団に入って丸二年を過ぎた今でもチームメイトと気さくに付き合ううちとけ方ができていない感じ。おきゃん本人が野球できるだけで幸せなので特に問題を感じていないのだが・・・・・・。

 今日は近隣県(の少年野球)の強豪チームを迎え、練習試合。おきゃんは先発メンバーではなかったが試合中盤に代打で登場!送りバントを決め、見事にランナーを進塁させた。後続の打者から快音が生まれなかったため結局、無得点に終わったがグラブさばきがチームでも三本の指に入るおきゃんを監督はチェンジ後もそのまま守備につかせる。ゲームは進み、本日二度目の打席がおきゃんにめぐってきたところ。前の打席がバントがとても上手く決まったので野次みたいな応援が発せられたのだろう。
 相手チーム投手がセットポジションから一度一塁に牽制をしてからの一球目は、ど真ん中に速い球。おきゃんはサイン通り見送り、猛ダッシュしてきた一塁と三塁手が元居た場所にもどる。相手はワンアウト一塁なのに、おきゃんが一〇〇%バントするって決めつけて、ランナーを二塁でアウトするために猛ダッシュ。ある意味野次より辛辣であるが、それを見返してやれって気持ちになる、おきゃん。
 二球目に対する監督からのサインは一塁ランナーには投球と同時に走れ、バッターのおきゃんには、なにがなんでも転がせのサイン。普通に打つか、バントするかはおきゃん判断。ランナーの足を、バッターのボールを当てる上手さを信じた采配である。
 第二球。ストライクゾーンから大きく外したウェストボールだったら、飛びついてでもバントをするしかないと考えていたベースボールガールに対し、一球目同様力押しピッチングでど真ん中の速球が来た。おきゃんの判断は打つ!打球がピッチャーとセカンドの間を抜くイメージで強振する。

「(強振したのに)ボテボテなんて・・・・・・」
 おきゃんはプラスチックのたらいの前でため息まじりに小さく独り言。二打席目のなにがなんでも転がせのサインが出てから二、三時間は経っただろうか、当然、試合はとっくに終わっている。チームで一人しかいない女の子であるおきゃんはいつも解散後に誰かとお喋りすることなく一人まっすぐグラウンドを後にする。今日も帰宅して練習の汗を流し、短パン&腕まくり姿で自宅のお風呂場でユニフォームの泥を落とす。泥まみれ衣類をそのまま洗濯機に入れたら大ブーイング。
 このお風呂場における泥など汚れ落としは以前、お母さんが行ってくれてた。しかし、小六になって少年野球を続けるに当たり、おきゃん自身がすることになる。やりはじめたばかりの春休みは練習の疲れもあって少なからずの面倒くささを感じたが馴れてしまえば大変ってこともなく頭の中に入ってしまった汚れ落としの手順を速やかに実行するスポーツ乙女おきゃん。
 叩いて落とせる泥を落とし、部分汚れ専用の液体洗剤を軽く塗り、液体洗剤を泥汚れがある部分の布地に丁寧になじませる。滑り込んでついた泥など特に汚れがひどい部分は軽くもみ洗いをして水ですすいでから、先の手順である。そのあとは一晩このままにして翌日、洗濯機に放り込めばいい。最近は鼻唄も出るくらい馴れた作業。なのに今は、二、三時間前の二回目の打席をおもい出し、ため息まじり。

 相手投手が二球目を投げたと同時にランナーが走る。ピッチャーと一塁寄りに守っているセカンドの間を抜くイメージでバットを強振するおきゃん。監督の思惑通り一塁方向に転がるボール。ただし、打球の勢いはヒット狙いのおきゃんの気持ちとは真逆な、勢いが死んだゴロ。ランナーは二塁に到達。ボテボテのゴロを捕った相手二塁手は仕方なく一塁にボールを投げる。
 一塁に向かって走るおきゃんの内心は強振してどん詰まりのゴロって、どれだけ非力なんだという自問自答で穏やかではなかった。アウトになりベンチにもどりながら、普通に守られていたら、もしくは二球続けてど真ん中じゃなかったらダブルプレーという結果になっていたかもしれないとネガティブシンキングに陥る。だから、二塁に進んだランナーがこの後、どうなったかをこの回の攻撃が終わって、スコアボードに入っている数字を見てはじめ知るくらいショックを受けた記憶がよみがえってくる洗濯野球少女が一人居た。

 たらいの中身をみながら(こうなると、)野球を続けることを反対した母のが正しかったのかなって娘は振り返ってしまう。運動をやめろなどとは言われたわけではなく、男の子と一緒に野球を続けるのは苦労が多いだろうから地元の中学に女子のチームがあるスポーツにしたらって、もっともな助言。理屈抜きで反発を覚えながらも野球を続けたことを後悔する自分が遠くない将来、待っているかもしれないと今日までの打撃を振り返ると考えてしまう。
 水面の小さくなる泡泡を見ながら数秒だったかもしれないが小六の女の子は悔しさいっぱいに座っていた。

「おねえちゃーん、ゲームしようよ。」
 自暴自棄な思考から我に返ったおきゃんが振り向くと浴室の扉から弟が顔を出していた。手による汚れ落とし作業が終わるころを見計らったのような絶妙なタイミングなのか、ネガティブな心持ちでボーっとしていた姉をリビングに居ながら察し自然と誘ってくれたのか、定かではないが悩める乙女の救いになったようである。かわいい弟を持ったおきゃんも今どきの小学生、ゲームもたしなむからOKのジェスチャー。

(part iiへ)つづく


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