ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

018. ポルトガルのこうのとり

2018-11-03 | エッセイ

ポルトガルに住み始めて13年が過ぎました。あっという間に…えっ、ほんと!という感じです。
でもその間にたくさんの町や村をスケッチ旅行で訪ね歩きました。

つい先日も雨の止み間にアレンテージョ地方を一泊旅行しました。
コルク樫の生い茂る森やオリーブ畑の中の田舎道を走っていると、今まで見かけたことのなかった場所にコウノトリの巣がありました。
私たちがポルトガルに住み始めたころに比べて、かなり数が増えているような気がします。

残念なことに私たちの住んでいる町にはコウノトリは一羽もいません。
でも車で一時間ほどの所にある町、アルカサール・ド・サルにはたくさん生息しています。
教会の鐘楼の上や廃墟になった工場の高い煙突のてっぺんなどに二メートルほどもある大きな巣を作り、その中には一羽か二羽のヒナの姿があり、親鳥がかいがいしく世話をして育てています。

アルカサールはサド湾の奥にあり、昔は塩田が広がっていたそうですが、今ではそれが水田に変わり、米が作られています。
ここで取れた米はなかなか美味です。
日本のように整然と田植えをするのではなく、田んぼに種もみをじかに撒くらしく、田んぼの中は稲と雑草が競い合う様にたくましく育っています。
そのせいかどうか、じんわりと甘味のある美味しい米です。

水田と町の間には、サド湾にそそぎ込むサド川が流れ、そこで捕れた小さな川海老を茹でて、おばさんたちが川のほとりで売っています。
その前にある広場には以前は中距離バスの発着所があったので、バスを待っている人たちがおばさんたちから茹で海老を買って、おやつ替わりに食べているのを見かけたものです。
でも新しいバスターミナルが町のはずれにできてからはバスに乗る人々はみんなそっちにいってしまうので、川のほとりの川海老売りのおばさんたちはこのごろずいぶん閑そうな様子です。

それにひきかえ、この町のコウノトリの数はどんどん増えているようです。
教会の鐘楼の上などは狭い場所なのにふたつもみっつもの巣があって、住宅難の様子です。

 

コンポルタ村はセトゥーバルからフェリーに乗ってサド湾を対岸に渡ったトロイア半島の付け根にある村で、ここも周りに水田が広がる米の産地です。

 





村の入り口にある大きな穀物倉庫の屋根の上には、コウノトリの巨大な巣がふたつもあり、その周りの家の屋根にも数箇所、そして村の中心にある小さなカペラ(チャペル)の鐘の横にも大きな巣が掛っています。
ここはカペラとしては今では使われていなくて、外観はそのままで、中が銀行になっています。
村でたったひとつのカペラが銀行に替わり、その屋根にコウノトリが大きな巣を作って住んでいるのです。
そして向かいには村の農協の米倉があり、「米、売ります」という看板がひっそりと掛っているのが見えました。

 





コウノトリの生息できる環境はこうした川や池や水田がある所。
そこには餌となる小魚や川海老や虫などがたくさんいて、ヒナを育てるのに適しているのでしょう。

大きな翼をひろげて、ゆったりと大空を羽ばたくコウノトリ。
やがて上昇気流に乗り、くるーりくるーりと輪を描きながら、少しずつたかくたかーく舞いのぼり、真っ青な空に吸い込まれていくコウノトリ。

その姿を見ていると私まで気持がゆったりとしてきます。

MUZ

©2004,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい。

 

(この文は2004年1月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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