goo blog サービス終了のお知らせ 

テキサスとサルサ、そして環境工学

テキサス大学留学中のあれこれ+卒業後の環境コンサル生活@MDのあれこれ

水インフラと政治

2009年01月17日 | アメリカと水
2009年1月号のWE&Tの政治と水インフラに関する記事から。

環境業界が政治に注目するポイントは、
「予算」と「法律」です。

「予算」の方では、
オバマ新政権が打ち出している、
約8000億ドル(約70兆円)とも言われる
緊急経済対策費の使い道。

上下水道関連に使われる額は、
75億ドル(約6500億円)程度だと予想され、
この額を引き上げるために、
いろいろな団体が政治的な働きかけを行っていて、

市長の会?(U.S. Conference of Mayors)は、
その倍額以上に当たる、
187億ドル程度が必要と訴えているそうです。

また、この予算を国が自治体に、
助成金として与えるのか、
公債として低利で貸すのか、
も焦点になっているようです。

「法律」の方では、
長年改正がされていないCWA(Clean Water Act)、
「非特定汚染源」や「流域マネジメント」
対策に対して踏み込んだ改正が期待されるが、
今国会では動きは無いだろうとのこと。

あとは、注目度が増している
「気候変動」が、どう法律に絡んでくるかも、
注目のようです。


参考記事:
Will Washington Rediscover Water Infrastructure? (WE&T)

Water Banking

2008年12月18日 | アメリカと水
今月号のWE&T"Water You Can Bank On"で、
Water Bankingという手法を取り入れる
自治体が、フロリダやカリフォルニアで
増えているという記事が載っていました。

これは、春や冬の間の水が豊富な時期に
地下水を人工的に涵養し、地下水位を上昇させ、
河川の水量が減少し、逆に水の使用量が増加する夏に、
必要に応じてくみ上げて使用するという手法です。

今まで貯水池が担ってきた役割を、
地下水に担わせるという考え方です。

特に、宅地開発等で人口増を計画する自治体にとっては、
乾季に上水を確保することが求められるので、
このような、「貯金」ならぬ「貯水」によって、
水資源の確保を狙う手法のようです。

ただ、記事でも触れられていましたが、
河川水を地下水に注入することによる地下水質劣化の可能性、
また地質や傾斜によっては、地下水が貯まるどころか、
どんどん下流域に流れ出ていってしまうケースも
容易に想定されます。

とはいえ、近年話題の気候変動によって、
降水量の毎年の振れ幅が大きくなってきているのも事実で、
そんな中で、地下水としてより確実に水資源を確保できる
Water Bankingの手法は、今後さらに注目を浴びる可能性大です。

Water Bankingによる、
地下水位や水収支の変化を予測することは、
ある程度地質や地下水位のデータを取ったら、
不可能ではないと思うので、
モデル屋さんの出番がWater Bankingの分野でも、
近い将来出てくるかもしれません。

関連サイト:
アリゾナ州のWater Bankingシステム



TMDL

2008年12月09日 | アメリカと水
アメリカの流域マネジメント手法の一つに、
TMDL(Total Maximum Daily Loads)
というコンセプトがあります。

どういうものかというと、
CWA(Clean Water Act)によって定められた
水質基準(Water Quality Standard)を,
満たしていない水域があるとします。

この水域はImpared Water List
(汚染水域リスト)に登録され、
その水域を管理する立場にある自治体は、
水域保全計画を立てねばなりません。

この保全計画の柱がTMDLです。
これは、水質基準をその水域が将来的に満たすために、
許容されると考えられる最大の汚染物質受容量のことを指します。
そのため、TMDLは、Pollutant budgetー汚染物質予算という言い方もされ、
それを超えなければ、赤字(つまり水域の悪化)にはならないだろう
という考え方です。

ただ一筋縄では、いきません。
汚染物質といっても、栄養塩、重金属、
大腸菌などのバクテリア等、多岐にわたるでしょう。

汚染源といっても、下水処理場等の点源だけでなく、
農地等の面源も含まれることが多いはずで、
流域からの実際の汚染物質流出量を評価するの難しいはずです。

そのため、前述のWE&Tの記事をして、
Uncertainty - 不確定要素 - が多すぎるし、
データが蓄積されるにつれて評価も変わるだろうから
一度きりではなく、定期的に見直していくべきだ
と言わしめています。

だだこのTMDL,コンセプト的には非常に面白い考え方で、
流域を包括的に理解し、改善策を練る手法としては
とても優れていると思います。
おかげで流域モデリングという分野が、
アメリカで確立されつつあるのも、
TMDLの隠れた恩恵かもしれません。

参考WEB:
Clean Water ActのEPAによる解説ページ
TMDLについても、さらに詳しい解説が載っています。

Chesapeake湾

2008年12月08日 | アメリカと水
アメリカ東海岸北部に、
Chesapeake Bayというアメリカ最大の河口があります。

Baltimoreのベイエリアも含むので、
気になって調べてみたところ。。。

水域面積が11,600平方キロ(琵琶湖の約17倍)
流域面積が、166,500平方キロ(同、43倍)
平均水深がたったの7メートル(同、6分の1)
となっていました。

お気づきのように、
水域の面積や体積に比べて流域面積が非常に大きく、
水域面積に対して、流域面積が14(琵琶湖が6程度)というのは、
世界でも最大の比率のようです。

そのため流域の影響を受けやすいといってよく、
1970年に、極度の低酸素状態に陥り、
名物だったカニや牡蠣が壊滅状態を食らったようです。

1972年にアメリカの水質浄化法Clean Water Actが大改正され、
点汚染源の防止強化に本格的に乗り出したのですが、
首都ワシントンのお膝元でもあるCheasapeake湾での衝撃も、
背景にあったのでしょう。

ところで、
牡蠣の方は、良く知りませんが、
カニのほうは今でもBaltimore名物で、
クラブケーキ(カニコロッケ?)レストランは、
市内のいたるところに存在します。


参考文献
Chesapeake Bay(Wikipedia)
琵琶湖(Wikipedia)

アメリカの実務系環境学会組織 WEF

2008年12月07日 | アメリカと水
アメリカの環境学会的な組織のひとつに、
WEF(Water Environment Federation)というのがあります。
研究系というよりは実務系の組織で、
それぞれの地域に支部があります。

例えば、CWEA(Chesapeake Water Environment Association)というのは、
Chesapeake湾を囲むMaryland州やDelaware州を対象とするWEFの支部で、
毎年Ocean Cityで夏の学会を開いており、僕も今年発表してきました。
いろんなコンサルや自治体が参加して、プロジェクト事例や成果を発表し、
情報交換の場とするそんな機会です。

ところで、このWEFのメンバーになると、
Water Environment & Technologyという雑誌が毎月送られてくるのですが、
これが結構面白いです。

例えば2008年の8月号では、Watershed Challengeと題して、
流域管理にまつわる記事が並んでいました。

コロラド川の水資源と水質保全のために作成・承認され、
実際に実施されることが決定した計画の概要、
また流域管理手法としてのTMDL- Total Maximum Daily Loads -
の見直しを提案する記事等です。

大きなプロジェクトでは、
最末端にあたる技術的なところしか普段触れないので、
このような大プロジェクトを仕切ったマネージャーの立場、
つまり技術・法律・コスト等、網羅的な観点で書かれた記事
を読むのはとても興味深いです。

というわけで、WEFの紹介をしてみました。




InfoWorks CS 2D

2008年10月25日 | アメリカと水
今日の昼休み、水理水文モデルInfoWorksを開発しているWallingford SoftwareによるInfoWorks CS(下水管の水理モデル)の2Dを紹介する無料Webinarを見てきました。かなりユーザーフレンドリーに、また可視化にもかなり力を入れて作っている様子が見て取れました。マンホールからの越流が地表面を流下する様子も時系列データとしてGoogle Earth等に取り込めるらしいので、Outputデータの互換性という意味でも魅力的です。

InfoWorksの競合ソフトといえば、アメリカEPAのSWMMやXP-SWMMなどがありますが、使い勝手や結果の見せやすさでいうとInfoWorksに軍配が上がります。詳しく比較したわけではないですが、基となる方程式や数値解析手法にそれほど違いがあるとは思えないので、まさに使いやすさ・見せやすさに勝負の分かれ目がある感じです。

ところで、つい最近GISの部署の人と話していて、Google EarthのGISファイルは、XMLで書かれていることを知りました。ESRIのSHPファイル形式は、ひとつのGISファイルを構成するのに、3つから5つのファイルの集合が必要になるの対して、Google Earthでは、XMLファイル一つで事足りるようです。平面地図だと重要になる座標系や投影法が、Google Earthのように3Dだと必要なくなるからというのも、ファイルをシンプルにできる理由のひとつかも知れません。

Baltimoreの水がめ

2007年11月11日 | アメリカと水
京都・大阪・滋賀の水がめが琵琶湖なら、人口約200万人のBaltimore市の水がめは、ここLoch Raven Reservoirになります。現在は、貯水池のすぐそばに住んでいますが、周りは林に囲まれているので、絶好のハイキングコースです。

盛りの紅葉を逃すまいと今朝一人で行ってみると、池を取り囲んでいる木々がきれいに色づいていました。水鳥なんかも優雅に泳いでいて、なんとも贅沢な景色でした。2時間弱歩いて、出会ったのが犬4匹とそのトレーナー二人、あとはリスと小鳥のみという静かなところです。

日排水量が約400MGD(Million Gallon per day)でBaltimore市の人口が約200万人なので、単純に割ると一人一日約200gallon=760L。半分ぐらいが工業・商業・農業用水だとすると、一人一日300Lくらいで大体つじつまも合います。




PEへの道2

2007年09月10日 | アメリカと水
アメリカは、州によっていろんなことが違ってきます。免許証、車検、消費税を含む税金、などなどです。そしてPE資格もしかり。例えばNY州でPEの資格を取得するには、市民権あるいは永住権が必要になります。

でもMD (Maryland)州やTX(Texas)州は、外国人エンジニアでも大丈夫なようです。テキサス州のPE委員会のサイトに、PE受験に必要な必要経験年数計算機があったので、早速やってみました。

学士(ABET)を持っている場合:4年
修士(ABET)を持っている場合:3年
PhD(ABET)を持っている場合:2年

となっていました。とりあえず、目指せPEです。試験がどのくらい難しいかは、まだ知りません。。。





PEへの道

2007年09月04日 | アメリカと水
アメリカでエンジニアを志すものにとって、最初の関門がこの、Professional Engineer(通称PE)です。Wikipediaによると、PEの資格を得るためには、
1. ABET基準を満たした4年制大学を卒業していること
2. Fundamental Engineer (FE)試験に通っていること
3. PEの下で、定められた年数の経験を積むこと
4. PE試験に合格すること
となっています。

このはじめの2つを終わらせると、Engineer In Training(EIT)の資格がもらえます。例えば、僕の卒業した、テキサス大学の環境水資源工学科は、修士(および博士)用のプログラムで、ABET基準を満たしていることがここで調べると分かります。

FE試験は、年に2回だけ行われる8時間に及ぶマークシート試験です。午前4時間は一般、午後4時間は専門となっています。それほど突っ込んだ内容ではなく、耐久力と公式集をちゃんと使いこなせるかにかかっているといえます。

現在僕は、この二つを満たしているので、登録を完了すると、Engineer In Trainingの資格が得られることになっています。

また次回、定められた経験年数や州ごとのPE受験資格などについて、調べて書いてみたいと思います。

国産の水理・水文モデル

2007年06月07日 | アメリカと水
仕事では、水理水文モデルとして、今のところInfoWorksかXP-SWMMを使っています。InfoWorksは英国産、SWMMや有名なHECシリーズやHSPFもアメリカ産、それから現在洪水解析でTUFLOWというのをXP-SWMM上で動かしていますが、それはオーストラリア産です。Mikeシリーズはたしかデンマークで、オランダのデルフトも有名です。

どうして日本から世界に通用する水理水文モデルが出てこないのでしょうか?優秀な研究者の方もたくさんおられるのに。。。どうかアメリカにまで名前がとどろくモデルが出てきてほしいと思っています。もし既に存在していて、英語でのインターフェイスが整っているのなら、是非教えてください。