ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

003. ショコフリット

2018-10-22 | エッセイ

 セトゥーバルに住み始めたころ、町を歩くと小さなレストランやアデェガ(一杯飲み屋)の入口の壁に「HA CHOCO FRITO」と書かれた張り紙を見かけて、いつも不思議に思ったものです。
 「HA」はあります。と言う意味。「FRITO」はフライです。
 そうするとまん中は「チョコ? チョコレートの天ぷら~?」


 「けったいなもんやなあ~、中国にはアイスクリームの天ぷらがあるぐらいやから…ポルトガルにもチョコレートの天ぷらもあるんやろか~?」
 甘い物の大好きなポルトガル人のこと、「ワインやビールのあてにチョコレートの天ぷらを食べるんやろか?」

 あんまりあちこちの店で張り紙を出してあるので、ある日思い切って注文をしてみました。
 やがて目の前に出されたお皿には、揚げたて熱々のイカの唐揚げが乗っていました。
 
 「CHOCO」というのは、イカ、それも紋甲イカのことだったのです。
 そして「CHOCO]はチョコではなく、「ショコ」と読むのも初めて知りました。

 もともとイカの天ぷらは好物です。
 その時以来、ショコフリットは外食する時のベストワンになりました。

 ところがこのショコフリット、どこにでもあるかというと、そうではないのです。
 私たちは今までポルトガルのほとんどの町を旅しましたが、セトゥーバル以外でショコフリットをレストランのメニューで見たことがありません。
 どうやらセトゥーバルの名物といってもいいのかもしれません。

 セトゥーバルにはショコフリットで有名なレストランが数軒あります。
 その中でもすごくはやっているのが港に面した「カイス56」という店。
 対岸のトロイアに行くフェリー乗り場の前にあり、夏の海水浴シーズンはもちろん、ふだんでも昼時は満席。
 土曜日や日曜日など行列ができて、かなり待たないと席に座れないほどです。
 隣近所にもレストランが十軒ほどずらりと並んで、ほとんどの店がショコフリットのメニューがあるのですが、行列ができるのはこの店だけ。
 やっぱり安くて美味しい店をみんなよく知っているのです。

 二人前注文すると大きな皿に三人前ほどの量が山盛り出てきます。
 厚さ三センチほどもある身を大まかに切って、それをカラリと熱々に揚げてあります。
 こんなにぶ厚い身だったらそうとう大きなイカです。
 身もかなり硬いはずですが、意外に柔らかく、しかもほのかに甘くてジューシー。
 
 ショコフリットとトマトとレタスのサラダにビール、それにバタータフリット(フライドポテト)に塩漬けオリーブ。
 デザートにメロン、最後にエスプレッソで締めくくり。
 食べきれずに残ったショコフリットは持ち帰り用に包んでくれました。
 
 メルカドの魚売り場の東側のいちばん角っこの売り場で、でっかい紋甲イカを専門に扱っている店があります。
 それこそひとつが十キロ以上もありそうな大きなイカです。
 「カイス56」などではこういうのを使っているから、あんなにぶ厚いショコフリットが出せるのでしょう。
 でも我が家はたった二人家族なので、こんなでっかいのを買うとなったら大変です。
 持って帰るのもやっかいですが、さばいて残りを冷凍庫に入れると、もうそれだけでいっぱいになってしまうでしょう。
 
 いつも、イカの唐揚げをする時はおおごとです。揚げるのがひと仕事!
 最初はシュワシュワとおとなしく油の中を泳いでいたかと思うと、突然パシーンと踊りあがってそこら中が油まみれになってしまいます。
 そこではじめに粉をまぶしておいて、次に溶いた粉にくぐらせてから揚げたら、なんとかうまく揚ったけれど、かなりゴアゴアになってしまいました。
 
 アゼイタオンの露店市に出ている屋台の中でショコフリットを出している店が一軒だけあります。
 この店のカウンターに座って、女将さんがショコを揚げるのを見ていると、ショコを水の中から引きあげて、タラタラと水のしたたるのを実に無雑作に粉をまぶして油のなかに放り込むのです。
 しかも女将さんは背が低いので、コンロに乗せてある油の鍋は女将さんの胸の高さです。

 “油がはねたら危ないな!” とハラハラしながら見ていたら、油はシュワシュワいうだけで、一度もパチ-ンとはねたりしないのです。
 不思議です。水切りもしないで油に入れて全然はねないとは…。
 
 どうしてあんなに無雑作にしてカラリとできるのだろう?
 粉は強力粉を使っているのは確かなのですが…。

 まだこの難問は解けません。
 ショコフリットを食べたくなったら、「カイス56」へ出かけることが今のところ正解です!(MUZ)

©2002,Mutsuko Takemoto
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(この文は2002年8月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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