ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

092. セトゥーバルのメルカドは新装開店

2019-01-21 | エッセイ

セトゥーバルのメルカドが改装工事を始めたのが、一年前だった。
その間、メルカドの小売人たちはどこへ行ったかというと、メルカドの後ろに昔からあった巨大な廃墟に移った。
その建物は昔のオイルサーディン工場跡だろうと思う。

セトゥーバルの昔の写真集を見ると、イワシの缶詰工場が港のあたりにたくさん立ち並んでいた。
私達がこの町に住み始めた1990年ごろは、そういう工場の廃墟があちこちに残っていたけれど、だんだん景気が良くなってくると、廃墟は取り壊されて、その跡に新築マンションが次々と建ち並んで、風景が一変してしまった。

でもメルカドの後ろだけは工場跡がそのまま利用されて、ヨットやクルマなどの貸しガレージとなっていたのだ。
そこにメルカド全体が移ったのだが、数軒あったカフェやバルは中に入りきれなくて、入り口のあたりにコンテナを並べて、営業していた。
以前は屋内にあったけれど、今度はコンテナの店が狭いので、外にパラソルと椅子を出して、戸外でビールやコーヒーを飲めるし、なんといっても大きな顔をして煙草の煙を吹かせるのが良いらしく、どの店も繁盛していた。
カフェといえども、店内では禁煙なので、愛煙家はメルカドの外に出て吸わなければならなかったのだ。

常設店以外にも、午前中だけ出店する八百屋なども屋内に入りきれなくて、外の通りにトンネルの様な長い仮設テントを作って、その中で店を開いていた。

常設店の入っている屋内は、きちんと設備されて、だいたい元のような店の並びになっていたが、それでもなじみの店がどこに行ったのか、最初は戸惑った。

私達のなじみの魚屋はデオドラ夫婦の店。
二人とも小柄で、顔つきもどことなく似ている。
魚の種類は少ないが、値段は安くて、しかも新しい。
キンメダイを食べたくなると、この店に買いに来る。
デオドラ夫婦の魚屋は仮設のメルカドでもちゃんと営業していた。

10月に日本から帰ってきて、久しぶりにメルカドに行ったら、仮設のメルカドは取り壊されて、元の場所に新装開店していた。
一ヶ月ほど留守をすると、劇的に変化する。

入り口付近はエレベーターの取り付け工事中なので、少しごたごたしているが、今までなかったエレベーターが出来るとはびっくり。
たった二階建てなのに~。

新装開店したメルカドは、元からあったピンクの大理石造りの売り台は撤去され、灰色の大理石造りの売り台に、いっせいに変わっていた。
長年使い古されたピンクの大理石はどこに捨てられたのだろう。
もったいない!

真ん中の通りには、あっとおどろくギガンテ(巨人)が4体も立っている。
それぞれ、魚屋、肉屋、花屋、鳥肉屋などなどを現わすギガンテ。
高さが3メートルほどもあり、買い物客がぶつかりそうになる。

 



にわとりやアヒルの入った籠を頭に乗せたギガンテ

ところで新装なったメルカドには数回行った。
でもなじみのカニ屋の親父の顔はいつも見るが、デオドラ夫婦の店は見当たらない。
魚屋の売り台も数軒ほど空いている。
ひょっとしてデオドラ夫婦の店はもう辞めてしまったのかもしれない~。

新装開店したメルカドは、どの店もデジタル仕様の計りを使い始めた。
たぶん出店の費用も以前に比べてかさむことだろう。
メルカドで店を出しているのは老人が多い。

それにこのごろ大型スーパーの魚売り場ではメルカドに負けないほどの質の良い魚を売り始め、値段もかなり安いから、お客がどんどん増えている。
朝10時から夜の10時まで営業しているから、共稼ぎの家庭では買い物がしやすい。

それにひきかえ、メルカドは昔に比べたらずいぶんお客の数が減ったような気がする。
朝8時ごろから昼の1時までしか開いていないので、魚などを買う場合、午前中に出かけないといけない。

以前は、土曜日などは、活気がみなぎり大混雑していたのに、このごろはそんなでもない。
カニ屋の店は土曜日となると、黒山の人だかりで賑わっていたのに~。

長い雨模様の日々が続きうんざりしていたのだが、久しぶりに快晴になり、メルカドに行った。
海の荒れも収まって、そろそろサバかキンメダイの生きの良いのが並んでいるかもしれない。

メルカドに一歩足を入れると、魚屋の売り台は土曜日のせいか、売り台は活気があふれていた。
貝売りの店には、アサリやマテ貝、それにコンキーリャ貝まで山積み。
コンキーリャ貝はアルガルベの特産だが、このごろセトゥーバルのメルカドでも見かけるようになった。

 



デオドラ夫婦の店

思わず買いそうになったが、でも今日はキンメダイが目的。
デオドラ夫婦の店はやっぱり出てないかな~と探したら、いたいた!
マグロ屋の右隣に出ていた。
そして生きの良いキンメダイが並んでいる。
しかも他の店よりかなり安い。
そのキンメダイの横に太くて長い魚が10尾ほど目に付いた。
よく見ると、サヨリ(アグリャ)だ。
サヨリの骨は透明なブルーで、ガラス細工のようにきれいだ。

今まで見たこともない大きなサヨリ。
太さが5センチほど、長さが60センチほど。
隣のお客も2尾買った。
私達もキンメダイとサヨリを注文した。
2尾で8ユーロ弱、安い!

 



大きなサヨリ

デオドラ夫婦はデジタルの計りをもたもたしながら使っている。
こうして、老人達も新式の道具を使いこなしていくのだ。

メルカドも新装開店したことだし、
大型スーパーに対抗して頑張ってほしい。
MUZ
2011/11/27

©2011,Mutsuko Takemoto
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(この文は2011年12月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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