ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

060. ある日突然、春の嵐

2018-12-15 | エッセイ

 その日は朝からひどく雨が降っていた。
雨はだんだん激しくなり、昼頃には雷まで鳴り出した。
 雷は今まで体験したことのない、ひどいもので、しかも次から次へとひっきりなし。
異常に近く、我が家の真上から動かない!
ふつうは空にビカビカーッと楔形の稲光が走って、そのあと一呼吸置いてからゴロゴロと音が聞こえる。
でもその日はサド湾の対岸、トロイアのあたりから、まるでサーチライトのような大きな光がピカーッと激しく飛び、瞬時に私の頭上で爆音が鳴り響く。
慌ててTVを消し、パソコンなどの電源を引き抜いた。
 生きた心地がしない。
こんな時は何もすることがない、というかできない!
激しい雨の中、電気もつけられないので部屋は薄暗く、本も読めない。
激しい雨と雷は夕方まで続いた。
 サド湾には町から流れ込んだ赤土色の幅広い帯ができている。
「これだけ大量に激しく降ったら、どこかで被害が出ているかもしれないな~」
という心配が当たった。

 夜のニュースで各放送局が慌しく被害の映像を流している。
リスボンのシントラやカスカイス、そしてサカベン。
屋根まで水に浸かったたくさんの車、高速道路の崖崩れ。
 特に被害がひどいのはヴァスコ・ダ・ガマ橋の付け根にあるサカベンの町。
早朝4時ごろに突然水が家の中に浸入して、2メートル以上も水浸しになったという。
まだ人びとはぐっすり眠っている時間帯。
ドアや窓ガラスを突き破って泥水が入ってきた時は、恐怖の一瞬だ。
被害にあった大半の人達は老人たち。
泥水はベッドも家具も電化製品もなにもかも駄目にした。
 サカベンではそれほどの洪水でも人的被害はなかったらしいが、シントラでは二人亡くなったという。

 翌日、ニュースの映像にセトゥーバルの市長のインタビューが流れた。
「えっ!セトゥーバルも?」
町の中心、市役所のあるボカージュ広場とそのまわりの商店街が一面水浸し、1メートルほどの水が上がったという。
子供服のブティックや文房具店など、商品が水に浸かる被害が出ていた。
知らなかった!
長年セトゥーバルに住んでいるが、こんなことは初めて!

 先日、「セトゥーバルの歴史遺産を見て歩こう」というのに参加した時、
「1755年のリスボン大地震の時、セトゥーバルも地震があって、津波が押し寄せてボカージュ広場一帯が被害にあったのです」
と聞いて、驚いたばかりだった。

 今回のは津波ではなく、大雨による洪水だったけど。

 友人のレストランも入り口のドアから泥水が入って、店を二日間閉めて、
ドアの修理と後片付けに大忙しだったそうだ。

 天気はその後も数日間ぐずぐずとして、このごろようやく晴天になり、気温がいっきに上がった。
 

 たっぷりの雨を吸い込んだ大地には青々と勢いを増した雑草や野の花が咲き始め、急に春本番の気配。
 それにしても、ものすごい春の嵐だった。
muz
2008/02/27

 

©2008,Mutsuko Takemoto
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(この文は2008年3月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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