ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

017. フェリス・ナタール

2018-11-03 | エッセイ

メリー・クリスマス

12月に入って街は買物をする人々でますますにぎわい、
ジングルベルが流れてクリスマスツリーのイルミネーションがチカチカと輝いています。
メルカド(市場)に行く横断歩道も信号待ちの人々がいつもより何倍も多いようです。

信号が青になって歩きだすと、向こう側から人々に混じって変なものがやって来ました。
大きな、まっ白いガチョウがヨチヨチと道を横断してやって来るのです。
“あれ、あれ…! そこらあたりで売りに出しているのが逃げてきたのかな?
でもそれにしては、ちょっと違う!”
そのガチョウは、まっ白い胸に小さなベルのペンダントを着けてどうどうと胸を張って歩いています。
クリスマスが近いので、ガチョウもジングルベルを着けておしゃれをしています。
いったい誰が飼い主なんだろう…
あたりを見まわしてもそれらしき人はいません。ひょっとして飼い主とはぐれたのでしょうか…?

買物をすませて帰り道、同じ場所で今度は反対側に、またあのガチョウが信号待ちをしているではありませんか!
そしてその横にはアゴヒゲをたっぷりとたくわえパイプをくわえた、どことなく粋な老人が立っていました。
信号が青になると彼はわきめもふらずにさっさと渡って行きます。
そのあとを、金のジングルベルをつけたおしゃれなガチョウがヨチヨチとついて行きました。
“なんとカッコいい!”と感心してしばらく見ていました。
ポリスマンも三人かたまってポカンと見ています。

我に返ってルイサ・トディの並木道を歩きだしたとたん、今度は“ウー、ウーウー”とカン高いサイレンの音が近づいてきました。
なんだろう!交通事故?救急車?
立ち止まってふり返ったその時、異常に近くでかぼそい声が聞こえたのです。
「どうしたの? 何があったの?」
「ん…!」

キョロキョロ見まわすと、
私の右の脇の下あたりに、ギョロッとした目玉の、小さなおばあさんが私を見上げていたのです。
私は思わずのけぞってしまい、
「ノー、ノー、ノンポルトゲース!(ポルトガル語はダメよ…)」と言うと、彼女はなんだか納得して行ってしまいました。
のけぞった私の横で、ビトシがゲラゲラ笑っています。
まったく、あとにも先にも、脇の下からのぞかれたのは初めてです!
ふつうは私の方が上を見上げて話をすることが多いのですから…。

ウーウーウー!と大きな音をたてて近づいてきたのは、クリスマスツリー用の木を満載したトラックの行列でした。
でもそれは、モミの木ではなく、松の木でした。

MUZ

©2003,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい。

 

(この文は2003年12月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

ポルトガルのえんとつ MUZの部屋 エッセイの本棚へ

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« K.030. 鉋(かんな) Cepilho | トップ | 018. ポルトガルのこうのとり »
最新の画像もっと見る

エッセイ」カテゴリの最新記事